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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
青の薔薇と氷帝
16/111

青の薔薇と氷帝 6

 〜訓練場〜


「ここが訓練場ですか、かなり広いですね。」

「そうね。ここまで広くて上から観れる所があると、どっちかというと闘技場って言ったほうがいいかも。」


(確かに・・・どっからどう見ても広い闘技場よね。)


 別室で四人に色々質問攻めにあった後、入団試験試験の為、コリンの案内で訓練場にやって来た二人。訓練場に着くと目の前に広がったのは、屋根の無い前世で言うスタジアムに近い感じだった。そして、観覧席があり全体の雰囲気から言うと、闘技場に近いというよりそのものだった。


「でもまさか・・・シャルちゃんが“白薔薇のエンブレム”持っているなんて」

「それについては何度も説明したじゃないですか、フランソワさんのせいです。」

「・・・まぁ、フランソワさんだし。でも、“白薔薇のエンブレム”クラスの物貰って迷惑そうにするのシャルちゃんや、多分他の薔薇の集いの三人くらいよ。」


 コリンもリナリーから散々フランソワに対しての愚痴を聞かされているので、ある程度共感出来るが、仮にも “白色の君”、“賢者”そして“マダム”と尊敬されるフランソワに対して物凄く迷惑そうな雰囲気を醸し出しているので、ちょっとフランソワに同情するコリン。


「・・・感謝はしているんですよ?」

「それはわかるけど・・・ね。さて、訓練場に着いたはいいけど、やっぱり利用者は沢山いるわね。」

「そうですね。」


 目の前や奥の方では、新しい武器に慣れるため練習している者や、互いの剣の腕を確かめ合っている者、魔法の練習をする者や、パーティーの連携の練習をする者など、様々な冒険者達が散らばっていた。


「ここで入団試験するんだけど、リナリー団長が戦うからね・・・規模を考えたら今訓練場にいる全員に場所をあけてもらうしかないわね。」

「どうするんです?」

「簡単よ。」


 そうコリンが言うと、手に持っていた魔導拡声機を口に近づけると、


 《皆、注目〜!!》


『なんだなんだ?』

『あれ、コリンじゃないか?』

『本当だ“女王様”だ!』

『バカ!本人には内緒だろ?』

『れ、“烈風”のコリン様だ〜!!』


(コリンさんのこめかみがピクピクしてる。絶対“女王様”って聞こえてたわね。)


 魔導拡声機でコリンの声に気づいた冒険者達はザワザワし始め、一部の冒険者が“女王様”と言ったが、怒られてすぐに言い直していた。


 《これから青の薔薇ブルーローズの団長にしてギルド統括の一人、“青色の君”リナリー・ルー・ブルーローズ対謎多きルーキー“隠者”のシャルの対決が始まるわ!皆悪いけど、リナリー団長が戦いやすいように、場所あけて観覧席に行ってくれる〜?》


『何?!リナリー団長が?!おい、すぐに観覧席に行くぞ!』

『おう!訓練場で戦う所なんて滅多に見られないし、凍りたくないからな!』

『“氷帝”と戦うなんて、命知らずなルーキーだなぁ。』

『“隠者”っていやぁ、あの噂のルーキーだろ?噂が本当なら強いだろうが、流石に相手が悪すぎるだろう。』

『リナリー様が戦う・・・同志に伝えなければ!!』


(あ、なんか熱狂的なファンっぽい人がいる。)


 散々色んな人に注目されてきたので見られるのには慣れた。その中にアイドル特有の追っかけみたいな人が「同志に伝えなければ!」と、訓練場を慌てて出て行ったので、騒がしくなりそうな気がしたシャル。


「・・・皆、娯楽好きよね。観覧席に行くまでにものの数秒も掛かってなかったわ。」

「皆さん慣れた様子でしたけど、こういう事ってよくあるんですか?」

「年に一回闘技大会が開催されるし、決闘にも使われるからね。よく観覧席に居座ってる奴もいるわ。」


 完全に冒険者達の娯楽施設の一部と化している訓練場。観覧席に座る冒険者達を見ながらコリンの娯楽好きという言葉に納得した。


「シャル!頑張って〜!」

「まだ始まってないだろ?ガーネット。」

「まぁ、すぐに始まるし良いんじゃないかしら?」


(ジュエルナイトの皆あの後すぐにいなくったけど、観覧席にいたのね。)


 手を振るガーネットに手を振り返しながら、ジュエルナイトがいなくなった理由が観覧席の一番いい席を確保する為だと分かると、あの三人も相当こういうの好きなんだなと思った。


「じゃあ、リナリー団長呼んでくるから、ちょっと待ってて」

「あ、はい、分かりました。」


 先程、部屋を出る際、「一緒に訓練場に行く?」というリナリーの言葉に、「遅れてでた方が、皆混乱しないで済みます。」と、コリンがリナリーを部屋で待機してもらうように言っていたので、リナリーは先程の部屋で待機している。


(でもまさか、Sランク冒険者のリナリーさんと戦う事になるなんて、思いもしなかったな。)


 前世の記憶を取り戻し一年、シャルとして活動し一ヶ月程度、かなり濃密な時間を過ごしたと思う、


(組織に所属するなんて考えもしなかったな、前世でもその手の話全部断ったし、青の薔薇ブルーローズに入団したら、何か変わるかしら?)


 高校を卒業してから、ずっと戦いに身を投じて来た前世。わがままばかり言い、城でずっと過ごしていた今世。よく考えれば、仲間と呼べる人達は前世で会った相棒くらいだった。


(私の新しい人生の第一歩として、この戦い・・・必ず勝ってみせる。)


 試験なので実力を示せばいいだけで勝つ必要は全くないのだが、シャルはリナリーに勝つ決意を固く心に決めた。


 カツ、カツ、カツ、


「待たせたわね。」


『来たぞ、リナリー団長だ!』

『リナリー様!』

『やはりいつ見ても美しい・・・。』


 コリンと一緒に、凛とした表情で訓練場にやって来たリナリー、


 トトトッ、


「じゃあ、シャルちゃん、私は観覧席に行くから頑張ってね。」

「はい!」


 コリンは軽く走って、訓練場の中央にいたシャルに声を掛けると、観覧席の方へ向って行く、


「・・・シャルちゃん。」

「はい。」


 そして後からリナリーがやって来ると、


「これから入団試験を始めるわけだけど、試験内容について説明するわね。」

「はい!」


 戦いを始める前にルールの確認をし始めた。


「ルールは簡単、あたしと手合わせする事。シャルちゃんの実力を示してくれれば問題ないわ。」

「リナリーさんに勝利すれば良いんですね。」

「・・・え?勝つ気なの?」

「え?・・・は、はい。」


 リナリーは単純にシャルの実力が分かれば良いと思い話していたのだが、シャルが勝つ気でいる様なので思わず問いを返して見つめ合う二人、


「・・・まぁ、それぐらいの覚悟を持って戦うって事なのかしら?・・・とにかく、それで良いわ。」

「はい!」


 試験するのは自分なんだし、訂正する程の事でもないだろうと、リナリーはそのまま話しを進める。


「で、あたしが使う武器なんだけど、シャルちゃんの実力も知りたいから、模擬戦用の剣じゃなくてこの剣を使うわ。」


 キーンッ、


 そう言って、リナリーは腰にぶら下げていた剣を抜いた。そして剣を抜いた途端、周囲の温度が少し下がった。


「私の愛剣“セルシウス”でね。」


 ザワザワッ!


『おい!リナリー団長が抜いてる剣って、“不壊の氷剣”セルシウスじゃねえか?!』

『え?!リナリー団長“セルシウス”使うなんて一言も言って無かったわよ!?』

『・・・シャル、大丈夫かな?』

『リナリー団長の事だし、きっと大丈夫よガーネット。』


 リナリーが愛剣を抜くと、コリンとジュエルナイトの三人だけでなく、観覧席にいる全ての人が騒めきだした。


「・・・セルシウス・・・ですか?」

「?・・・まさかとは思うけど・・・この剣の事知らないの?」

「はい。」

「・・・驚いたわシャルちゃん、どれだけ世間知らずなの?これ世界中で名前が知れ渡っている不壊の武器の一つなんだけど。」

「不壊の武器?」


 持っている武器について、知らないと答えるシャルに静かに驚きながらリナリーは武器の説明を始めた。


「そう、決して壊れる事のない特別な力を宿した不壊の武器。世界中で持っているのは四人、私達“薔薇の集い”だけ、


 あたしの持っている──“氷剣ひょうけん”セルシウス、

 オリビアの──“竜剣りゅうけん”ドラグニア、

 ホルンの──“聖扇せいせん”イノセンス、

 フランソワの──“魔筒まとう”オリジン、


 この四つが、現在確認されている不壊の武器よ・・・まぁ、名前はあたし達が勝手に付けたけど。」


 不壊の武器、世界中で持っているのが四人だけと聞かされ、その一つを間近で見るだけでも凄い武器だという事が伝わってくる。


「・・・そんな凄そうな武器が四つもですか。」

「ええ、シャルちゃんの本気を見てみたいしね。そうそう、流石にこの剣とまともに打ち合ったら大抵の剣は持たないから不壊の剣とまではいかないけど、強度の高い武器を持ってきたわ。」


 そう言ってリナリーは、鞘に収まったもう一つの剣をシャルに投げて渡した。


「・・・とっ、ありがとうございます。」


 剣を受け取ると、剣を鞘から抜いて感触を確かめるシャル。


(・・・う〜ん、ちょっと重いかな?強度が高い分、重さがあるな。)


 そう思い、剣を鞘に収め、


「すみませんリナリーさん。私、こっちの剣の方にします。」


 シャルは、自分で選びペネドゥで購入した手頃な値段と強度の武器を抜いてリナリーに言った。


 ヒュウッ、


「正気?あたしの持っているセルシウスは不壊の氷剣。不壊の武器とまでは言わないけど、頑丈な剣じゃなきゃ話にならないわよ?」


 仮にも“氷帝”と呼ばれるSランク冒険者、そして不壊の武器に対して用意した強度に特化した剣ではなく、至って普通の剣を持って目の前に立つシャルに、氷剣“セルシウス”から訓練場全体の温度が下がる程の冷気を纏わせ睨むリナリー。


「相手の武器が壊れないのであれば、どんな武器を持っていようとまともに打ち合うことは出来ません。それなら使い慣れている重さを持つ剣で戦った方が勝機があります。」

「・・・なるほど、よく考えてるじゃない。勝ち目がないから諦めているって感じでもないのね。」

「はい、戦うからには勝つつもりで戦います。」

「そう・・・本当に勝つつもりなのね?」


 リナリーは、先程の勝つという言葉はてっきり気合を入れる為だと思っていたが、シャルの雰囲気から先程の宣言は本気だと分かり考えを改める。


「コリンさん!」


 ヒュッ!


「え?」


 パシッ!


「そっちの武器は後で返しといて貰えますか!」

「え、ええ!でも、大丈夫なのシャルちゃん!?ペネドゥで買った剣は質は良いけど、この剣ほど強度は高くないわよ!?」

「問題ありません!この剣で戦えます!」


 距離が遠いからか、先程のリナリーとの会話が聞こえなかったコリンは、突然シャルからリナリーの持っていた強度の高い剣を渡され、心配になって声を掛けたが、シャルは問題ないと答えると、リナリーと対峙する。


「一応言っておくけど、勝敗は相手が参ったっと言うまでか、周りが戦闘続行不可能と判断した時だけ。もちろん、殺しは駄目よ。」

「はい!」



「シャル、怪我しないかな?」

「リナリー団長だし、問題無いと思うわ。下手したらすぐに決着つくかもしれないし。」

「シャルがどれだけ強いか、よく見ておかないとな。」

「そうね。気になるわ。」


 コリンとジュエルナイトの三人は、対峙する二人の様子を見ていると、


「ハァァ!」

「ふっ!」


 リナリーは氷気と魔力を、シャルは練気を軽く纏い互いの間合いを計り始めた。

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