古の魔王、動き出す支配の力 1
お久しぶりです。新章開幕です。ここからシリアスになっていきます。
執筆していて気付きましたが、3部構成ではなく2部構成で終わりそうです。続きを書きながら分けるか決めます。
「さて、まずはどこから話しましょうか?まず私の父は、ガングリフォン・D・イレスターであるという事は先程の発言から分かったかと思います。」
ここは、魔王城の客間。向かい合っているのはヴィーネリアとシャル。その側に控えているのは、四魔公、アルメリア、ルードリック、そして簀巻きにされたベルフェゴーレである。
「ヴィ、ヴィーネ?」
「許しません。そこで大人しくしていて下さい。」
「……はい。」
「「「「「…………。」」」」」
圧倒的な威圧感を放ちつつ、ベルフェゴーレを一瞥するヴィーネリア。今回の件でかなり怒っている様子だった。
「シャルさん。」
「はい。」
「その様子を見る限り、お父様が貴方の来訪に気付いていた事は分かっていましたね?」
「ええ、そうなっていても可笑しくはないと思っていました。」
「そうですか。」
二人はそう言うと、目の前の紅茶を飲み始めた。
『な、なぁ?彼女が噂の“隠者のシャル“だったのか?』
『驚いたわ。』
『うむ。』
ダルディンは小さな声で他のメンバーに問いかけた。デリドラは窓から、ミルフィオーネはその近くから答えた。
『母上が久々に本気で怒っているな。怖い。』
『私も一回した見た事がないわよ?シャル、大丈夫かな?』
ルードリックは怯え、アルメリアはシャルの心配をしていた。
「どこから話しましょうか?まぁ、初めからでいいですね?」
「はい。」
そう言って、ヴィーネリアは話し始めた。
「まず、私が今までこの場所を留守にしていたのは、封印が解けかけている今、何が起こるか分からない為に事前に準備をする必要がありました。なのでお父様の元に滞在していました。そしてお父様は、大陸全体に使い魔を監視に置いています。特に海や空を渡って来る者には細心の注意を払っています。そこに貴方の様な怪しいローブ姿の人間が来れば一目で分かります。まぁ、何故かお父様は貴方の着ているローブ対して強い思い入れがある様でしたが。」
当然と言ってしまえば当然だが、シャルの見た目はお洒落な服が見えており、以前ほど怪しくはないが、普通に怪しい人物である。そこに細心の注意を払っているガングリフォンの監視の眼があればバレるのは必然である。そして、話から察するに自信が着ている隠者のローブについても。
「次に、あまりにも仕事を抜け出す事が多いので、夫にはお父様の使い魔の一体が常に監視に付いています。」
「えっ、初耳だよ!?」
「「「「「…………。」」」」」
「なので、とても監視がしやすかったです。」
しれっととんでもない事を言い出すヴィーネリア。話を聞く限り、今までの行動は全て監視されていた様だ。
「使い魔の存在は感知していましたか?」
「はい、見られている事には気付いていました。」
「やはり……噂通りの感知能力の高さですね。」
ヴィーネリアは関心した様に呟いた。シャルは答えた際に使い魔のいる方へ首を傾けたので、位置は把握していた事は確実だ。
「本来であれば、他の者達と同じ様に元いた大陸に帰って頂くつもりでしたが、何故かお父様が貴方に会いたいとおっしゃっていたので。あえて、ここに来ました。」
「ガングリフォン様がですか?」
「ええ、今まで積極的に誰かと関わる事を嫌っていたお父様が貴方に会いたいと。」
とても意外そうな表情で言う彼女は、自身の父親の行動に疑問を持っている様だった。今まで自ら積極的に関わる事を嫌っていた彼は、必要な時以外はずっと封印の地にいた為、娘であるヴィーネリアにとっても彼の発言には非常に驚かされていた。
「封印の地までは、転移魔法の陣を使って移動してもらいます。」
「転移魔法の陣ですか?」
「何かありました?」
「……いえ、初めて聞いたので。」
転移魔法を使える存在は限られていると以前フランソワから聞いていた。シャルは、実際にそれを使用する事に若干興味が出ていた。
「それと、お父様の希望で封印の地までは貴方一人で向かって頂きます。」
「一人で、ですか?」
「ええ、転移魔法の陣を使えば、後はどこに向かえば良いかすぐに分かります。残念ですが、お父様は私ですら完全には信用していません。表面上は普通に話していても、どこか心の奥底では疑いの目を向けています。今のお父様は誰も信用していません。かつては信頼出来る友がいたそうですが……」
一人で向かう。恐らくガングリフォンは自分に聞きたい事があるはず。それも考えた上で一人で会う事を提案している。
「ま、待てヴィーネ!いくら何でも一人で何て……」
「ベルフェ?発言を許した覚えはありませんよ?」
「……はい。」
(((((……弱すぎる。)))))
発言しようとしたベルフェゴーレを圧倒的な圧で制する妻。ここには完全な上下関係が見えていた。
「では、すぐに旅立って下さい。」
「はい、分かりました。」
シャルは返事をすると、ヴィーネリアの案内の元、転移魔法の陣に向かって行った。
◆◆◆◆
「準備は宜しいですね?」
「はい。」
ヴィーネリアと共に転移魔法の陣がある場所に来たシャルは、魔法陣の上に立った。
「え、えっとシャル!帰ってきたらまた話しましょうね!」
「うん、アルメリア。待っててね?」
誰もヴィーネリアの雰囲気に何も言い出せない中、アルメリアだけがシャルに一言伝えた。
「随分と仲が良くなったのね?」
「うん!友達になったの!」
「そう……それは良かった。」
ここで初めてヴィーネリアが微笑んだ。アルメリアに対しては非常に柔らかい感情を感じた。
「さて、シャルさん。行きますよ?」
「お願いします。」
そして、ヴィーネリアは魔法陣に魔力を込めた。
ジジジジ……、
「……シャルさん。」
「はい?」
不意にヴィーネリアは呟いた。
「……貴方ならあるいは、お父様を負の呪縛から解き放ってくれるかもしれませんね。」
「……え?」
ヴォンッ!
「頼みましたよ。」
◆◆◆◆
「ここが、封印の地。」
強大な魔力を感じる。この封印の地に着いた最初の感想がそれだ。濃くそして重い魔力。今まで感じたどの魔力よりも強大に感じた。
「ここにもあのドームはあるのね。」
彼女の視線はガングリフォンのいる場所から離れた位置にある建造物に対してそう呟いた。リース大陸にもあった邪神を封じ込める為の大きな装置の一部。おそらくこの大陸では、自分にしか見えていない建造物。視線は向けたが、今用があるのは古の魔王。
(話し合いは……出来そうにもないわね。)
圧倒的な敵意、この地に着いた瞬間それを向けられた。原因はわかっている。自分の着ているこのローブが彼にとって思入れのある品だから。そして、本来この時代に遺っていない筈だった物。
(誰も信用していない……今は。)
かつて信頼出来る友がいたと聞いた。それは間違いなくアルスである事もわかっている。友亡き今、彼はこの地に眠る凶悪な存在を見張る為に、500年という長い時この地を守ってきた。そこへ現れた友の持っていた魔導具を纏う存在。
(私がきっと、貴方を負の呪縛から解き放つ。)
ヴィーネリアの言葉を受け、強い意志を持ちガングリフォンの元へ向かうシャル。古の魔王とアルスの意志を継ぐ転生者。今、大きな歯車がまた一つ動き出した。