家とダンジョンとシャル 6
大事な事なのでもう一度言いますが、ロック君の過去は重いです。
〜四階層目〜
「やぁ!」
ドスッ!
「ギギャァ?!」
バタン!
「やるじゃないロック君。」
「へへ、短剣の扱いには慣れていますから。」
三階層目でマジックアイテムを手に入れた二人は、四階層目まで来ていた。ロック君が自分も戦ってみたいと言ったので、シャルは手頃な魔物を見付けて戦う様子を眺めていた。
「今は重くて長い剣を扱えないですけど、いずれシャルさんの持っているような剣を使って戦いたいです。」
「なら、今の内に短くても剣で戦う事に慣れた方がいいわね。間合いの取り方とか相手の動きを見る事とかは、経験を積まなきゃ覚えられないし、将来今使っている武器と違う武器を使うなら、なおさらそういう基本的な事は極めておいた方が良いわ。」
「はい!頑張ります!」
ロック君に軽い指導をしつつ、探索を再開するシャル。
「この感じだと、五階層目に魔物の湧かないエリアがありそうです。」
「魔物の湧かないエリア?」
ゲームとかではそういうのはありそうだが、実際のダンジョンでもそういう所があるのかと首を傾げながらロックに聞く、
「はい、理由は詳しくは分からないですが、階層によっては魔物の湧かないエリアがあるんですよ。だいだい魔物の湧く数が減ってきたり、壁の色が変化したり、魔素が薄くなってきたりとか、目安があるんですよ。」
「へぇ〜、そういうエリアもあるのね?」
「ええ、なのでそのエリアに着いたら一旦休憩しましょう。休める時は休む、ダンジョン探索の基本です。」
「分かったわ。」
二人はどんどん奥へ進んでいく、
「うん?・・・また隠し通路?」
「またですか?!連続して見つかる事はそうそう無いのですが・・・運が良いですね。」
四階層目を歩いていると、また隠し通路がある壁を見付けた。
ズズッ!ガラガラ!
「またマジックアイテムがあると良いわね?」
「シャルさん・・・息を吸うように壁を切らないでください。剣を収めた音さえ聞こえ無かったですよ?」
「細かい事は気にしない、気にしない。さぁ、先に進みましょう?」
「・・・分かりました。」
二人は隠し通路の奥に進む、
ウゴウゴウゴウゴ・・・、
「・・・これは。」
「・・・今回は、ハズレかもしれません。」
二人の目の前には、部屋いっぱいに敷き詰められたスライムの群れがいた。
「あ、でも宝箱があそこにあるわよ?」
「本当だ!?でも、どうやっていきます?」
「う〜ん・・・」
トンッ、
(斬の型“舞”・・・合わせ“舞零”。)
シャルは隠し部屋の真ん中まで跳ぶと、荒野で使った技を空中で威力を低くして使い、
ヒュンヒュン、パキーン!
「・・・え?」
ロックの目の前で、スライム達を完全に凍りつかせた。
「これでどうかな? 氷が溶けたら動き出すけど、ベタつくの嫌だし宝箱開ける余裕はあるわよ?」
「・・・もう、何でもありですか?」
ベタつくの嫌だからという理由で、部屋の中いっぱいに敷き詰められたスライム達を一瞬で凍りつかせられるなんてと、呆れながらシャルの元へ歩き出すロック、
「今回も、宝箱に罠は無さそうね。」
「まぁ、スライムが罠みたいなものですしね。」
そう言いながら、宝箱の中身を確認する二人。
「・・・うん?短剣は分かるけど・・・ロープ?」
「この短剣は・・・炎の魔法が込められていますね!またマジックアイテムですよ!?ロープは・・・これもマジックアイテムみたいですね!特に特別な魔法は込められてるいないですけど、普通のロープより丈夫になっているみたいです!」
「でもどうして短剣と一緒に入っていたのかしら?」
二つもマジックアイテムが入っているのは嬉しい事だが、シャルは何故ロープなのか疑問に思った。
「おそらくこのスライムの群れですからね。ロープか何かで宝箱を取ろうとして、失敗したんじゃないでしょうか?その後ロープも取り込まれて、マジックアイテムになったとか?」
「でも、他からこの部屋の中に入るルートは無かったわよ?」
「時間経過で塞がったりしますし、情報だと一番早い冒険者達で五階層目まで辿り着いた人達もいるそうです。その先はまだ未探索のはずですよ?もしかしたら、もう探索している人がいるかもしれないですけど。」
「ダンジョンって不思議な所ね。」
「変わらない部屋もありますけど、ダンジョン・コアが毎回作りを変えていたりもしますからね。」
ダンジョンは前世のゲームでも、今世の現実でも不思議な所だという事は分かった。
「その短剣とロープは、ロック君にあげるわね。」
「そんな!?籠手も貰いましたし、いいですよ!?」
「だって、ロック君の為にあるようなマジックアイテムじゃない。いいから、持っていって?」
「うう、ありがとうございます。」
凄く嬉しそうなロックを見つつ、隠し部屋を出た。
〜五階層目〜
「この辺りは魔素が薄いですね。魔物も見かけないのですし、休んでいる冒険者もいるので、大丈夫そうです。」
「なら、ここで休憩と食事にしましょっか?」
「はい!」
サクサクと先に進んだ二人は、五階層目の中間あたりまで進み、大きなフロアに来ていた。先に五階層目まで辿り着いた冒険者がちらほらおり、ここで休憩する事にした。
「・・・シャルさんって、目立ちますよね?」
「・・・見た目が怪しいらしいからね。」
フロアに入ってから視線を感じ、若干居心地悪そうにする二人、五階層目まで来た冒険者をチラリとみるだけのつもりだった他の冒険者達は、ダンジョンに潜るには若い年齢の少年、漆黒のフードとマスク付きローブを身に纏う、顔は見えないがお洒落な服を着た怪しい人物が気になってしょうがなかった。
「食事はどうします?」
「私はまだいいかな?ロック君は?」
「僕もまだ大丈夫です。せっかくなんで、ここまでの情報をまとめて・・・」
「なぁ、ちょっと良いか?」
「「はい?」」
休憩中、何をするのか相談している所に、一人の茶髪の冒険者が声を掛けてきた。
「俺はデニス、Bランクの冒険者で、“ロイヤルガード”っていうパーティーを組んでる。宜しくな。」
「ポーターのロックです。よろしくお願いします。」
「シャルです。宜しくお願いします。」
ザワザワ、
『あれが“氷帝”に勝ったっていう“隠者”のシャルか!?』
『あっちの少年はポーターか・・・どうりで若いはずだ。』
『て事は、ほぼソロでダンジョンに?』
「あ・・・悪い。」
「いえ、気にしないで下さい。」
普通に自己紹介をするつもりだったが、シャルの自己紹介で余計に目立たせてしまった事にデニスは謝った。
「所で、私達に何かご用ですか?」
「ああ、ダンジョンに潜るにはあんたが軽装だったし、連れの少年もポーターみたいだったから、一応Bランクとして注意しておこうかと思ったが・・・大丈夫そうだな。」
「注意ですか?」
デニスは何かを注意する為に、どうやらシャルとロックに声を掛けたようだ。そして、シャルが首を傾げたのを見ると、
「実はな・・・このダンジョン、五階層目までは大した魔物は出ないんだが、その先から急に強い魔物が出てきたんだ。進めない事はないんだが、一回態勢を立て直さないといけなくて戻ってきたんだ。見た所、ダンジョンに潜るにはポーターの少年はともかく、あんたは軽装だったし、他に仲間もいないみたいだったから、危ないぞって言うつもりだったんだが・・・よく考えたら、手合わせとはいえ、“氷帝”に勝てたあんたが苦戦するわけ無いな。」
「その口振りだと、観てたんですか?」
「まぁな、俺ら“青の薔薇”の所属だし。」
「え?!・・・すみません。まだ青の薔薇の人達の顔、覚えて無くて・・・」
「いやいや、気にするな。酒場ではあんたが自己紹介しただけだし、俺らは酒が飲みたく声も掛けずに飲んでたしな。」
「・・・酒場にもいたんですね。」
同じ組織に所属しているのにまともに挨拶をしておらず、非常に申し訳ない気持ちになるシャル。
「この際だし、あいつらも紹介しとくか、ランド!ホーク!」
「なんだいデニス?」
「注意するだけじゃなかったのか?」
大きな声で呼ばれた男二人は、シャルとロックの元に歩いて来た。
「せっかくだから、自己紹介を済ませておこうかと思ってな。」
「そういうこと・・・なら、“隠者”のシャルさん?あと、ポーターのロック君って言ったっけ?僕はランド、魔法使いさ。宜しくね?」
「私はホークだ。武器は斧を使う、宜しく頼む。」
「はい!ロックです!よろしくお願いします!」
「シャルです。宜しくお願いします。」
金髪の顔立ちの整ったヒョロっとした男がランドで、デニスと同じ茶髪でガタイの良い男がホークの様だ。
「シャルさん、本当に綺麗な声だね。良かったら今度食事にでも・・・」
「「ランド!口説くな!」」
「なんだい?ちょっとくらい良いじゃないか。」
デニスとホークの反応を見る限り、どうやらランドという男は、いつもこういう事を言っている様だ。
「ウチのメンバーがすまんな。」
「いえ、気にしないで下さい。そういう人もいますよね。」
「そういう人って・・・」
「ははは!」
「ホーク!笑うなよ!」
ランドにさらっと口撃しつつ、デニスと話すシャル。
「そういえば・・・あ〜、シャルで良いか?」
「はい。」
「シャルは、まだCランクだったよな?」
「そうですね。」
「そうか、シャルさんはまだCランクか。」
「冒険者ギルドは、実力だけじゃなくて貢献度でランクアップの試験をするからな。情報だと冒険者になってからまだ間も無いらしいじゃないか、いくら強くても高ランクにはすぐになれないだろ。」
そう、冒険者ギルドは実力だけじゃなく、ギルドへの貢献度でランクアップを判断するらしい、その基準は厳しく、魔物の軍勢を倒してCランクになったとはいえ、Bランクになる為には色々な種類の依頼を受ける必要があると言われた。
「まぁ、一応先輩だしな。この先の情報を伝えとく。六階層目からは、さっきも言った通り魔物が強くなる。罠も面倒なのが増えてるし、道も入り組んでる。まだ七階層まで行ってないが、パワータイプの魔物が多い事から、ダンジョン・コアの守護者が“ミノタウロス”である可能が高い。」
「ミノタウロス?!」
「ダンジョン・コアの守護者?」
ロックはひどく驚いた表情をし、シャルは守護者という言葉を初めて聞き首を傾げた。
「知らないのか?・・・ああ、確か世間知らず・・・えっと、ダンジョン・コアの守護者はそのままの意味だ。ダンジョン・コアを守る強力な魔物の事を言う。ダンジョンの特性によって変わるらしいが、パワータイプの強力な魔物が出るダンジョンでは、何故かミノタウロスが守護者として現れるんだ。強さはダンジョンによって違うが、危険な魔物である事には変わりない。」
「なるほど!よく分かりました。ありがとうございますデニスさん!」
「・・ ・・・・。」
シャルは、親切なデニスにお礼を言った。何故かロックは、先程驚いてから無言になってしまったが。
「じゃあ、そろそろ俺らは先に進むから、またな。」
「はい、また。」
「シャルさん、良いお店が・・・」
「あ、結構です。」
「そんな?!」
「ははは!速攻で断られたな!」
「笑うなって! 」
「・・・ロック君、しばらく休憩しましょっか?」
「・・・あ、はい。」
青の薔薇所属のロイヤルガードと別れたシャルとロックは、しばらく休憩した後、先に進む事にした。
〜六階層目〜
「・・・ロック君、平気?」
「えと、大丈夫です。」
「とてもそうは見えないけど・・・。」
ミノタウロスの話しを聞いた時から、ロックの様子が変だった。今もちゃんと立ち止まらないと、置いて行ってしまいそうなくらい足取りが重い。
「何か悩みがあるなら話して?このまま先に進むと、ロック君怪我しちゃうわ。」
「・・・シャルさん。」
ロックは一度俯いたが、顔を上げると、
「シャルさん・・・最初に自己紹介した後に、僕の両親がダンジョン探索中に亡くなったって話・・・覚えていますか?」
「うん、確かロック君が5歳の頃の話しよね?・・・まさか・・・」
ロックの問いかけに答えたシャルが何かに気付き、ロックはその様子に頷くと、
「はい・・・両親はダンジョン探索中、ダンジョン・コアの守護者“ミノタウロス”に殺されたんです。」
ロックは、自分の過去を語りだした。
◆◆◆◆
──両親は、強くて優しい冒険者でした。
「ロック!お前はいずれ立派な剣士になれる!父さんが保証する!」
「うん!」
「私みたいな立派な魔法使いにもなってね?」
「わかったよ!お母さん!」
両親は、Aランクの冒険者でした。“ウィンドロード”という、アーランド王国で有名な二人組の冒険者だったんです。
「お父さんみたいに剣を振ってみたい!」
「剣を持つにはまだ早いぞ?まずは基礎体力作りからだ。」
「うん!」
「ロック、魔法も使えると便利よ。」
「わかった!」
両親からは、色々な事を教わりました。5歳の子供に色々と叩き込み過ぎだって、知り合いの商人のおじさんに怒られていましたけど。
「いつかお父さんとお母さんみたいに、立派な冒険者になる!」
──二人は僕の目標でした。
「ロック、行ってくる。」
「すぐに帰ってくるから、心配しないでね?」
「行ってらっしゃい!」
ある時、住んでいた街の近くに出来た新しいダンジョンで、強いミノタウロスが出たという話しを聞いた両親は、ダンジョンに向かいました。ミノタウロスは何度か討伐していて、両親に依頼がきたんです。
「お父さんとお母さん・・・遅いなぁ。」
両親がダンジョンを攻略する間。おじさんの家で、僕はいつも帰りを待っていました。だけど、いつもならとっくに帰って来てもいい頃なのに、両親は帰って来なかったのです。
「なぁに、すぐに帰ってくるさ。ボルトとパムは強いからな。」
「そうだよね!」
──でも、両親は帰って来ませんでした。
「・・・ボルト!パム!・・・なんで・・・」
ある日の夜、おじさんが泣いている姿を見ました。その時、すでに両親は亡くなっていたそうですが、まだ5歳だった僕にはつらい話だと思って、遠くの地で依頼が入って、暫くの間帰って来ないと言われました。でも、僕はその時両親が亡くなった事を悟りました。
「・・・お父さん、お母さん。」
一人で寝る時、いつも涙が出ました。誰も両親が失敗するなんて、思いもよらなかったそうです。かく言う僕も、その一人でした。どうしてそんな事になってしまったのか、わかりませんでした。
「異常に強いミノタウロス?」
「ああ、そうだロック。お前の両親は、異常に強いミノタウロスに殺されたんだ。」
商人だったおじさんの元で暮らす様になってから、三年の月日が経ちました。8歳になった頃、おじさんが両親が亡くなった理由を教えてくれました。
──異常に強いミノタウロス。
元々、ダンジョンには両親だけでなく、他の冒険者ともチームを組んで向かっていたそうです。けど、そのミノタウロスの強さは異常だったそうです。命からがら逃げ出した冒険者が先行した冒険者が全員殺された事を報告したそうです。その殺された人の中に、僕の両親もいました。すぐに、討伐隊が組まれたそうですが、
──そのミノタウロスは、ダンジョン・コアごと綺麗に姿を消して、ダンジョンも無くなっていたそうです。
その後、おじさんの話しだと、異常に強いミノタウロスの情報は得られなかったそうです。誰も討伐もダンジョンの攻略もした記録が無いので、何処かの地に潜んでいる可能性が高いという話しでした。両親の死の理由を聞いた僕は、日課になっていた短剣と魔法の鍛錬の内容をもっとキツイものにしました。
「ロック、気持ちは分かるが、いくらなんでも頑張り過ぎだ。」
「でも、強くなる為に今出来る事は、これしか無いんです。」
「・・・ロック。」
──いつか、そのミノタウロスに会った時は、この手で、
誰かが討伐してくれるかもしれませんが、僕は目標を立てました。そして、9歳になった頃、僕はポーターとして各地のダンジョンを巡る事にしました。おじさんも一緒に行ってくれると言いましたが、
「ありがとうございます。でも、一人で行きます。」
「どうしてもか?お前が9歳にしては強いのは分かっているが・・・」
「強くなる為には、色んな地を巡る必要があります。もう戻って来れないかもしれないのに、この国で仕事をしているおじさんが、長期間仕事を空ける訳にもいかないでしょう?」
「それはそうだが・・・はぁ、そういう勇ましい所、ボルトとパムに似やがって。」
「そりゃそうですよ、父と母の子ですから。」
──それから、僕はポーターとして活動を始めました。
「ガキがうろちょろしてんじゃねぇ!」
「お願いします!ダンジョンに連れて行って下さい!」
ポーターとして活動を始めてからは大変でした。実力はあっても、まだ子供だったので相手にされませんでした。
「良かったら俺達と行くか?」
「良いんですか?!」
ダンジョンにも潜れず何度か声を掛けている内に、優しい冒険者の人にダンジョンに連れて行ってもらいました。それから、ポーターとして役に立つ事が皆に知られて、アーランド王国では逆に冒険者の人達からよく声を掛けてもらえる様になったんです。
でも、アーランド王国では、ミノタウロスに会う事はありませんでした。なので、出現する情報があったドラグニア王国に向かう事にしたんです。アーランド王国の冒険者も強い人がいますが、ドラグニア王国の冒険者は凄く強い人が多いって聞きました。なので、竜の定期便に乗ってこの国に来ようと思ったんです。
◆◆◆◆
「そして、11歳になった後。この国に来ました。」
「・・・・・・。」
「あ、ごめんなさいシャルさん。過去の話しをするのはシャルさんが初めてなんですが、困らせてしまいましたよね?」
ポフッ、
「シャ、シャルさん?!」
「・・・辛かったよね。」
ロックの過去の話を聞き、優しく抱きしめ言葉を掛けるシャル。
「・・・?! ・・・ぐす・・・うぅ・・・はい。」
ロックはシャルに抱きしめられながら、しばらくの間静かに泣いた。
ロック君は、強くなる為に小さい時から頑張っていました。




