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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
家とダンジョンとシャル
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家とダンジョンとシャル 9

残酷な表現が含まれています。読む際はご注意下さい。

 〜ダンジョン 四階層目〜



「やぁ!」


 ザシュッ!


「ギギャァ?!」


「ロック!またそっちに魔物が行ったぞ!」

「はい!・・・それ!」


 ヒュン・・・ドス!


「ギャア?!」


「流石だねぇロック君。冒険者だったら、すぐにパーティーに勧誘しているよ。」

「本当にな。」

「へへ、ありがとうございます。」


 シャルさんと別れてから数日、ロイヤルガードの皆さんとダンジョンに潜っていた。Bランクの冒険者であるデニスさん、ランドさん、ホークさんは強く、ミノタウロスが倒されてから弱い魔物しか湧かなくなったという事もあるが、苦戦する事はなかった。


「魔物の素材のランクが下がるのは少し痛いが、苦戦しないで素材が集められるのはやっぱり良いな。」

「そうですね。ただ、マジックアイテムの出現率が少し低いのが気になりますね。」

「確かに、放り込んだ武具の数に対して出てくる数が少ないって報告があるくらいだしね。まぁ、場所によってマジックアイテムの精製される確率は違うから、全く出なくても不思議じゃないけど。 」

「もしくは、ああいう連中が黙って持っていくんじゃないか?」


『ははは!余裕、余裕!ダンジョンは楽だぜ!』

『金目のものは全部俺らのものだ!』

『流石だぜ兄貴!』

『『『流石、兄貴!!』』』


「「「ああ、確かに。」」」


 丁度僕達から見える範囲に、以前シャルさんに一撃をお見舞いされた冒険者と、それに着いて行く冒険者達が数人見えた。弱い魔物しか湧かなくなってから、ああやって集団で行動して探索をしている。とにかく騒いでいて、無駄に魔物が寄って来るので止めて欲しい。


「冒険者ギルドから注意は出来ないんですか?」

「薔薇の集いの誰かに情報が入れば何とかなる。とはいえ、あの人達は忙しいからな。俺らが注意するだけで改善すればいいんだが、あの連中言う事聞かないしな。」

「いずれ痛い目に遭うだろうね。」

「放っておくのが一番だ。あまりにも酷ければ、実力行使で何とかする。」

「わかりました。」


 僕達はいつも通り探索する事にした。



 〜五階層目〜



「ん?」

「どうしました?デニスさん?」

「何か、変じゃねぇか?」

「え?」


 五階層目の魔物が湧かないエリアに近づくにつれて、先頭を歩くデニスさんが首を傾げた。


「確かに・・・魔素の量が多い?」

「な?!魔物が湧いてるぞ!」


「「「え?!」」」


 いつもの魔物が湧かないエリアに着くと、そこには魔物が沢山湧いていた。


「どういう事だ?」

「湧かない場所が変わったとかかな?たまにあるらしいし。」

「それは古参のダンジョンの話だろ?最近のでは聞かないぞ。」

「とにかく、魔物を倒しましょう。」

「「「ああ。」」」



 〜数十分後〜



「この感じだと、下の階層も構造が変わってるかもしれないな。」

「あきらかに場所が変わってるね。」

「ああ。」

「そうですね。」


 魔物湧かないエリアを見つけ、休む僕とロイヤルガードの皆さん。今日もいつも通りに探索が終わると思っていた。だけど、ダンジョンの構造が、五階層目から急に変わり、地図も役に立たない状態だった。


「何か起きてるな・・・とにかく、深く潜るのは危険だ。一度戻った方がいいな。」

「わかりました。」

「「ああ。」」


 僕達が地上に戻る準備をしていると、


「兄貴!安全なエリアに着きました!」

「よし!それにしても、この地図全く役に立たないな!」

「まぁ、俺らにかかれば何て事はねぇな!」

「「「流石、兄貴!!」」」


「「「「・・・・。」」」」


 さっきの連中が、同じエリアに入ってきた。


「このまま十階層まで潜ればいい稼ぎになりそうだ!」

「だな!」


「十階層か・・・声を掛けてくる。」

「わかりました。」


 デニスさんが一言僕達に言うと、騒がしい冒険者達の所に向かっていく、



「ちょっと、いいか?」


「「「「ああん!?」」」」


 デニスさんが、声を掛けると騒がしい冒険者は威圧する様に睨んだ。


「何だ何だ!?兄貴達に何か用か!?」

「ああ、実はこの階層から構造が変わってるみたいでな。何があるか分からないから引き返した方がいいと教えにな。」

「そう言って、素材やマジックアイテムをそっちで独占するつもりだろ!?」

「それはいけないなぁ先に行って俺らのものにしくちゃな!」

「「「ついて行きます兄貴!」」」


「あ、おい!」


 騒がしい冒険者達は、デニスさんの忠告も聞かずそのまま先に行ってしまった。


「・・・参ったなぁ。」

「どうする?流石に放ってはいけないんじゃないか?」

「少し強引にでも連れ戻すべきだ。」

「なら、すぐに追いかけましょう!」


「よし、なら行く・・・・・・どういう事だ?」


 冒険者達が出て行った方にデニスさんが向いて、驚いていた。


「「「んん?・・・な?!」」」


 僕達も気になり、先程の冒険者達が出た所を見ると、


「「「「・・・道が、塞がっている?」」」」


 先程の道が塞がり、別の道が出来ていた。


「探索中にこんな事が起きるのは初めて見たな。」

「入って来た道は塞がってないね。やっぱり引き返した方が良いんじゃない?」

「とはいえ、あの連中を放っておいて何かあったら目覚めが悪いしな、十階層まで行けば会えるだろうし、行ける所まで行こう。」

「わかりました!」

「ロック、お前は引き返した方が良い。いくら上手く立ち回れるからといって、流石に連れて行くのは危険だ。お前一人でも地上に戻れる筈だ。」

「でも!・・・」

「ロック、頼む。」


 デニスさんが真剣な表情で僕に言った。確かに今までなかった動きを見せるダンジョンは、危険が多いかもしれない、


「・・・わかりました。皆さんお気を付けて。」

「よし、行くぞ!ランド!ホーク!」

「「ああ!」」


 デニスさん達は新たに出来た道を進んで行った。僕は来た道を引き返す事にした。



 〜四階層目〜



(・・・魔物に遭わない。)


 五階層から四階層に戻るまでの間、魔物に遭遇する事も湧く事も無かった。さっきデニスさん達と一緒に魔物と戦ってから、一度も見ていない。


(それに、嫌な気配がさっきからずっとしている。)


 気配の位置も正体も全く分からないが、ずっと何かに見られている様なそんな気配がする。


(急いで地上に戻って、誰かに連絡を取らないと。)


 嫌な予感がする。なぜなら、先程から冒険者の姿が一人も見えないから、


 ガラガラッ!


「な?!」


 突然足元の床が崩れた。


「うわぁぁぁ!?」


 僕は咄嗟にロープを投げようとしたが間に合わず、そのまま下の階層に落ちていった。



 ◆◆◆◆



「くっ、痛たた。」


 幸い籠手に込められた風の魔法を使い、落下の速度を緩め怪我をする事は無かったが、結構下に落ちた気がする。


(シャルさんに色々教わって無かったら、死んでたかも。)


 マジックアイテムを有効に使う方法を教えてもらっていたから何とかなったが、もしそのまま落ちていたらと思うと身震いがした。


(一体、何階層目なんだ?)


 僕が辺りを見渡していると、


「兄貴!また魔物ですぜ!」

「数は多いが、雑魚ばっかりだなぁ!」

「俺らの敵じゃねぇ!」


(まさか、あの人達に会うとは。)


 先程、五階層目で会った騒がしい冒険者が離れた位置に見えた。



『・・・グルル。』



(あ!別の魔物が近付いている!)


 彼らは、後ろから迫ってきている獣型の魔物に気付かず、目の前の魔物と戦っていた。


(まずい!)


 タタタタッ!


「は!これで終わりだ!」


 ザッ!


「グルルァ!!」

「何?!」

「兄貴!危ない!」


「やぁ!」


 ザシュッ!


「グルァ?!」


 バタン!


 僕の攻撃で息絶える獣型の魔物、短剣を収めて彼らに声を掛ける。


「危ない所でしたね。」

「お、お前は!?」

「あの時のガキか!」


 声を掛けると、シャルさんに一撃をお見舞いされた二人が大きく反応した。


「先程振りですね。」

「ん?さっき会ったか?」

「・・・デニスさん達と一緒にいましたよ?」

「デニスぅ?・・・ああ!さっきの先輩面した冒険者か!」

「俺らの実力も知らねぇで、好き勝手言いやがった奴だな。」

「・・・好き勝手言って無かったと思いますけど。」


 どちらかと言うと、好き勝手言っているのはこの二人だと思うが、突っ込んだ所で話にすらならないだろう、


「まぁ、あの冒険者の事はどうでも良い。小僧、加勢したのは褒めてやる。」

「・・・どうも。」

「確かオメェ、ポーターだったなぁ。」

「ええ、まぁ。」

「丁度良い、お宝がさっきから沢山手に入っていたんだが、手が足りなくてなぁ。手伝えよ。」

「「「良い考えですね!兄貴!」」」

「お宝?」

「ほれ、見てみろ。」


 ジャラジャラ、


「え?!」


 彼らがそう言うと見せたのは、両手一杯に抱えた宝石や鉱石、魔物の素材やマジックアイテムであろう防具だった。


「俺らは、戦うのに忙しい。お前が持っていれば、戦いに集中出来るしお宝も沢山持ち帰れる。」

「ま、待って下さい!こんな大量のアイテム、何処で・・・」

「ああん?そこら辺に落ちてるだろ?」

「落ちてるって・・・な?!」


 よく見てみると、目の前の道には鉱石やら素材やらが点々と落ちていた。


「一体・・・何が・・・」

「ほれ!とっとと持てよ!そのリュックは飾りかぁ?」


 ジャラジャラ!


「ちょ、ちょっと?!」


 彼らは、僕のリュックに手に入れたアイテムを無理矢理詰め込んだ。


「まだ付いて行くなんて一言も・・・それに、明らかに変です!罠の可能性があるので今すぐにでも引き返した方が・・・」

「うるせぇ!」


 ボカ!


「くっ?!」

「黙って付いて来い!それに、お宝が目の前にあるのに見逃す訳がねぇだろう!」

「行くぞオマエら!!」

「「「はい!!」」」


(これは、どうしようもないな。)


 いきなり殴ってくる所、話し合いは無理そうだ。十階層まで行って地上に戻れば満足するだろう。それに、デニスさん達も追っている筈だし、とにかく黙って付いて行くことにしよう、


「・・・わかりました。」


 僕は、彼らに付いて行く事にした。



 〜九階層目〜



「ははは!大量大量!」

「こりゃあ地上に戻ったら、俺ら大金持ちだな!」


(明らかに変だ・・・まるで何かに誘われている様な・・・)


 どうやら僕は、七階層まで落ちていた様だ。見覚えのある九階層の雰囲気を感じながら、先に進む、


(いつでも戦える準備をしておこう。)


 そう思って、短剣とロープを取り出しやすい位置に移動させた。


「さぁ、もうすぐ守護者のいるエリアだ。まぁ、ミノタウルスはあの女が倒したから大した魔物は出ねぇ。気楽に行こうぜ!」

「おう!」

「「「はい、兄貴!」」」


(この人達、考えが甘過ぎる。確かに強い魔物は出ないだろうけど、もう少し警戒するべきだ。)


 気楽な彼らに呆れつつ、後に付いて行く。



 ザッザッザッ・・・、



「・・・こいつぁすげぇ!お宝の山だ!!」

「最高じゃねぇか!」

「「「やったぜ、兄貴!!」」」


「・・・これは、何だ?」


 守護者のいる筈の十階層目、そこには守護者はいなかった。代わりに山のように積み重なった素材や鉱石、マジックアイテムらしき武具があった。


(こんなの聞いたことがない。守護者がいないで、アイテムだけがあるなんて・・・)


  今まで、嫌な予感はしていた。これは明らかに異常だ。


「よし!全部持ち帰るぞ!」

「ああ!」

「「「わかりました!兄貴!」」」


 彼らは一斉にアイテムに手を触れようとした。


「待って下さい!これは絶対に・・・」


 罠だ!・・・そう言いたかった。



 ブォン!!



「「「「「あ?」」」」」



 けれど、彼らにその言葉を掛け終わる前に、




 グシュッ!




 巨大な斧によって、彼らの命は一瞬で絶たれた。



「・・・え?」



 何が起きたのか、分からなかった。ただ、積み重なったアイテムの向こう側から、この前見た斧よりも巨大な斧が、目の前の冒険者達を骨ごと断ち切ったのだ。それだけは分かった。



「な、なんだ?・・・一体・・・何が・・・」

「ロック!避けろ!!」

「え?!」


 ブォン!!


「くっ!!」


 ザッ!・・・ドーン!


「おい!無事か!?」

「デニス・・・さん?」


 紙一重だった。デニスさんが声を掛けてくれなかったら、真上に迫ってきた斧を避けられず潰される所だった。


「何で此処にいる!?」

「四階層で床が崩れて・・・そしたらあの冒険者に会って・・・」

「話しは後にした方が良さそうだよ!今は逃げるべきだ!」

「また来るぞ!」


 ブォン!


「逃げるぞ!」

「は、はい!」


 ザッ!・・・ガァーン!


 とにかく僕達は、得体のしれない者から逃げる事にした。


 タッタッタッタッ・・・、


「あれは何なんだ!?」

「わかりません・・・あの冒険者達がアイテムの山に触れようとしたら、突然向こう側から・・・」

「デニス!ロック君は、かなり混乱してる!まずは安全な所へ!」

「ああ!悪い!」


 目の前で人が死んだ。初めてだった。あんな一瞬で人が死ぬなんて、あの巨大な斧の持ち主は一体・・・


「追って来る気配が無い・・・、あれは守護者か?」

「多分な、だが明らかに危険なレベルの魔物だとは思う。こんな短い期間で湧くレベルの魔物じゃない筈だ。」

「地上に戻ろう、ダンジョンの様子も変だし。」


 デニスさん達は、魔物が追って来ないのを確認すると、少し話し合っていた。僕は体の震えが止まらないが、少しだけ落ち着いてきた。


「よし、戻るぞ。行けそうか?ロック。」

「 ・・・はい。」


 でも、よく考えたらあの巨大な斧、奥に一瞬だけ見えたあの影は・・・


『モウ帰ルノカ?ソンナニ急グ事モ無イダロウ。』


「「「「な?!」」」」


 ブォン!!


「くっ!」

「全員避けろ!」


 ドーン!ガラガラッ!


 突然、壁の向こう側から声が聞こえ、斧を振る音が聞こえた。皆何とか避ける事が出来たが、


「ククク、ヨクゾ避ケタ。我輩ノ迷宮ヘヨウコソ、愚カナ人間共。」


 崩れた壁の向こう側から現れたのは、赤黒い肌の色をしたとてつもなく巨大なミノタウルスだった。しかもそのミノタウルスは、言葉を話していた。


「・・・喋る巨大なミノタウルス?」

「此処まで来たって事は、守護者では無いのか?」

「・・・なんて、禍々しい気配なんだ。」


(あれはミノタウルス?シャルさんと戦ったミノタウルスとは、全然違う。)


 デニスさん達、そして僕も混乱していた。喋るミノタウルスなんて、今まで他のダンジョンの記録では、存在していない。それにミノタウルスから感じるこの気配、普通じゃない。


「セッカク我輩ノ攻撃ヲ避ケタノダ。タダ殺スダケデハ芸ガ無イ。」


 グニャリ!


「何だ?!」

「地面が動いた?!」

「地面だけじゃない!壁も天井もだ!」

「ダンジョンの形が変わっていく?」


 突然変化するダンジョン。全てが今までとは違う作りになっていく。


「サァ、絶望ノ果テニ死ヌガ良イ。」


「「「「うわぁぁぁ?!」」」」


 そして、大きな穴が地面に開くと、僕達はどうする事も出来ず穴に落ちていった。



 ◆◆◆◆



「・・・ここは?・・・はっ?!デニスさん!?ランドさん!ホークさん!」


 少しの間、意識を失っていた様だ。気付くと周りには誰もいない、呼び掛けても誰も応える気配が無い。


「誰か!いません・・・」


 コツ、


「・・・え?」



 何かが足に当たった。



「何だ・・・・・・?」



 それは知らない冒険者の死体だった。



「うわぁぁ?!!」


 ドン!ドサッ!


 後ずさり、背中に何かが当たった。


「・・・え?」



 振り向くと、見たことのない冒険者の死体が積み重なっていた。



「あ・・・あぁ・・・」


「ドウヤラ、最初ノ生贄ハオマエノ様ダナ?」

「な?!」


 声のする方を見ると、先程のミノタウルスが立っていた。


「オマエモ、コウナルンダ。」

「い、嫌だ・・・嫌だ!」


 ダッ!


 僕はミノタウルスから逃げ出す為に、全力で駆け出した。


「・・・はっ、はっ、はっ・・・」


 怖かった。「オマエモ、コウナルンダ」と言われて、積み重なった死体の一部になる自分の姿を想像して、怖くて仕方がなかった。


「出口は・・・出口はどこに!」

「出口ハ無イ。」

「ひぃ?!」


 ミノタウルスは、初めからそこにいたかの様に佇んでいた。


「我輩ノ迷宮ダ。ドンナ作リニシヨウガ思イノママ、出口モ閉ジル事ガ出来ル。」

「・・・そんな。」


 出口は無い。なら、戦うか?・・・無理だ。シャルさんの補助があったからミノタウルスは倒せた。けど、このミノタウルスは、あの時のミノタウルスより遥かに強そうだった。一人じゃ何も出来ない。

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