家とダンジョンとシャル 1
三章開幕です。前半は家回です。
ギギィ〜、
「あ、シャル!おはよう!。」
「おはようガーネット、それにコリン・・・副団長も。」
「おはようシャルちゃん、前みたいにさん付けで良いわよ?今日もお洒落な服ね。顔は・・・見えないけど。」
シャルを迎えてくれたのはガーネットとコリン。此処は青の薔薇の拠点、全体的に青をベースにした大きな洋館が特徴の建物だ。入団してから一週間、シャルは青の薔薇所属のCランク冒険者として活動していた。
「まさか、一週間で騒ぎが収まるなんて驚きました。」
「それは“薔薇の集い”の手腕ね。あの四人が動かなきゃもっと大きな騒ぎになっていたもの。」
「「・・・確かに。」」
シャルが白薔薇のエンブレムを冒険者達に見せた後、大都市“ブルーマリン”は大騒ぎになった。薔薇の集いが認めた(リナリーとフランソワだけ)ルーキー、各所に情報は飛び交い一目噂のルーキーを見ようと拠点に人が押し寄せた。
だがすぐに薔薇の集いから、「白薔薇のエンブレムを持つルーキーについて、詮索する事を禁ずる。」とお触れが出て以降、薔薇の集いの四人からの圧力に怯えた者達は、シャルの知り合った者達以外は一切干渉してこなくなった。そのため、外に買い物に出掛けても問題が無くなった。
「・・・凄い影響力ですよね。」
「まあね、この国の王女様で一番強いオリビア王女殿下に、冒険者を統括する実力者であるリナリー団長、大陸一の洋服店を経営し、“賢者”と呼ばれ国宝級の魔導具を作れる程の魔法の才能を持つフランソワさん。そして、大陸ほぼ全ての商会を牛耳っていると言っても過言ではない、“スター商会”の会長であるホルンさんを相手に戦える猛者はいないわ。」
「その内容を聞くだけで、敵に回したくないですね。」
「敵対したら、大陸の土を踏めるかどうかも怪しい。」
剣で戦うならまだしも、生活するという事に関して敵に回したらまともに生きていけなさそうで身震いがした。
「それにしても、今日は朝早くから家探しに付き合っていただけるなんて・・・ありがとうございますコリンさん。ガーネットも、今日はよろしくね?」
「うん!任せてよシャル!」
「ええ、良いのよ。女三人で家探しなんて、中々経験出来る事じゃないわ。」
今回シャルは、この前貰った報酬の金貨100枚を元に家を探す事にした。宿をとっても良いが、長く冒険者活動するなら家を買ってしまった方が安く済むからだ。
「予定としてはこれから居住エリアに向かって、スター商会の支部から物件を紹介してもらう。」
「で、気に入ったのがあれば即購入!」
「どんな物件があるか楽しみです。」
三人は高い買い物にわくわくしながら、居住エリアに向かった。
〜居住エリア〜
「さぁ、着いたわよここが居住エリアよ。」
「色んな家がありますね〜。」
「大都市だからね、皆思い思いの家に住んでいるの。流石に貴族程の豪華な家には住めないけどね。」
様々な種族がその生活スタイルに合った家に住んでいた。普通のよく見る石で出来た家や、ログハウスの様な家、水路に囲まれたお洒落な見た目な家など様々な家が並んでいた。
「シャルは住みたい家の詳細は決めた?」
「うん、とりあえず要望を全部伝えて金額内に収まるように絞るつもり。でも、そんなに大した要望じゃないから何とかなるかも。」
「そうなの・・・あ、着いたわよ。」
三人はスター商会の支部に到着し中に入る。
カランカラン、
「こんにちは〜。」
「おや?こんな朝早くからお客様・・・やや?!コリンさんにガーネット君!お久しぶりです・・・そちらの方は?」
中に入ると、髭の生えたダンディな男の人が迎えてくれた。
「シャルちゃんよ。」
「シャルです、宜しくお願いします。」
「な?!もしや噂の・・・ご、ごほん!詮索はいけないのでしたね。初めましてシャル様、私スター商会で主に不動産関係を受け持っている“ベルモット”と申します以後お見知りおきを。」
流石商人、シャルの声と噂を聞いていたので驚いたが、すぐさま薔薇の集いのお触れを思い出し取り繕った。
「宜しくお願いしますベルモットさん。」
「お久しぶりです!ベルモットさん!」
「久しぶり、今はベルモット一人なの?」
「いえ、他にも来ていますがまだ朝が早いですからね。これから皆が出勤して来ます。」
「そうよね、まぁ軽く混乱を避ける為に早く来たって所もあるし、最初に会ったのがベルモットで良かったわ。」
「そうですか?ここへは・・・ああ、家をお探しで?それなら・・・」
自分に最初に会えて良かったと聞いて、事情を察したベルモットはそう答えると、
「奥の個室でお話しをお伺いしましょう。」
「話しが早くて助かるわ。行きましょ?シャルちゃん、ガーネットちゃん。」
「「はい!」」
シャルと三人は奥の個室に向かって行った。
〜個室〜
「どうぞ皆様お掛け下さい。お茶をお淹れ致しますが、皆様紅茶で宜しいですか?」
「ええ、それでお願い。」
「「お願いします!」」
「はい、かしこまりました。」
コポコポコポ・・・カチャ、
「どうぞ。」
「ありがと、ベルモット。」
「「ありがとうございます。」」
シャル達は紅茶を飲みながら一息着くと、
「さて、今日はシャル様のお住まいになられる物件をお探しで?」
「そうなのよ。」
「宜しくお願いします。」
「良い物件をお願いします!」
シャルの住む家を決めるべく、四人は話しを始めた。
「では、シャル様?どの様な物件をお探しで?」
「はい、一応いくつか要望がありまして・・・」
「お伺いしましょう。」
((どんな要望なんだろう?))
シャルがどんな要望を伝えるのか、実は家を探すという事になってから気になっていた二人、ドキドキしながらシャルの答えを待つと、
「ええと、まず予算が金貨100枚なんですが・・・一番はまず足を伸ばせるくらい広いお風呂がある事、次に剣を振れる広い庭があって、広いキッチンがある所とゆっくり眠れるスペースのある寝室・・・後は自然に囲まれた所なら、なお良いんですが・・・」
(((何処のお嬢様が住む物件なんだろう?)))
明らかに要望が多くて一人で暮らすには広く、一般的な冒険者が住むには設備が整った内容の家を要望され、ベルモットやコリンもガーネットも首を傾げる。
(あれ?要望を伝えただけなのに、何でそんなに首を傾げるのかしら?前世や今世で暮らしていた所よりは狭いと思うのだけど・・・)
前世では、山付きのお屋敷。今世では城で暮らしていたシャルは、控えめに自分の要望を伝えたつもりだったが、三人からしたら何処ぞの貴族のお嬢様の要望にしか聞こえなかった。
「ええと・・・シャル様?もし要望を全部通すなら、金貨100枚では足りません。」
「え?!そうなんですか?!」
((でしょうね〜。))
何となくシャルの住んでいた所が気になる二人だが詮索は出来ないので、金貨100枚では足りないという事に頷くだけの二人、
「一人暮らしをされるんですよね?他にもどなたか住まれる予定は?」
「特にありませんが・・・意外と要望通りになると高く付くんですね?」
「え、ええ金貨300枚以上はくだらないかと・・・」
「え?!そんなにですか?!」
((そんなに驚くの?!))
もはやまともな物件探しが出来ないのではないかと、不安になるコリンとガーネット、
「・・・う〜ん、分かりました。条件を絞ってみます。」
「かしこまりました。では、近くに幾つか空き物件がございますのでご案内致します。」
「はい、よろしくお願いします!」
「・・・大丈夫かしら?」
「・・・わからないです。」
◆◆◆◆
「こちらの物件は如何ですか?」
「・・・お風呂が意外と狭いですね。」
〜数十分後〜
「こちらは如何ですか?」
「・・・この庭の広さだとちょっと・・・キッチンは良いんですけどね。」
〜さらに数十分後〜
「・・・如何ですか?」
「・・・う〜ん、キッチンが微妙ですね。それに周りも石ばかりですし。」
((・・・全然絞れてないよ。))
ベルモットは商人としては素晴らしい手腕で、シャルの条件を絞った比較的優良な物件を紹介したが、シャルはなかなか条件を絞れずもう少しこれならと要望を伝えた。
「シャル、流石にそれじゃあ家は決まらないよ?」
「全然要望を絞れてないないじゃない。」
「うっ、少しでも良い家に住みたいなって思ったらつい・・・」
自分でも少しわがままを言っているのは分かっているが、そう簡単に買う物でもないしついつい悩んでしまう、
「シャル様が悩まれるのは仕方のない事です。そうそう、住まいは変えるものではないですから。」
「そうですよね?」
「・・・しかし、予算内でシャル様が望まれる物件というのはなかなか・・・」
「・・・そうですよね。」
「そうそう、もう少し要望を絞ったら?」
「そうだよ、金貨100枚で買える物件じゃ無いって。」
コリンとガーネットも、シャルを説得しようと声をかけた時、
「・・・うーむ・・・一つだけ、シャル様なら条件に合うかもしれない物件があるのですが・・・」
「本当ですか?!」
「「え、あるの?!」」
ベルモットのまさかの返答に驚く三人、
「ただ、スター商会がその物件の監視・・・もとい管理を受け持っている屋敷なのですが、曰く付きでして・・・もし、お住まいになられる権利を手に入れた際は、無料でお譲り致します。」
「「「無料で?!」」」
曰く付きにしてもあまりにも破格の条件に驚きながら不安になる三人に、ベルモットはその物件の話を始めた。
「その物件は、中央の精霊達が住む森に囲まれておりまして・・・」
「え?ベルモットさん・・・その物件ってまさか・・・」
〜大都市の中央“精霊の住む森”〜
「妖精“シルキー”が住む屋敷?」
「そう!有名な所でね?幾度となく挑戦した冒険者や貴族が追い返されて、結局誰も手を出さなくなった屋敷なの。敷地は広いんだけど・・・庭に入る前に追い返されちゃうの。」
「そうなんだ!」
「私も話しだけなら知っているわ?なんか、一風変わったシルキーが住んでるって話だけど。」
ベルモットの案内の元、曰く付きの屋敷に向かう三人、普通じゃない物件に案内して怒られるかと思ったベルモットだが、三人は意外と楽しそうだった。
「申し訳ありませんシャル様、本来であればこの様な物件を紹介するのは、商人として褒められたものではないのですが・・・」
「気にしないで下さい、妖精の住む屋敷って見るの初めてで凄く面白そうですし、もし上手くいけばって話しなので、見るだけで終わるかもしれないですし。」
「「まあ、シャル(ちゃん)なら知らないと思ってたし。」」
「・・・なんかその言い方は、ちょっと気になるけど・・・。」
なんだか悟った口ぶりの二人に、文句を言いながらも楽しそうに歩くシャル。
「それにしても見えてはいましたけど、大きな森ですね。」
「ええ、元々此処は小さな山だったのですが、水の宝玉が発見されてから、周りに住み着く人が現れ、大都市に発展したと言われております。」
「コリンさんが前に似た様な事話してましたね?」
「そうね、私も簡単にしか聞いてないけど。」
「確か水の宝玉の近くまで拡げようとして精霊に反発されて、森の大部分が残ったんですよね?」
「ガーネット君、よく知っていますね。私も聞いた話ですが、水の宝玉は精霊達の為に作られた魔導具だそうですよ?」
「へぇ〜、そうなんですか?」
伝説級の魔導具と精霊には深い関わりがあるらしい、
「さて、もうすぐ着きますので皆様なら問題無いかと思いますが、警戒を怠らずにお願い致します。」
「警戒が必要なんですか?」
「はい、その屋敷の敷地内に入りそうになっただけでそのシルキーは飛んできますし、結界も張ってあるそうなので、弾き飛ばされる恐れがありますので。」
「思ってたより大変な物件なんですね?」
「ええ、かの“賢者”フランソワ様ですら屋敷に足を踏み入れる事が出来なかったそうですよ。」
「え?!フランソワさんも?!」
「結構有名な話よ?」
「だからこそ、誰も手が出せないって事だけど。」
(珍しい物とか喜々として飛びつきそうだから、調査しに来ていても可笑しく無いけど・・・相当強力な結界が張ってある屋敷なのかしら?)
仮にも“賢者”と呼ばれているフランソワですら侵入出来なかった屋敷に、物凄く興味が湧いた。
〜数分後〜
「皆様、着きました。」
「・・・えっと、凄いですね?」
目の前に見えたのは、とても大きな屋敷だった。広い庭があり池も広く馬車を止めるスペースもありとにかく広い、だが草は生やしっ放しで手入れがされておらず、屋敷も大きいが全体的に老朽化が進み今にも壊れそうな見た目だった。
「誰も手を付けられないので、こんな無法地帯と化してしまったのですよ・・・シルキーがいるはずなんですけどね。」
「実際に見たのは初めてだったけど・・・酷いね。」
「これで、敷地内にも入らせてもらえないんだから、誰も住めない訳よね。」
「それにしてもシルキーは何処に・・・」
カンッ!カンッ!カンッ!
「「「「何事?!」」」」
急に辺りに金属音が響いたかと思うと、
『侵入者ぁ〜!お久しぶりの侵入者ぁ〜で、ごぜーます!!』
女の子の声が響いた。
『いやぁ〜いけませんね〜、不法侵入を実行しようなど言語道断でごぜーますよ!』
(何なのかしら?この変な言葉遣いは・・・)
さっきから「ごぜーます。」という変な言葉遣いで、辺りに声を響かせる存在に疑問を浮かべるシャル、
ザザッ!ドーン!
「わっち・・・推参!」
そして急に現れたかと思うと、白く輝く髪をなびかせ、白い服を着て、無駄に自分の後ろを爆発させポーズを決める顔立ちの整った可愛い変なシルキーが現れた。
「出たわ!噂の変なシルキー!」
「変とは失礼な!わっちこそは、この屋敷を守護する偉大なシルキーでごぜーますよ!?異議を申し立てるであります!!」
「こんなシルキー、初めて見るよ。」
(なんでこんなにテンションが高いのかしら?)
無駄に元気で変なシルキーを前に思いの外困惑するシャル。
「それにしても新顔ばかりですな〜?髭の生えたダンディな方は、前に見かけた事はごぜーますが・・・一人は、完全な不審者でありますな〜。」
今シャルは、何か起きても対策できる様、漆黒のローブで服も隠して魔法対策もバッチリの状態なので、完全な不審者として認定された様だ。そして、ふむふむと頷きながら、変なシルキーは観察を終えると、
「ではでは!皆様お帰りくださいませ!」
「「「「え?!」」」」
変なシルキーが突然、魔力を高め始めると、
「まずいわ、弾き飛ばされる!」
「え?!何か対策しないと!」
「まさか、こんなにすぐに追い返されそうになるとは・・・」
(・・・何かした方が良いかしら?)
コリンが弾き飛ばされる事を悟り、シャル達に声を掛けた。ガーネットとベルモットは突然の事に慌て、シャルは弾き飛ばされない様に対策を考える。
(風魔法とかかしら?だったら同じくらいの威力で相殺すれば・・・)
変なシルキーを観察した所、風魔法か何かで吹き飛ばそうとしている様だ。それならと、シャルは同じ威力になる様に魔力を高め始めたが・・・
「むむ?!」
変なシルキーは何かに驚くと、突然魔力を高めるのやめ、
「・・・マスター?」
「「「「え?!」」」」
「んん??綺麗な声の女性?・・・マスターじゃない・・・で、ごぜーます?」
「「「「ええ??」」」」
思わぬ問いかけに首を傾げる五人。変なシルキーも問いかけてみたものの、思った人物と違い首を傾げる。
「ふむ・・・こんなに運命的なものを感じるのは、マスターに会った以来でごぜーます・・・とにかく、一度あなた様を屋敷に案内してみるのも一興。」
「え、えっと?」
「という訳でご案ナ〜イ!!」
「ええ??」
「シャル様?!」
「「シャル(ちゃん!!)」」
そして何故か変なシルキーに連れて行かれるシャル。
「ちなみにオマイらは拒否でごぜーます!此処から先はシルキーたるわっちの領土、結界が張ってあるから侵入不可でごぜーます!」
「「「そんな?!」」」
シャルは、変なシルキーに連行されて屋敷の前まで行くと、
「さあさあ!着いたでごぜーますよマイホーム!」
「え〜と?」
「も〜う、何を突っ立ているのですか?いざ突入!」
「ええ?」
促されるまま屋敷に入るのだった。
お金の設定は大雑把に決めています。