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幻想冒険譚~神造迷宮と鬼狩り~  作者: 樹瑛斗
第2章 神造迷宮と戦争
32/42

32.僕らに出来ること

 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 アル達は、急いで西に向かった。約5キロメトルであるが、アル達の中で一番遅いルナでさえも、15分程度で辿り着く距離である。


 アル達が到着すると、そこはアルフガルズ軍と鬼族、鬼竜が入り乱れる乱戦であった。


 ここまで乱戦になると、同士討ちを避けるために、アルフガルズ軍は法術の使用を禁止している。更に、聖銀大砲(ミスリルキャノン)も使用出来ない。


「不味いね」

「不味いわ」

「不味い」

「宜しくないですわ」


 アルの簡潔な感想に、他の三人も同意を示す。


 数の上ではアルフガルズ軍と鬼族・吸血鬼(ヴァンパイア)軍は同程度であるのだが、そこに大型の鬼竜が加わり、どうにもアルフガルズ軍の方が旗色が悪かった。


「あの霧の兵器ももう弾切れのようだね」

「弾切れって言うか、ウルズの泉水切れね」


 鬼族・鬼竜を弱体化させていた霧を発生させる兵器も稼働していなかった。

 徐々に人族が倒れていくのが分かる。


 アルは、あまりの光景に目的を忘れかけていたが、ハッと気付く。


「ヴァンさんを探そう!」

「だね」


 大乱戦を迂回するように、大軍の南側を西に向かって抜けるアル達。走りながらヴァンを探していた。


「居ましたわ!西の端、河沿いです!」


 ルナの示す方向を見ると、確かにヴァンらしき者を中心として優位に戦っている一団が居た。


 アル達が駆け寄るのをヴァンも感付いたようで、手を振ってよこす。

 アル達もそれに応え、途中の鬼族や鬼竜を倒しながら近寄っていく。


「アル、良く来た!早速だが、頼みがある!」

「なんでしょう!」


 互いに近くの鬼族を斬り倒しながら会話を続ける。

 ヴァンが視線で合図した方を見ると、昨夜、アル達が設置した兵器があった。


「あれは、まだ壊れてねぇ。だが、俺には動かしかたが分からねえから、なんとか動かしてくれ!」

「分かりました!プルト、ルナ頼む!」


 どうやら、昨夜、プルトがいじったままの設定であった。

 河の水を一度に大量に放水する設定のまま。

 アスベル達は、結界を破壊しただけで、兵器は壊さなかったようだった。

 霧の発生は止まっていたし、大量に放水した後は、未稼働のように見えたのかもしれない。不幸中の幸い、まさに幸運。


「いくぞ!」


 プルトの掛け声とともに、兵器から細かな水の粒子が空高く舞い上がり、霧となって地上に落ちてくる。


 若干であったが、鬼族や鬼竜の動きが鈍くなる。

 その隙にヴァンの指示の元に、周囲に居たアルフガルズ軍が体勢を立て直す。

 一瞬の隙に、防御陣を整えたヴァンの一団を中心に、アルフガルズ軍が集まり、形勢を逆転していく。

 法術での攻撃も再開し、組織だった戦いへと戻っていく。

 霧の効果もあってか、時間とともに鬼族・鬼竜の数が減っていくと、吸血鬼(ヴァンパイア)軍が撤退を開始した。


「深追いはするな!防壁の補修を優損しろ!」


 ヴァンの指示で、土系や石系の操術士が即席の防壁を形成していく。水の操術士や法術士が土石の上から水をかけ、防壁を固めていく。


 アルフガルズ軍の半分をその場に残すと、残りの半分は東に向けて移動を開始する。


「アル、助かったぜ。あと少しでも遅かったら不味かった……まぁ、多くの仲間は散ったが、まだまだ残っている。俺達はまだまだやれる。次は東だ。仲間を助けるぞ!」


 ヴァンの言う通り、多くの仲間が命を散らしている。西に派遣されたアルフガルズ軍は、探索者(シーカー)部隊を含めて約4000名である。西の守護に残っているのが1500名程度。東に向かっているのが1500名程度。動けない程の負傷者と死者を合わせて約1000名である。

 それよりも多くの鬼族や鬼竜を倒しているが、アルフガルズ軍が大打撃を負ったことには変わりない。


 鬼族との戦争が始まってから、昨日までにも多くの者を失っていたが、それでもアルフガルズ軍の全数12000名の一割にも満たない。

 それが、今日だけで同数程度の死傷者が出ている。

 それほど、戦いが熾烈になってきているのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ヴァン達、1500名が東の端に辿り着くと、先程の西の端での戦いと同様に大乱戦となっていた。


 どうやら、この大乱戦は、鬼族の作戦なのだろう。


「者共!一旦退け!俺達の後ろにつけ!」


 ヴァンは声を限りに皆に指示を飛ばす。その指示に気付いた者は、近くの鬼族を斬り倒しながら、徐々に退いていく。仲間が退き始めたことに気付いた者も、同じ様に退いていく。

 残念ながら仲間の動向に気付けない者もおり、大乱戦の中央に取り残されていく。


 戦争なのだから仕方ないのかもしれない。少数を切り捨て、大多数を助ける。


 アルだけでなく、リズもプルトもルナも理性では、そんなことは解っている。だが、理性だけではアル達がアル達で居ることは出来ない。

 聖銀の新星(ミスリルノヴァ)は、そんなに物分かりの良い集まりではなかったようだ。


 取り残された者に向かって、鋭く走り出すものが居た。

 アルに並走するリズ。その後ろから、風の刃や光の矢を乱射するルナと、ルナを守りながら走るプルト。


 ヴァン達の一団から、取り残された者までを一直線に駆ける四人。その後ろには、鬼族や鬼竜の骸が転がり、一筋の道が出来る。


 その道幅を強引に広げるように続く者もいた。

 その者達は、ヴァンの指示で、大盾を持った小隊であった。

 大盾の小隊の後ろからは、攻撃的な小隊が続き、更に後ろからは法術小隊が続く。

 極力、陣形を乱さぬように、それでも、アル達に遅れぬように突き進む。


 アル達が取り残された者者達の所に辿り着くと、直ぐにその周囲に大盾の小隊が守りに入る。

 周囲を鬼族や鬼竜に囲まれるという、あまり好ましい状況ではなかったが、それでも味方と敵が明確に分かれたことで、出来ることもある。


 防壁の上から、聖銀大砲(ミスリルキャノン)の砲撃が開始される。

 アル達を中心に、聖銀銃(ミスリルガン)の銃撃が開始される。

 外側と内側から、一気に鬼族どもを倒していくと、ほどなく牛頭大鬼(ミノタウロス)軍が撤退を始める。


 ここも深追いせずに、防壁の修復を優先する。


「こっちの方が被害が甚大だったな……」


 ぽつりとヴァンが呟く。それを聞いていたアル達は胸が痛くなる。

 アル達があそこで突っ走らなければ、もう少し負傷者を減らせたかもしれない。

 極少数の逃げ遅れた者の命を救ったが、多くの負傷者を出してしまえば、戦争としては、好ましい状況とは言えない。


 東のアルフガルズ軍は、4000名派遣され、その半数である2000名が死傷者となっていた。


 死んでしまった者が多いよりも、負傷者が多い場合の方が軍としては打撃を受ける。

 負傷者を運ぶ者も戦線に復帰できないのだ。


 中央区付近に敷設された臨時の野戦病院へと次々に負傷者が運ばれていく。


 アル達は、そんな光景を見て、やるせない気持ちが強くなってきていた。


「……もう、こんな戦争は起こさせちゃ駄目だ……」


 誰に聞かせるともなしに、ぽつりとアルが呟く。

 リズはぼうっとした表情で頷いていた。

 プルトは強く唇を噛みしめ、ルナは、俯き、ふるふると両手の拳を震わせていた。



 ◆◇◆◇◆◇



 まだ日が落ちる前であったが、一時的に戦いが中断されていた。

 アルフガルズ軍の被害も大きかったが、それ以上に鬼族・鬼竜のオーガルズ軍の方が被害が大きかったのだ。


 オーガルズ軍は、聖銀大砲(ミスリルキャノン)が届かない位置まで下がると、動きを止めていた。


 アルフガルズ軍から攻めることはない。オーガルズ軍が大人しくしている隙に、負傷者の治療や、休憩にその時間を当てていた。


 そんな時、アル達聖銀の新星(ミスリルノヴァ)は、中央区へと戻っていた。


 アル達は、自分達の力で何か出来ないかと考えていたのだが、あまりにも非力すぎて、何も思い付かなかったのだ。

 力がないから、やれることが少ない。どうしようもなく、悔しかった。どうしようもなく、やるせなかった。

 目の前で多くの者が死んでいく。多くの者が傷付き、運ばれていく。そんなものを見てしまっては、じっとしていることなんて出来なかったのだ。

 例え、自分達に力がなく、やれることが限られていても、なんとか自分達に出来ることはないかと必死に考えた。


 その結果、アル達は、中央区のある人物を訪ねることとしたのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇


ユニークが1000を超えたようです。

ありがとうございます。

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