7.長い長い説明
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リズとアルは初めて【試しの塔】へと入る。
建物の1階には横長のカウンターがあり、その向こうには職員用の事務机が並んでいた。
カウンターでは数人の挑戦者が職員と話している。
「行くよ!」
妙な気合いが入ったリズが先頭となり、カウンターへと近付く。
「【試しの塔】に挑戦にきました!」
妙なテンションでリズが切り出す。
「はい。初めてでございますね?」
「初めてです!」
「では、ご説明からさせていただきます。長くなりますので別室へどうぞ」
「は、はい」
急にテンションが下がるリズ。もう、戦う気満々で来たので、説明から始まるとは思っていなかったのだ。しかも、別室に移されるほどとなると、長い時間だと予想できる。
別室に通されたリズとアルは固めのソファに座って待っていた。
「お待たせしました」
入ってきた職員は、ワゴンにお茶を3つと、大量の書類に、何やら怪しい道具を乗せていた。
「初めまして。お二人への説明を担当するシャノと申します。冷たいお茶です。どうぞ」
「ありがとうございます。リズです」
「ありがとうございます。アルです」
リズ、アルは丁寧な事務職員のシャノへと挨拶を反す。
「まずは、【試しの塔】へ挑戦するための登録となります。こちらの書類に必要事項を記入して下さい」
渡された書類には、かなりの項目がならでいる。
氏名、年齢、性別、天啓才能の有無、天啓才能、武器、防具、特技、推薦人等々。全てが必須項目ではないが、記入すべきことが多かった。
「お二人とも天啓才能持ちなんですね。天啓才能は任意なので、書かなくても構いません」
「そうですか、なら飛ばそう」
「じゃ、僕も」
「あのギルバートさんの推薦ですか。あのギルがねえ……」
「……知り合いですか?」
職員のお姉さんの発言に引っ掛かったリズはお姉さんに質問をする。
「幼馴染みですね。小さい頃から知ってます」
どこか悔しそうな感じのリズ。
「では、次にこちらの板の上に手を乗せてください」
「これは?」
「お二人の登録証を作りますので」
「あの、これって神造遺物ですか?」
「あら、アルさんは物識りね。その通りですよ」
二人が神造遺物の板の上に手を乗せると、セットされていた金属製の板が光る。
「登録証の引渡しはまた少しお時間が掛かりますので、少しお待ちください」
書類と登録証を持って一旦部屋を出る職員。何も持たずに直ぐに戻ってくると説明を再開する。
「ここからは少し長くなりますが、大事なことですので良くお聞きください」
「「はい」」
ここまてでテンションが下がりっぱなしのリズとアル。頑張って説明を聞くように気合いを入れて心を切り替える。
・【試しの塔】に挑戦するには、事前の予約が必要。【試しの塔】に挑戦できる者を制限する。1階層につき一組だけ。各階層を突破した場合は次の階層へは進まず必ず帰還し、次の階層の予約を取ること。
・【試しの塔】へは、神造遺物を用いて転移する。転移に必要なものは登録証。帰還する場合も各階層に設置されている帰還用の転移結界から帰還すること。
・1階層ごとの最大滞在期間は5日まで。5日を過ぎた場合、ペナルティーで過ぎた日数×5日間、再挑戦を禁止する。
・【試しの塔】で倒した人造生物の核(神石)は必ず持ち帰り、事務局へ提出すること。外部への核(神石)の持ち出しが発覚した場合は、ペナルティーとして、一年間の再挑戦を禁止する。核(神石)を持ち帰らないことは特にペナルティー等は発生しない。
・【試しの塔】に挑戦する者は、必ず事務局で【転移の首輪】を受け取ること。命の危険が検知された場合、自動的に入口に転移される。転移された者は、ペナルティーとして5日間の再挑戦を禁止する。
・【試しの塔】で受けた怪我や部位欠損等、いかなる場合も自己責任とし、当事務局は責任を負わない。怪我や部位欠損に対して当事務局での治療を望む場合、程度に応じた費用が発生する。費用の支払いが困難な場合、推薦人に費用を請求する。
・登録証を紛失した場合は、罰金を課す。罰金の支払いが困難な場合、推薦人に費用を請求する。登録証を紛失した場合、【転移の首輪】に神石を埋め込むことで帰還できるようになる。神石の拾得が困難な場合、命の危険が伴う怪我を追わなければ帰還は出来ない。その場合も怪我に関する責任は自己責任とする。
「ここまでで何か質問はございますか?」
心を切り替えたものの、ここまでの説明を聞くのに精神力を使い果たしているリズとアル。
「あの、神石ってなんでしょうか?」
それでもアルは頑張って質問する。その横で、質問するの?もっと長くなったらどうするのよ!と心の中で訴えてるリズであった。
「神石とは、人造生物の動力源です。数に限りがありますので、人造生物を倒した場合は、その生物の核となる神石を拾い集め事務局へ提出していただくこととなっています。その場合、神石の拾得報酬が支払われます。神石の位階に応じて報酬額が異なります。神石の位階と報酬額の対応表は事務局カウンター前に貼り出してありますので、そちらをご覧ください。それと、カウンターの前には2ヶ月先までの予約状況も貼り出されていますので、そちらもご覧ください」
ほら、一つの質問でさえ、こんなに長い答えなのよ?それでも、まだ質問する気?とリズはアルを睨んでいた。
「もう一つだけ……いい?」
「……しようがないわね、一つだけよ」
質問してよいかリズに伺うアルは、リズの心の中の叫びが聞こえているようであった。
「説明を聞いて【試しの塔】では死なないように感じました。もしかして、死なないのですか?」
「いえ、死ぬ場合もあります。致命傷を受けた場合は、【転移の首輪】の力で事務局の医務室に転移させられますが、一撃で死に至るような攻撃を受けた場合はその限りではありません。もし、首を飛ばされたら、その場で死にます。その場合も自己責任となりますので、ご注意ください」
もうヤメテ!もうこれ以上質問しないで!とリズは必死に心の中で叫ぶ。この心の声がアルに届けと念じていた。
「他に質問はございますか?」
「ないです!」
アルの機先を制して叫ぶリズ。
「では、そろそろ登録証が完成していると思いますので、少々お待ちください」
職員のお姉さんは、そう言うとまた部屋を出ていく。直ぐに戻ってくると、冊子を一冊と登録証を二つ持っていた。
「こちらが登録証になります。紛失されないようにご注意ください。それと、こちらは先ほど説明した内容の詳細が書かれたものです。全て目を通しておいてくださいね。では、早速、予約を取りますか?」
「お願いします!出来れば今すぐにでも塔に入りたいです!」
リズは、精神的な疲労を癒すためには塔で暴れるしかないと考えていた。
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