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二人の占い師  作者: 地淵育生
1/1

ある占い師の喜劇

思いつき、かつアドリブで書いていますので、オチがつかないかもしれませんが御勘弁を。

「おじさん、一句詠んで」

と話しかけられた相手は、上目づかいで相手を一瞥すると、すぐにかぶりを振った。

「わしは占い師で、俳人などではない」

否定された男子高校生は、軽く上唇を舐めると、遠巻きにいた仲間達と笑いながら去って行った。

「面白いと思っているのかね? 」

占い師は文句を言い、半眼で数メートル先を見据えて、客が来るのを待っていた。


夕方5時過ぎ、まだサラリーマンの帰宅時間には少々早い。

部活がえりの学生や、暇そうな大学生、値引きの始まった惣菜を求める主婦らが往来を占めていた。

「わしの占術は、時代遅れなのだろうか? 」

いつも心の奥で反芻されている疑問がつい脳の表面上に蘇る。いやいや、自分に自信を持たねばと、ネガティブな考えを打ち消し、迷える者を待ち続ける。


「ちょっといいかな」

年の頃、50代ぐらいの薄ぼんやりとした灰色のトレーナーの上下を着た、失業者にしか思えない冴えない男性が目の前にいた。

「どうぞ」

男は体をゆすりながら、丸椅子に腰を下ろし、尻の位置が落ち着かないのか二、三度重心を変えた。そのまま貧乏ゆすりを始めてせわしない。


「トントン相撲ができそうだな」と占い師は心の中でつぶやく。

「では、先生私を見て一句お願いします」

「帰ってくれ」

「いやだな、ほんのジョークじゃないですか」

「同じジョークを六十二回聞かされる方の身にもなってみろ!」

「なんで俳句の人と間違われる格好をしているんですか? 」

占い師は返答に困った。何故と問われると、自分はいったいなんでこのような格好をしているのか気にも留めなかったからだ。


「占い師は自由業でありパフォーマーでしょう、だからどんな格好をしてもいいはずですよ」

「わしが魔女の格好をしても、オカマにしか見えんぞ」

「そこは工夫しないと、同業他社(者)に負けますよ」

痛いところを突かれた。確かに使い古された占い師の記号をなぞったような格好でいるから客がつかないのかもしれない。

「あなたの言うことも一理ある。今後は個性的な衣服を考えよう」


「それでは、これなんかいかがですか?」

男はウェストポーチから蛇腹状に折りたたまれたカタログを広げた。

中身は、中年男性が着るには気恥ずかしいパジャマだった。

「むっ。あなたは失業者じゃなかったのか?! 」

「占い師、破れたり! 」

「あほか。霊能者じゃあるまいし。黙って見ただけで当たるか」

「では、この水玉のパジャマはいかがですか」

「男が水玉なんて着ていられるか! それより、あなたはなぜパジャマを着ないんだ? 」

「だって、寒いんだも〜ん」

というが早いがトレーナーをめくって腹を見せた。

そこには青のスプライトのパジャマらしいものが見えた。


「商売物ならちゃんと上に着んか! 」

「あーすいません。これ腹巻きなんです」

「帰れ」

男は腹巻きを見せびらかしながら去って行った。


まだ、まともな客が来ないので、いい加減店をたたんでしまおうかと思った矢先

小学生が二人やってきた。しかも歌いながら。

「♪お父さんがいない、お母さんもいない、妹もいない、今日のごはんはイカの塩辛」

小学生は歌い終わると仲良く椅子に座ろうとした。当然一人が余ると思ったら仲良く半分こ。

「今回の勝負は引き分け」

「くそぉ〜お。今回も引き分けだったか」

「ここで椅子取りゲームをするんじゃない! だいたいなんで上手く引き分けになるんだ」

占い師は怒り、小学生は「ちぇ」と言いながら不満そうに立ち上がった。


「ちぇっていうけどお婆ちゃんの知恵はすごいなあ」

「本当だよなあ」

小学生は会話しながら立ち去る。

「そっちかよ」


どうもろくな客が来ない、ということで店を畳もうか思案げにしてると、一人の老人がやってきた。

「お悩みがおありのようで……拙者が占ってしんぜよう」

「同業者かよ」

「まま、そう言わんと」

とその占い師は隣に折りたたみ式のテーブルを設置して、占いの看板を出した。

「同業者が二人並んでどうする」

先にいた占い師は怒り始めた。

すると後から来た占い師が筮竹のようなものを出し、まぜ始めたはいいが。

「しまった間違えてお菓子を持ってきてしまった」

その棒状のお菓子は折れてバラバラになってしまった。


「お前、今商品名を出すかどうかで迷っていただろう」

「流石は占い師、その通りだ」

「実はここで固有名詞を出していいかどうかわしも知らんのだ」

「出さないに越したことはないと思う」

「実は易はよく知らないのだ。そこでタロットカードで占おう」

と後から来た占い師が、タロットカードをかき混ぜ始めると、一陣の風が吹いてカードが飛んで行ってしまった。

手元に残ったのは『THE MOON』一枚きり。


「なんでプロが大アルカナ(※1)でしか占わない。それに往来でタロットが不向きなんてわからなかったのか」

「そんなこと言われても」

「だいたい、易を知らないと言いつつ最初に出した筮竹はなんだ」

「あれは雰囲気作りの小道具で」

「しかも、よくみたら上から下まで、わしと同じ格好をしおって」

「占い師のファッションって、これでしょ」

「お前みたいな紛い物と一緒にされたくないわ。だいたい同業者が二人並んで商売になるか」

「商売じゃなくて、人助けですよ」

「ああ、そうだったな。しかしこれでは効率が悪い」

「なら、占い勝負と行きましょう」

「インチキの癖に強気に出たな」

「私とあなた、どちらがより多くのお客をゲットするか」

「おいおい。お客様に対してゲットはないだろうゲットは」


二人は並んで、客が来るのを待った。

しかし、三十分経過したが誰も来ない。

「ルールを変えましょう。どちらが早くお客をゲットするか」

「ずいぶん気弱になったな」

とそこへOL風の女性が現れた。額にしわを寄せ、何やら深刻な悩みがあるようだ。


「彼の気持ちを占って欲しいのですが」

と言うと後から来た占い師(つまり紛い物)の席に座る。

「やったー!私の勝ちだ! 」

「まて、お前はちゃんと占えるのか?」

「できるさ、この大アルカナで」

「あほかーっ! さっき風に飛ばされたばかりではないか」

「いや実はこのカードにはマグネットがしこんであって、飛ばないようにできているのさ」


後から来た占い師はカードを混ぜようとしたが、テーブルに貼りついて混ぜられなかった。

「うんうん。これは力がいるぅ~」

「なんかこの人ダメみたいね」

OL風の女性は、タロット占い師を見限り隣の占い師を選んだ。


「今の私の心境を一句詠んでください」

「タロットや机に貼りつき金縛り……ってわしは占い師だ」

「状況じゃなくて、心境を詠んでっていいましたよね」

「ぬううっ。わしは俳人ではない。手相見じゃ」

「手相だと、私の気持ちは占えても、彼の気持ちまではわからないでしょ」

「いや、そんなことはない」

「嘘でしょ。彼の気持ちを知るには、彼の手相を見てもらうしかないよね」

「彼氏さんとあなたの未来は手相に出る! わしを信じろ! 」


OL風の女性は、なげやりな気分で、手の平を差し出す。

「うぬぬっ、これは……。同性同士で彼はノーマルだから上手くいかないと出ておる」

「し、失礼な人ね! そんな事が手相に出るわけないでしょ! 」

「いやそこは秘伝を使って」

「帰らさせていただきます! 」

OL風の女性、否男性は見料を机に叩きつけると去って行った。


「相手の気分を害したから、接客業失格。よって私の勝ち」

「お前は観てすらいないだろう! 」

「しかしこのまま話を続けていれば読者さんが混乱するかも。どうだ。お互いの名前を明かさぬか」

「それもそうだ。後から来た占い師と前からいる占い師では、説明が長ったるくていけない。ではお主の名前から」

「袴田邦夫」

「いや本名じゃなくて」

「私は本名で占っていますが、あなたはまさか変ちくりんな名前で占っているんじゃないでしょうなあ? 」


「その通りわしの名前は辺竹林だ」

袴田邦夫は名前を聞くと笑いだした。

「失礼な奴め」

「いや失敬失敬。確かにあなたの名前の方が覚えやすそうですな。辺竹林さん」


ひとしきり笑い終わった後、なごやかな空気をかき乱すように、いかつい男たちがやってきた。

「おうおう。誰に断って店を出しているんだよぉっ」

男たちは、袴田邦夫には目もくれず、辺竹林を取り囲んだ。最初はあっけにとられた顔をしていたが、辺竹林は渋々店をたたんで帰り支度をした。


「わしが許可を得ていなかったのは悪かったが、あいつはいいのか」

辺竹林は袴田邦夫を指さす。

「あいつも許可は出していない。だがあいつにはツキがある」


※1 大アルカナとはタロットカードの中で印象的な画(悪魔や死神や恋人など)が描かれている22枚のカードのこと

初めてなのでこんなもんです。

またご縁がありましたらよろしくお願いします。

平凡ながらもオチがついて一安心です。

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