上陸、魔大陸!魔王と四魔公 9
〜城内給湯室〜
「あれ、誰か来客?」
「そ、そうなのよ……」
落ち着かない様子でカチューシャを着けたメイドが、お茶の準備をしていた。そこへ、丁度給湯室やって来たリボンを着けたメイドが話掛けてきた。
「どうしたの?そんな変な顔して。」
「へ、変な顔って……実はね?今来ているお客様が、魔王様の姪を名乗る方で……」
「姪?アルメリア様?」
魔王様の姪は一人しかいない。アルメリア突然訪問するのはいつもの事、その度にミニお茶会を開いている。ちなみに、いつもベルフェゴーレを煽りに来ている。
「それが違うの。見た事のない凄く綺麗な声の人で、黒のローブとフードで顔が全然見えないの。」
「え?……だ、大丈夫なの?」
よくそんな怪しい人を城の中に通したものだと、リボンのメイドは思った。だが、カチューシャのメイドが語った話は、彼女が思っていた事の斜め上をいく理由だった。
「うん。魔王様や、テスカトーレ様から直々に説明されたから。」
「それはそれで問題よ!?一体誰のお子さんなの!?大事件じゃない!」
何故大事件か、魔王の姪はただ一人だ。もし他に姪がいるなら情報がすぐに出て来る。そんな姪の情報が無く、顔も隠して来ているという事は訳ありの姪である事は明白。誰かの隠し子。魔王様の親戚だとしても大事件である。
「わ、分からないわよ……でも、粗相があったらいけないでしょ?何かあったら、私滅茶苦茶怒られるからね?」
「そうね……あ、私高級なお茶菓子を買ってきたの。せっかくだから、それも出しましょ?」
「お、お願いね。」
さりげなく気を使った言葉を言ったが、実際はその謎の姪を一目見ようという好奇心である。
〜城内 広間〜
バタバタッ!
「おい、何の騒ぎだ?」
「あっ、ルードリック様。」
高貴な服を身に纏った一人の魔族の男が、慌ただしく動き回るメイドの一人に声を掛けた。ルードリックと呼ばれた男は、周囲を見渡し質問をする。その風貌は金髪の長髪長身姿で赤い眼が輝いている。
「散歩から帰って来たら随分と騒がしいな。」
「はい、何でもリース大陸で大きな催し物があるとの事で。」
「催し物?」
メイドの言葉を聞いて怪訝そうな表情をするルードリック。
「そんな、楽しそうな話。父上は言っていなかったが?」
「つ、つい先程戻られまして、魔王様は書類仕事で捕まっております。」
「……またやったのか。」
自らの父である魔王が書類仕事から逃げるのがほぼ日常となっているので、呆れた様に言った。ただ、あまりにもいつもの事なのでどうでも良くなった。ルードリックの興味はリース大陸で行われる催し物に移っていた。
「まぁいい、俺もリース大陸に行くとしよう。誰か付き添い出来る奴はいるか?」
「はい、では私と誰か……」
そうメイドが言葉を返そうとした時、ルードリックの視線の先にカチューシャを着けたメイドが紅茶のセットをワゴンに載せ移動している所を見掛けた。
「ん?何をしているんだ?」
そうルードリックが言った理由は、明らかに魔王の元へ向かうのでは無く、客室に向かおうとしていたから、
「お、お客様がいらしておりまして、紅茶の準備を……」
「客?この時期に?」
リース大陸で大きな催し物をやると先程聞いて、全員慌ただしくリース大陸に向かおうとしている中やってくる客。もしかしたらその催し物の関係者かもしれない。そう思ったが、魔王は今書類仕事で手が離せない筈だ。
「一体誰だ?父上の客なら今日は無理だろう、俺から声を掛けておくか?」
「い、いえ……ル、ルードリック様の手を煩わせる訳にはいきませんので……」
「……誰が来ているんだ?」
落ち着かない様子のメイドに少しイラッとしながら、もう一度質問した。ルードリックの様子に気付いたカチューシャのメイドが慌てて答えた。
「……あ、あの、その……姪と名乗る方が……」
「姪?アルメリアか?」
なんだあいつかと急に興味が薄れた。何時も来ているので正直どうでも良かった。そう思ったが会うだけなら良いだろうと思い、
「全く……誰かと思えばアルメリアか。丁度良い、どうせあいつも暇だからここに来たんだろう。たまには、年上の貫禄を見せてやろう……何処にいるんだ?」
そう問い掛けた。しかし、カチューシャのメイドはルードリックが勘違いしている事に気付き、訂正しようとした。
「あ、あの、いえ、ルードリック様?」
「まぁ、あいつを案内するなら一番豪華な部屋だろう。お前も付いて来い、行くぞ。」
「お、お待ち下さい!ルードリック様!」
カチューシャのメイドの制止も聞かず。ルードリックは客室に向かった。
〜城内 魔王の部屋前〜
ダダダダッ!ザッ!
「来たわよ!」
「ご、御機嫌よう。アルメリア様。」
「御機嫌よう。あの人はいるかしら?」
“アルメリア・V・ナイツ”。魔王の姪である。ルードリックが帰って来た後、城内入って来ていた。整った顔立ちで銀桃色の髪を編み込み後ろに流しており、桃色に近いその赤の眼はその美しさを際立たせていた。そして見た目のイメージとは違い、かなり活発な雰囲気で、メイドに声を掛けていた。
「ま、魔王様は今書類仕事を……」
「……まさか、また抜け出したの?この時間なら終ってても可笑しくないでしょ?」
「は、はい。」
魔王様が書類仕事を片付けている。それだけで全てを察したアルメリア。いつもの事である。
「……はぁ、相変わらずね。どうせしばらく手が空かないだろうから、ルードリックはいる?」
「先程お戻りになられました。お部屋でお休みなっているかと。」
「ふ〜ん?ま、話し相手くらい出来るでしょ。じゃあね。」
手が空いてからでも問題ない用事なので、ルードリックを探す事にしたアルメリア、給湯室近くを歩いていると、リボンのメイドが美味しそうなお茶菓子をワゴンに載せて給湯室から出て来るのを見掛けた。
「あれ?随分と美味しそうなお茶菓子ね。」
「これはこれはアルメリア様。はい、こちらは本日いらしたお客様の為にご用意し致しました。」
アルメリアが城にいるのはいつもの事なので、驚かず対応するリボンのメイド。来客と聞いたアルメリアは、暇が潰せるかもとその来客について尋ねた。
「誰か来ているの?私の知っている人?」
「え、えっと〜それがですね……」
「何よ?はっきり言いなさい?」
先程の冷静な対応とは違い動揺するリボンのメイド。あまりにもはっきりとしない反応にアルメリアは不機嫌になるのだが、
「あぁ!?もしかしてルードリックね!!」
「……え?」
何となく理由を察したアルメリア。普通の来客ならすぐに教えて貰えるので、言葉を濁すという事は何か隠したい事があるという事。そして、前にも似たような事があったので、アルメリアはすぐにルードリック絡みだと気付いた……合ってはいないが。
「あいつ、高級お茶菓子を一人締めする気ね。何処にいるの?」
「あの、いえ……アルメリア様?」
目の前に凄く美味しそうなお茶菓子がある。なのにそれを独り占めしようとしている親戚の兄がいる。そう思っただけで、驚かせてやろうとイタズラ心が湧く。アルメリアはリボンのメイドに場所を尋ねたが、リボンのメイドはそれが間違っている事を伝えようとしたが、
「あ、その反応……どうせ一番豪華な部屋に案内しているんでしょ?」
「え!?あ、いえ……」
「そうと分かれば!」
「ア、アルメリア様!?お、お待ち下さい!!」
そのまま勘違いしたまま、アルメリアはルードリックがいるであろう客室にダッシュで向かって行った。
◆◆◆◆
(今出来る対策はこれぐらいかな?)
クレハはとりあえず出来る限りの対策を考え、今出来そうな対策をさり気なく準備していた。
(少し休憩してその後は……)
バタバタバタッ!!
(え?誰か凄い勢いでこっちに来てる?)
とりあえず一息つこうと思っていたクレハだが、急にこっちに向かって来る人の反応を捉えたので驚いた。先程は全く別方向に走っていたので、そこまで気にしていなかったが今は明らかにこちらに向かって来ている。ちなみにこの客室は扉が二ヶ所あり、来客を通す方の扉、そして使用人が給仕を行う為に使用する扉がある。もの凄い勢いで向かってくる人物は、給仕を行う扉の方から気配を感じていた。
(え〜と?……あれ?反対側からも誰か来る?)
そして、気配察知を巡らせていると、もう一つの扉の向こう側からも真っ直ぐと明らかにこの部屋に向って来る人の気配を感じた。
(何?悪意は感じないけど……どうして真っ直ぐこっちに?)
気配は初めて感じる気配、悪意は無いが明らかにこちらに向かって来ている。予想外の事態にどうしようかと考えるクレハ。だが、対策を思い付く前に両方の扉が開かれた。
バンッ!
ガチャッ、
「ルードリック!!私にも高級お茶菓子を寄越しなさい!!」
「アルメリア、リース大陸で何か面白い事が。」
給仕側の扉は勢い良く、来客を通す扉は普通に開かれた。入って来た二人は目的の人物が扉の目の前にいて、
「「「…………。」」」
一瞬思考が停止した。
「あ、あれ?ルードリック?」
「ア、アルメリア?」
二人は扉の近くに自分達がいるのを認識した。だが明らかにさっきまで部屋にいた感じでは無い事、そして部屋の中の人物に声を掛けようとして、扉の所に目的の人物がいて思わず首を傾げた。そして、二人の視線が漆黒のローブとフードを着けた人物に視線がいき。
「「誰!!?」」
(……困った事になったかも。)
物凄く大きな声で叫んだ。
「……ちょっと、普通の来客ならさっさと言いなさいよ。びっくりしたじゃない。」
「……い、言う暇ありました?」
アルメリアがリボンのメイドに小声で文句を言うが、リボンのメイドが説明出来る時間は無かったので不満気な顔で反論していた。
「うん?普通の来客か?……おい、お前。」
「は、はい?」
一方ルードリックは、少し考えた後にカチューシャのメイドに疑問を投げかけた。
「確か……“姪”が来ていると言っていたな?」
「……は、はい。」
「誰の(・・)姪だ?」
カチューシャのメイドは“姪”が来ていると言っていた。それに思い当たる人物はアルメリアしかいなかった為ここまで来たが、今目の前にいるのはアルメリア意外の“姪”。当然そこは気になった。アルメリアもその言葉を聞いて聞き耳を立てた。
「え、えっと……」
そしてカチューシャのメイドが答えた内容は、衝撃的な内容だった。
「…………魔王様です。」
「「…………」」
バッ!!
アルメリアとルードリックは、一度黒いローブの人物を見た。そしてカチューシャのメイドに顔を向けると、二人で問い掛けた。
「「誰の?姪だって?」」
「ま、魔王様のです!」
バッ!!
「……どうも。」
「「はぁぁぁ!??」」
それはそれはとても綺麗なハモりを見せて叫ぶ二人だった。
「そんな訳無いでしょう!?姪は私一人よ!私ただ一人!!こいつは姪を名乗る不届き者よ!!」
「いきなり不届き者扱いはどうかと思うが……」
「何よ!!?」
「……まぁ、怪しい奴だというのは確かだな。」
アルメリアの勢いに押されつつ、黒いローブの人物を警戒するルードリック。いきなり不届き者扱いされたクレハは割と困っていた。
(随分と気が立っているみたいだけど…………何故?)
「ちょっと、あんた!」
「えっと、はい?」
「!?……綺麗な声……じゃなくて!」
さっきは、自分以外の姪という情報で頭が一杯でクレハの特徴的な声に気付かなかったが、改めて聞いてちょっと動揺するアルメリア。しかし、それよりも優先する事がある。
「一体どういうつもり!?もしこの城で悪さしようっていうのなら、私が相手になるわ!」
「ええ?」
いきなり好戦的な宣言に困るクレハ。どうしようかと思っていると、
「待て、アルメリア。」
ルードリックが止めに入った。てっきり庇ってくれるのかと思っていると、
「アルメリア。声を聞く限りこいつは女だ。」
「それがどうしたの!?」
「前にあったろう?父上に見染めてもらおうとして、姪を名乗って近付いて来た奴を。」
「……はっ!?まさかその仲間!!?」
(((……もの凄く話がややこしくなってる。)))
余計に話がこじれてしまい、思わず頭を抑えるクレハと二人のメイド。これ以上放っておくとどんな人物に仕立てあげられるか分からない。そう思ったクレハは二人を鎮める為立ち上がろうとした……が、
ダダダダダッ!!バンッッ!!
「アルメリア!ルード!!何をしている!!」
物凄く焦った顔のベルフェゴーレが客室に勢い良く入って来た。実は少し前に、アルメリアとルードリックが城に来た事を知り、嫌な予感がしてここに駆けつけたのだ。
「ベルお……馬鹿叔父!!誰よこの姪は!?」
「父上!誰なんだこの姪は!?」
急にやって来たベルフェゴーレに動揺せずクレハに指を指す二人。もの凄く息ピッタリである。
「……私の姪だ。お、お前達の親戚だぞぉ?」
「「ほ、本物なの!?」」
まさか本当の姪だとは思わず動揺する二人。その後の二人の反応は正反対だった。
「い、いや〜……知っていたぞ?ようこそ、えっと……新しい父上の姪?私にとっては妹になるのか?」
白々しく知っていた素振りを見せながら、挨拶するルードリックと、
「……本当に姪なの?私以外の?……認めないわ!!」
何故か更に好戦的な態度を見せるアルメリア。
「ルードはともかく……アルメリア?落ち着きなさい?」
「……分かったわ。」
(((((……えぇ?)))))
ベルフェゴーレの一言で急に大人しくなったアルメリアに驚く言った本人のベルフェゴーレと他四人。まぁ、これで話は出来そうだ。
「この様子だと自己紹介は出来ていなさそうだね。クレハ、自己紹介を。」
「はい。」
ようやくまともな挨拶が出来ると、立ち上がって姿勢を正すクレハ。
「アルメリア様、ルードリック様。初めまして、“クレハ”と申します。今までこちらの大陸にいなかったのですが、訳あって戻って参りました。どうぞ宜しくお願い致します。」
「「…………」」
クレハの挨拶に固まる二人。
「……魔王様の親戚で初めてまともな挨拶をされる方が。」
「……ヴィーネリア様もさぞお喜びに……」
そして何故か感動するメイド二人。
「……おじ様、この後どうするつもりなんですか?」
「……どうしよう。」
そんな四人を見ながら小声で話すクレハとベルフェゴーレ。
〜数分後〜
「……ふん!」
「やれやれ。」
色々と言いたそうな顔をしているアルメリアと困った顔をしているルードリック、そしてこれからどうしようかなといった雰囲気を出しているクレハとベルフェゴーレの四人は椅子に腰掛けていた。
「……テスカトーレさんは?」
「……一応呼んでもらっている。とりあえずここを乗り切ろう。」
とりあえずテスカトーレは呼んでいるらしい。とは言ってもリース大陸への非難計画の為に時間を使っているので、すぐには来れない筈だ。少しでも時間稼ぎをするしかない。
「父上、色々と聞きたい事はあるがまず最初に質問するぞ?」
「ああ。」
「何故……クレハと言ったか?彼女は顔を完全に隠している?さっきから全く見えないんだが?姪だと言うなら顔くらい見せても良いと思うが?」
「その事か。」
ルードリックの質問に、ベルフェゴーレがなんて事ない表情で答えようとした。
「「「…………。」」」
次の言葉を黙って待つ三人。
「……どうしてだ?」
「「知らないの!?」」
物凄く答えてくれそうな雰囲気だったのに何も知らなかったベルフェゴーレに突っ込むアルメリアとルードリック。クレハは苦笑いしつつ突っ込む二人に声を掛けた。
「ごめんなさい。詳しい事は明かせないのですが、訳あって顔を隠しているんです。おじ様にもそれは内緒にしてて。ここに滞在している間も顔を見せるつもりはないです。」
「……そう、ならいいわ。」
「いや、良くないだろう。さっきから思っていたがアルメリア。クレハに当たりが強くないか?」
「気のせいよ!」
「……そ、そうか。」
先程から気になってはいたが、妙にアルメリアがクレハを敵対視していた。理由が分からなくて物凄く混乱しているが、直接聞く事は出来なさそうだ。
「それで?我らの親戚という事は、クレハは強いのか?正直、詳しい事を聞く前に実力を見たい。」
「そうね!それは良い案ね!!」
「えぇ?」
何故か突然手合わせをする流れになり困惑するクレハ。アルメリアもかなり乗り気で余計に訳が分からない。
「待て待て!?クレハはここに着いたばかりだ。ゆっくりと休む必要がある。というか何故いきなり強さを見ようとする!?」
「「話を聞くより、魔力や拳で語り合った方が信用しやすい。」」
(…脳……筋?)
突然やって来た謎の姪を信用出来ないのはしょうがないが、実力でその真意を探ろうとするのは割と強引ではあった。ただまぁ、このまま疑いの目を向けられても困る。
「おじ様。私は大丈夫ですよ。お二人もその方が信用しやすいと言っていますし。」
「し、しかし……」
「おじ様も、少なからず私の実力を見ておきたいと思っていますよね?」
「確かにまぁ、知っておきたい所だが。」
ベルフェゴーレもクレハの実力は見ておきたかった。噂通りなら自分よりも強い“隠者のシャル”の強さを。
「「なら決まりだな(ね)!!」」
こうして、ルードリックとアルメリアとの手合わせが決まった。
◆◆◆◆
「ふふん!さぁ、クレハ!どっちから手合わせする?」
「どちらからでも良いぞ!」
物凄く楽しそうな表情で訓練用の剣を構えるアルメリアとルードリック。その表情を見る限りオリビアと同じ匂いを感じる。
「そうですね。二人まとめてで問題ありません。」
「「なっ!?」」
クレハがそう言うと、二人はかなり驚いた表情をした。離れたと所で話を聞いていたベルフェゴーレも困惑していた。クレハは実力を知らないが、魔王や四魔公を除けばトップクラスの実力も持つ二人にその台詞を言い放っていたからだ。
「後悔するわよ?」
「後悔するぞ?」
「実力を見るためですから。」
(封印がいつ解けていてもおかしくは無い。もう、精神支配を受けている可能性もある。なら……)
他の者達とは違いクレハの内心は真剣だった。対策の一つとして自身の持つ感覚をフルに活用して精神支配の影響が無いか探る事にしていた。今の所おかしな所は無いが、いつ何が起きてもいいように普段より気を張っていた。二人まとめて相手にするのは力量を見極めた上での判断と、二人のどちらかに違和感がないか比べて探る為でもあった。
「私は素手で行きます。いつでもどうぞ。」
「ルードリック!あの子に格の違いを見せつけてやるわよ!」
「ああ!!」
クレハの内心を知らない二人はただ煽られただけだと思い、怒った表情でクレハに突っ込んで行こうとした。
(掌の型……“掌波”!!)
ドッ!
「な!?」
「なんだと!?」
クレハは手始めに、衝撃波を前に飛ばした。この世界では見た事のない攻撃方法に驚いた二人。避ける事には成功したが、動揺は隠しきれていなかった。
「魔法とは違う?威力も中々ね。」
「ふん、だがそれだけでは俺たちは倒せまい。」
すぐに気を取り直すと、アルメリアは片手を上げた。
「こっちからも行くわよ!“サンダーランス”!」
バリバリッ!
(雷の魔法か……流の型……“扇流”!)
雷が槍の形をとると、真っ直ぐとクレハに向かっていった。そしてそのまま流れる様にその魔法を受け流した。
「魔法を素手で受け流した!?」
「おいおい、なんだその戦い方は!?」
「大抵の魔法ならこれで受け流せます。」
「「…………。」」
涼しげに言うクレハに絶句する二人。魔法の威力は側から見ればAランクの冒険者でさえ恐る威力ではあるが、彼女の前では無力に等しかった。
「な、ならこれならどう!“サンダーウィップ”!」
ビリィ、ビィンッ!
アルメリアは剣に雷を纏わせ、細長く伸ばし、鞭の様にしならせた。
「雷の鞭か、そういう使い方も出来るのね。」
「避けながら感心しないでよ!?」
雷の鞭を避けながら観察しているクレハに突っ込みを入れるアルメリア。軌道の読めない動きで攻撃しているのに全く当たる気配がしない。そこへ横からルードリックが声を掛けてきた。
「ふん、俺の魔法も喰らうがいい!“サイクロン”!!」
ゴォォォ!!
ルードリックは大きな風の魔法を放った。アルメリアはルードリックが魔法を放つ時間を稼いでいた様だ。不意をつく形で魔法は放たれたがクレハは攻撃が来る事は分かっていた。
(掌の型……合わせ……“空掌波”!!)
ドォンッ!
「うぉ!?」
振り返ると同時に、風魔法を纏わせた衝撃波をサイクロンに放った。その威力はサイクロンを打ち消し、ルードリックを吹き飛ばした。
「な、何よ!さっきから攻撃は当たらないわ、威力が桁違いの攻撃はしてくるわ。貴方何なの!?」
「ま、全くだ!」
「えっと……ベルフェゴーレ様の姪です。」
「「それだけで説明できる訳ないでしょうが!?」」
どう返したらいいものかと思いながら何となく答えたが納得はしてくれなかった。
「ルードリック!こうなったら合わせ技よ!」
「おお!」
二人が魔力を高め更なる攻撃を仕掛けようと魔力を高めると、
「そこまでです!!」
ザザァーッ!
上から大きな声と共にテスカトーレが降りてきた。
「テスカトーレ?どうしたのよ?」
「そうだ。そんなに慌ててどうした?」
突然の現れるテスカトーレに慣れているのか、魔力を高めつつ声を掛ける二人。対してテスカトーレはこめかみをピクピクさせながらかなり怒った様子で叫んだ。
「全く……あなた方二人は目を離すとすぐに騒ぎを起こす!!そこになおりなさい!」
「ま、待てテスカトーレ!そもそも悪いのはアルメリアだ!」
「何よ!?実力を見たいって言ったのはあんたからでしょ!?」
「黙りなさい!問答無用!」
流石に怒っているテスカトーレを見て不味いと思ったのか、いきなり責任の擦り付け合いを始めた二人だが抵抗虚しく拘束された。
「えっと……」
「クレハさん!貴方もです!事情は聞きましたよ!」
「……えっと?」
「さあ皆さん!説教の時間です!」
テスカトーレの説教は小一時間ほど続いた。