上陸、魔大陸!魔王と四魔公 7
◆◆◆◆
「……改めまして、“テスカトーレ・T・ジョーム”です。魔王様の直属の配下にして、魔大陸の統制を担った四つの公爵家の一つ“ジョーム”家の当主。他の方からは四魔公の一人と称されています。」
「“クレハ”です。おじ様の姪です。」
「……くくっ。」
「ま・お・う・さ・ま?」
互いに向かい合って挨拶を交わす二人。現在、シャル、ベルフェゴーレ、テスカトーレの三人は、王都行きの特別な馬車に乗り一息ついた後、自己紹介をしていた。ベルフェゴーレの謎の姪登場に、魔大陸で誰も見た事がないテスカトーレの叫びを聞いたベルフェゴーレはずっと肩を震わせて笑っていた。
「一体、誰の子なのですか?他の方はご存知なのですか?彼女は今まで一体どこで暮らしていたのですか?」
「ああいや……色々と訳ありでな?とりあえず姪と言う事だけ把握しておいてもらえれば……」
「誰も納得しませんよ?ちゃんと説明して下さい。」
特にそこまで細かい設定を決めていなかったので曖昧にはぐらかそうとするが、テスカトーレは納得していなかった。
(う〜ん、姪と叔父の設定はテスカトーレさんやあの街のギルドマスターの反応を見る限り、良くなかったみたいね。このままお城に行くともっと騒ぎになりそう。)
二人のやり取りを見ても分かるが、いきなり魔大陸を収める魔王に今まで誰も知らなかった謎の姪が現れたら、問題になるのは必然だった。かといって今から設定を変える訳にもいかないし、前魔王ガングリフォンにバレると大変な事になると聞いているので、正体を明かす訳にもいかない。
(なんとか、誤魔化せないかしら?)
そう思いつつ考えを巡らせる。
「あ、後でちゃんと説明するから。」
「後回しにしてまともに対応した事はないですよね?今すぐに説明をして下さい。」
「あ、あの!」
「「ん?」」
追い詰められるベルフェゴーレを助けるべく声を掛ける。二人はシャルの声を聞きこちらを向いた。
「テスカトーレ様。いきなり姪を名乗る私が出て来て、おじ様に詳細を聞かれるのは当然の事だと思います。ですが、どうしても詳細を話せない事情がありまして……本当に申し訳ございません。」
とりあえず何も話せない事を謝った。その後、何か言い訳をしようとテスカトーレを再度みたが……
「ク、クレハさん?礼儀作法は何処かで学ばれたのですか?」
「礼儀作法ですか?えっと、実家で……」
急に別の話題を振られて困惑しつつも答える。
「ベルフェゴーレ様?ちょっと……」
「え?」
その後、テスカトーレはベルフェゴーレにひそひそ話しを始めた。
『最初の挨拶の時も気になりましたが、魔王様の姪にしては礼儀作法がしっかりとしていますね。』
『凄い失礼な事を言うなよ……まぁ、確かにうちの親族は皆、荒い性格をしているが。』
『魔王様も含め慕われてはいますが、クレハさんの様な方は初めてですよ?本当にどこの子なのですか?』
『いや、だからそれは話せないって……』
『まさか!?本当は魔王様の隠し子じゃ……』
『いや、違うよ!?変な探り入れないで!?』
もっと大事になりそうな勘違いをされそうで、慌てて否定するベルフェゴーレ。ちなみにひそひそ話をしているが、いくら普通の馬車より広い魔王用の馬車でも普通にシャルに丸聞こえである。
『まさかとは思いますが……姪というのは嘘で、訳ありの部外者とかじゃありませんよね?』
『ぎくっ!?』
(えっ?今、“ぎくっ”て口で言った?)
あまりにも詳細を喋らないので、一旦冷静になったテスカトーレはベルフェゴーレにちょっと思い付いた事を言った。その内容が中々核心をついたものだったのも驚きだが、それ以上に“ぎくっ”と口で言うベルフェゴーレにシャルは驚いた。
「……魔王様?」
「…………。」
「なんでそっぽを向くんです……まさか!?私の予想が当たったんですか!?」
「ど、どうだろうなぁ?」
「……クレハさん?」
「あ、はい、そうです。」
「「ええ!?」」
魔王が動揺しながらシラを切ろうとしたので、シャルに問い掛けるとあっさりと認めた。
「え?ちょっとクレハ君?」
ベルフェゴーレはかなり動揺した様子でシャルを見た。
「おじ様、私達二人で隠し通すのは凄く大変だと思うんです。ここは味方を増やした方が。」
「なるほど!」
よくよく考えたら、二人で多くのベルフェゴーレの身内や知り合い相手に設定を貫き通すのは難しく思えた。しかも、謎の姪が現れた時の反応を見る限りではかなりおどろかれるので、城に向かったら騒ぎになる。なので、テスカトーレを味方にして情報が漏れない様にし、バレる確率を下げようという考えである。ちなみにここでシャルの頭からは設定を一から考え直す事は完全に抜けていた。
〜十分後〜
「あの噂の……シャル様ですか?」
「そうあの噂のシャル君だ。」
「その言い方、ちょっとだけ悪意がないですか?」
テスカトーレは、ベルフェゴーレの話を聞いて静かに驚愕した。自身の噂が事実はあれど色々余計なオプションがついているのはベルフェゴーレから聞いていたので、テスカトーレの反応をみてちょっと拗ねるシャル。
「そうですか……そうですかぁ。」
「そうなんだよ。」
テスカトーレはゆっくりと、シャルがここに居る事実を認識する為に言葉を繰り返した。ベルフェゴーレは納得してくれたと思っていたのだが、
「……な……」
「な?」
「なんて事をしているんですか!?ガングリフォン様にバレたら我々は文字通り灰になりますよ!?」
「あ、うん、そうだよねー。」
やはり納得はされなかった様だ。ガングリフォンの人物像が更に悪い方にいっているが、二人の反応を見る限り、かなり恐ろしい魔族の様だ。
「しかも封印が解けかけているとか、重要な情報を共有せず単独行動とか何を考えているのですか!?やっている事はかなり効率が悪いですし!」
「ごめん。焦っていたんだ。」
「それで済む事ではないでしょう!?更に、ただ知らずに来た者とは違って、完全にこちらの事情を察したシャル様がいらしている!ガングリフォン様が一番大陸に来て欲しくないと言っていた。薔薇の集いの一員になったシャル様が!!」
「申し訳ありませんでした。」
テスカトーレは怒りと呆れと、恐怖という様々な感情を表情に出しながらベルフェゴーレに向かって叫んだ。
「……はぁ……とはいえ、もうここまで来てしまったからには、なんとしてもガングリフォン様にばれるのを防がなければ。」
「おお!という事は?」
色々と思う所はあるが、この状況をどうにかするしかないと、テスカトーレはひとしきり叫んだ後、冷静になった。そしてテスカトーレの発した言葉にベルフェゴーレが嬉しそうな表情をすると、
「現状、シャル様がいて下さると心強いですからね。噂通りの実力なら、この状況を打破出来るかもしれませんから。」
「よし!そうと決まったら……」
「た・だ・し!全ての事が収まったら、魔王様?お覚悟を。実は私が代わりにやっていた仕事も全て魔王に投げますから。」
「ま、待ってくれ!?それは困る!」
「ふふふ?おや?じゃあ私は暫く休暇を頂きますね?リース大陸にちょっと半年ほど……」
「分かった!やります!やらせて頂きます!!」
(凄いわ、魔王としての威厳も何もない光景ね。)
とても辛辣な事を考えつつ、テスカトーレとベルフェゴーレのやり取りを傍観するシャル。とりあえずテスカトーレが味方になってくれた。
「さて、まずはガングリフォン様に関してですが、基本封印の地からは離れないので、使い魔などに注意すれば、ばれる心配はありません。問題は、魔王様の奥方様のヴィーネリア様、ご子息であるルードリック様、そして姪のアルメリア様をどう納得させるかです。」
「ダルディン、デリドラ、ミルフィオーネはどうするんだ?」
「あの三人なら何とかなるでしょう、多少混乱は起きますが、面白い事好きですからね。」
「それはそれで心配だが……」
テスカトーレが何とかなると言ったのは、テスカトーレ以外の四魔公の魔族達である。詳しい話を聞いて、その特徴を聞いた。
━━まず、“テスカトーレ・T・ジョーム”。
今回協力してくれる四魔公の一人で、魔王であるベルフェゴーレの右腕。羊の魔族で世間からは智将と呼ばれ、その頭の良さ、判断力、仕事を処理する能力にいつもベルフェゴーレは助けられている。
━━次に、“ダルディン・R・サタニア”。
ジジンが部下になる予定の魔族。獅子と鬼の特徴を持つ魔族で、魔大陸では、ガングリフォンを除き、力だけなら一番である。性格は、豪傑。ちなみに話を聞いて分かったが、竜の尻尾のエルの父親である。
━━次に、“デリドラ・G・ドゥーラ”。
魔竜と呼ばれる。魔族特有の力を持った竜族である。竜の住む地であるネオ大陸出身で、気性は大人しく魔大陸の環境が過ごしやすいからという理由で魔大陸にやって来たらしい。元々力はあったので、ベルフェゴーレの下につく事で安定した生活をしている。
━━最後に“ミルフィオーネ・F・ラブリー”。
種族はサキュバス。三児の母。強力な魅了の力を有しているが夫を一番愛しており、本当に浮気をする事はないのだが、各方面に色気を振りまいているので勘違いしている魔族もいる。その度に夫が苦労するのだが……
ちなみに竜の尻尾のベリーの母親である。
以上が強大な力と権力を持つ四魔公のメンバーである。
(お土産、どうやって渡そうかしら?)
四魔公の話を聞いて、まずお土産の話が頭をよぎるシャルはちょっとどうかと思うが、シャルとしてではなく、ベルフェゴーレの姪クレハとしてお土産を渡すので、渡す理由を考えるシャル。
「おじ様の……えっと、魔王様のご家族は……」
「シャル君。出来ればおじ様のままで頼む。」
「え?えっと、分かりました。おじ様のご家族と姪のアルメリアさん?はどんな方なんでしょうか?」
「ええ、あの御三方はですね。」
次に聞いたのが、ベルフェゴーレの妻、子息、そして姪の話である。
━━魔王ベルフェゴーレの妻“ヴィーネリア”。
金髪の美しい鳥の特徴を持つ魔族らしい。比較的優しい性格だが、一度怒るとかなり怖いらしい。彼女にだけは真実を明かした方が良いとの事。
━━魔王ベルフェゴーレの子息“ルードリック”
真面目ではあるが変にプライドが高い。常に父親であるベルフェゴーレに対抗しようとしている為、手を焼いているらしい。姪の話を聞けば突っかかってくるのは間違いないらしい。
━━最後に、ベルフェゴーレの本当の姪、“アルメリア・V・ナイツ”。
何かとベルフェゴーレに直接悪口を言いに来る娘らしい。気性は荒いというか気に入らない相手によく突っかかる。おそらく姪の話を聞いたら一番騒ぐであろう人物である。
「簡単に説明致しますと、今言った三名は要注意です。特に魔王様の奥方様には真実を打ち明けないと、主に魔王様に被害が。」
「なるほど。」
「ま、まぁ、今ヴィーネは旅行中だから、すぐにどうにかなる事はないぞ。」
「そんなに奥方様が怖いんですか?」
ヴィーネの話をする時、もの凄く震えていたので相当怖い事は分かるが、おそらく普段仕事をサボるなどしているから怒られるのでは?と、シャルはちょっと思っていた。
「さて、今言った事を踏まえて、王都に着くまで作戦会議といきましょう。」
「ああ。」
「はい。」
とりあえず三名は、王都に着くまでに姪と偽りつつ、どう切り抜けるか、考え始めた。
◆◆◆◆
「ここが王都ですか。」
「はい、王都“イレスト”です。」
シャル達は王都“イレスト”に到着した。重厚な造りの建物が並び、魔力で浮いている建物もあった。魔法都市と呼ぶのが相応しい程魔力が込められた物が溢れかえっていた。
「さて、クレハさん。貴方が“隠者のシャル”である事を隠しつつ滞在する。その為に先程打ち合わせした事を守って下さい。」
「はい。」
シャル達三人は入念な打ち合わせをした。本当はここで別の理由を作れば簡単に滞在出来そうなのだが、彼女達の頭の中にはいかに姪の設定を成立させるかという考えしか無かった。
「第一、貴方は訳ありの姪。実は姪というのは嘘で魔王様の妹に当たる存在。今まで他の大陸で暮らしておりその存在を知る者は極少数。というのを前提として行動して頂きます。」
「はい。」
余計にややこしい設定になっている気がするが、他の親族への影響を考えた結果である。これならもしバレても誰かの隠し子だという騒動は収まるはず。
ベルフェゴーレの両親は既に亡くなっており、妹がいたとしてもその存在を知る者はごく少数になるからである。
「第二、訳あって素顔を隠している様ですがそれも利用します。顔さえ見えなければ魔族じゃないとバレる心配も無いですし。」
「はい。」
シャルが素顔を隠しているのは、アーランド王国の人間にバレない為だが、シャルの種族は“ヒューマン”。もし仮に顔を見られたとしても、一発で魔族でない事はバレてしまう。シャル自身も素顔を見せる気は全くないので素顔は隠し通すつもりだ。
「第三、もし手合わせを所望されたら上手く誤魔化しながら戦って下さい。噂を知る者ならすぐに分かってもおかしくはないですから。」
「戦わないという選択肢はないんですよね?」
「正直、アルメリア様とルードリック様、そしてダルディン。この三名はダルディンを除き止められません。」
「……分かりました。」
大抵の事は実力で解決する二名と、単に力試しが好きなダルディンの一名。この三名から手合わせを要求されるのはほぼ確実だという。
「第四、王都から出ない事。ガングリフォン様の使い魔は各方面に滞在しています。もし、情報にない人物がいたら即座に報告が行く事になっています。王都から出なければ一応我々がいるので誤魔化せます。」
「ここに来た時に既に情報がいっている可能性はありますか?」
「間違いなく情報はいっています。ただシャル様は魔族か判断がつかない格好をしているので、一度確認の為に使い魔が来る筈です。魔王様の話だとまだ使い魔は来ていないので、まだ誤魔化しは効きます。」
「分かりました。」
ガングリフォンは警戒心が強いという。常に使い魔を使って情報を集めているので、油断は出来ない。
(下手したら、もうバレててもおかしくはないわね。)
シャルの目的は、封印の強化とイビル・ナイトメアを滅する事。ガングリフォンとは遅かれ早かれ会う事になるので、彼の動向は気になっていた。
「最後に、ヴィーネリア様には真実を打ち明けます。凄く感が鋭いので、今は王都にはいないですが、会えば確実にバレます。」
「そういう能力を持っているんですか?」
「いえ……いや、もしかしたら持っているかもしれないですが、本人の口から直接聞いた訳ではないので、とにかくその時に対応します。」
「分かりました。」
作戦会議は完了した。あとは上手く滞在するだけだ。
〜王都イレスト 城下街〜
『魔王様の馬車だ!』
『魔王様〜!』
王都イレストを馬車で移動中、馬車の外からベルフェゴーレを呼ぶ声が各方面から聞こえた。ベルフェゴーレは窓から顔を出すと軽く手を挙げて住民に答えた。
「こうしてみると、おじ様って偉い人なんだなと思いますね。」
「えっ?それ普段は偉く見えないって事?」
「親しみやすいって事ですよ。」
最初にあった時の威厳のある態度から、かなりかけ離れた様子を見てきたので、王としての対応を見てそう言えば偉い人だったなと思うシャル。
「住民に対して威厳のある態度はとっていますが、城ではいかに書類仕事から逃げるか考えたり、すぐ何処かに出掛けようとしますけどね?」
「……おじ様?」
「ごっ、ごほん!……内密に頼む。」
テスカトーレの言葉に、咳をする素振りを見せて小声でシャルに伝える。先程の威厳のある態度が嘘の様だ。
「テスカトーレさん。このまま城に向かいますか?」
「ええ、少なくともダルディン、デリドラ、ミルフィオーネには先に会わせておいた方が良いでしょう。場を引っ掻き回されたら困りますからね。」
面白い事には首を突っ込むのが当たり前の三人らしく、先に会わせておいた方が後々面倒がないそうだ。
「あ、ならダルディンさんとミルフィオーネさんにはお土産を持ってきているんです。」
「お土産?」
「はい、エルさんとベリーさんから渡しておいて欲しいと頼まれましたから。」
シャルはそう言うと、エルとベリーから受け取ったお土産を取り出した。会いに行くのなら好都合だ。
「もしや……“エルロイン”君と“ベリディーネ”君ですか?」
「誰ですか?」
聞いた事のない名前に思わずそう答えてしまった。
シャルの言葉を聞いたテスカトーレは、その二人の名前に聞き覚えがあって聞いてきたが、あまりにも即答されたので動揺した。ただ即座に持ち直すと、質問をした。
「そのお二人はどんな方なんでしょう?」
「えっと、二人は竜の尻尾の従業員です。」
「なら、そのお二人で間違いないですね。」
「あっ、もしかして本名ですか?」
「ええ、そうですよ。お二人が向こうで働いているのは聞いていますから。」
シャルの返答にテスカトーレは確信した。テスカトーレの自身たっぷりの言葉にもしかしてと聞いてみたが、やはりエルとベリーの本名の様だ
「しかし、お土産ですか……お二人とは仲が宜しいので?」
「はい、酒場で一度一緒に働いた時からちょくちょくお二人に声を掛けられる様になりまして。」
「な、なるほど。」
「竜の尻尾は酒場なんですよね?」
「はい……あ、でも戦闘能力で言うなら。薔薇の集いの次ぐらいに強いかもしれないですね。」
「え、なにそれ怖い。」
「さ、さすがドラグニア王国。」
シャルは少し顎に手を当てながら答え、その返答に軽く恐怖するベルフェゴーレと動揺するテスカトーレ。酒場のメンバーの強さは何となくわかっていたので、純粋に考えると、その可能性は高かった。
「まぁ、むしろ安心出来るな。」
「ええ、ダルディンもミルフィオーネも上手くやっていけるか心配していましたからね。それだけ手練れがいる所なら心配はいらないでしょう。」
三人が会話している間にも馬車は城に向かって進んでいく、城に近付いていくにつれて重厚な造りの外壁が見え始めた。侵入者を拒むその構造は、
「まるで要塞ですね。」
「ああ、元々前魔王“ガングリフォン”様がいた時代に建てられたものだからね。戦争があった時代だからその名残でね。」
「今ではただの観光名所になっていますよ。」
「なるほど。」
かつて争いが頻発していた時代に建てられたものだからこその造りであった。今の時代は戦争の無い平和な時代でこの要塞の様な造りは不要だが、魔大陸の技術を結集した建造物である為、今では観光名所として有効利用されている。
「さぁ、そろそろ城に……あれ?あいつら何で城の外で待ってるんだ?」
ベルフェゴーレの言葉を聞き、窓の外から城の入口を見るシャルとテスカトーレ。そこには三名の魔族が城の前で待ち構えていた。
「お前達、どうして城の前で待っていたんだ?」
「貴方達には、魔王様の代わりに書類仕事を頼んだ筈ですが?」
城の前で馬車を止め、馬車から降りたベルフェゴーレとテスカトーレ。シャルは馬車の中で待機する事になった。こっそりと外から様子を伺った。
「い、いやぁ?魔王様がこちらに向かっていると聞いて、出迎えようと思ってなぁ?」
物凄く分かりやすい反応で誤魔化している魔族の大男、おそらく彼がダルディンだろう。ダルディンは思っていたよりも体格が大きく、成人男性二人分の大きさだった。しかもその体積はほぼ筋肉。
「あ、ああ、けっして書類仕事が嫌だった訳ではないぞ。」
同じく分かりやすい反応で誤魔化している竜。デリドラは竜族らしくその大きさは一軒家を越えていた。城の大きさとその城門前は広いスペースを考えると窮屈はしてなさそうだ。
「二人とも嘘が下手ねぇ。」
「「ちょっ!ミルフィオーネ!?」」
そしてミルフィオーネは妖艶だった。上手く言葉で表現しづらいが、フェロモンが歩いている様な女性だった。とにかく色んな男性を虜にしそうな見た目だった。
「……まぁ、良いでしょう。元はと言えば魔王様が悪いですからね。」
「「「そうだな(よね)。」」」
「うっ!……すまない。」
息ぴったりに答える三人。ベルフェゴーレも自分に非がある事は分かっているので、反論は出来なかった。
「じゃあ、俺達はまた本来の仕事に戻るぜ?」
「さらばだ。」
「じゃあねぇ〜。」
そしてすぐに解散しようとしたが、
「お待ちなさい。重要な話があります。」
「「「え?」」」
テスカトーレに呼び止められ、立ち止まる三人。
「おいおい、一体なんだって言うんだ?」
「我らに話さねばならないとは……相当重要な話か。」
「何?」
思ったよりも真剣な表情だったので、下手に茶化さずに聞き返した。
「まぁ、ここでは話せないな。」
「ええ、会議室に行きますよ。」
ベルフェゴーレ達は城の中にある作戦会議室に向かった。
「……おい、こいつは誰だ?」
「自己紹介は後でしてもらいます。」
「……厄介な事が起きていそうだな。」
「……本当にね。」
黒いフード付きローブを着た謎の人物と共に。