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5.武器の選び方

 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 試しの試しと言われた木兵(ウッドポーン)との戦いに見事勝利した二人は次へとステップアップしていく。

 ステップアップと言っても、あまりやることは変わらないのだが…



「また基本の繰り返しだ~」

「僕には難しくなったけどね」



 前回までの3ヶ月は、ひたすら剣を振るっていたのだが、今回はそれが槍に換わった。

 アルには扱いが難しくなったが、リズにとっては大して変わらなかった。ずっと単純作業の繰り返しに感じている。


 剣術の基本の構え、基本の斬撃や刺突を繰り返したあと、応用編に進むかと思っていたリズとしては残念なことであった。


 槍は、突く、払う、斬る、叩くといった動作が基本であるが、柄のどれほどの部分を持つかによって、その動きも変わってくる。下段の薙ぎ払いや、相手の武器を絡めとるような動き、回転させ石突きの部分での攻撃など、剣よりも動きが複雑であった。


 元々器用でないアルにとっては、一つ一つの動作を確実にものにするために、ひたすら地道に繰り返していくしかなかった。槍でもコツを早く掴んだのはリズである。


 槍術の修練でも、ギルは週に二日のみ、直接指導していた。ギルは、他の五日間に本来の狩人(ハンター)の仕事をこなしている。本来ならば休養にあてる日をリズ、アルの指導にあてていたのだ。


 そんな槍術の修練も1ヶ月が過ぎると、【試しの塔】の根元の建物で、木兵(ウッドポーン)相手にお試しの戦闘を行う。前回との違いと言えば、相手の木兵(ウッドポーン)が2体に増えたことだ。リズ、アルともに、2対1でも危なげ無く勝利をおさめた。



 次は何かと楽しみにしていたリズであったが、次も基本の繰り返しであった。


 鎚矛、戦斧、斧槍、薙刀、大鉈、等々。どれも1ヶ月で基本の型を覚え、木兵(ウッドポーン)でお試しの戦闘を行う。一戦ごとに木兵(ウッドポーン)の数が1体ずつ増えていくのだが、リズもアルも何とか勝ち続けていた。


 そして、ギルが二人を預かってから1年が経つ。



「そろそろ、次に進もうか。で、どうだった?どの武器がしっくり感じたか教えてくれ」



 ギルが二人に切り出した。この頃になると、二人も何となく合った武器を選んでいるのだと感じ取っていた。



「私は斧槍か鎚矛かな。それもより重い方がしっくりくる感じ」

「僕は大鉈か鎚矛ですかね。難しい動きよりも単純な動きの方が身に染み込むというか、そんな感じです」



 ギルは二人の意見を頷きながら聞いていると、突然、大きな声を出す。



「よし!武器屋行くぞ!」

「っ!びっくりした。ギル兄、いきなり大声ださないでよ!」



 ギルバートとリズ、アルが出会って1年。いつの間にかリズはギルバートの呼び方を変えていた。アルは今まで通りであったが。


 この1年で色々な武器を試したリズとアルであったが、今までの武器はどれも借り物であったのだが、これから1年越しに初めての自分だけの武器を購入することになる二人であった。



 ◆◇◆◇◆◇



「……と言うわけだ。大将、こいつらに見合う武器を作ってくれねぇか?」

「ギル、おめぇ、本気で言ってんのか?」



 強面のスキンヘッドの武器屋の大将とギルがカウンター越しに睨み合う。



「俺の命を懸けてもいい。本気だ…」

「……」



 更に数秒、睨み合う二人。


 横では、リズとアルがドキドキしながら、二人を見守る。



「……よし、分かった」

「へっ、分かってくれたか」



 睨み合っていた二人が互いにがっしりと腕を組む。



「なんか、男の友情的な感じよね~」

「そ、そう?」

「アルは分かってないな~。これこそ、物語に出てくる男と男の絆って感じよ!」



 小声で喋っていたリズであったが、その声はカウンター越しに腕を組んでいた二人にも聞こえていた。慌てて腕を放す二人。



「お、おぅ、それじゃ、ちょっくら試してみるけどよ」

「お、おぅ。頼む」



 それから、リズとアルは店の奥へと連れていかれ、色々な武器を握らされ、感触、重さ、長さ等々を調べられた。



「そっちの嬢ちゃんは斧槍だな。で、そっちの嬢ちゃんは大鉈だな?」

「僕は男ですけど」



 静かに怒り気味の声で間違いを訂正するアル。



「お、おぅ、わりぃ。坊主だな。それにしても二人がまだ11歳ってのは信じられねぇな、はっはっはっ…」



 直ぐに謝り、話題を変える大将。何か身の危険を感じたようだ。



「くっくっく…1年前に俺も間違えたな。今じゃ、これっぽっちも女に見えねぇが、まだ間違われるんだな」

「ギルさん?そこ突っ込むんですか?」



 アルは、ギルに対しても静かな殺気を乗せた声で反論する。



「お、おぅ。わりぃ。無用なことを言っちまった。すまん」

「えっと、話戻すが、今ある在庫から合いそうなものをベースにカスタマイズすっからよ。2週間もあれば、用意してやる」

「おぅ、頼む。じゃ、2週間は次に向けた準備でもすっかな」



 歴戦の猛者的な二人の男は強引に話題を替え、この場を乗り切った。



 ◆◇◆◇◆◇



「ギル兄、2週間の準備って何をするの?」

「そうだな。雑貨、着替え、野営セットにちょいとした便利道具なんかもあった方がいいだろうな」

「それって、ついに【試しの塔】へ挑戦するってこと?」

「ああ、そうだ」



 ギルの答えにリズは手放しで喜ぶ。だが、アルは浮かない顔をしていた。



「ギルさん。さっきの武器もそうですけど、僕達、お金持ってません」

「そんなんは気にすんな。どうしてもってなら、出世払いでいいからよ。こう見えても、かなり稼いでるからな。駆け出しの準備一式なんて屁でもねぇよ」



 ギルは敢えて軽いノリで話す。アル達が負担にならないように考えているのだ。



「ギルさん、ありがとうございます。僕らが稼げるようになったら、絶対に返しますから」

「おう、気長に待ってるよ」



 こうして、3人は2週間を掛けて、【試しの塔】への準備を進めた。



 ◆◇◆◇◆◇



「ねぇ、ギル兄。一つ疑問があるんだけど」

「ん?なんだ、リズ」

「色々と買ったけど、防具って一つも買ってないよね?なんで?」

「あー、色々と理由があるな。まず、お前らの目標は【試しの塔】じゃねぇ。もっと先を見据えている」



 いつもの軽いノリではなく、かなり真面目なトーンで話を進めるギル。リズもアルもいつになく真剣に話を聞く。



「鬼竜って、どんだけ大きいか知ってるか?」

「図鑑でだけど、大きい鬼竜だと、10メトルくらいあるんでしょ?」

「おぅ、そうだ。太角鬼竜(グレートホーン)ってヤツが10メトルで1500キログランなんだよ。俺の体重が100キログランもないから、俺が15人以上の大きさだ。想像つくか?」



 リズとアルは想像してみる。ギルが15人分の大きな鬼竜を。



「でかいね」

「うん、でかい」

「だろ。で、そいつが突撃してくる訳だ。丈夫な盾と鎧を着ている大男がその突撃を受ける…どうなった?」

「潰れた」

「ぺしゃんこですね」



 リズとアルの頭の中の大男の戦士は、どでかい鬼竜の突撃を受け止め、潰れている。



「防具って、意味あると思うか?」

「ない、かな」

「ない、ね」



 防具を買わない理由を理解する二人。



「まぁ、【試しの塔】はそんな理不尽な相手はいないから、防具があった方がいいんだけどよ。お前ら成長期だし、買ってもどうせ直ぐに着れなくなるし。無駄かな~と思ってよ」

「そこか」



 真面目な話の落ちはそれであった。



「お、着いたぞ。お前らの武器、楽しみだな」



 旗色が悪くなる前に話題を替えるギル。



「楽しみ~」

「うん、楽しみ」



 話題転換にも特に突っ込まない二人。軽い足取りで武器屋へと入っていく三人であった。



「待たせたな、そこに立て掛けてあるやつだ」

「うわ~すごい!大きい!」

「うん、すごい!おっきいね」



 リズの武器は、長さ2メトル、重さ10キログランの斧槍。リズの身長は1・4メトル、体重は内緒である。


 アルの武器は、長さ1・4メトル、重さ5キログランの大鉈。アルの身長は1・65メトル、体重は55キログランであった。


 屈強な大男でさえも、もて余すほどの重さであるが、今の二人には少し重い程度であった。



「ギル兄、試したい!」

「ギルさん、僕も試したい!」

「んじゃ、今から試しの試しに行くか。大将、代金は俺宛で協会に請求しといてくれ」

「おぅ。嬢ちゃん達、俺の魂を籠めた武器だからな。大事に使ってくれ。もし、刃こぼれでもしたら、直ぐに俺んとこに持ってこい」

「わかりました。大将、私、大事に使います!」

「僕も大事に使います!」

「おぅ。よろしく頼むぜ。んじゃ、頑張れよ」



 こうして、自分達だけの武器を手に入れたリズとアル。【試しの塔】への準備も整った。最後の試しとして、いつもの木兵(ウッドポーン)狩りへと向かう二人であった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇


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