9.飛躍に向けて
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あれから、アルがリーダーをやった方が意外としっくりくることに気付いた二人は、アルがリーダー、リズがサブリーダー(二人しかいないのだが)として、次々に階層を攻略していく。1ヶ月に1階層という比較的速いペースであった。
5階層までは順調であったのだが、6階層からは罠が増えてきたことで、一旦、二人の攻略ペースが落ちる。
月に一度か二度程度はギルと会って、攻略状況の報告や相談などを行っていたので、二人は罠への対応策を聞いてみた。
「あん?罠の解除?んなもんは、無視、無視」
全く当てにならないギルであった。
二人は【試しの塔】の事務職員へと相談したところ、罠の発見や解除の技術講習があると教えて貰った。
「私、自信ない」
「いや、僕も自信ないから。ダメだよ逃げるのは。一緒に受けようよ」
嫌がるリズを無理矢理引き摺って、技術講習を受けにいくアル。
5日間の技術講習を終えた二人は魂が抜けたようにげっそりとしていたが、その甲斐もあり、再び攻略ペースは上がっていく。
8階層を突破し、残り2階層となった時点で、約束の期日まで残り1年と2ヶ月も残していた。
「かなりハイペースだな!ちょっと速すぎるぞ!」
ギルは素直に驚いた。
このまま行けば確実に3年以内の攻略が達成出来るとリズは喜んだ。
しかし、快進撃はここまでであった。
9階層から石剛錬武が登場すると、途端に難易度が跳ね上がり、一部屋クリアするのに数週間も掛かるようになってしまう。そして、ようやく9階層を突破し、残り1階層となったところで、期日まで残り6ヶ月を切ってしまったのだった。
10階層を少し試したところで、二人は絶望に包まれ、ギルへと真面目に相談をするのだった。
「ギル兄!ヤバイ!本当にヤバイのよ!」
「はははっ、お前らもようやく壁にぶち当たったか」
本当に困っているリズとアルであったが、ギルは嬉しそうにしていた。
「なんで、そんなに嬉しがるのよ!」
「嬉しいって言うか、少し安心したんだよ。このところ自信喪失気味だったからな」
「ん?ギルさん、それ、どういう意味ですか?」
そこにアルが疑問を挟む。
「なあ、俺って、そこそこ有名な狩人だって知ってるか?」
「そうらしい、と言うのは周りから聞いてますけど」
リズとアルは、会ったことはないが、ギルが日頃から組んでいる戦団はそこそこ有名らしく、ギル自身もそこそこ有名なことは、【試しの塔】の事務職員や色々なお店で聞いていた。
「そう、そうなんだよ。俺って、結構、周りから期待されてる狩人の1人なんだわ」
「ギル兄、自慢話?」
「まぁ、黙って聞けよ。俺が狩人を目指して【試しの塔】を攻略した時の年齢が15歳だ。10歳から修練を積んで、12歳から塔への挑戦を開始した。当時、15歳で塔を攻略した期待の若手って騒がれたもんだ。で………お前ら、俺の何倍のペースで攻略してんだよ」
いくら頭が悪くても言いたいことは分かる。期待の若手と言われる程の実力があってさえ、5年間も掛かっているのだ。2年ちょっとでここまで来ておいて、挫折とか言ってる場合じゃない。
「分かりました。ギルさん、僕ら、かなり凄いですね」
「おま……本当に分かってんのか?自分で言うか、そうゆーことを」
「ギル兄、私も分かったわ。ギル兄がぐだぐだ言えない程、完膚なきまでに私らが偉業を立てればいいのね!」
負けず嫌いの二人は、この時、心に火が着いた。そこからは、再び攻略のペースが上がっていくのであった。
慰めようと思っていたギルは、二人の底が見えていなかったことに更に戦慄する。
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「すみませーん、大将いますか?」
「おぅ、あん時の嬢ちゃんと……見違えたな、もう間違わねえよ。アルだったな」
「こんにちは、お久し振りです」
「で、どうした?なんか用か?」
「実は……」
リズは、柄が折れてしまった斧槍を見せる。アルも、刃こぼれの酷い大鉈を見せる。
「おいおい、おめぇら、どんな使い方してんだよ!もっと武器を大事に使えよ!」
壊れた武器を目にした大将は、怒涛のように説教を開始する。
「なん、だと?今、おめぇ、なんて…言った?」
話の途中で、どんな状況で武器が壊れたのかを聞かれたリズとアルは、その時の状況を説明していたのだが、大将が急に唖然としだし、つっかえつっかえ疑問を口に出す。
「僕が鋼鉄剛錬武とサシでやりあってて、そこに鋼鉄烏像の群れが突っ込んで来て、リズが鋼鉄烏像の群れを一人で蹴散らしてて、ようやく殲滅したところで、気付いたらこうなってました」
「鋼鉄なのか?石じゃなくて?」
「10階層には石は出てこないんですよ。全部鋼鉄なんで、嫌になっちゃいますね」
アルの答えを聞いて、大将はブツブツと、小さな声で独り言を始める。暫くすると吹っ切れたように大声でアル達に話し掛けた。
「分かってなかったな、俺は。ギルのヤツが命を懸けるとまで言ったんだ。俺はそれに応え切れてなかったってことだ!
よし!俺が作れる最高の武器を渡すぜぇ!
それと、あんがとよ。そんな武器でも鋼鉄が倒せるってーのは、俺にとっちゃ、かなり自信に繋がるぜぇ!」
一気にテンションが上がった大将。
「あの、最高の武器を作ってくれるのはありがたいんですけど、僕ら、そんなに持ち合わせがないんで……」
「けっ、んなこと気にすんな!お前らが出世したら払えばいい!」
いつかのギルと同じようなことを言う大将。やはり、二人は似た者同士なのだろう。
「2週間待ってくれ。最高の武器を作ってやる」
そう言って、いつかのように、店の奥に連れていかれ、現時点の二人のサイズや体重、筋力などを調べられた。
リズとアルは、その2週間を無駄に過ごさないように、修練に当てた。いつかのように、ただひたすらに基本を繰り返す修練であったが、着実に二人は力をつけていった。
そして、2週間後。
「よう、待たせたな」
憔悴しきった大将がいた。
「まずは、リズの武器だ。前と同じく斧槍だ。粘り強い黒銀と高硬度の白銀の合金だ。柄は前より粘り強くしなり、斧槍の先は、粘り強さと硬さを兼ね備えた最高の武器だぜぇ」
リズは、新しい斧槍を手に持つ。リズは身長が伸び、体重も増えた。今は身長は1・55メトルで体重はヒミツである。対して斧槍は、長さが2・2メトル、重さが12キログランである。
「で、こっちがアルの武器だ。同じく黒銀と白銀の合金だ。前のより厚くした。峰の方でぶっ叩けば打撃武器としても使える。重心を前よりも先にして、重みも増したから、全体的な威力も向上している筈だ」
アルは新しい大鉈を手にする。アルの身長は1・8メトル、体重は85キログランまで増えていた。細く見えるのは筋肉で引き締まっているからだ。対して大鉈は長さが1・6メトル、重さが10キログランである。
「大将、ありがと!大事に使うね!」
「ありがとうございます。僕も大事に使います!」
「おぅ!よろしく頼むぜぇ!そいつは、大型の鬼竜相手でも通用する筈だからな!」
普通に購入すれば、そこそこの狩人の1年以上の稼ぎに相当する程の価値のある武器を、大将は、二人にタダ同然で提供したのだった。
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