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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
家とダンジョンとシャル
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家とダンジョンとシャル 11

 ◆◆◆◆



(本当に危なかったわ。)


 シャルは、ロックの状態を見ながら思った。血を流し致命傷を免れているが、ダメージが大きい状態、


(酷い怪我・・・出血も酷い・・・治療魔法ってあるのかしら?とにかく、やるだけやってみよう。)


 ロックに手をかざすと、傷が治るようなイメージをして、魔力を高める。


 ポワポワ・・・、


「・・・う。」


(うん、いい感じ。イメージが上手く出来ないから応急手当程度だけど、これなら大丈夫そう。)


 痛みに堪えるロックの表情が和らいだのを確認し、安心するシャル。


「・・・シャル・・・さん?」

「大丈夫よロック君。私が来たからには、あいつの好きにはさせない。」


 シャルの言葉を聞いた後、気を失うロック。シャルは、赤黒いミノタウルスを吹っ飛ばした方を向く、


(やっぱり、また戻って来て正解だった。ダンジョンの内部が変わっていたのはびっくりしたけど、全部あのミノタウルスの所為なのね。)


 シャルは、前にダンジョンに潜った時、違和感を感じていた。ダンジョン・コアそのものに強い気配を感じず、守護者であるミノタウルスに強い気配を感じていた事。

 そして、以前荒野で戦ったあの魔物達から感じた妙な気配。一瞬感じ取っていたがすぐに消え、違和感の正体が掴めずダンジョンをあとにしていた。


(駄目ね、気を抜き過ぎてるわ。前世だったら、絶対にこうはならなかった。)


 道が無かったので気配を頼りに突破して来たが、此処へ来る途中この国で見かけた冒険者の死体を確認した。すでに犠牲者は何人も出ているそんな状況を悔しく思った。今の自分が前世の記憶が蘇ったとはいえ、別の新しい自分なんだと認識しつつ、気を引き締めた。


 ガラガラッ!


「何ダ・・・貴様ハァ?」


 赤黒いミノタウルスは、相手が何者か分からず立ち上がる。


「・・・ナ?!貴様ハ、我輩ノ眷属ヲ消滅サセタ女カ?ドウヤッテ此処ニ?!」

「眷属?ああ、あのミノタウルスの事ね。」


 最初、何を言っているのかよく分からなかったが、守護者のミノタウルスの事だと分かり答えた。


「オノレェ、肉体ガ滅ビル事ガ無ケレバ、決シテ死スル事ノナイ筈の我輩ノ眷属ヲヨクモ!」

「だから、ロック君がとどめを刺した筈なのに起き上がったのね?」

「ドウヤッテ再生不可能ニシタ!?角ハ残ッテイタ筈ダ!!」

「それは多分、私の流派に関係する話ね。」

「一体ドウイウコトダ?」


 あの時の疑問が解消し、納得したシャル。


「そこまで教える必要は無いわ・・・それにしても貴方、会話が出来るのね?」

「何ヲ言ッテイル?我輩ガ喋レナイトデモ?」

「戦う前に聞きたかった事があるの。貴方、何者(・・)なのかしら?」


 ずっと疑問に思っていた事を聞くシャル。


「何?可笑シナ事ヲ聞ク・・・アア、ソウカ、(・・・)ノ事カ?」

「へぇ、いるのね?貴方を仕向けた存在が。」


 それを聞けただけで充分だったが、赤黒いミノタウルスはその存在を思い出し、心酔する様な表情で語る。


「アノ御方ハ、偉大ダ・・・ダカラコソ、アノ御方ガ導ク先へ、使命ヲ全ウスル。」

「使命?」

「コノ世界ニアル全テノダンジョン・コアヲ吸収シ、我輩ノ糧ニスル事、ソシテ我輩ノ主ニ“力”ヲ渡シ、イズレアノ御方ガ世界ヲ破滅ヘト導ク。」

「破滅へ導く?・・・・・・はぁ、成る程、今度はそういう相手ね。」


 シャルは、赤黒いミノタウルスの話しを聞き何かを納得し、小さくため息をはく。


(・・・もし、マグナス(・・・・)にまた会う事があれば、文句か一撃お見舞いしないとね。)


 かつての相棒(・・)を思い出しながら、シャルは思った。そして、赤黒いミノタウルスの話しは続いていた。


「ダガ計画ハ上手クイカナカッタ・・・“力”ヲ持ツダンジョン・コアニ何故カ干渉スラ出来ズニ新シイ弱イダンジョン・コアヲ喰ラウ日々。冒険者モ強イ者ガ多ク、我輩ガ仕留メタ冒険者ヲ吸収スルダケ。」


(力を持つダンジョン・コアに干渉出来なかった?誰かが何か細工をしていたのかしら?)


 詳しい事はよく分からないが、妨害している存在がいる様だ。


「足リナイ、オマエ達ノ様ナ存在ヲ喰ラノニ“力”ガ!」

「だったら、どうするの?」


 赤黒いミノタウルスの気配が変わる。


「ココハ冒険者ノ魂ヲ閉ジ込メル空間。貴様ガドウヤッテ此処ニ辿リ着ケタカハ疑問ダガ、蓄エタ“力”ヲ吸収スル!」

「何を・・・」


 光が赤黒いミノタウルスに集まる。さらに巨大にさらに、力強く。


「・・・グググ。」


(魂を吸収している?)


 一瞬の内に、光が消え赤黒いミノタウルスはさらに巨大に強い気配を発していた。


「貴方に吸収された魂達はどうなるの?」

「我輩ノ中デ生キ続ケル・・・永遠ニ!」


 ブォン!!


「・・・そう。」


(柳の型“破柳(はりゅう)”・・・合わせ“破柳波(はりゅうは)”。)


 バキ!


「ナ?!」

「・・・吹き飛べ。」


 ドーン!!


 シャルは赤黒いミノタウルスの斧を砕き、そのまま相手の攻撃の勢いを利用して吹き飛ばした。


「ググ?!」

「・・・墜ちろ。」


(空の型“墜刃(ついじん)”・・・合わせ、“空墜刃(くうついじん)”)


 ダンッ!ビュンビュン!ガガガガ!!


「ガ?!ガァァ?!」

「・・・本当に気が抜けているわ。普段ならいいけど、少し自分が嫌になるわ。」


 赤黒いミノタウルスを吹き飛ばした後、地面に墜ちる前に至近距離で技を放ち落とすシャル。を引き締めたつもりだったが、相手に強化する暇を与えた自分に、死した冒険者の魂を吸収された事に酷い怒りを覚え距離をとりつつ呟いた。


「何故ダ?!コレダケ“力”を得タトイウノニ、何故貴様ハ我輩ヲ凌駕スル!?」

「簡単よ、それは貴方(・・)の力じゃ無い、亡くなった冒険者達の持つ力。力は奪うものじゃ無い、自らの手で生み出し高めるもの。例えどんなに元から恵まれた環境にいようが、力を持っていようが、極めてもいない力が、努力も無しに手に入れた力が、努力をして手に入れた力に勝るとでも?」

「戯言ヲォォ!!」

「戯言じゃ無いわ。それを今から証明してあげる。」


 赤黒いミノタウルスは、雄叫びをあげながら突進して来ようとする。シャルは再度構えると、


「はぁぁぁ!!」


 ドン!


「グゥ?!」


 ガガガガ!ドーン!!


 再度相手を吹き飛ばし、赤黒いミノタウルスは地面を擦りながら吹き飛ばされる。


「・・・ググ・・・アリ得ヌ、貴様ハ何ダ?・・・一体何ナノダ!?」

「私?私は、シャル。Cランクの冒険者よ。それ以外、貴方は知る必要が無いわ。」


 シャルは、真っ直ぐと赤黒いミノタウルスを睨んで答えた。


「さぁ、貴方に吸収された魂を解放しなきゃね。」

「解放?我輩ヲ殺シタ所デ魂ハ解放サレナイ!奴ラガ還ル道ハ無イ!!」

「そう?なら簡単な話しね。」

「何ダト!?」


 赤黒いミノタウルスは、不気味な笑みを浮かべながら言った。でも、それなら答えは決まっている。



「“道”が無いなら、創れば(・・・)良いじゃない。」



 そしてシャルは構えた。


(乙戯流“(かた)合わせ ”・・・“二元型(にげんけい)”)



 ◆◆◆◆



 ──かつて乙戯流後継者が創った技があった。



 ──人が道を見失った時、人が道を踏み外した時、人々は迷い何処へ向かえばいいか分からなかった。



 ──だから彼女は、歩むべき道を示す為に、ただひたすらに真っ直ぐと、



 ──そう、迷わずただ真っ直ぐと歩める()を創った。



 ◆◆◆◆



(一の型・・・“(りゅう)”。)



 シュンシュンシュン・・・ググググ!



 自分の周囲の空間を受け流し、剣の切っ先に全てを圧縮し(・・・)集める。



 気を失ったロック、死した冒険者達の想いを一点に集める様に、


 グググ!



 ──全ての不浄を集め、浄化する様に、



(二の型・・・“(ざん)”。)



 ──後は、空間ごと放てばいい、


 ギリ、ギリ、



「グルァァァ!!!」


 危険を察し、突進するミノタウルス。



 ──でも、もう遅い、



「乙戯流刀術“二元型(にげんけい)”・・・“(みち)”。」



 ──放つは、究極の突き(・・)、創るのは彼らの為の道、



 ズズズッ!



「グギィ?!」



 ──そして、その道に、


(・・・合わせ・・・)



 ──光を。



「・・・“輝道(きどう)”!!」



 キィーーーーン!!



「グギャァァァ?!!」



 その突きは目の前の全てを巻き込み、光を纏い、一直線に突き進んだ。彼らの魂を還るべき場所へ還すように、



 キィーーン・・・、




 光が射し込む、地上の光が辺りを照らす。もう、邪悪な気配は感じない。



「・・・う・・・ん?」

「気が付いた?ロック君。」

「・・・シャル・・・さん?・・・はっ!あのミノタウルスは?!・・・うっ、痛たい・・・あれ?でも、そんなに痛くない?」

「ミノタウルスは倒したわ。怪我も思ってたより大丈夫そうね。」

「え?!あのミノタウルスを・・・って!何ですかあの大穴?!なんか凄い綺麗な道が出来てますけど、一体何が?!」

「ふふ、とりあえず地上に戻りましょっか?話しはそれから、ね?」


 ガラガラッ!


「お〜い!」


 ロックと話していると、ロイヤルガードの三人が崩れた壁の向こう側からやって来た。


「デニスさん?!ランドさんにホークさんも無事だったんですね!」

「まぁ、何とかな?そっちも無事で何より・・・シャル?何で此処に?・・・それにあの大穴は何だ?」

「後で話します。とりあえず地上に戻りましょう?」

「賛成だ。とっとと埃を落としたい。」

「シャルさん、その後何処かお店に・・・」

「結構です。」

「そんな?!」

「ははは!」

「笑うなよ!ホーク!」


 和やかな雰囲気でシャル達は、地上に戻った。

〜乙戯流解説〜


〜刀術〜


・柳の型“破柳(はりゅう)”:相手の力を利用して武器を砕く技、“破柳波(はりゅうは)”はそれに風の魔法を加えて、さらに相手力を使い吹き飛ばした。


〜二元型〜


(みち):かつて人々が道を見失った時、その全ての不浄を背負い、道を創り人々を導いた後継者の技。全ての悪しき感情を空間ごと巻き込み、一直線に突く事で浄化する技、その為その突きの後に綺麗な道が出来る。


輝道(きどう): “道”に光と浄化の力を合わせ、救われない筈の魂を救える技。その突きに巻き込まれた悪しき者は滅び、魂は還るべき場所へと還る。

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