青の薔薇と氷帝 1
第二章の始まりです。
ガラガラガラ・・・、
「見えてきたわよシャルちゃん。あれが“ブルーマリン”よ。」
「・・・あれが、大都市“ブルーマリン”。」
青の薔薇の副団長コリンと共に馬車に乗り移動し三日、その日数を移動に費やし丘の上から見えたのは、大きな円形状の壁に囲まれた都市だった。強固な壁に囲まれたその都市の上では、兵士が巡回しており、常に外部を警戒している様だった。
「このまま南門まで行って都市に入るわ。そしたら少し案内してあげる。その後にCランクの試験を受けてから、団の拠点まで案内するわ。」
「はい、分かりました!」
シャルは新たな場所にどんな出会いがあるかと心が躍り、わくわくしながら元気に返事をした。
ガラガラガラ、
シャル達が南門に馬車で向かうと、屈強な兵士達が門番をしており、南門には行列が出来上がっていた。
「もう少し時間が掛かりそうね。せっかくだから、あなたの情報もおさらいして、これからの事を詳しく話すわね。」
「はい。」
「まずあなたの名前はシャル・・・山奥でずっと暮らしてた世間知らずのヒューマンで良いかしら?」
「はい!」
「・・・まぁ、その立ち振る舞いと素性を訳あって隠してるって時点で、その設定破綻しているわね。」
「・・・・・・はい。」
「でも深くは追及しないわ、クレメンスの街の人達の態度を見ても慕われているって分かるし、冒険者ギルドが信頼する限りはあなたの素性は守るつもりよ。」
「はい!」
(・・・まぁ、遅かれ早かれこの指輪を見せたら状況が一変するわね。)
シャルはコリンの言葉を聞きながら左手の中指にはめた指輪を撫でた。現在シャルは、クレメンスの街の面々が説明する間もなくコリン達によってブルーマリンに向かう事になったため、特に白薔薇のエンブレムが刻まれた魔導具の事を言わずにいた。とはいえ、せっかく貰ったものなのでバレた時はバレた時だと、指輪形態ではめたままにして自然体でいこうと思っていた。
「そして、私は冒険者ギルド直属の組織の一つ“青の薔薇の副団長“コリン・ティー・アロッサ”で種族はハーフエルフ・・・ここまで良いかしら?」
「はい!問題無いです!」
そう、道中互いに自己紹介して衝撃を受けたのが、彼女がハーフエルフだという事だ。素顔をフードで隠している関係で、普段あまり人の顔をじっくりと見ないシャルだが、ハーフエルフというファンタジーなワードを聞いて、思わずまじまじと見てしまった。
少し長い耳に整った顔立ち、エメラルドグリーンの長い髪、そしてエルフ要素がある慎ましい胸、美人なコリンに半分とはいえエルフの血をしっかり継いでいるのだなぁと、関心しながら見てたら胸の辺りで少し怒られたのは言うまでもない。
「これからの事だけど、まず世間知らずっていうのは本当みたいだから、都市の中を案内しながら、施設や私達の組織について説明するわね。一応円形の都市は四つにエリアが分かれていて、今いる南門はギルドエリアと居住エリアにすぐいけるわ。他のエリアも都市の中で川が流れているから舟に乗ったり、馬車で移動すれば案外すぐに行けるわ。」
「川が流れているんですか?!」
「そうよ、中央に向かって地形が高くなるんだけど、その中央に綺麗な水源を発生させる伝説級の魔導具と水の精霊の住処があってね、そこから門の壁まで水の流れを作って都市全体に行き渡らせているの。」
「わぁ、凄いですね!」
(大都市に出来たのは、その魔導具のお陰でもあるのかな?水源を確保できるって生活する上では必須条件だし。あ、でも)
「そういえば、魔導具は大丈夫なんですか?何かで守ってたりとか?」
「その点に関しては問題無いわ、伝説級の魔道具って基本自動修復が付いているからすぐに修復するし、元々その魔導具はこの土地にあって、魔導具に触れられないおかしいレベルの結界魔法が張られてるらしいわ。それに高ランクの冒険者がいるから何が起きても大抵の事はなんとかなるわ。
ちなみに、水も魔物が苦手で他の種族には品質の高い聖なる力がこもった水を生み出しているって言っていて、その周辺の環境が快適で水の精霊達が住みついたそうよ、そこの周りに街を築き、気付いたら大都市になるまで発展してたらしいの。」
「凄いですね。」
(伝説級の魔導具って何かしら規格外の力があるのね。)
魔導具って便利だなぁと思いながら、伝説級の規格外の性能に関心したシャルだったが、
(・・・私のこのローブは、ただ性能が良いだけよね?)
コリンの「伝説級はだいたい自動修復が付いている。」という言葉に、急にフランソワとのやりとりを思い出し、今着ているローブに対して急に不安になった。
「で、話しが逸れちゃったけど、都市の案内が終わったらギルドエリアに行って、中央にあるギルド総本部でCランクの昇格試験を受けてもらうわ。」
「・・・Cランクかぁ。」
「目立ちたくないって話しだけど、王種二体と数千を超える軍勢を単騎かつ無傷で倒したってなったら、流石に目立つわよ?」
「・・・ですよね。」
「正直、クレメンスのギルドマスターがシャルちゃんが一人でやったって言わなかったら、あの魔物の死体の数と荒れ具合見ても信じなかったわ、どうやったらあんな状態になるの?今でもちょっと疑っているわ。」
「・・・・・・。」
コリンは、数千を超える魔物の軍勢をたった一人のDランク冒険者が倒した事がいまだにあまり信じられず疑っていた。ギルドマスターであるホイットが彼女がやったって言わなければ、とても信じられる戦場の状態じゃなかったのだ。
「とにかく、さすがにそれだけの功績を上げた冒険者を野放しにする訳にもいかないし、Dランクのままにしとく訳にもいかないから、Cランクの昇格試験もかねて、Aランクの私が平和的(威圧)に話し合った結果、青の薔薇に勧誘するためにブルーマリンに今来ている・・・以上ね。」
「・・・皆さん涙目でしたけどね。」
冒険者ギルド直属の組織は青の薔薇だけでなく様々な団が存在するが、大きく影響力があり、強者揃いである団の一つ青の薔薇の副団長のコリンによる平和的(威圧)な話し合いよって、他の冒険者達は全員涙目になりながら納得していた。
「・・・まぁ、普段はあまり冒険者の勧誘にそこまでしないんだけど、シャルちゃんに興味があってね。リナリー団長も気に入りそうな人材だからね・・・あ、そろそろ入れそうね。都市に入ったら、まずは居住エリアを抜けて商業エリアに行くわよ、どんな店があるか案内してあげる。」
「商業エリアかぁ、楽しみです!」
ガラガラガラ、
「次の人、前へ!通行証と身分を証明出来る物を・・・おや?コリンさん!お疲れ様です!」
「「お疲れ様です!コリンさん!!」」
「皆お疲れ様、・・・はい、ギルドカード。」
「確認致しました!それでは・・・と、そちらの方は?」
門番達が御者から通行証を確認した後、コリンの顔を見ると、元気良く挨拶をしてギルドカードを確認した。そして、シャルの存在を確認すると首を傾げた。見た目は怪しいシャルだが、コリンが一緒という事もあり、そこまで警戒されなかった。
「シャルちゃんって言うのよ。シャルちゃんギルドカードを」
「あ、はい・・・どうぞ・・・皆さんお仕事お疲れ様です。」
「「「?!!」」」
ギルドカードを出して門番の兵士に渡しながら、なんとなく雰囲気で言葉を掛けると、門番の兵士全員が固まった。
「?・・・あの、確認をお願いします。」
「私も最初驚いたけど・・・固まらない!」
「「は、はい!失礼致しました。」」
「え、え〜・・・Dランク?・・・シャル・・まさか“隠者”の?!・・・か、確認致しました!どうぞお通り下さい!!ブルーマリンへようこそ!」
(え?“隠者”?何その呼び名・・・というよりなんで門番の人が私の名前みてそんな反応するの?!)
隠者、俗人との交際を絶って山野などにひっそりと隠れ住む人の事を言う言葉。最初の反応も気になったが、その後にギルドカードを見た後に兵士が言った言葉が気になり過ぎた。
「コリンさん?“隠者”って・・・」
「う〜ん、多分先にシャルちゃんについて連絡した時に付いた異名かしら?王種二体と数千の魔物の軍勢を単騎で倒したって言っても、その張本人の情報は山奥でずっと暮らしてた世間知らずの駆け出しの冒険者って情報しか無かったし」
「・・・そうですか。」
都市の中に移動しながら、コリンに尋ねたシャルだったが、まさか最初に適当に考えた設定が、これからこの地で生活していくであろう自分のあだ名の元になるのか、と今更ながら後悔するシャルだった。
◆◆◆◆
「さて、門番の彼も言ってたけど・・・ようこそ!水の都と呼ばれる大都市“ブルーマリン”へ!」
「うわぁ、綺麗。」
門を抜け、目の前に広がったのは、透明感があり青い空の色を映した水路が各所に広がり、その水路を舟が通ったり、水路の上に大きな橋があり馬車が通ったり、目の前に建物がどこまでも続いてる様な感覚になるほど広い場所だった。
「・・・こんなに広いと迷いそうですね?」
「そう、慣れてない人は間違いなく迷うわね。まあ、その時は中央を目指せば門の場所はなんとかなるけど、案内しないとどこにどんなお店や施設があるか分からないから、覚えてた方が良いわ。」
「わかりました!」
シャル達は、そのまま馬車に乗ったまま商業エリアを目指した。
「こんなに水路が広がってる所、初めて見ました。」
「・・・結構有名な所なんだけどね・・・相当、世間知らずのお嬢様・・・ううん、山奥で暮らしていただけはあるわ。」
コリンは何か小さな声で言っていたが、シャルには聞こえなかったようだ。
「そういえば、四つのエリアがあるって言っていましたが、ギルドエリアと居住エリア、商業エリア、あと一つはなんですか?」
「ああ、貴族向けの居住エリアよ。大都市っていうだけあって、王都よりも大きいし、一番人の集まる都市だからエリアを四つに分けても余裕で人が住めるのよね。ちなみに中央は水の精霊や他の精霊達の住処になってるから、都市の中にあるけどエリアとして分けてないわ。」
「へぇ〜、そうなんですか。」
その話を聞いてシャルは中央の方へ目を向けた。中央に向かって上り坂になっており、水路も上の方へ上がっていた。頂上までは見えないがそれだけ広く高い場所に魔導具の水源があるんだなぁとまた感心したシャルだった。
〜商業エリア〜
「ここが商業エリアよ。」
「広いですね。」
商業エリア、様々なお店が並ぶその光景は圧巻の一言だった。どこもかしこも大きいお店が並び、ここに行けば何でも揃う感じがした。
「とりあえず、私達がいつも利用しているお店を紹介するわね。もし気になるお店があったら時間のある時にゆっくり見た方が良いわよ。全部見るとなったら、二日、三日じゃ見終わらないから。」
「そうですよね。物凄く広いから、移動だけでどれだけ掛かるか・・・」
大きい店舗が多いといっても、沢山建物があり、移動だけでも気力を使いそうだった。
「今回は都市の中をゆっくり見てもらいたかったから馬車で移動したけど、単純にエリアを移動するだけなら、移動用水路を舟で行った方が早いわ、ちなみにドラグニア王国特有の移動手段があるのよ。」
「そうなんですか?一体どんな・・・」
バサッ、バサッ!
「・・・・・・竜?」
「そう“竜の定期便”よ。」
羽ばたく音が聞こえ影が差したかと思うと、頭上を竜が通り過ぎていった。
「ドラグニア王国が竜族との交流が深いのは知っているでしょ?飛行能力に長けた竜達に協力してもらって、ブルーマリンだけじゃなくて、王国や隣国なんかも行き来してるの。とはいえ、流石に大人数移動出来る数はいないから、結局馬車の移動が主流なのよね。」
「そうなんですか。」
(・・・初めて知ったわ。城で好き勝手してた頃もあんまり外の事知らないで偉ぶってたし。)
前世の記憶を取り戻す前は、わがままばかり言って城の人達を困らせていたシャリーゼ王女ことシャルは、よく考えたら城にずっと篭っていたから、外の世界の事をあまり勉強してなかったなぁと、今更ながら気付いた。
「さて、話している間に着いたわよシャルちゃん。剣が駄目になってたでしょ?武具と鍛冶の店“ペネドゥ”よ。」
「おぉ〜。」
コリンの案内で着いた最初の建物は、武器と防具全般を取り扱っている武具と鍛冶の店“ペネドゥ”だった。外観は入り口にフルプレートの鎧に盾と刃の潰れた剣を持ったマネキンのような物が立っており、遠くからでもわかりそうな感じだった。
「店舗は“スター商会”が管理しているから品揃えも豊富だし、信頼性も高いわよ。」
「へ、へぇ〜“スター商会”が」
(どうしよう、その商会というか有名所を全然知らない。)
何となくスター商会について聞けない雰囲気だったので、知っている演技をしながら流した。
カラン、カラン、
「ロン、いる?」
「あれ?コリンさん!いらっしゃいませ!ロン店長なら奥にいますよ・・・そちらの方は?」
「あら、メリー、この子はシャルちゃんよ。」
「初めまして、シャルです。」
「?!」
シャル達が店に入ると、金髪のポニーテールのメリーという女性が出迎えてくれた。自然な流れで挨拶出来たかかと思ったが、何故が門番と同じ様に固まってしまった。
「・・・これは、早めに皆に会わせて慣れてもらうしかないわね・・・メリー、ロンは奥なのね、行くわよシャルちゃん。」
「あ、はい!」
「え?!コリンさん?!シャルって“隠者”の・・・あ、後でちゃんと紹介してくださいねー!」
いちいち反応してたら、時間がかかりそうだったので、コリンはメリーに一言掛けると店の奥に歩き出した。メリーは置いていかれて一瞬驚いたが、仕事中だった事を思い出し去って行くコリン達に手を振りながら見送った。
「・・・う〜ん、良い防具が入ったなぁ。」
「あら?なら団に格安で売ってくれるかしらロン?」
「コリン?!ちょ、気配消して近づくなって・・・お?そこの黒いローブを着た顔の見えない奴は?」
店の奥の机の上で、新しく入荷した防具を眺めながらつぶやいていた男がロンという男の様だ。コリンに文句を言いながらシャルに気付くと首を傾げた。
「シャルちゃんよ。今日Cランクの試験を受けてから青の薔薇に入団予定の子なの。」
「シャルです。宜しくお願いします。」
「?!・・・こいつは驚いた。綺麗な声してんだなぁ・・・あ、俺はロン、“ロン・ルイス・ペネドゥ”。この武具と鍛冶の店“ペネドゥ”の店長だ。Aランクの冒険者で、商人ギルドと冒険者ギルドを兼ねた組織“星の手”の副団長だ。宜しくな。」
そう言ってロンは右手を差し出した。
「あ、どうも。」
そしてシャルも右手を出し握手をした。
「・・・て、シャルって・・・まさか噂の“隠者”のシャルか?!イメージと全然違うんだが。」
「・・・は、はは。」
(もう、ここにもその異名が・・・)
「そういえば、その噂って誰が漏らしたの?また“影の心臓”の連中?」
「ああ“影の心臓”の奴らだな、王種二体と数千の魔物の軍勢を単騎で倒す存在なんて、格好のいいネタだしな。」
(・・・なんて迷惑な。)
“影の心臓”、おそらくロンの団の様に冒険者ギルドと多分諜報ギルドを兼ねた団で、“隠者”という異名を広めた元凶なんだなという事をシャルは心に刻んだ。