どうしてこうなったかっこまる
我が家が突然異世界に転移した。
……そう言ったら何人が信じるだろうか。
きっと、誰も信じないだろう。
いや、信じなくてもいい。
それでも俺は、異世界に転移したのだから。
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ピ、ピ、ピ……。
「ううん……」
いつものように目覚ましのアラームを止める。
「っとと……」
ぼんやりした意識に足下がおぼつきながらも、いつもより冷える部屋を後にした。
「うぅ、寒ィ……」
青めのストライプの寝間着を擦りながら、階下へと降りていく。
家の中だというのに、やけに寒い。まだ秋だというのに。
ちなみに俺の名前は高良まもる17歳だ。よろしくな!
「ふぁぁあ、むにゃむにゃ……。おはよ……ってあれ?」
リビングに入ると、そこにいつもいるはずの母さんはいなかった。
もちろん新聞を読んでいるはずの父さんの姿も。
朝のご飯も用意されていない。
俺は不思議に思い、二人の寝る寝室へ向かった。
「……?」
だがいない。
家のどこにも二人の姿は見当たらなかった。
「……」
とりあえず、俺の名前は高良まもるだ。よろしく。
俺は怪訝に思いながらも、顔を洗うために洗面台へと向かった。
「いったい母さん達はどこへ消えたんだ?」
そう言いながら、顔を洗顔する。
「フー、すっきりした……ギョギョ!?」
言って、鏡を見ると、俺の姿はまるで悪魔のような姿をしており、目が真っ赤になっていた。
ガン!!!
その時、風呂場からもの凄い音がした。
俺は驚きのあまり尻餅をつき、膝がガクガクと震え出す。
「う……うそだろ……」
俺は風呂場を見た。
風呂場に何かがいるのだ。
恐怖。圧倒的恐怖に俺は戦慄する。
これは夢か? 夢なのか?
「……ゴクリ」
そうに違いない。
そう思った瞬間。
バタン!!!!
風呂場の扉が勢いよく開かれた。
中からは半透明な青白い物体が飛び出してきた。
「ス、スライム……?」
……間違いない。こいつは間違いなくスライムだ。
どうしてスライムが……。
バフュ!
ゆっくりと紅茶でも飲んで思案にふけようとした瞬間。
スライムが跳躍し、まもる目がけて襲いかかった。
「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
スライムがまもるの顔に吸着し、ストローで吸引されるように吸われていく。
俺の顔から生気が吸われているのがわかった。
逃れようともがくが、どうにもならない。
俺は咄嗟に頭で考え、のたうちまわった。
床や壁にスライムをぶつけまくる。
スライムが麻痺した。
そのすきに俺はまんまと抜け出すことに成功する。
「ハァ……ハァ……」
俺は生気を抜かれガクガクの足取りで、外へと向かった。
家にいたら危ない。
そう危険を察した。
きっと両親もそれに気付いて先に逃げたに違いない。
俺を置いて……。
それはさておき、俺は外に出る前に居間から外の様子をうかがう。
白のカーテンを開き、目を疑った。
「……ぁ……ぁ」
言葉にならない呻きが、俺の口から漏れる。
……なんだこれは。
そこは、森だった。木々が生い茂る、あるはずのない光景。
「あああアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
俺は驚きのあまり奇声を発し、外に出た。
空気が澄んでいる。俺は思いきり清涼な空気を鼻一杯に吸い込んだ。
そして息を止めた。
10秒、20秒と、止め続けた。
そして血管がぶち切れそうになりめん玉が飛び出そうになり口もぷるぷると震えだした頃。
過呼吸になった……。
「ハァハァハァハァハァハァハァふざけるななんだこれふざけるななんだこれハァハァハァハァハァハァハァふざけるななんだこれふざけるななんだこれハァハァハァハァハァハァハァふざけるななんだこれふざけるななんだこれハァハァハァハァハァハァハァふざけるななんだこれふざけるななんだこれ」
「ガルルル……」
しかも外には、厳つい、イノシシ?
イノシシに似ているが、小さなマンモスとも取れる、不気味な色をしたマンモスが複数体、こちらを囲むように威嚇していた。
俺は恐怖のあまり、膝がガクガクと震え、今にもちびりそうになった。いや、……。
ちびった。
ジュワァァ。
「……ぁ……ぁぁ」
俺は後じさる。
「……ぷるる?」
その様子を、玄関から不思議そうに見る、どこから出てきたのか、複数の大きさの異なるスライム達。
その声に、俺は振り返り、気を失いそうになる。
「なんで、スライムが増えているんだよ……っ」
家の中にはスライム、外はマンモス。
逃げ道は断たれた。
俺の命も、ここまでか……。
「もう、お終いだ……」
俺は死を覚悟した。
そう思ったとき。
漫画かアニメなら絶体絶命のピンチに誰かが駆けつけてきて助けてくれるんだろうなぁ。
と頭で考えた。だが実際には誰も来ない。誰もいない。
俺しか。いないのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
こうなったら。
やるしかない!!!!
俺は凄い力を発揮、したかった。
だが無理だった。力むが、なんのオーラも出ない。
「しゅん……」
俺はしゅんとなる。俺が本当に悪魔なら、凄い力を持っていると思ったのだが、間違いだったようだ。
触覚を触りながら、しゅんとする。
まもるはレベル1です。
脳内ゲームがそう言った。
「マジか……」
「グルルル、グアアアアアアア!!!!」
イノシシが我慢しきれず、襲いかかってきた。
「ぐ……っ」
しょうがない……。
「もうなるようになれ♪」
ドカバカスキバキッ!!!!
「ぷぎゃあああアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
俺は家に入るとスライムを突撃してきたイノシシに投げつけ、身代わりとした。
バタン!とそのすきに玄関扉を締める。
「あぁ……どうしてこうなった」
俺は居間のソファに腰掛け、あたりに散らばるスライムを警戒しながら、頭を抱えるのだった。
続く。