6.試し斬り
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【試しの塔】の根元にある建物へと入っていく三人。いつものように入口で空き部屋を確認し、部屋に向かう。
「ギル兄、今回は木兵が11体になるのかな?」
「いや、2体だ。だが、木兵じゃねえから気を抜くなよ」
「木兵じゃない?じゃあ相手は何?」
「堅木兵だ」
それから、ギルはリズとアルに【試しの塔】で出てくる人造生物についての説明をする。
◆木兵
・木で造られた兵士
◆堅木兵
・堅木で造られた兵士
◆石兵
・石で造られた兵士
◆鋼鉄兵
・鋼鉄で造られた兵士
◆石剛錬武
・石で造られた巨兵
◆鋼鉄剛錬武
・鋼鉄で造られた巨兵
◆石烏象
・石で造られた烏象の兵
◆鋼鉄烏象
・鋼鉄で造られた烏象の兵
◆木狼獣
・木で造られた狼の兵
◆堅木狼獣
・堅木で造られた狼の数が
◆石狼獣
・石で造られた狼の兵
◆鋼鉄狼獣
・鋼鉄で造られた狼の兵
「木、堅木、石、鋼鉄の順で強くなる。木兵は一般的な兵士よりもやや劣る程度の強さだが、上に行くごとに大体5倍程度は強くなる。木兵5体と堅木兵1体がいい勝負だと考えれば分かりやすい」
「ギルさん、何が一番強いんですか?」
「単体なら鋼鉄剛錬武だな。力と耐久力が飛び抜けている。そこら辺の小型の鬼竜程度なら何匹いても無双できる程の強さだ」
アルはいつの日か戦った鋭爪鬼竜を思い出す。小型とは言え、その鱗は非常に硬く、リズがいくら攻撃しても命を刈り取れなかった相手だ。動きも非常に素早く、鋭い爪は革鎧をも容易く切り裂くだろう。それが何匹いても無双できるほどの強さ。今の自分では想像できない強さであった。
「ギル兄、その前に人造生物ってなに?」
「そっからだな。神造迷宮は知ってるよな?」
「ギルさん、僕、詳しくは知らないので説明してほしいです」
「まあ、そうだよな。遥か昔の神々が造ったと言われる迷宮だ。中には神造生物と言われる生物がいて、いくら倒しても自然と湧いてくる。迷宮自身が生物を造り出しているとも言われているな。
迷宮内には、危険な生物や罠があるんだが、奥へ奥へと行くと、宝箱も存在するんだ」
神造迷宮と宝箱は一般の人々でも良く知っている話だ。ハイリスク&ハイリターン。迷宮から宝を持ち帰る探索者がとても強く、驚異的な稼ぎがあることは広く知られている。
「一般にはあまり知られてねえが、深層の宝箱からは稀に神造遺物と呼ばれるものが出てくるんだ」
「神造遺物?便利道具のようなものですか?」
「便利道具は、人が神造遺物を再現しようとして出来た道具だな。神造遺物は、神の力で造った摩訶不思議なモノだな。【試しの塔】【挑みの塔】【戦いの塔】は、神造遺物で造り出した人造迷宮だ。そんなもんが造れるモノが神造遺物って考えればどんなもんか分かるだろ?」
リズもアルも、人造迷宮は、人の手によって造られたと聞いていたが、どうすれば造れるのか想像も出来なかった。そんなものを造り出せるモノが神造遺物なのだと言われれば何となく神造遺物の凄さが分かる。
「神造遺物の一つで、人造生物を造り出している。それは、神造迷宮でも出てくる神造生物に似せて造られた生物だ。【試しの塔】に出てくる人造生物は、神造迷宮の入口を彷徨く奴らだと言えば…分かるよな?」
「ギル兄、何となく分かった。【挑みの塔】も神造迷宮に出てくる神造生物を真似て造られた人造生物がいるのね。それも、神造迷宮の入口よりはもっと奥で出てくるような」
「正解。リズは頭もいいんだな」
ギルに誉められて照れるリズ。えへへとちょっとだらしない顔になっているが、アルは突っ込まない。
「ギルさん、【戦いの塔】も同じような感じなんですか?」
「いや、【戦いの塔】はちょっと違う。純粋に狩人を目指す者の為の塔だな。中に出てくるのは鬼竜と鬼族だ」
「本物の鬼竜と鬼族?」
「本物の鬼竜と鬼族から複製して造り出した人造生物だと言われている。そうそう、人造生物と本物の生物の違いだけどな…ま、いっか。そろそろ堅木兵に挑んでこいよ」
「はーい。じゃ、今回も私が先ね」
「お先にどうぞ」
こうして、リズとアルは武器のお試しとして、堅木兵へと挑むのだった。
◆◇◆◇◆◇
リズは長大な斧槍を自在に扱う。とは言ってもまだ基本の型しか出来ないのだが、それでも堅木兵相手であれば十分であった。
「やぁ!」
リズは、向かって右出前にいる堅木兵の足元を狙って薙ぎ払う。この動作は長柄の武器に共通する動きだ。
堅木兵は足を掬われバランスを崩すが、すかさず左の兵が長剣を水平に薙いでくる。
リズは、バランスを崩した兵の方へと回り込みながら、斧槍の柄で長剣を受け、反撃の袈裟斬りを繰り出す。
バランスを崩した兵は、盾でリズの一撃を防ごうとするが、その腕ごと盾が砕ける。
リズは相手に攻撃させる暇を与えず、連続で斬り上げ、横薙ぎ、逆袈裟斬りと続け、あっという間に2体を破壊する。
「見事。3体でも良かったな」
「3体は微妙かも。アル、見てて分かったと思うけど、木兵より動きが速くて、連携も取れてるわ。気を抜かないでね」
「リズ、ありがとう。やってみるよ」
続いてアルの番となる。部屋の奥から堅木兵が2体出てきて…
「ちょっと、ギル兄!3体に増えてるじゃない!」
「まぁ、いけるだろ。大丈夫」
リズが悲鳴を上げるなか、アルは落ち着いて構える。アルのとった構えは脇構え。右足を引き体を右斜めに向け大鉈を右脇に取り、剣先を後ろに下げた構えである。
この構えから繰り出す攻撃は右からの薙ぎ斬り、右下からの斬り上げ、或いは下段払い。
相手に読まれやすい構えであるが…
3体の堅木兵のうち、手前の1体が前に出て、長剣を横薙ぎに振るってくる。
アルは半歩、摺り足で下がり堅木兵の薙ぎ斬りを避けると同時に右下から斬り上げる。
堅木兵は、避けることも防ぐことも出来ずに、砕けながら後方へ吹き飛ぶと、後ろの2体を巻き込む。
「はっ!」
アルは隙を逃さず、接近すると、無事な1体を袈裟斬りに、残りの1体を左からの薙ぎ斬りで葬る。
「見事だな。アルが戦うと木兵と変わらなく見える」
たった三撃で相手を葬ったアル。その動きを見ていたリズは、静かに闘志を燃やす。負けてられないという想いに火がついた。
「どうだ、二人とも。武器はしっくりくるか?」
「問題ないわ」
「凄くしっくりきますね」
「じゃあ、明日からはいよいよ【試しの塔】に挑むか。俺も暫く遠出すっから、会うのは1ヶ月後かな」
「任せて。ギル兄が驚くほど成長して見せるわ」
「僕も負けない。頑張りますよ」
「あぁ、だが程々にしろよ。まだ、期限は2年もあるんだから、焦らずに着実に力をつければいいから」
こうしてリズとアルは【試しの塔】へと挑むのだった。
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