研修
昨日の事件から丸一日がたった。
今日から転生窓口の仕事だと聞いているが、現世と同じ感じなら多分まずは研修からだろうと考える。そんなことを考えていると、全従業員の3人が揃った。
まずは自己紹介からである。
「私の名前は佐藤健です。よろしくお願いします」
挨拶を終えるとパラパラと拍手の音が聞こえる。次はあのきれいなお姉さんの自己紹介である。
「渡辺悦子ですぅ。よろしくですぅ!」
やはりイメージ通りの挨拶だったがひとつだけ気になる点があった。
それは、この【悦子】という漢字はなんて読むんだ‥
えつこ?のぶこ?どちらにしてもあまり聞かない名前だ‥
下の名前の読み方がわからないので苗字で呼ぶことにする。
渡辺さんは外見はとても綺麗でモテそうなのに名前が読みづらくあまりピンとこない名前である。
外見と名前が一致してないのが悲しいと私は思う。
最後はあのおじさんである。
「私の名前は神崎翼です。よろしくお願いします。」
この人の名前は読むことができるがやはり渡辺さんと同じで気になる点がある。それは、外見はとても怖そうな人なのに名前は清々しい程にカッコイイというこちらも外見と名前が一致していないのが悲しい。
やはり私の予想通りで最初は研修から始まった。
先程も述べたように、ここにいるのは神崎さんと渡辺さんと自分の3人である。これだけで転生窓口が成り立つのかと聞きたいのをここはぐっと我慢する。
さっきまでおじさんといっていたが今はあのおじさんも上司である。流石に上司なので、これからはおじさんではなく【神崎さん】とちゃんと呼ぶことにする。
現世に転生窓口員という仕事があればなんとなくわかるのだが、現世には銀行や郵便局の窓口員という仕事はある。
しかし、現世には転生窓口員という仕事がない。
なので、この仕事については全くわからないので仕事内容など転生窓口員について神崎さんに質問を投げかける。
「仕事内容は?」
神崎さんはとても丁寧に答えてくれた。
「前にも言ったとおり亡くなった方が次になにに転生できるかなどを一緒に考えるのが仕事です」
他にはなにがあるのかなど聞こうと真剣に質問内容を考えていると渡辺さんに鼻でわらわれた。
「真剣にやるの?」
笑いながら渡辺さんがいってくる。
「仕事だから真面目にやるのは当たり前じゃないですか?」
少し怒り気味で反発する。真面目に働いて給料や休暇などを貰うのに渡辺さんは真面目に働いていないのに給料や休暇を貰っているのか。
と思っていると渡辺さんは私の心を読んだかのように反論してきた。
「給料はないし、仕事意外ではこの建物からでれない。それに休みなんてほとんどないんだよ」
私は唖然とした。それなら真面目にやらないのもすこしはわかる気がする。ここで1つの疑問がわく。
じゃあなんで2人は働くのだと疑問をもっていると次は神崎さんが心を読んだように
「でも、いざ仕事をしてみると楽しいから」
おい!ふざけんな!給料も無い。仕事以外では建物も出られない。ほとんど休みがない。
こんなの現世で言うブラック企業じゃないか。それなら私はこの仕事を辞めて他の仕事をやる。と言おうとした瞬間
「一ついい忘れたけど仕事頑張ると昇進かもう一度転生のチャンスをもらうことができるから」
この人はさらっとすごいことを言ってくれる。こんな大事なことはもっと早く言っていて欲しいものだが、このようにして部下のやる気をあげているのだろうと思うと関心である。
そんなこんなで研修一日目は自己紹介で終わった。
「明日からは接客してもらうから。」
早速神崎さんからお願いされてどう接客するかなど色々と考える。
明日からは本格的に亡くなった人との接客が始まるのだ。
今日から亡くなった方と接客するのだと思っていた。しかし、神崎さんが突然今日になり昨日言ってたことと全く違うことを言っているのである。
「接客の仕方とか知らないんだから接客なんてできないよ」
平然とした顔で言ってきた。それはそうなのだが前日は
「佐藤君は明日から接客をするよ」
と言われたので、すごい期待されていると勘違いして、嬉しくなり気分が浮かれていた昨日の夜の時間を返えしてくれ!
という愚痴を言いたいが上司なのでそこは黙っておく。
接客ではないなら今日の仕事はなにをするのだと思っていると
「今日は私が接客するのを見ていてください」
上司の命令なので従うが、接客は見るだけで学べるものか?と疑問を持つがここは上司命令だからしょうがないと自分を納得させることにする。
だが、ネガティブに考えてしまうので、私は今日は見学だがいつかは接客側に周るんだ。とポジティブに考え、転生窓口の業務についてもっと知ろうと、いろいろと質問したが神崎さんの答えは
「見てから質問して」
何を質問してもこれしか言わないので質問するのはやめて見てから質問することに決めた。
ついに転生窓口の見学が始まった。胸が高まってるのが自分でもわかる。
最初に転生窓口に来たのは若い女性だった。28歳位の方で、なぜここにきたのだろうか?こんなに若いこでも転生窓口にくるのだろうか?と思うがそこは気にしないことにする。
そんなことを考えていると、その女性は、最初に来た私と同じように、ここはどこだ?とパニックになっている。
そうすると神崎さんは
「落ち着いてください。自分が亡くなったのはわかりますか?」
とても優しい声で話しかけてるので、相手にも落ち着きが見え始める。
「はい。あの‥ここはどこですか?地獄?天国?」
初めてきたときの私と同じ質問である。
「ここは天国でも地獄でもなく転生窓口です。」
「転生窓口‥ それは何ですか?」
待ってました。
というような顔をしながら神崎さんは説明し始める。
「転生窓口では前世の行いを振り返り来世なにに転生できるかを決める所です」
「はぁ‥」
そうだろう。普通の人はそういう反応になるだろう。そう思っていると、また神崎さんが喋りだした。
「私は神崎といいます。あなたがなにに転生できるのか等のサポートをしますのでよろしくお願いします。」
女性の方は少し戸惑っているが自分が亡くなった自覚はあるので神崎さんの言葉を理解したようでうなずいている。
「早速なのですが、私はなにに転生できますか?」
とても真っ直ぐな目で神崎さんの方をじっと見ている。神崎さんは笑いながら
「のみ込むのが早いですね。まずあなたの名前や誕生日からあなたの人生について聞かせてください。辛かっことや楽しかったことなど」
なんでこんなことを聞くのかと言う顔をしながらもちゃんと話を聞いている。
「それは話さないとだめですか?」
彼女は神妙な面持ちできいている。それを神崎さんは笑顔でこう答えた。
「はい」
こうして彼女は自分の生きてきた人生について語り始めた。
※本編ではわからなかったきれいなお姉さんの下の名前は悦子といいます。
次回の話もぜひ読んでください。