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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
古の魔王、動き出す支配の力
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古の魔王、動き出す支配の力 2

連続投稿です。相変わらずの早い展開になります。

 (随分と重厚な造り。精神支配の影響を避ける為?いえ、これは後から作られた建物かしら?)



 一本道を歩いた先に、大きな建造物があった。最初はイビル・ナイトメアの影響を受けない為に造られた物かと思ったが、特に特別な魔術式もなく定期的にメンテナンスされているのか、真新しい素材で補修などがされていた。



(封印の地の造りから相手の性質を掴めるかと思ったけど、まだ参考に出来そうな所は無し。)



 相手がどんな力を持っているかも未知数、その状況の中で少しでも情報が欲しかった。



(ここに来てから気配は感じていた。)



 そう遠くない距離に、彼はいる。気配察知によってそれは分かっていた。



(そして敵意も。)



 恐らくここまでの敵意を向けているのは現状自分だけだろう、重厚な扉の前に立ちその先に感じる気配に意識を向けながら思った。



「……入れ。」



 扉を開くよりも前に声が聞こえた。入る前に考え事をしていたのだが、入るのを戸惑っていると思われたのだろうか、低く響くその声に答える様に扉を開いた。



「初めまして、ガングリフォン・D・イレスター様?私は……」

「知っている。ここに来てから使い魔に監視させていたからな。あと、様付けもやめろ。虫唾が走る。」



 少し畏まった挨拶でもしようかと声を先に掛けたが途中で遮られた。輝く金色の髪に赤い瞳。威圧感を放ちつつ、かなり嫌悪感のある雰囲気から伺うに、心の底から嫌がっている様だ。



「そう……じゃあ、改めてガングリフォン。私と話をしましょう?」

「良いだろう。」



 すぐに戦闘になるかと思ったが、意外にも彼は話を聞いてくれる様子だった。



「……そのローブは何処で手に入れた?」



 一番初めに聞かれた質問は、隠者のローブについてだった。彼はこのローブが本来処分される筈だった事を知っているのだろう。若干ではあるが戸惑いも見えた。



「信じてもらえるかは分からないけど、このローブは実家で手に入れたの。どうしてそこにあったかは知らないけど。」

「……実家?」

「あと、このローブが遺っていた理由だけど、処分し損ねたんじゃないかって。処分する為にこのローブに何かしたけど、本人が思っていた以上にこのローブの自己修復機能が高かった可能性が高いって言っていたわ。」

「…………。」



 彼は額に手を当て、頭が痛そうな表情をした。あいつならやりかねない、そんな言葉が表情に出ていた。



「今の言葉で気付いたと思うけど、私は〈“アルス”に未来を託された。〉者よ。」

「!!?」

「そう伝えれば分かると。」

「どうやって知った?あいつはもう……」



 どうやらさっきのやりとりでは気付いていなかった様だ。初めて大きく動揺した様子が見れた。続け様に質問をしようとしたが、先に答えさせてもらった。



「色々と縁があってね?この宝玉も一つ持っているわ。」

「……それは。」



 私は虹色に輝く宝玉を見せた。それを見せた瞬間彼は悟った。



「なるほど、“資格”はあると言う事か。」

「そう、だから封印の場所に……」

「それは出来ない。」



 どうして?と聞こうとしたが、先に答えたのは彼だった。



「簡単な話だ。それを渡した存在は、お前の事を認めたのだろう。だが俺はお前を認めてはいない。」



 確かに簡単な話だ。例えフィーが私を認めようとも、彼が私を認め無ければ意味は無い。そしてガングリフォンは片手を前に突き出すとこう言った。



「力を示せ、お前が本当にあいつの意思を継ぐ存在ならば。」



 その手の平に強大な魔力を纏わせながら



「俺を越えられるはずだ。」



 明確な敵意と魔法を放った。シンプルなファイヤーボール、その威力は普通ではなかったが、



「はっ!」



 私は刀を抜いてそのファイヤーボールを切った。彼は驚いた様子は無かった。それぐらい出来て当然という顔をしていた。



「……やるしかないのね。」

「来い。」



 話し合いはどうやらここまで、ここからは互いの力が語るのみ。私は魔力を解放した。ローブによって認識阻害されていた魔力は、ガングリフォンの認識出来る範囲まで広がった。その魔力を感知した時、彼は驚いていた。だから私は、



「……その魔力の質は……お前は何者だ?その力が受け継がれるなど、普通では……」

「私にも分からないわ。ただ、一つ分かるのは。」



 魔力を高め、はっきりと告げた。



「私には彼の意思を継ぐ義務がある。」



 その発言に彼は少し微笑んだ後、顎で先程の宝玉が姿を変えた腕輪を指した。



「宝玉を使わないのか?強力な力を持っている筈だ。」

「それじゃあ、貴方を認めさせる事は出来ない。そもそもこれは、対黒き魔物用。」

「武器も魔法の補助程度にしか使っていないのもそれが理由か?」


「それもあるかもしれないわね。」



 刀に魔力を纏わせたながら答えた。どうやらさっきの動きだけでまともに武器を振っていない事に気付いたのだろう。魔力だけはしっかりと解放しているが、少し思う事があってきちんと武器を振らなかった。



「舐められたものだ。」



 彼は不機嫌になっていたが、油断はしていない。手は抜いていたが、ただ手を抜いた訳じゃないと気付いていた。見た所、彼は魔法に長けている。アルスという存在を除けば恐らく彼が魔王という名を持つだけの力を持っている事は明確だ。



(彼の使う魔法は技術が高い。今の一撃だけでも充分わかった。)



 魔法技術では向こうが上、今の自分に足りない力の一つ。それを克服しなければ、この先に待ち受ける存在に対抗出来ないかもしれない。イビル・マリオネットは相性が良かっただけ、次の相手が必ずしも自分の対抗できる存在とは限らない。常に高みを目指す事が最善の手段。



(彼には悪いけど、私の魔法の鍛錬にも付き合ってもらう。)



 ただ力を見せるだけでなく、彼に可能性を見せたい。その先に控える戦いへの可能性を。



(乙戯流“斬の型“)



 刀を横に構え、一薙ぎする。



(“斬”……合わせ、“炎斬えんざん”!)



 火の魔力を纏わせた斬撃が、ガングリフォンに向かって飛ぶ、



「子供騙しだな。」



 そう言って彼は、同じ火の魔力を小さく腕に纏わせパシッという軽い音と共に相殺した。



(“舞”……合わせ、“舞零”!)



 次に氷の魔力を纏わせた一撃を放った。威力はリナリー団長と戦った時と同じ威力で、



「……ほう?」



 感心した様子で一言呟くと、放たれた以上に氷の魔力を高め、



「“アイスストーム“。」



 一撃を放つ。舞零を打ち消し、凍った地面を削りながらもアイスストームは向かってきた。



「……舞零ぶれい。」



 それを私は、さらに魔力を高めた一撃で打ち消した。



「なるほど、魔力だけ(・・)は俺より上か。性質はあいつと一緒だな。」



 彼は冷静に観察していた。互いに様子見の攻撃、それで実力を測っていた。



「“創造魔法”。」

「何?」



 彼の言葉に疑問を投げ掛けた。その言葉を聞いた後、彼は答えた。



「あいつの持つ固有魔法の名前だ。自身の思い描いた様に魔法を創り出せる。ただし、力によって代償の価値が決まる。お前はあいつと同じ能力を持っている筈だ。」



 私が自由に魔法を使える理由を教えてくれた様だ。明確に自分の持つ魔法の力について説明されたのは初めてだった。今の所、代償は魔力で済んでいる様だが、彼の口振りからするとそれ以上の代償を支払えば、もっと強力な力を使えるらしい。



「魂魄に干渉する魔法…」

「なるほど、知っていたか。それは自らの寿命を代償に使う。」



 イビル・マリオネット。あの存在は、アルスによって力を制限されていた。その代償が寿命とは初めて聞いたが、



「等価交換、大きな力には大きな代償がつくって事?」

「そうだ。お前はその力をどう使う?」

「欲を言えば自分の技にしっかりと組み込みたいわ。」

「そうか、確かにお前の使っている技はただ洗練された技に力技で魔力を上乗せしただけだからな。それを魔法と言うには粗末過ぎるな。」

「……自覚はしてるわ。」



 相手から言われると、正直くるものはある。自覚はしているが、魔法と言うものを私自身が深く理解は出来ていない。新たな名をつけて使っても彼から見ても違和感はあった様だ。



「仮にもあいつの力を受け継いでいるんだ。上手く使え。」

「なら、教えてくれる?」



 その言葉に彼は不敵な笑みを浮かべて答えた。



「この戦いで学べば良い、それが出来ないのであれば、その程度の実力だったという事だ。」



 少しずつ魔力が高まっている事に気づく、戦いの中でこそ学べる事があるという事を伝える様に、



「じゃあ、遠慮なく技術を学ばせてもらうわね。」

「……出来る物ならな。」



 互いに距離をとり身構える。



「魔法とは、自然界に存在する力。魔法を使う者は一人一人違う性質を持つ。お前の持つ“創造魔法“もその一つ。」



 この世界において、魔法は身体の一部、それぞれに個性がある。



「その性質を見極め、高められる者はごく一部だ。」



 リナリー、オリビアと闘った時、二人は己の性質を理解し最大限に力を発揮していた。



「まぁ、お前の場合はそもそもの性質が違うがな。」



 自分の持つ力が特殊である事も、自覚する必要がある。



「何を代償に力を使う?魔力以上の対価を求めればお前の力は唯一無二の領域までいく。」



 不意に尋ねられた言葉に少し考えるが、自分の中で答えは決まっていた。



「残念だけど、命を賭けるつもりは無いわ。」

「命が惜しいか?」



 そう捉えられても、しょうがないのかもしれない。だけど、私には覚悟がある。



「いいえ、私は私に出来る最善を尽くす。今度・・は命を対価にせずに。」

「どう言う意味だ?」

「そのままの意味よ。守りたい者を守る為に私は生きる。命を削れば、守りきれないから。」



 前世の世界では、命を賭けることで世界を救った。でも、今この世界で命を賭ければ出会った人達にまた会う事も、守りたい者を守る事が出来ない。それは、私の我儘かもしれない。



「けど。」



 私なりの覚悟でもある。だからと言って、



「彼の……アルスさんの生き様を否定するつもりも無い。かつての私がそうだったから。」



 彼は命を賭ける事で、世界を未来に繋げた。私も、その先を見る事は出来ないが前世の世界に未来を繋げた。



「あいつとは違うが、悟っているな。」

「一度命が潰えた身だからね。」

「……なるほど、お前も転生者か……似ている訳だ。」



 ガングリフォンは大きく驚いた表情をした後、冷静に応えた。確かに私と彼は、似ているのかもしれない。



「それじゃあ、再開しましょう。」



 刀をしならせる様に構え、軽く振る。



(空の型“弓鳴“……合わせ……“火弓鳴“!)



 火を纏った矢の様に細い斬撃はガングリフォンの元へ届くが、



「まだまだ甘いな。」



 あっさりと打ち消された。



「お前は無意識に技の形に合わせて魔法を変化させているが、工夫が足りない。

「……工夫。」

「その技をどう昇華させたい?」



 こうしてアドバイスをする辺り、彼は優しいのかもしれない。互いに実力を図りあっているとも取れるが、



「なんとなく分かった気がするわ。」



 彼の言う通り、工夫が足りなかったのかもしれない。焼く(ベイク)などの魔法、家で使用していた魔法は、もっと鮮明にイメージして創り出していた。戦闘では乙戯流のイメージばかり先行して、親和性は高めていなかった。その結論に辿り着くと、火弓鳴を上に向けて放った。



「何をして……」



 火の矢は、急速に向きを変えてガングリフォンの元へ降りたった。咄嗟に彼は避けたが、大きな爆発の余波が彼に迫り、驚きながらも魔法で防いだ。



「!?これは……」

「追尾機能と爆発要素を強めたの。」

「……簡単に言ってくれる。」



 実際、自分にとっては簡単な事ではあった。ただ、それすらも考え付かなかった程、私の考えは浅かった。



「“炎斬“」

「ちっ!」



 続けて炎斬を放った。炎を纏った斬撃は彼の元へ行く、最初の時と同じように打ち消そうとするが、今までと違う威力に気付いて即座に回避行動をとった。



「炎の温度を高め、斬の切れ味を上げてみたの。」

「規格外だな。」



 何をしたのか回答すると、呆れた様に言われてしまった。確かに、普通ではないのかもしれない。



「でも、これだけじゃ駄目ね。」



 足りない。そう自覚できるほど、今の自分に足りない要素が見える。



(魔法の概念を考える必要がある。)



 理想の形を思い浮かべ、自分の使う技に融合させる。



(斬)



(炎)



「合わせ。」



「“炎斬”」



 斬と融合した炎は、まるで生きているかの様にうねりを上げ、炎の道を作りながらガングリフォンの元へ飛ぶ。



「くっ!?」



 ガングリフォンは魔法で防ぎつつ、後方に距離を取って堪えた。



「完全に融合させたか、これほどの芸当が出来るとはな。」

「貴方が使う魔法は、本質を理解してその威力を最大限に上げ放っていた。なら、私の創造魔法は思い描く事で概念その物を創り出す。」



 自身の新しい形の魔法。



「だから私は創った。」



 魔力を代価に使う、新たな力。



「乙戯流と融合出来る魔法を。」



 その第一歩をシャルは踏み出した。



「それがお前の魔法に対する答えか?」

「さぁ?少なくとも、私が使う技を昇華させる力にはなったわ。」

「そういう適当な所も似ているな。」

「そうかしら?」



 互いに微笑しつつ、距離を取る。先程まではとは打って変わった真剣さを帯びながら、



「ここからが本番だ。」



 不意にガングリフォンの魔力が高まる。自身の肉体と呼応する様に。



「俺も伊達に長い時を生きて来た訳ではない。」



 彼は構える。



「俺にも固有魔法がある。」



 手を上に上げ、一言呟いた。



「力を示せ。」



 ーー“災害ディザスター



 瞬間、天井に黒雲が現れ轟音と共に雷が目の前に落ちて来た。



「!!?」



 シャルは黒く焦げた地面を見つめながら、咄嗟に距離をとった。突然の予期せぬ魔法に驚きながらも尋ねる。



「天候を操る力?」

「いいや、ある一定の範囲内で災害・・の力を操れる。」

「……災害。」



 不思議そうにしていると、ガングリフォンは見せつける様に力を放ってきた。



「例えば」



「嵐」



 目の前には荒れ狂う風の奔流。



「次に津波」



 目の前には部屋全体を包む様な大きな波。



「そして噴火」



 地面からマグマが飛び出し、周囲を熱する。



「地震すらも。」



 大地は割れ、あらゆる物を呑み込もうとする。



「強過ぎるわね。」



 ガングリフォンが力を使った後、部屋の天井、壁は全て崩れ去った。



「強い力だとは思った。だが、この力を持ってしてもあの存在を退ける事は出来なかった。」

「相性が良くないとは思ったわ。」

「だろうな、力だけではどうする事も出来ない相手だからな。」



 精神支配、力技ではどうする事も出来ない相手。ガングリフォンにとって天敵の様なもの。



「建物は壊して良かったの?」

「ああ、また作り直せば良い。元々来訪者を封印の間に下手に近付けない為の陽動の役割を持っていただけだからな。」

「……そう。」



 今二人の戦いを妨げる物は何も無かった。



「この力は、多くの魔族を守り、そして屍も作り出した。」



 無表情から伝わる大きな怒り、彼の過去の体験を怒りで感じた。



「越えて見せろ。」



 大きな魔力のうねりが彼自身を包む。



「ええ、必ず。」



 彼の願いとも取れる言葉を受け、シャルは答える。



 ガキンッ!!



 ーー瞬間、激しい音と共に闘いが始まった。

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