プロローグ
初投稿です。
「・・・ん。」
薄暗い空間の中、一人の女が目覚めた。
「・・・ここは、どこ?・・・私一体・・・。」
辺りを見渡すと、周りには石で出来た壁があり正面には鉄格子があった。
「・・・そっか、私牢屋に入れられたんだ。」
意識がはっきりとし、色々な事が思い出される。自分がアーランド王国第一王女“シャリーゼ・ログ・アーランド”である事、わがまま過ぎる性格で、自らの父であり国王である“ジョセフ・ログ・アーランド”国王の怒りに触れ幽閉された事、そして道場でひたすら木刀を手に自らの流派を極めた乙戯暮葉の・・・
「・・・?」
一瞬、知らない記憶が呼び起こされた。だがかつて自分がそんな名前だった様な・・・
「・・・もしかして前世の記憶?」
転生論、輪廻が存在するとされ死後新たな生を宿し産まれ変わる。断片的に前世の記憶を持つものもいるが本来前世の記憶が蘇る事はない。だが、何かのきっかけで目覚める事もあり、その真理は解明されていない。
「・・・う〜ん。」
正直、いままでシャリーゼとして生きてきたため、前世の記憶があるのには違和感があった。だが今の自分は前世の記憶があるせいか、客観的に自分のことを分析できた。
「今までの私、ひどいわね。」
欲しい物は金と王女としての地位を利用し手に入れ、わがままばかり言い続け、ろくに運動せず精神的にも肉体的にも醜い自分を振り返り、めまいがした。
(もう王女の威厳も何もないわね。なんとかやり直せないかしら?)
王女としての復帰は絶望的、このまま幽閉されて死を迎えるのが関の山、そんな状況をなんとか切り抜けたいとシャリーゼは思った。
(・・・よし、脱獄しよう。)
選択肢は無いようなものだった。王女としての身分を捨て新たな人生を歩もう。それが今の自分にとって最善の選択だった。
(今は武器もろくに扱えそうにないけど、鍛えれば前世の時の腕は取り戻せそうだし、まずはダイエット・・・それから修行ね。)
今の体型では、思うような動きは出来ないことは分かりきっていた。かつて自らの流派を極めた前世の自分、スラリとした動きやすい体型を取り戻すのは、これから過酷な修行をするシャリーゼにとって必須条件だった。
(どうやって抜け出そうかしら?怪我するかもしれないけど、乙戲流体術で鉄格子を吹き飛ばそうかな?)
肉体は覚えてなくても、魂が覚えているのでコツさえあれば今のシャリーゼでもかつての自分が使った技を使用できるが、肉体にかかる負担は大きいため、今使用するにはリスクがあった。
カチャカチャ・・・、
(う〜ん。錠前が外れれば・・・)
バキッ!
「・・・あ。」
とりあえず錠前をなんとか出来ないかといじっていたシャリーゼだったが、元々王族など位の高い人間を入れるために用意された牢屋は、全く使用されず手入れもされていなかった為、老朽化が進み錠前もだいぶ壊れやすくなっていたようで、簡単に壊れてしまった。
(・・・ま、まぁ結果オーライね。)
そんな事ととはつゆ知らず、転生後の自分はちょっと怪力なのかもしれないと、女としてその特性はどうなのか?と複雑な気持ちになるシャリーゼだった。
〜別邸廊下〜
(・・・さてと、抜け出したはいいけど…どうしようかしら?)
今現在シャリーゼがいる場所は、過去に王宮として使用されていた建物だったが、老朽化が進み今では別邸兼牢獄として小さく建て直されていた。王宮から離れた別邸の地下で今着ている服は、ドレスではなく一般的な民が着るような布の服であった。
ここから逃げ出す分には目立つような格好ではなかったが、いまの自分が第一王女であることは周知の事実、このまま外に出れば顔を知られている以上すぐに捕まることは目に見えていた。
(・・・それにしても、監視の騎士が一人もいないなんて警備がザルすぎるわよ。)
日頃の行いでシャリーゼが嫌われていた事と、シャリーゼでは牢屋を抜け出す事は不可能だろうと思った新人の警備の騎士達は、食事を持ってくるなど、最低限のこと以外は牢屋に近寄らず国のために日々鍛錬に勤しんでいた。そのため今は警備の騎士が一人もおらず、牢屋には誰もいなかった。
(ん〜・・・マント的なもの無いかしら?)
そう思いながら移動を始めると、大きな扉の前に辿りついた。アーランド王国の紋章が刻まれた豪華な扉は、さっきまで牢屋があったところとは違う雰囲気を持っていた。
「んん?何かの倉庫かしら?」
そっと扉に触れるシャリーゼ、
ガタン!ギギィ〜!
「うわ!開いた!?」
大きな音をたてゆっくりと開く扉、長い間誰も使用していなかったのかホコリが舞い上がる。
「ゴホ、ゴホ・・・ひどいわね。・・・!?」
少し気分が落ちたシャリーゼだったが、目の前の光景をみてひどく驚いた。
「何これ!?ガラクタばっかりじゃない!!」
扉の先には明らかに壊れていそうな魔導具らしき物が山のように積み重なっていた。
「普段使われてない別邸だからって、放置していいってもんじゃないでしょ・・・これなら牢屋のほうがまだましね。」
ブツブツと文句を言いながら、何か使えそうなものが無いか物色するシャリーゼ。壊れている魔導具があるということは、かろうじて使えるものがあるのではないかと、前世での勿体無い精神が働いていた。
(・・・あら?なんてちょうど良さそうなローブ。)
シャリーゼは壊れた魔導具の中から黒一色のローブを見つけた。首から上を隠すフードも付いており、さらに口元も隠せるアサシン的な者が好みそうなローブである。傷も付いておらず質も良さそうだった。
試しに着てみると、シャリーゼの体格にピタリと合った。
(・・・うん、もしかしてサイズの自動調節機能でも付いているのかしら?まぁ、これなら顔も完全に隠せるから問題ないわね。)
一瞬、今の自分の体格にピタリと合った事が乙女センサーに引っかかったが、魔力を感じたのでそういう便利な機能が付いているのだろうと思い、それ以上は深く考えるのはやめたシャリーゼだった。
(・・・さてと、これなら外に出ても分からないだろうし、何処に行こうかしら?確か隣国に、修行にうってつけの山脈があった気がするけど、そこに向かおうかしら?)
自国にいてはすぐにバレるだろうし、隣国のドラグニア王国に強力な魔物がたくさん出る山脈がある事を思い出し、シャリーゼは別邸を離れた。
◆◆◆◆
・・・その日、一国の王女が姿を消した。
公にはなっていないため、知っているのは王に仕える者達とその家族のみ。
王女の名は“シャリーゼ・ログ・アーランド。醜い姿に醜い性格、民衆に出る事はなかったがその噂は各国に広がっていた。城の者達も父であるジィセフその兄達も、まさかシャリーゼが牢屋を抜け出せるとは思っておらず。姿を消したと聞いた時は、慌てて騎士達に探させた。
しかし、彼女は何処にも見つからなかった。難儀な性格とはいえ一人娘を失ったジィセフは悲しんだ。どこかで性格を直してくれるのではないかと密かな想いを抱き、心を鬼にして愛娘を幽閉したジィセフ。その願いは届かず姿を消した娘。二人の兄も妹はもう戻らない事を悟ると、兄と慕っていた懐かしい思い出に浸った。
幼い頃から知っている騎士達や侍女達も、どこかで性格が直ると期待していた分、余計に悲しみがのしかかった。
・・・アーランド城の人間達は、悲しみに暮れた。
◆◆◆◆
(ここが隣国、ドラグニア王国の山脈ね。)
悠々と顔全体を覆う漆黒のローブをはためかせ、森を見つめるシャリーゼ。
「人里に降りる前に、まずは前世に近い体型と実力を取り戻さなきゃね。いざ!山籠もり山籠もり!」
乙女として明らかにズレているフレーズを言いながら、山の頂きを目指すシャリーゼ。彼女はこれから始まる新たな人生に心を躍らせながら修行を始めるのだった。