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幻想冒険譚~神造迷宮と鬼狩り~  作者: 樹瑛斗
第3章 神造迷宮と最深部
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42.石の箱

 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 鬱蒼と生い茂る木々、薄暗い森の中を一定のペースで進む三人。

 時々遭遇する神造生物は大型で単体のものが多かったが、三人が力を合わせれば難なく倒すことが出来た。

 順調に探索を進める三人であったが、唯一の難点は方向感覚が狂うことであった。それも休憩時には高い木に登り、周囲を確認し進む方向を調整している。

 草原を歩くよりもペースは遅いが、敵との遭遇率、敵を倒すのに要する時間などを考慮すると、然程変わらないようである。

 ゴールに辿り着くのはほぼ同じだとしても、草原に潜む死神鎌爪鬼竜(デスサイズ)の危険性を考えると、森の中を進んだ方が良いだろうと三人ともに結論付けたのだ。


「だいぶ暗くなってきたわね」


 リズがぽつりとこぼす。

 元々薄暗い森の中であったが、一層と暗くなってきていた。


「そうだね。そろそろ野営できそうな場所を探そうか」


 アルがリズの呟きに応える。

 幸いルナの月の力によって安全に野営が出来るため、そんなに場所には拘らなくて済む。しかし、テントを張るだけのスペースが必要であり、出来るだけ平坦な場所が望ましい。


 アル達は、少し歩くと10メトル程度の岩山を見つけ、その(ふもと)へと出る。片側が崖の壁となっており、地面も平たく、それなりのスペースが確保できそうだった。


「理想的ですわね」

「都合が良いな……」


 ルナの発言の通り、野営には理想的な地形であった。アルの発言の通り、探し始めて直ぐに理想的な地形を発見出来たことは都合が良かった。いや、あまりにも都合が良すぎた。


「うまく行きすぎると、なんで不安になるのかな?」


 リズは、皆の心の奥の一握りの不安を代弁する。


 二度目の86階層のアタックであり、一度目は手痛い洗礼を受けた。二度目が順調過ぎることで、三人は逆に不安を覚えていたのだった。


 三人は黙々とテントの設営や簡易的な竈の用意を進める。簡単な食事を終え、一応の見張りを立て夜を迎える。



 朝方、三交代の最後の番を務めていたアルは、背後に何かしらの気配を感じた。


 振り返ってみるが、崖の壁しかない。


 感覚的には小さな動物が動くような気配であった。鬼竜のように殺気を含んだものではなく、殺気も息遣いも感じられなかったが、小さな動物か或いは虫などの動く気配だと感じたのだ。


 辺りは薄暗いとはいえ、少しずつ明るくなってきており、前方の鬱蒼と生い茂った森の中ではなく、後方は遮る物のない岩壁である。


(擬態?いや、違うな。壁の表面じゃないんだ……)


 興味を引かれたアルは、そのまま二人が起きるまで壁を観察し続ける。


「ちょっといいかな。あの辺りを調べてきたいんだ」

「どうしました?」

「何かあったの?」

「少し気になるんだ」


 特に危険は感じられなかったため、二人とも反対はしなかった。


 アルは崖に手をかけよじ登る。数メトル登ると、下からでは見えなかった大きな隙間を発見した。


 大きな隙間。この奥に行けば先程の気配の正体が分かるのだろうか、アルはそう考えていた。


 一旦、下に降りたアルは先程の小動物のような気配を感じたことと、崖の中腹に大きな隙間があったことを二人に伝える。


「なんか、この感じ、前にもあったよね?」

「ありましたわ!84階層ですわ!」

「「「ウルズの羅針盤!」」」


 三人は声を合わせた。この状況は84階層で神造遺物(アーティファクト)であるウルズの羅針盤を見つけた時と似ているのだ。


 あの時も探索中に妙に気になる洞穴を見つけて中を探索したところで古ぼけた宝箱を見つけたのだった。


「行くよね?」

「勿論、行くわよ!」

「私も行きますわ!」


 100階層まで、余計な探索を省き、余計な時を掛けずにゴールに向かう方針であったが、目の前に怪しい洞窟があるのに放って置くことは三人には出来なかった。

 神造遺物(アーティファクト)を手に入れられる可能性があるのに、探索せずにはいられなかったのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 三人は、壁をよじ登り隙間から穴へと降りると、そこには真っ暗な洞穴が続いていた。

 天井はアルの背丈よりも少し高く、幅は大人一人が手を広げた程度。

 先頭のアルが松明を持ち、穴の中へと進んでいく。その後にルナ、リズと縦に続いていく。


「やはり小さな動物の気配を感じるな。二人はどう?」

「私の【月の瞳】の力でも見透せないですわ。私には気配すら感じませんし」

「私も気配は感じないわ。生き物の匂いも音もしない。アルの勘違いじゃない?」


 リズに勘違いではないかと言われ、自信をなくすアル。首を捻りつつも油断せずに先を警戒しながら進む。

 それから5分程度で洞穴の奥に辿り着いた。


「行き止まりだな」

「どう見てもそうよね」

「脇道もありませんでしたわ」


 洞穴の最奥は、ほんの少し横幅が広くなっており、天井も僅かに高くなっていた。小部屋と呼ぶにはあまりにも狭いが、大人一人であれば十分に寝れる広さはあった。


「これ、何だろう」

「見るからに怪しいわね」

「私には柩に見えますわ」


 縦が1.5メトル、横が0.8メトル、高さが0.5メトル程度の直方体の石が横たわっている。

 今まで神造迷宮(ラビリンス)で幾つものお宝を発見してきたが、それらはいずれも古ぼけた宝箱に入っていた。

 今度もそれを期待していたのだが、目の前にあるのは宝箱とは言い難い、石の箱。ルナの言うように石の柩に見える。


「開ける?」

「ここまで来たら開けようよ、アルが」

「そうですわ、開ける以外は選択肢はありませんわよ、アルが」


 見るからに怪しい石の箱。リズもルナも自らが開けるのには抵抗があるが、開けない選択肢はないようであった。


「仕方ない。罠がないか探りながら開けるから、二人は少し下がってて」


 アルは、聖銀の新星(ミスリルノヴァ)の中では罠の解除担当である。今まで発見してきた古ぼけた宝箱も全てアルが開けている。

 目の前の見るからに怪しい石の箱もアルが開けることは最初から分かりきっていたことだ。

 リズは、アルから松明を受け取ると、アルの手元を照らす。ルナは洞穴の出口の方を警戒する。二人はいつも通り、言われなくても自分達の役割を全うするのであった。

 アルは時間を掛け慎重に罠を探っていく。全てを調べ終わったアルは、石の箱の蓋へと手を掛ける。


「一応、罠はないようなんだ。開けるからね」


 石の蓋は思ったよりも重く、横にずらすようにゆっくりと開けていく。


「良く見えないな。リズ、中を照らしてくれないか」

「良いわよ」


 リズが一歩近寄って松明を箱の中を照らすように掲げる。


「ひっ!」


 短く悲鳴をあげたのはリズ。アルは言葉を発せず、息を飲む。興味をひかれたルナも箱の中身を覗き、思わず顔をしかめた。


「これは気持ち悪いな」

「黒い……人形ですわね」

「キモ……これ、動きださないわよね?」


 石の箱の中には0.4メトル程度の高さの黒い人型の像が入っていた。それも、箱にびっしりと数十体ほど。


「これは……これだけ違うな。指環かな?」


 アルが手に取ったものは小さな黒い指環のようなものであった。


「どんな効果があるか分かりませんわね。地上に戻った際にオルクス様に相談してみましょうか」


 ルナの意見に二人は同意し、アルは黒い人型の像と黒い指環を次元鞄へとしまう。

 次に地上に戻るのは86階層の一つめの部屋を攻略してからだろう。86階層の8つの部屋を1ヶ月で攻略するには、一つの部屋に掛ける日数は4日程度。

 今の調子で攻略を進めて行けば、一つめの部屋を攻略するのは2日後であろう。


 三人は、先ほど手に入れた黒い人型の像や黒い指環が、一体どんな効果を持つのか楽しみにしている。

 早く地上に戻りたいとウキウキしながら、洞穴を後にするのであった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇


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