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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
家とダンジョンとシャル
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家とダンジョンとシャル 8

ロック視点の回想からです。回想が終わった後、シャルと別れた後のロックの本編になります。

 ──あの人に逢えたのは、本当に幸運だったと思う。



 ミノタウロスを探しにこの国に来て、たまたま新しいダンジョンの情報を手に入れて来たまでは良かった・・・でも、


(うう、まさか誰にも相手にされないなんて。)


 自分がダンジョンに潜るには、年齢的には厳しいと思われる事をすっかり忘れていた。


(アーランド王国にいた時も、最初は全然駄目だったもんなぁ。)


 今でこそ、向こうから声を掛けてもらえるけど、最初は相手にすらされなかった。あの時よりは大きくなったけど、まだ自分は子供だ。


(情報集めは、難無く出来るんだけど。ダンジョン探索は無理かもしれない。)


 片っ端から声を掛けたが、「いや、いくらポーターでも、子供を連れて行けねぇよ。」など断れるばかり、


(誰か、ポーターを必要としてくれる人いないかなぁ。)


 僕は一日中歩きまわった。


(あ、あの人・・・怪しいなぁ。でも、拠点に入れたって事は不審者じゃ無いのか。)


 ダンジョンの拠点に着いて数日。未だにダンジョンに潜る事が出来ず歩いていると、漆黒のフードとマスク付きローブを見に纏い、ローブの中はお洒落な服を着た顔の一切見えない怪しい女性が拠点にやって来た。


(う〜ん、よく見ると動きに気品がある様な・・・貴族?・・・でも装備が意外としっかりしてるし、冒険者?)


 正体が全く分からなかったが、剣も持っている様だし、冒険者なら声を掛けてみるのもアリだと思った。


「・・・あ、あの!」

「何かしら?」


 僕が近付いて来ていたのが分かっていたのか、声を掛けると即座に反応した。しかも、凄く綺麗な声だった。


「え?!き、綺麗な声・・・え、えっと冒険者の方で間違い・・・ないですよね?」

「ええ、そうよ。」


「ぼ、僕はロックと言います!突然ですみませんが“ポーター”は必要ありませんか?」

「ポーター?」


 それが、シャルさんと僕の初めての会話だった。



(絶対に何処かの貴族のご令嬢だよね?)


 シャルさんと話して分かった事、今話題のルーキー“隠者”のシャルという有名人である事。世間知らずで素性が全くの謎であるが、立ち振る舞いから貴族だろうという事、声が凄く綺麗で優しい人だという事、そして・・・


 クイッ、ダーン!


「「ぐぇ?!」」


「野蛮ね。」

「・・・凄い。」


 凄く強いという事、体格の大きな冒険者をものともせず綺麗に攻撃を受け流して一撃を入れる様は、とても格好良かった。



 ◆◆◆◆



 コッコッコッ、


「ギャッギャ!」

「えい。」


 スパッ、


「ワォーン!」

「ギャギャ!」

「それ。」


 スパッ、スパッ、


(僕もシャルさんみたいに強くなりたいな。)


 シャルさんは、随分と気の抜けた声を出しながらも、迫り来る魔物を次々と斬り捨てていた。それだけ、余裕があるという事でもあり、僕は心の底から尊敬した。


「・・・凄い・・・てっ、シャルさん!?剥ぎ取り、剥ぎ取りしてください!」

「あ、そっか、この魔物の素材も普通より質が高いのよね。いつもそこそこ売れそうなのしか剥ぎ取ってなかったから忘れてたわ。」

「どういう剥ぎ取りをいつもしているんですか!?死体をダンジョン内で放置すると、ダンジョンに吸収されるので、しっかり剥ぎ取らないと駄目ですよ!」

「ごめんね。」


 でも、ちょっと他の人と感覚がズレているのかもしれない。



 ◆◆◆◆



 シャルさんは、不思議な剣術を使う。


 リーン、リーン・・・キィーン・・・・


「はぁ!」


 ビュン!キキキキキッ・・・


「・・・うん!上手くいったみたい!」

「えと、どうなったんですか?」

「この辺りに罠があったんだけど・・・ほら!」


 ボロッ、


「流石に崩れる足場とかそいういう類の罠は無力化出来ないけど、槍や矢なんかの短距離とか遠距離から攻撃してくるものはこれで無力化が出来るわ。」

「いやもう・・・凄すぎますって。」


 最初にその技らしきものを使った時は罠を全て遠距離から発動させ、次に使った時は見えない位置にある罠を全て無力化した。魔法だけでなく、剣も使っている事からシャルさんが使う特殊な剣術をだという事が分かる。


「う〜ん・・・せっかくだから、ロック君が使ってみたら?」

「僕がですか?!そんな、悪いですよ!」


「正直、魔物の素材があるからお金には困らなそうだし、将来冒険者を目指すなら、そういうのは持っていた方が良いと思うから、先輩冒険者からの贈り物って事で・・・ね?」

「・・・あ、ありがとうございます。」


 まさか、高値で売れるマジックアイテムを貰えるとは思わなかった。もちろん、売る事は無いが、僕の腕にピッタリと合う風の魔法が込められた籠手を見ながら、僕はシャルさんに感謝した。



 ◆◆◆◆



「魔物と戦闘ですか?」

「うん、ロック君がどれだけ立ち回れるか、確かめておきたくて。」

「わかりました!」


 四階層目に入ってから、シャルさんにそんな提案をされた。確かにここから先、シャルさんが僕を護れるとは限らない、自分の身は自分で守れるか確かめたいのだろう、


「やぁ!」


 ドスッ!


「ギギャァ?!」


 バタン!


「やるじゃないロック君。」

「へへ、短剣の扱いには慣れていますから。」


 シャルさんに褒められて照れてしまった。純粋に強い人から実力を評価されるって凄く嬉しい。


(シャルさんみたいに強くなれればきっと・・・)


 いつか、父さんと母さんを殺した異常に強いミノタウロスを探して



 ──この手で、



 ◆◆◆◆



「まぁ、一応先輩だしな。この先の情報を伝えとく。六階層目からは、さっきも言った通り魔物が強くなる。罠も面倒なのが増えてるし、道も入り組んでる。まだ七階層まで行ってないが、パワータイプの魔物が多い事から、ダンジョン・コアの守護者が“ミノタウロス”である可能が高い。」

「ミノタウロス?!」

「ダンジョン・コアの守護者?」


 ミノタウロスと聞いて、心臓が跳ね上がった。僕の探しているミノタウロスには会える確率は低いと思っていた。僕が5歳の時の話だし、僕の知らない所で誰かがすでに倒しているかもしれなかった。でも、ミノタウロスと聞くだけで、自分がこんなにもミノタウロスに負の感情を抱くとは思わなかった。それだけ、倒したいという事だろう。


(・・・ミノタウロス。)


「何か悩みがあるなら話して?このまま先に進むと、ロック君怪我しちゃうわ。」

「・・・シャルさん。」


 ずっとミノタウロスについて考えていたの事を、シャルさんが心配して声を掛けてくれるまで気付かなかった。そして、この人になら話してもいいかもと思い、自分の過去を話した。


 ポフッ、


「シャ、シャルさん?!」

「・・・辛かったよね。」

「・・・?! ・・・ぐす・・・うぅ・・・はい。」


 初めて誰かに自分の過去を話した。そして、シャルさんに抱きしめられて、母さんの温もりを思い出した。ああ、自分は今まで純粋な子供として生きていなかったんだな、どれだけ自分の本当の思いを内に秘めてひたすら鍛錬して、一人でミノタウロスを探していたんだなと気付いて、シャルさんのその一言で涙が溢れ出た。


 ◆◆◆◆



「ねぇ、ロック君?」

「なんですか、シャルさん?」

「もし、ダンジョンの守護者がミノタウロスだったら・・・戦いたい?」

「え?!」


 突然、シャルさんにそう聞かれて驚いた。


「・・・そうですね。」


 ミノタウロス。僕が一人の人間として、冒険者として先に進む為には、僕が絶対に倒したい越えなければいけない壁。


「・・・出来れば戦いたいです。そのミノタウロスは、僕の探しているミノタウロスではないと思いますが・・・それに、さっき先行した冒険者の人達に先を越されているかもしれません・・・でも、戦ってみたいです。」

「・・・そう。」


 けれど相手はミノタウロス、強いと噂の相手に多少その覚悟は揺らぐが、


「もちろん、勝てるとは思っていません。ソロのBランク冒険者でも苦戦する魔物ですし、まだ冒険者になれていない僕がまともに戦えるとは思いません。それでも、いつかは越えたい壁でもありますから、試してみたいんです。今の自分が、どれだけ戦えるか。」


 今の自分の持てる全てを奴にぶつけてやりたい。


「・・・分かったわ、ロック君が全力で戦える様に、ミノタウロスをなんとかしてあげる。」

「本当ですか?!」

「ただし、危ないと思ったらすぐに倒すからそのつもりでね?」

「はい!ありがとうございます!」


 シャルさんが手伝ってくれる。これほど心強い事はない、きっと何とかなる。


「じゃあ、ミノタウロス戦に備えて、この階層にいる魔物から一人で倒してみよっか?」

「え゛?!」


 でも、この階層から一人では流石にキツイと思う。



 ◆◆◆◆



「ギャッギャ!」

「くっ!」


 ガイン!


「燃えろ!」


 ボォ!ザシュッ!


「ギャァァ?!」

「次は左から来るわ!」

「くらえ!」


 ヒュン・・・ドス!ドス!


「グギャァァ?!」


「良いじゃないロック君、様になって来たわね。」

「はぁ、はぁ・・・そりゃそうですよ、ずっと戦ってましたからね・・・流石に慣れますよ。」


 シャルさんから、戦い方について学んだ。まずは、籠手を使った防御の仕方、次に短剣を使った立ち回り、そして間合いをはかる事。戦いにおいて重要なのが相手の間合いをはかる事らしい、相手の体格、呼吸、武器を扱う時の動き、構え。間合いを最初にはかった時に全ての情報を把握する事で、最善な戦法を選ん立ち回れるようになるそうだ。


(一人でここまで戦えるなんて思わなかったな。)


 シャルさんの指示もあって上手く立ち回れているが、以前の自分の戦い方より確実に上達してる。


(本当にシャルさんは凄い人だな。)


 だからこそ、聞いてみたい事がある。



 ◆◆◆◆



「どうしたら、シャルさんみたいに強くなれますか?」

「私みたいに?」


 休憩中、気になった事をシャルさんに聞いてみた。


「う〜ん、そうね・・・気の遠くなるほど修行して、気の遠くなるほど戦えば強くなれるかしら?」

「それ、どういう事ですか?」

「正直な所、私は自分が強いとは思っていないの。」

「え?」


 言われた事がよく分からず聞き返してしまった。


「私はね?・・・人によって強さの基準は違うとは思うけど。自分は強いとか考えたら、どんなにもっと鍛えようと思っても、心の何処かで自分の強さに満足して、もっと先の強さが見えなくなってしまう気がするの。」

「・・・もっと先の強さ。」

「そう、だからどんなに修行しても、どんなに戦っても、自分はもっとこうしたい、もっと上手く立ち回りたいって考えるの。常に今の自分より、先の自分を想像して少しでも良くできる事があれば試して、考えて・・・また試して、それの繰り返し。」

「そうなんですか?」

「うん、ずっと修行して、ずっと戦って、強くなる事に終わりを作らず、ただ自分を高め続ける事・・・そうしてたら、いつの間にか皆から歴代最強とか、超人とか言われてね?その時に初めて、人からの評価で今の自分の強さが分かったの。」

「・・・・・・。」


 この人が強いのは、きっと僕が考えている次元じゃ考えられないくらいの経験を積んだからなのだろうか、一体どれほどの経験を積めばそこに辿りつけるんだろうか?シャルさんの語る姿を見て、僕は思った・・・というか、


「・・・シャルさんって、15歳ですよね?」

「そうよ?15歳よ?」

「なんだか、15歳の人とは思えない言葉の重みでしたよ?」

「ふふ、でも私は正真正銘15歳よ?」


 正直、疑わしかったがそうと思うしかなかった。



 ◆◆◆◆



「何があったんですか?」

「この下が最下層で、すぐにダンジョン・コアのある部屋に出るんだが、案の定守護者がミノタウロスでな。」

「え?!・・・ミノタウロスが。」

「ああ、だから同じ階層にいた冒険者に声を掛けて、チームを組んで挑んだんだがな・・・そのミノタウロス、妙に強いんだ。」

「・・・え、それって。」


 守護者がミノタウロス。その話を聞いたシャルさんが僕を見た。僕はそれに頷いて答えた。


(ミノタウロス・・・まさか、こんなに早く会えるなんて・・・)


 自然と手に力が入る。


(絶対に・・・倒す。)



 ◆◆◆◆



「ブモォォォ!」

「・・・あれが、ミノタウロス?」

「思ったより大きいわね?それに私達を見てどうやら戦闘態勢になったみたい。」


 ミノタウロス。想像していた姿よりも大きく、強そうだった。巨大な斧を持ち巨大な威圧感

 を持つ化物。ミノタウロスは、大きな声で僕達を威嚇した。


(怖い・・・でもシャルさんがいるから。)


 不思議と体が動かない程怖くはなかった。シャルさんがいるからなのか、意外と平気だった。


「ブモォォォ!!」


「来るわよ!」

「は、はい!」


 ミノタウロスとの戦闘が始まった。



 ◆◆◆◆


「ブモォ!ブモォォ!!」


「ロック君、あの手は使える?」

「はい!あの状態なら隙を付けると思います。」


 シャルさんの問いかけに僕は答えた。確かにあの状態なら、さっき教えてもらった手が使える。僕は、左手にマジックアイテムである丈夫なロープを用意した。


「今度は私は直接攻撃しないわ。タイミングだけ指示するから、それに合わせて動いて。」

「分かりました!」


 右手に炎の魔法が込められた短剣を逆手に持ち、ロープの先端に重りを反対側の先を左腕に付け、ミノタウロスの様子を伺う。


「来るわ!」

「はい!」


「ブモォォォ!!」


 ドシドシドシ・・・ドドドドド!


 突進してして来るミノタウロス。


「よっと!」

「っとと!」


 僕は右にミノタウロスの突進を避けた。


「ブモォォ!」


 ズズズズズッ!


 だがミノタウロスは、急に止まり僕の方を向くと、


「ブモォォォ!!」


 ブォッ!


 ニンマリとにやけると、僕に向かって斧を振り上げた。


「今よ!」

「行け!」


 ヒュンヒュン、ビュン!・・・ビュンビュン・・・ガチ!


「ブモォ?」


 でもここまではシャルさんの予想通り、あえてわざとらしく避ける事によって注意を惹きつけた。そして、重り付きのロープの先を回して投げ飛ばし、ミノタウロスの左手首にロープがしっかりと巻き付け、何が起こっているのか理解出来ず首を傾げるミノタウロスを見る。


「巻き付いた!」

「そのまま決めて!」

「はい!」


 タタタタッ!グン!


「ブモォ!?」


 そのまま走り出し、勢いを利用してミノタウロスの周囲を周る様に飛び上がった。ミノタウロスの後ろに回り込み体重を掛ける事でミノタウロスの重心が後ろにいった。


「そのまま目を狙って!」

「ハァァァ!!」


 ブンッ!・・・ザシュ!!


「ブモォォォ?!」


 そしてミノタウロスの左目に逆手に持った短剣を思いっ切り突き刺すと、


「燃えろぉ〜!!!」


 ボォォォ!!


「ブ、ブモォォォォ?!」


 ミノタウロスの左目に短剣を深く突き刺しながら、ありったけの魔力を込めて、そしてミノタウロスへの恨みを込めて、炎の魔法を発動させた。


「ブ・・・モォ・・・。」

「おっとと。」


 ドシーン!


 ミノタウロスが地面に倒れた。立ち上がる気配も無い・・・そして、生きている気配も、


「・・・倒した?」

「上手くいったみたいね。」


 体重差とロープを利用した目への直接攻撃、シャルさんが教えてくれた方法で、ミノタウロスを倒せた。


「やった・・・やったぞ・・・シャルさん・・・」


 シャルさんの手助けがあったとはいえ、一人で大きなダメージを与える事が出来た。倒す事が出来た。今まで、ずっとミノタウロスを探して倒す事を考えていた。父さんと母さんを殺したのはこいつじゃないかもしれない・・・けど、


(ミノタウロスを・・・)


「グ・・・グ・・・」

「ロック君!」

「え?」


 すぐに反応出来なかった。それだけ、ミノタウロスが立ち上がった事が予想外だった。


「伏せて!」

「は、はい!」


 言われるがまま、僕は伏せた。その後、シャルさんが何をしたのかは分からなかったが、


 シッ!・・・ジィーン!


「・・・紙一重ね。」


 キンッ、


「・・・グ?・・・」


 ダーーン!


「す、凄い・・・」


 強烈な雷が、ミノタウロスを貫くのを見た。



 ◆◆◆◆



「シャルはどうするの?拠点には暫くいるの?」

「ううん、ブルーマリンに戻るわ。ダンジョンがどういう所かよく分かったし、暫くは別の依頼を受けるつもり・・・ロック君はどうするの?」

「僕は残ります。稼げる時に稼ぎたいですし・・・それに、少し自信も付きましたし。」

「お!残るかロック?なら、その間俺らと組まねえか?」

「良いんですか?!デニスさん!」

「良い考えだね。“隠者”のシャルさんお墨付きのポーターが一緒なら心強いよ。」

「決まりだな!宜しくなロック!」

「はい!デニスさん、ランドさん、ホークさん!ありがとうございます!」


 シャルさんは、ブルーマリンに戻る事にしたらしい。別れるのは寂しいが、いつまでも一緒にいられる訳じゃない。僕はもっと強くなりたいし、ここで旅の資金も貯めたい。デニスさん、ランドさん、ホークさんとダンジョンに潜れる事になったし、他の人に僕の実力をみてもらうチャンスだ。


「良かったわね。ロック君。」

「はい!シャルさん、色々とありがとうございました!次に会う時は、もっと戦える様になります!」

「うん、その時を楽しみにしてるわ。」


(シャルさん、本当にありがとうございました。この恩はいつか必ず返します。)


 シャルさんと別れた僕は、ロイヤルガードの三人とダンジョンに潜る為準備を始めた。

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