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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
謎のルーキー
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謎のルーキー 1

 〜一年後〜


「はぁぁぁ!!」

「ギギャァァァ!?」


 鋭い声と共に、木の剣でゴブリンを狩る一人の女性。顔全体を覆う漆黒のローブを着た彼女は、辺りにいた魔物を何の苦もなく狩っていた。


「うん!前世の私と同じ感覚!ようやく感を取り戻せたわ!」


 嬉しそうにガッツポーズをするスレンダーな彼女こそ、一年前にアーランド王国を抜け出した元王女“シャリーゼ・ログ・アーランド”である。顔は見えないが、その体型は前世の時と同じようにスレンダーになり、動きもかつて自らが極めた流派“乙戯流”を完璧に再現出来るまでに至った。


(これなら、人里に降りても大丈夫ね。)


 一年という短いような長い時を経て、シャリーゼは人里に降りる事にした。



(それにしても、このローブ本当に魔導具だったのね。)


 山を降りる道中、シャリーゼは自分が着ているローブについて考えていた。修行をしてどんどんスリムになっていく自分に合わせて、サイズが自動調節されるローブ。自動修復機能が付いているようで、傷が付いてもすぐに修復し、さらに汚れも臭いも取れる優れもの。環境にも適応するのか、暑くなった時も寒くなった時もローブを着ていれば対応できた。


(流石、王国にあった魔導具って所かな?でもあんな魔導具作れる魔導士居たかしら?)


 不思議に思いながらも、もう今の自分には関係ない事だなと、それ以上は考えず良い拾い物をしたと上機嫌なシャリーゼ。サクサクと進んで行ったため、街がもう見えてきた。


(意外と近かったのね。設定どうしようかしら?よく考えたら無一文だし。)


 一年もの間、人里を離れ修行していたシャリーゼ。王女の時は人前に出た事はほとんどなかったが、曲がりなりにも元一国の王女、何処でアーランド王国の人間に自分の居る場所がバレる可能性があるか分からない。街に向かいながら自分の設定を考えていた。


(・・・山奥で暮らしていた世間知らずの女“シャル”・・・これでいけるかしら?)


 自分でもこの設定はどうかと思っていたが、他に良い案が思い付かず成るように成るかと、楽観的に行くシャリーゼ改めシャルだった。



 ◆◆◆◆



「・・・止まれ!」


 何食わぬ顔で街に入ろうとしたシャルだったが、街の門番に止められてしまった。


「・・・顔をフードで隠しているようだが、身分を証明出来る物はもっているのか?持っていないならそのまま不審者扱いで拘束させてもらうが。」


 流石に顔を隠しているのが怪しかったのか、ものすごく睨まれながらシャルに語りかける門番。


「・・・え、えっと、怪しい者じゃないんです・・・と言っても、この格好じゃ信用できないでしょうけど。」


 いきなり拘束をされたらたまったものじゃないと、何とか説得出来ないか腰を低くして話しかけるシャル。


「・・・⁉︎・・・あ、ああ・・・身分を証明出来れば問題ない。」


(・・・?なんだろう?正体がばれたって感じではないけど)


 なぜか驚いた表情をした門番だったが、シャルが話の通じる相手だとわかると少し警戒を解いてくれた。


「・・・えっと、身分を証明出来る物は持っていないんです。何とか通してもらう事はできないでしょうか?」

「・・・それなら、冒険者ギルドで登録をして、ギルドカードを発行してもらうしかないな。ただそれには少し金が入る・・・金は持っているのか?」

「・・・魔物の素材なら少々。」


 そう言いながら、もしかしたら旅資金の足しになるかなっと、獣の皮で作った袋の中に牙や爪などの素材を入れてきたシャルは、門番に見せた。


「・・・これは、この獣の皮や素材は自分で?」

「・・・はい。」


 シャルは、恐る恐る門番の顔色を伺いながら答えた。


「・・・ふむ、まぁこれなら問題無いだろう、ちなみに顔を見せてもらう事は出来ないのか?」


 念のためといった感じで、完全に警戒を解いたわけじゃない門番がシャルに問いかけた。


「・・・え、えっと訳あって素性を隠してまして・・・出来ればこのまま行きたいな〜っと。」


 ここで変に誤魔化しても意味ないので、正直に素性を隠していることを明かした。


「・・・まぁ、悪意は無いようだからな、問題を起こさなければ大丈夫だろう。付いて来い、案内してやる・・・そのまま入れても困るからな。」

「ありがとうございます!」


 こうして街の中に入ることに成功したシャルは、悠々と歩きながら門番に付いていくのだった。


 〜冒険者ギルド〜


「ここが冒険者ギルドだ。」

「・・・おぉ〜。」


 ディックの案内で、冒険者ギルドへやって来たシャル。今まで城の外に出た事が無なく、前世でも見た事のない、目の前に広がる新鮮な光景に驚いた。


「今受付に話しを付けて来るから、少し待っていろ。」

「あ、はい、ありがとうございます。」


(・・・すごい視線を感じるわね。まぁ、こんな怪しい格好していたら誰でも気になるか。)


 今のシャルの格好は、頭から足首まで漆黒のローブで隠れており、かなり怪しい格好だった。


(服位見えるようにしたいけど、洗濯や手入れしているとはいえボロボロだし。)


 正直今のシャルの服装は、人里から離れ一年前の平民風の格好のままでずっと使い込んでいた為、生地も傷みボロボロで、とても人様に見せられるような格好ではなかった。


(お金稼いだらまずは服装を一身しないといけないわね。他にも日用品とか揃えないと)


 当面の目標は身嗜みを整える事に決めて、シャルは門番のディックを待った。



 〜数分後〜



「・・・待たせたな、話しは付けてきたから、あそこにいる受付嬢の所に行って、登録を済ませるといい。じゃ、俺は仕事に戻るから。」

「助かりました。ありがとうございます。」


 戻ってきたディックにお礼を言って別れ、シャルは受付嬢の所に向かった。



「・・・えと、さっきの門番の人に言われて来たんですが」

「!?・・・は、はい!ディックさんから承っております。」


 何故か驚いた表情をした受付嬢だったが、すぐに冷静な表情になり答えてくれた。


(・・・?なんだろう?というか、あの門番の人ディックって言うんだ。)


 受付嬢の反応にも疑問を持ったが、門番の人の名前を聞いていなかったなと、今更ながら思うシャルだった。


「で、では、冒険者登録を行いますのでこちらの必要事項に記入をしてください。」


 そう言って受付嬢は、一枚の紙とペンを取り出してシャルに渡した。


(・ ・ ・このまま文字を書いてもいいけど、筆跡でばれたらしょうがないし・・・代筆頼めるのかな?)


「あの、代筆って頼めますか?」

「え?は、はい、大丈夫ですが・・・」


 一体、どこの秘密組織に追われているのか?そもそも人目につくような書類を王女時代に書いた事があるのか?明らかに警戒しすぎなことを考えながら、シャルは受付嬢に紙とペンを渡した。



「では、まずお名前から」

「名前は、シャルです。」


「ご年齢は?」

「15歳です。」


「・ ・ ・ご出身は?」

「ドラグニア王国の山奥です。」


「・ ・ ・山奥・ ・ ・ですか?」

「はい、そうです。山奥でずっと暮らしていたので、この辺の事は全く分かりません。」

「・ ・ ・そう、ですか。」


 年齢以外は考えた設定を受付嬢に話したが、出身地でやはり疑問を持たれ、世間知らずなところをアピールして警戒心を解こうとしたが、明らかに不審な顔をされ、受付嬢は紙に記入をしていく、


「では、今度は得意な武器と魔法が分かれば教えてください。」

「・・・得意な武器は、かた・・・剣です。魔法は少々使えますが、正直得意な魔法はわからないです。」


 刀と答えそうになったが、この世界に刀があるかどうか分からないので、無難な所で剣と答えた。魔法のほうは、実際使えない事はないがあまり知識が無いので、今現段階での状況を説明した。


「・・・わかりました。一応魔法が使える剣士としてご登録をさせていただきます。以上でご登録は完了致しますが、もしパーティーを組まれるようでしたら、一緒に募集登録もできますがいかがいたしますか?」

「あ、いえ、ソロで活動するつもりなので、パーティー登録はしないです。」


「・・・承りました。ギルドカードの発行には銅貨が5枚必要になります。お支払いは如何なさいますか?」

「・・・持ち合わせが無いので、魔物の素材があれば大丈夫って聞いたのですが。」


 シャルは、魔物の素材が入った袋を受付嬢に見せた。


「!?・・・こ、こちらはお一人で集められたのですか?」

「?・・・はい、そうです。」


 シャルは、受付嬢の反応を不思議に思いながらも素直に答えた。


「こ、これだけあれば問題ありません。査定も一緒に行います。ギルドカードを発行致しますので、少々お待ちください。」



 そう言って受付嬢は、慌ててカウンターの奥に向かって行った。


(ふぅ、なんとか登録できそうね。これで晴れて冒険者デビューできるのね。)


 ギルドという組織に登録する事が初めてだったシャルは、少し興奮しながら受付嬢が戻って来るのを待った。



「・ ・ ・お待たせいたしましたシャル様。最初はFランクからのスタートになります。ギルドカードをお渡しする前に冒険者のルールをご説明させていただきます。」


 そう言って受付嬢は、冒険者のルールを説明し始めた。



〜数十分後〜



「・・・以上で、説明は終わりますが、何かご質問はありますか?」


 冒険者のルールは特に難しい事はなかった。依頼は複数受けられるが、失敗すれば違約金は通常通り発生する事、昇格には試験が必要な事、冒険者同士の争い事はNG、どうしても決着をつけたい時は高ランクの人間の立ち会いのもと行う事など、特に気になる所はなかったが、


「・・・あの、素性を隠して活動したい場合はどうしたらいいでしょうか?」


 シャルがドラグニア王国に来た理由は、王女としての身分を捨て生きる事、顔を見せれば、いつアーランド王国の人間にバレるか分からなかったので、そこはどうしても聞きたかった。


「・・・えぇと、素性を隠す場合は自己責任ですが、顔が見えない、素性が分からない人は、当然信用にも関わります。ギルドにしっかりと貢献すれば信頼度も上がりますので、こちらで深く詮索する事は基本的にはありません。」

「・・・基本的には、ですか?」


「はい、流石にギルドも犯罪者を冒険者にする訳にはいきませんので、最低限の調査はさせていただきます。・・・シャル様は問題ないかと思いますが。」

「・?・・はぁ。」


(・・・まぁ、依頼をしっかりとこなしていけば問題ないわよね。)


 受付嬢の最後の言葉が気になったが、今の段階では信用もなにも無いので、とりあえず頑張るしかないなと思うシャルだった。


「・・・ではこちらがギルドカードになります。ちなみに本来査定は別の窓口で行うのですが、面倒なのでここでお金をお渡しします。登録料をお引きして、銀貨3枚と小銀貨5枚と銅貨5枚になります。」

「・・・ありがとうございます。」

「では、改めて・・・大都市から離れた街“クレメンス”にようこそシャル様、冒険者ギルドは貴方様を歓迎いたします。」


 こうしてシャルは、Fランク冒険者としてデビューした。

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