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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
上陸、魔大陸!魔王と四魔公
102/111

上陸、魔大陸!魔王と四魔公 6

 ◆◆◆◆



 〜とある商会〜



「ひっひっひ、ズーザン様。お土産で御座います。」

「ふっふっふ、お主も悪よのう。」



 ズーザンと呼ばれた魔族の男は、もう一人の魔族から受け取った金貨の入った袋を見ながら言った。彼らが持っている金貨は悪どい商売をして儲けた金貨、違法な額を取り立て、私腹を肥やしてた。



 コンコン、



「ん?入れ。」



 ガチャッ、



「し、失礼致します。」



 そこに荒くれ魔族が入って来た。彼はかなり緊張した様子でズーザン達の前にやって来た。



「“ジジン”か、首尾はどうだ?」

「そ、それが、今回もこれだけしか……」



 そう言ってジジンは小さな金貨の袋を取り出した。



「ふん!キラードは日に日に渡す金額が少なくなっていくな……デギードは見放したか、そろそろ潮時だな。」



 ズーザンは小さく呟くと、



「あの娘はどうなっている?正直、あんな小娘がどうなろうとも知らないが、キラードが匿っているのは知っている。あの男に利用価値が無くなれば、こちらが連れて行く手筈だが?」

「そ、それが……」



 ジジンは動揺しながらも今日起きた事を伝えた。キラードを訪ねて来た二人の謎の冒険者。



「ちっ、デギードめ。裏で何かやっているかと思えば、息子の為に動いていたか。」

「どうしますか?我々の所まで来られると厄介ですよ?」



 もう一人の魔族も焦った様子でズーザンに聞いて来た。



「そうだな……ああ、そうだジジン。」

「は、はい!」



 ジジンは緊張した様子で答えた。



「お前があの娘を匿っていたのは知っている。今まで見逃して来たのは金を持って来たからだ。あの娘は面識が無い様だが、姪だったのだろう?」

「…………え?」



 予想外の言葉に固まるジジン。ズーザンは悪い笑みを浮かべると、ジジンに語りかけた。



「ふっふっふ、あの屑な親から生まれとは思えないほど真面目な小娘を匿うとは、叔父としては立派だったな。知っているぞ?あの娘から巻き上げた金はお前が保管して、お前自身が稼いだ金を持って来ていたのも……まぁ、キラードが金を持って来てからは、そのまま渡していた様だがなぁ。」

「……くっ、何故それを。」



 ジジンはかなり動揺した様子で後ずりした。ズーザンはその様子を見た後、無慈悲な言葉を放った。



「今まで貯めた金を全て持って来い。そして、デギードの雇った冒険者二人を始末しろ。まぁ、まともにやりあっても負けるだけだからな。毒は用意してやろう。二人を殺したらお前も死ね。それでしばらくは俺達も大人しく過ごせるだろう。抵抗するなよ?お前の身辺調査は済んでいる。お前が逃げても周りに被害がいくだけだ。」

「ひっひっひ、それはいい考えですなぁ。」

「こ、この外道が!」



 悪い笑みを浮かべながら笑う二人に向かって叫ぶジジン。もう彼には逃げ場は無かった。



「さぁ、さっさと準備を……」



 バーン!



「な、なんだ!?」

「い、一階から聞こえた様ですが……」

「一体、誰が?」



 その時、凄まじい音と共に建物が揺れた。あまりの衝撃に驚く三人。



 バタバタバタッ!



「た、大変です!襲撃です!」

「何!?一体どこの連中だ!?」



 誰かが走って来る音が聞こえて来たかと思うと、商会に所属している魔族の一人が部屋に入り込んできた。慌てて現状を伝え、ズーザンはその内容を聞いて問いただした。



「一人はガタイの良い屈強な男と、もう一人は全身黒のフード付きローブで隠れた妙な奴です!おそらく、冒険者かと……」

「くそッ!もうここまで乗り込んで来たのか!?」


(どうして勢いよく乗り込んだのかしら?)



 交渉をするのではないのか?と、疑問に思いながらも、我が物顔でどんどん商会に入って行くベルフェゴーレについて行くシャル。



「さて、ズーザンはどこに居る?詳しく話を聞きたいんだが?」

「な、なんなんだあんたらは!?」



(まともに会話するのは無理そうね。気配から察するに……上の階ね。偏見かもしれないけど、だいだい偉い人って上層にいる気がするわ。)



 とりあえず該当する人物の気配を探したシャル。それっぽい気配を感じたので、ベルフェゴーレに伝える事にした。



「おじ様?上の階にいるみたいですよ?」

「な、何故それを!?」

「そうか、よし!行くぞ!」

「ちょ!?あんた勝手に入って行くなよ!?」



 バーン!



 シャルの言葉を聞いたベルフェゴーレは勢いよく扉を開いて奥に進んで行った。



(こんな大きな音を立てたら、襲撃に来たと勘違いされそうね。)



 まさしくそうなのだが、まだ交渉出来る余地があると思い込んでいるシャルは、ベルフェゴーレについて行く。途中絡んでくる商会の魔族をベルフェゴーレは無視してどんどん進み、シャルはとりあえず会釈をしてベルフェゴーレの後ろを歩いた。二人はあっという間に商会の責任者がいる階層に辿り着いた。



「おじ様、あの扉の向こうみたいですよ?」

「よし、交渉しよう。」

「はい。」



 二人が扉に近付こうとした所で、



「おっと、待ちな!」

「ここはズーザン様の部屋だ。通す訳にはいかないなぁ。」



 扉の近くにいた二人組みの男が、シャル達の前に立ちはだかった。



「お前達は?」

「ズーザン様に雇われている護衛さ。」

「知らないな。」

「ま、まて!?こっち来んなよ!話聞けよ!?」

「ええ?」

「ええ?……じゃねぇよ!!」



 二人組みの護衛の男がベルフェゴーレの質問に答えたが、あまり興味が湧かなかったのか、そのまま扉に近付こうとしたベルフェゴーレ。予想外の行動に男二人は慌てて叫んだ。



「お前ら襲撃!俺ら護衛!分かる!?通さねぇから!」

「襲撃?……いや、交渉しに来ただけだぞ?」

「嘘だろ!?どう見たって襲撃だろ!?何で勢いよくここまで来てんだよ!?」

「いや、こうした方がカッコ良いかなって?」

「どこが!?」



 実はベルフェゴーレ。シャルにおじ様としてカッコ良い所を見せようと、勢いよく行動していた様だ。



(カッコ……良いの?)



 シャルには伝わっていなかった様だが。



「まぁ、とにかく合わせてくれないか?」

「駄目に決まってるだろ!」

「ズーザンが、違法に金品の取り立てをしててもか?」

「……なんの事だ?」



『ふん、ここまでノコノコと来るとは、計画性の無い冒険者はこれだから嫌なんですよ。』



 ギギィ〜、



 突然、声が聞こえたかと思うと、扉がゆっくりと開かれた。



「全く、いきなり襲撃してくるとは。随分と礼儀がなっていないですね。」

「ズーザンか。それと、さっきの奴も。」

「…………。」



 奥の部屋では豪華な椅子に腰掛けたズーザンとジジンそしてもう一人魔族が居た。



「私は貴方の事を知りませんが、貴方は知っているみたいですね。」

「まあな。」



 ズーザンの問いに答えるベルフェゴーレ。



「交渉しに来た。」

「それは扉の向こうにいても聞こえました。初めてですよ、押し掛けて来た者は。」



 怒りの表情をベルフェゴーレに向けながらも、ズーザンは話を続ける。



「それで?交渉とは?」

「ルノーという娘に莫大な借金を背負わせたとか。親がつくった借金らしいが、子に背負わせるのはどうなんだ?その額は本当に正当なものなのか?」

「ふん、そんな事ですか……」



 ズーザンは鼻で笑うと、



「小娘に借金を背負わせたのはあの者達ですよ?私はただ貸した分を返してもらっているに過ぎません。あの二人が死んで返す当てがないのなら、返す当てのある子に背負わせるのは当然の事。額もあの者達が使って来た額を請求しているだけです。」

「……なるほどな。」



(言ってる事に嘘は無いみたい。でも……)



 ズーザンの言っている事に嘘は無い様だ。だが、一つ気になる事はある。



「少し、良いかしら?」

「へぇ?!な、なんでしょう、お嬢さん?」



 シャルの声に驚きつつも、尋ねるズーザン。



「ルノーさんのご両親は、豪遊をする人だという事は聞いています。でも、お金を借りるにしても貸すにしても、聞いた額はかなり多かったです。普通の所だったら、ある程度の額で貸すのを止めていた筈ですよね?」

「たまたまですよ。」

「へぇ、そうですか……」



 ズーザンの表情が若干変化したのを見た後、シャルは自分の考察を話始めた。



「推測ですが、ルノーさんのご両親は豪遊していて、それが原因で平民に落ちた。もしかしたらそこでお金が無ければ心を入れ替えていたかもしれない。でもその後も豪遊をしていた。何故か?それは、お金を借りる所があったから。」

「……何が言いたいんです?」



 首を傾げるズーザンにシャルは、話を続ける。



「いえ、ルノーさんのご両親がお金を借りに来たのではなく、貴方の所の商会がお金を貸しに来たんじゃないかなって思ったんですよ。」

「そうする理由は?そんな無駄な事はしませんよ。」

「デギード・L(エル)・ウルフェンさん。」

「……何故そこでデギードさんの名前を?」



 突然シャルがデギードの名前を出して一瞬動揺したズーザン。



「あくまで推測ですよ?デギードさんはきっと貴族の中でもお金持ちなのでしょう。そして息子のキラードさんはルノーさんに想いを寄せていた。それを知った貴方の所の商会はルノーさんの身辺を調べて、丁度ご両親が豪遊をする家庭である事を知った。そして、平民に落ちていた事も。」

「な、何が言いたいんですか?」

「いえ、ルノーさんとご両親を陥れてキラードさんをおびき寄せる。そして、デギードさんの所から金品を手に入れようとしていたのでは?と思っただけです。」



 シャルは疑問に思った事を素直に伝えた。あくまで推測だが、気になった事だったので。



「そ、そ、そんな事がある訳ないだろ!?何を言っているんだ!?」



(あれ?もしかして当たってたの?当てずっぽうだったのに。)



  ズーザンが物凄く動揺した所を見てちょっとびっくりしたシャル。まさか、当たるとは思わなかった。


「ええい!こうなったら仕方がない!!皆の者!この二人を仕留めるのだ!!」


「「「「「はっ!!」」」」」



 ズーザンの掛け声と共に、天井や床、壁から黒装束の者達が出てきた。



「うん?気配を微かに感じていたがこんなにいたのか?」

「はい、彼を守っていたみたいですね。」



 当然シャルは気付いていたが、ベルフェゴーレは予想よりも多い護衛に驚いていた。



「行け!!」

「よし!俺らも行くぞ!!」

「おう!!」



 そして、黒装束の者達と先程扉前にいた護衛が一斉に襲い掛かってきた。



「クレハ、ここは私が……」


(流の型……扇流せんりゅう!)



 スッ、



「はぁっ!」



「「「「「うわぁぁ〜!?」」」」」



 ダァーン!!



 シャルは襲い掛かって来た全員の攻撃を軽くいなすと、受け流した力を利用して地面に叩きつけた。



「……引き受けようと思っていたんだが。」

「あ、おじ様ごめんなさい。つい反応してしまって。」

「い、いや、気にしなくていい……実力は噂でしか聞いていなかったが、相当強いんだな。」



 シャルが強い事は噂で聞いていたが、実際にその力の一部を見てかなり驚いたベルフェゴーレ。



「ば、馬鹿な!?うちの精鋭だぞ!?そんな!?」

「大人しく観念しろ。お前に後は無い。」



 予想外の事態に困惑するズーザン、もう打つ手は無いかと思っていたが、



「一体どうすれば……そ、そうだジジン!!」

「え……な、何をする!?」



 ズーザンはナイフを持つと、突然ジジンを羽交い絞めにし、シャル達に向かいあった。



「お前もジジンを抑えろ!」

「は、はい!!」



 そして一緒にいた魔族の男も、ジジンを抑えつけるのに加わった。



「一体何のつもりだ?」

「こ、この男がどうなっても良いのか?こいつはルノーの叔父だぞ!?」

「何だって?」

「ルノーさんの?」



 目の前で羽交い締めにされている男がルノーの叔父と聞いて驚く二人、



「こ、こいつはなぁ!ジジンはなぁ!ルノーを守る為に金を稼ぎ俺に貢いだ!そしてルノーを守る為にキラードを嵌めて金品を奪うのにも協力した男だ!」

「そうか、あんたが……」

「ルノーさんを守っていたんですね。」



 状況を察してジジンを見る二人。ジジンは、二人の言葉を聞いて首を横に振った。



「いや、俺は結局守り通せ無かった。 あの子の両親は金に溺れた最低な奴らだ。だが、ルノーにとっては唯一の肉親。俺もまともな生活はしてこなかったが、あの二人はルノーの為に不器用ながらも愛情を注いでいた。俺は最初は姪と知っていながらも、只の取り立て屋として接していた。でもな、俺は真面目に働くルノーを見て心打たれたんだ。姪を守らなくちゃ叔父として情けなく思えてなぁ。」

「……ジジン。」

「ジジンさん。」



 ジジンは覚悟を決めた表情をすると、シャルとベルフェゴーレを見た。



「俺はどうなっても良い!キラードの坊っちゃんに伝えといてくれ!ルノーを幸せにしてくれと!!」

「な、あ、暴れるな!本当に刺すぞ!!」



 ジジンは刺される覚悟で抵抗を始めた。



「まずい!だが、抑えられたままでは ……」

「任せて下さい!」



 ダッ!



(掌の型……掌弾ていだん!!)



 ドドッ!バーン!



「ぬわぁ!?」

「う、うわぁ!?」

「今!!」



 シャルは掌を高速で打ち出し、小さな衝撃波をズーザンともう一人の魔族に当てた。二人はそのまま壁に激突した。



「もう大丈夫ですよ。」

「あ、ありがとう。」

「流石だな。」



 ジジンは驚きながらもお礼を言い、ベルフェゴーレもシャルの手腕に感心した。



「く、くそぉ……お前らなんか俺の財力で社会的に潰してやるぅ。」

「それは無理だな。」

「……な、なんだと?」



 まだ諦めないズーザンにベルフェゴーレは冷たく言い放つ。



「お前はもう終わりだ。ズーザン。」

「な、何を……下級貴族の冒険者風情が!!」



 ズーザンは強がるが、彼はもう詰んでいた。



「あ、おじ様。」

「うん?どうしたクレハ?」

「私、一度で良いから言ってみたい台詞があったんです。」

「え?台詞?え?」

「えっとですね……」



 突然のシャルの発言に驚くベルフェゴーレだったが、シャルが耳打ちすると、嬉々とした表情を浮かべ。



「おお!それは良い!頼む!」

「はい!」

「「「???」」」



 二人は態勢を整えると、



「ひ、控えおろう!このお方をどなたと心得る!……あ、思ったよりも恥ずかしい。」

「クレハ?」

「はい、言い出しっぺなのでちゃんとやります!」

「「「????」」」



 シャルが照れてしまったのでテイク2。



「控えおろう!このお方をどなたと心得る!魔大陸を治める偉大なる魔王!ベルフェゴーレ・Fフル・カース様であらせられるぞ!!」



 フッ、



「「「「「なななな!?」」」」」



 シャルの時代劇風の台詞と共に変装を解くベルフェゴーレ。この場に魔王がいる衝撃にズーザン、ジジンのみならず先程気絶されられた魔族達までもが起き上がり驚いた。



「魔王様の御前である。頭が高い!控えおろう!」


「「「「「ははぁ〜〜!!」」」」」



 そしてこの場にいるシャル以外全員が魔王ベルフェゴーレに土下座スタイルで頭を下げた。



 〜数時間後〜



「奴らが今後悪さをしない様に、しっかりと教育しておく。」

「べ、ベルフェゴーレ様。ありがとうございます。」

「まさか魔王様とは知らず。失礼致しました。」

「気にするな、元々お忍びで来ていたからな。」



 悪者を懲らしめた後、ベルフェゴーレはキラードとルノーにお礼を言われた。まさか魔王様だとは知らずに接していたので、正体を知った後は一歩引いた距離から恐る恐るといった感じで話し掛けていた。



「ジジン。」

「は、はい!」

「お前のしてきた事は許せるのもあるが、きちんと償わなければいけない事もある。」

「……はい。」



 今回の一件で唯一、ジジンだけが他の者達とは違い連行されなかった。姪であるルノーを守る為に取った行動は少なからず評価されたからだ。しかし、許せる範囲の行いもあるが、しっかりと償わなければいけない行いもある。ジジンは覚悟を決めた表情でベルフェゴーレを見る。



「私の城に来てもらう。お前の性格なら“ダルディン”の部下になるのが一番良いだろう。そこで、国の為に働いてもらう。」

「よ、四魔公“ダルディン”様の元で働かせてもらえるのですか!?」

「ああ、給料も今までより出る。問題はなかろう。」

「あ、ありがとうございます!」



 四魔公の一人“ダルディン”がどんな魔族なのかは知らないが、ジジンの反応を見る限り問題さそうだ。



「ジジン……おじ様?でいいのでしょうか?」

「……ルノー。」



 ルノーがジジンに話し掛けた。今回の一件で自分の叔父である事が分かり、そして自分を守ってくれていた事を聞き、気にはなっていた。



「すまないな、ルノー。お前が本当に困っている時に手を差し伸べる事が出来なかった。あいつの所で働いていたからな、本当に迷惑を掛けた。」

「気にしないで下さいジジンおじ様。私を守って下さったのでしょう?それだけ充分です。」

「……ルノー。」



 ルノーのその一言で、ジジンは救われた気がした。



「キラード、すまなかったな。」

「……ジジン。」



 ジジンはキラードにも謝った。



「俺の方こそすまなかった。俺の行動も褒められたものでも、正しくも無かった。お互い不器用だったのかもしれない。」

「キラード……そうだな、言われてみればそうかもしれないな。」



 キラードとジジンは、互いに自らの行動を反省した。



「キラード、ルノーを……姪を頼む。」

「ああ、必ず幸せにする。」



 そう答えたキラードの表情は凛々しかった。



「一件落着ですか?」



 シャルはベルフェゴーレにそう尋ねた。



「ああ、キラードもこれから各方面に謝罪をしに行く事にはなるが、皆の話を聞く限りでは穏便に済みそうだからな。」

「良かったですね。」

「そうだな。」



 二人は事件が解決して安心した。



「ふっ、私も魔王としてより一層精進しなければ……」



 そう言って、格好良く決めようとしたその時、



 ガシッ!



「ほう?それはそれは素晴らしい心意気ですね?」

「……テ、“テスカトーレ”!?」

「捕まえましたよ?ま・お・う・さ・ま!!」



 突然肩を掴まれたベルフェゴーレが、掴んでいる手の先を見ると、そこにはテスカトーレと呼ばれた一人の魔族がこめかみをピクピクさせていた。



「ど、どうしてここが!?」

「これだけ騒ぎを起こせば、見つける事など容易いですよ!また書類仕事をサボってこの街に遊びに来ているなんて!もう少し魔王としての自覚を持ちなさい!」



 どうやら仕事をサボってここにいる事に対して酷く怒っている様だ。それにしても、



「おじ様?城の方には何も告げずに来たんですか?」

「う、うん。すっかり忘れていたよ。」

「全く!貴方と言う人は…………おじ様?」



 シャルの問い掛けに素直に答えるベルフェゴーレ。対して、テスカトーレは説教を始めようとしたが、突然の美声と聞き逃してはいけないワードを聞いてシャルの方を見た。



「ま、魔王様?こ、こちらの方は?今おじ様・・・……と。」

「うん?うん、そうこの子は…」



 ベルフェゴーレが視線でシャルに訴え掛けると、シャルは一歩前に出て自己紹介を始めた。



「始めましてテスカトーレ様。私の名は“クレハ”。いつもベルフェゴーレおじ様がお世話になっております。」

「……へ?へぇぇぇぇ!?」



 恐らくこの魔大陸で誰もが初めて聞いたであろう。



「魔王様ぁ!?一体何が起きているのですかぁぁぁ!?」



 四魔公が一人“テスカトーレ”の叫び声がこだました。


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