我は悪魔になっていたかっこまる
……我は悪魔になっていた。
そう言ったら何人が笑うだろうか。
俺の姿を見たら、きっと誰もが笑うのだろう。
バイ菌みたいなこの俺を。
俺はこんなにも悲しんでいるというのに。
・
・
・
「ふ、ふぇあ、うあ、あうあうあ、あうあうあああぁああ……!」
俺は洗面台に立ち鏡を見ながら、虚しい叫びを上げていた。
「どうして、どうして俺は……」
こんなにも顔が醜いんだ。
「どうして」
どうしてこんなことに……。
「……」
ぷに。
ぷにぷに。
俺は悪魔みたいな顔をいじりながら、この世の終わりのような表情をしていた。
「俺は……」
悪魔……なのか?
何度見ても、どう見ても、悪魔にしか見えない。
「ハゥアッ!」
俺は絶望した。
ガサガサ。
ガサガサガサ。
何やら廊下の奥から音が聞こえるが、今はそれどころではない。
とは思いつつ、やはり気になる。
俺は急いで音のする方へ向かった。
「ちょ、おい!」
音のするリビングへ向かうと、そこではとんでもない光景があった。
スライム共が食料を漁っていたのだ。
「やめろ! やめろ! やめろ!」
精一杯叫ぶが、スライムどもは食うのを止めない。
「おい! やめろって!」
だが、下手に手を出すと吸い付かれ、生気を吸われてしまう。
何も出来ず、俺はただ叫ぶことしか出来ない。
しかもこの状況。
俺は異世界に飛ばされ、この食料まで食い尽くされたら、餓死してしまう。
早くなんとかしなければ。
「ぷるぷるぷる?」
「あ、それは!」
俺がおやつにとって置いたとっておきのチョコレート!
「ぷるう!」
くそ上手そうに食べられた。
「ぷるう!!!」
もっとよこせ、そう言うように俺に襲いかかってきた。
べちょ。
顔に吸い付かれる。
俺は絶句する。
「ああ……もう怒った」
怒りを通り越して、冷静になる。
「ぷる? ぷるうあ!!」
俺はそいつを一匹掴むと、窓から投げ捨てた。
「お前もだ! お前も! 勝手に人の家のものを食うな!」
俺はリビングのそいつらを一匹残らず外の森に投げ捨てた。
生気は吸われるが、食料を食い尽くされるよりマシだ。
「ぷる!」
「ぷるう!」
「ぷるぷるあ!」
「グルルル、グラアアアア!」
外ではマンモスのような動物が腹を空かせて目を血走らせている。
スライムを放り投げると、数体のマンモサー(俺が名付けた)が貪るようにスライムを食し始めた。
「ひっ」
俺は気圧され、驚き咄嗟に窓を閉めた。
この窓は特殊素材で出来ているため、そうそう割られないとは思うが……。
何度も本気で激突されたら溜まったもんじゃない。
俺は興奮させないよう、そっと窓から離れた。
「ふぅ」
ガシャン!!!!!!!!!!
息をついたのもつかの間、今度は2階から大きな落下音がし、急いで2階へと駆け上がった。
「おい!!!!!!!」
2階の自分の部屋には、追い出したはずのスライムがいた。
「ふざけるななんだこれは!!?」
しかも俺のお気に入りのフィギュアが全部溶かされていた。
俺は頭が真っ白になった。
「ふざけんじゃねえ!!!??」
いかりが爆発し、どこから現れたのか5体ほどのスライムを全部窓から投げ出した。
「あああ……お気に入りのキルリちゃんが……」
俺は溶けたキルリちゃんを手に取り、悲しんだ。
「どうして、こうなった……」
声が震え、大粒の涙がぽろぽろとこぼれる。
ジブリ泣きだ。
いや、いくらなんでも、我ながらデカイ粒だ。
ガシャンガシャシャンバシャン!!
「今度は何だ……! 勘弁してくれぇ……」
俺は風呂場に向かった。
「はあ!?」
そこへ行き、俺は絶句する。
そこで見た光景。
それは大量の水、そして増殖を続けるスライムの姿であった。
「う……ッそだろおいいいい!」
俺は慌てて風呂場の水を止るが、スライム共が足に吸い付いてきてまた生気が吸い取られていく。
「ぬ、抜けねぇ」
たす……けて、くれないんだろうなぁ。
ピンチだが誰も助けに来てくれる気配はない。
母さんも、父さんも、俺を見捨てて……。
涙が出そうになるが、ぐっと堪える。
「うらあアアアアアアッ!」
俺は最後の力を振り絞りスライムを振り落とすと、なんとか跳躍し脱出に成功する。
「ハァ、ハァ、ハァ」
くそ。
振り返り扉を閉めると尻餅をつき、風呂場のスライム共を睨め付ける。
「プルプルプルウ」
どうすりゃいいんだよ……。
食料も大分食べられた。風呂場には増殖したスライム。外には血の気の多いマンモサー達。
いよいよ精神的に追い詰められてきた。
俺は泣きそうになる。
死にたくなる。
だがここで死にたくはない。
俺はこれからどうしていけばいいのか、洗面所に座り考えた。
10分、20分後、考えはまとまる。
「当面は、生き延びることが先決だ。なんとか生きて、母さんと父さんが助けに来てくれるのを待つ。それしか方法はない」
そう考え、俺は決意した。
「まずはスライム共だ。こいつらをなんとかしなければ、俺の安住の地は得られない」
自分で言い、頷く。
この風呂場で増殖していたスライムをまずは排除しなければ。
俺が排除の方法を考えていると。
ドガスン!ドガスン!ドガスン!ドガスン!
「うわ」
轟と唸る音が聞こえたかと思えば、家が揺れ始めた。
パラパラ、と天上と内壁の隙間からから粉が落ちる。
「まさか……ッ!」
急いで俺はその根源を探して駆けだした。
予想は的中した。
リビングの窓から外を見ると、そこには窓に頭突きをかますマンモサー共の姿があった。
「くっそお!!」
俺は怒りに震えるが、同時に恐怖に足が竦む。
どうする、どうすればいい。
ピキ、ピキ。
と窓の端からヒビが入り出す。
このままでは窓が粉砕されてしまう。
そう思った俺は、急いで手立てを考えた。
台所から包丁を幾つも取り出すと、それを抱えてベランダに向かう。
2階へと駆けベランダに出た。
「好き勝手しやがって!」
俺は包丁をマンモサー目がけて投擲した。
「うりゃあ!」
「プギィ!!!」
刺さったマンモサーが驚き逃げる。
俺は全てのマンモサー共に包丁を投げ、退散させることに成功した。
「……いったか」
胸がドクンドクンと高鳴り、俺はベランダの縁を背に座り込んだ。
包丁が刺さった感触と、マンモサーどもの痛がる声が耳を離れない。
……しかも、武器となる刃物を易々と全て使ってしまった。
早まった。
この後、また奴らが攻めてきたら、どう戦えばいいというのか。
焦り、判断を誤ったことに、俺は後悔した。
だが、あのままだったら、確実に窓は割られていただろう。
「神よ……我に……どうしろと……」
我は泣いた。
続く。