家とダンジョンとシャル 2
◆◆◆◆
「一名様、ご案ナ〜イ!」
「お、お邪魔します。」
中に入ると、所々穴の空いた壁が見えており、掃除もされていないのかホコリが積もっていた。
「うわぁ・・・酷いわね。」
「まぁ、マスターがいなくなって家が稼働しなくなったのと、やる気が無くなったのと、屋敷にやって来る奴らを追っ払う事しか考えて無かったでごぜーますから、致し方無しです。」
「仮にもシルキーでしょ?」
「ふっ・・・そんじょそこらのシルキーと一緒にされちゃあ困ります。」
「なんなの?そのノリ・・・」
無駄にポーズを決めるシルキーに呆れながらも、立っていても仕方ないと屋敷の内部に進む為、玄関で靴を脱いで上がるシャル。
「やや?!・・・ほうほう・・・やはりわっちの目に狂いは無かったでごぜーます。」
(え?・・・なんなのかしら?)
何故かジロジロ見たかと思ったら頷くシルキーに戸惑いながらも屋敷の奥に進む、
「さてさて!案内する前にあなた様のお名前は?」
「シャルよ。」
「・・・ふむ、偽名ですな?」
「え?!分かるの?!」
「ええ、乙女の感というやつです。」
「ああ・・・そう。」
思わず名前の事を突っ込まれて反応してしまったシャルだが、シルキーの返しに若干負けた気がした。
「ご安心を・・・お客様の秘密をお守りするのはシルキーの務め。」
「・・・絶対に違うわよね。」
ふざけるシルキーに突っ込みながらも、シルキーに付いて行く、
「わっちはシルキーの“フィーネリア”でごぜーます!気軽に“フィー”と呼ぶであります!」
「わかったわ、フィー。」
「うんうん!では!屋敷についての説明をするでごぜーます!この屋敷は大きな庭付きの二階建てで、地下一階が存在するです。一階の玄関入って右側が服を収納出来るスペース、左側が二階への階段、奥に進むと突き当たりが倉庫になっているでごぜーます。」
「へぇ。」
「そして突き当たりを右に進むとさらに通路が!その通路の右側がリビングというやつで、左側が広いキッチンでごぜーます!」
「え!広いキッチンがあるの?!」
「そうでーす!・・・もしや、シャル様は料理をされるのでごぜーますか?」
「ええ、一人暮らしの時はいつも色んな料理作っていたから。」
「ほうほう!・・・これはこれは!」
「えっと?」
「さあさあ!行くでごぜーます!まずは地下から!」
「う、うん。」
何故か意味深に頷くフィーだが、何もその事については何も説明せずに先に進もうとするので、疑問に思いながらも奥に進むシャル、
〜地下一階〜
「こちらは地下一階でごぜーます!こちらのフロアはとある部屋と、広いお風呂があるであります!」
「広いお風呂?!見たいわ!」
城抜け出してから水浴びしか出来なかったので、広いお風呂と聞いてテンションの上がるシャル。
「脱衣所を抜けるとそこには・・・デデン!」
ガラガラッ!
「・・・うわぁ。」
ボロボロの脱衣所を抜けるとそこには、今にも壊れそうなくらいボロボロの水の溜まった広いお風呂があった。
「広いお風呂でごぜーます!!」
「・・・待って?もうお風呂として機能してないわよね?」
「その通り!でも、問題無しであります!」
(問題だらけでしょ?)
何の自身を持って問題無いと言えるのか訳が分からない、
「元々、水の宝玉から出る水に水路を引いてこの地下に通し、沸かして温泉の様に湧き出る様にしたお風呂でごぜーますよ!」
「それだけ聞くと凄い贅沢なお風呂ね。」
「水の宝玉の力で、常に水は浄化されるでごぜーますからね〜!効能も最上級!世界で一番のお風呂かもしれません・・・今はお湯も沸かせずただ水が溜まるだけの巨大な桶ですが。」
「・・・酷いわね。」
「でも、問題は無いでごぜーます!」
「どうしろと?」
明らかに問題があるが、全く気にしないフィーを不審に思いながら、突っ込みを入れるしか無いシャル。
「次は二階でごぜーます!」
「キッチンを見てみたいんだけど・・・ 」
「後で紹介するでごぜーます!」
「・・・そう。」
とにかく付いて行くしかないと半ば諦めた気持ちでフィーに付いて行く、
「・・・そういえば。」
「どうしたでごぜーますか?」
「どうして私を屋敷の敷地内に入れてくれたの?」
「ふーむ?」
二階に移動しながら、ふと最初の勢いに押されて聞き忘れていた事を聞いた。
「本来であれば、こんな怪しい格好した輩は有無をも言わさず追い返すでごぜーますが・・・」
「さっきみたいにね。」
「しかーし!シャル様から発せられた魔力がマスターと一緒だったので、思わず手が止まったであります!」
「そのマスターって一体何者なの?」
こんな変なシルキーのマスターとは一体どんな人物なのか興味が湧いたが、
「残念ですがトップシークレットでごぜーます!マスターの情報は、選ばれた者にしか与えられないのです!」
「選ばれた者?」
「わっちが気に入るかどうか!」
「・・・そういう事。」
どうやらフィーに気に入られた者にしか、そのマスターとやらの情報は教えてもらえない様だ。
「さあさあ!着いたでごぜーますよ!此処が二階!」
「床が抜けて一階に落ちないわよね?」
「保証は出来ナイ!」
「・・・ちょっと。」
二階に上がり見えたのは穴の空いた床と老朽化した床だった。下手をしたら確実に落ちる未来しか見えないくらい危ない状態だった。
「二階は服を収納する大きなスペース!そしてそして!寝室と寝室で、ごぜーます!」
「二つあるの?」
「マスター用とお客様用でごぜーます!・・・まぁ、人間の客なんて一人も迎えた事はあーりませんが・・・」
「なんか、悲しいわね。」
「マスターはぼっち!」
「そうなの?」
「というより、当時は周りに全く人が住んでいなかったでごぜーますから、そもそも屋敷に訪れるのは精霊とかだけでありましたよ。」
「・・・え?この屋敷っていつから・・・」
「さあさあ!二階はトイレもありますが、他は灯りくらいしか無く、ベッドも無いので見所無しでごぜーます!次は一階!」
「・・・もう。」
全く肝心な事を聞かせてもらえないので、やきもきするシャル。
〜一階〜
「奥はキッチン♪本は一冊も無ーいけど、書っ斎♪リビング、トイレ、無駄な客室っ♪」
「そういえばこの屋敷って、そのマスターって人とフィーしか暮らしていなかったの?」
「その通りでごぜーます!元々マスターの住んでいたこの快適な屋敷に押しかけたでごぜーます!」
「へぇー・・・快適。」
とても今の状態を見ても快適には見えなかったが、フィーがそう言うならそうなのかもしれない。
「今やその快適さは見る影も無し!」
「あ、やっぱりそうなのね?」
「しかーし!問題無し!」
「・・・・・・。」
(この自信は一体何処から来るのかしら?)
きっと何か理由があるのだろうと思い、付いて行くしかなかった。
〜キッチン〜
「デデン!キッチンでごぜーます!」
「・・・うわぁ。」
なんという事でしょう、と言いたくなる様な酷い見た目のキッチンがそこにはあった。様々なキッチン道具らしき物がある様だが全て壊れているようでボロボロで、部屋も所々穴だらけで見るも無惨なキッチンだった。
「広いでしょう?」
「広いけど、整備しないと使い物にならないわね。」
キッチンの状態に戸惑いながらも、先程の何も無い状態よりかは見所があるなと思い、壊れているキッチン道具を見ようと近づく、
「・・・ん?」
近づいて見ると、壊れたキッチン道具の中に何か・・・
「・・・炊飯器?よく見たらこれ、冷蔵庫だし・・・ミキサーも?!何コレ?!」
「なな?!」
置かれている物をよく見ると、見慣れた物がいくつかあった。前世ではよく見た物だが、現世のファンタジーな世界とは見る事のないフォルムと材質の懐かしい生活のお供がボロボロの状態だがそこにはあった。
「・・・もしやシャル様、ここにある道具が全てお分かりに?」
「ええ、全部分かるわ・・・使い方もね。」
「なななんと?!これはこれは!?」
フィーはかなり驚いた様子でシャルを見つめ、シャルは前世の懐かしい道具を見て少し感傷に浸った。
(もうこういう道具は見る事が無いかもって思ってたけど・・・もしかして)
「ねぇ、フィー。」
「イエス!シャル様!」
「地球もしくは、日本って言葉に心当たりはある?」
「なんと?!」
シャルの問いかけに一瞬固まるフィー、
「・・・まさか、またその様なワードをマスター以外から聞くとは。」
「とういう事は・・・」
「答えはイエスでごぜーます、シャル様!お仕えしていたマスターがそのワードを口走っておられましたです。」
「・・・そうなのね。」
この道具を見た時点で答えは出ていた様なものだが、フィーの話しを聞いて確信した。
(やっぱり、私以外に転生者が・・・)
前世の記憶を取り戻しドラグニア王国を訪れ、クレメンスの街やブルーマリンの都市の発展具合、宿で見かけたホテルに似たシステム、魔導ではあるが拡声機など、時折前世に似た物を見かけ、もしかしら自分と元同郷の人間がいるのではないかと思っていた。
(あ、でも転移者って線もあるわね。)
「ねぇ?フィー。」
「何でごぜーますか?」
「そのマスターは転移者?それとも転生者?」
「ふーむ?・・・確か『この世界に転生した以上、俺は俺の責務を果たすだけだ。』と、無駄に格好つけていたような?」
「・・・なるほど、転生者。」
(どんな人だったのかな?)
マスターとやらのモノマネをするフィーの姿を見ながら、シャルは自分と元同郷の人間に興味が湧いた。