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幻想冒険譚~神造迷宮と鬼狩り~  作者: 樹瑛斗
第2章 神造迷宮と戦争
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28.防衛戦

 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 グレゴル将軍は苦渋の決断を迫られていた。この乱戦のままで、北の防壁での防衛戦を続けるか。北の防壁を捨て、中央区まで撤退するか。


 このまま防衛戦を続ける場合、防壁の外の戦いは優位に進めることが出来る。何故なら、防壁の上部に設置した数少ない聖銀大砲(ミスリルキャノン)で防壁外の敵の数を一気に減らすことは出来るからだ。ただし、防壁の内では、乱戦で多くの仲間を失うことを覚悟しなければならない。


 中央区の防壁内まで撤退する場合、北の防壁の上部に設置した聖銀大砲(ミスリルキャノン)は捨て置くことになる。それに、多くの者が防壁の上部に登っているため、それらが無事に降りて逃げ切る時間を稼がなければならない。


 グレゴル将軍が悩んで決断出来ない間に、一人、また一人と仲間が倒れていく。


「グレゴル殿!」


 指示が鈍っていたグレゴル将軍の元に一人の男が走り寄ってきた。独眼、隻腕の狩人(ハンター)部隊の隊長であった。


「ギルバート殿、どうしたのだ?」

「操術士を集めました。壁の綻びを塞ぐ作戦を実行させてください」

「詳しく聞かせてくれ」


 ギルバートは、この状況を打破するために、狩人(ハンター)の中で優秀な操術士を集めていた。それも、土系や石系の操術士を多く募っていた。

 ギルバートは、グレゴル将軍へ、壁の綻びを土や石を積み重ねて一時的に塞ぐことを提案した。


「よかろう。ギルバート殿、お主がその作戦の指揮をとってくれ」


 短いやり取りでグレゴル将軍は決断し、ギルバートにその指揮を任せる。

 ギルバートの合図で、火や風系の操術士達が一気に操術を放つ。

 壁の綻び付近の鬼族や鬼竜を一時的に追い払った隙に、土や石が積み重なっていく。そこへ突撃してくる鬼竜は、防壁の上から聖銀大砲(ミスリルキャノン)で葬っていく。

 防壁の内側への鬼族どもの侵入が一時的に途切れると、多くの騎士と狩人(ハンター)が内側に残っていた鬼族や鬼竜を一気に殲滅していく。


 グレゴル将軍は、壁の綻びを再び破壊されることを恐れ、聖銀大砲(ミスリルキャノン)を大型の鬼竜のみに狙いを絞って放つように指示する。

 大型の鬼竜の突進さえ防げれば、防壁を越えられることはない。

 グレゴル将軍率いる軍隊とギルバート率いる狩人(ハンター)隊は死に物狂いで壁を死守し続けるのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 戦いが始まってから三日目。なんとか防壁を死守し続けていたアルフガルズ軍に朗報が寄せられる。

 戦争の始まる直前に、ウルズの泉水を使用した兵器開発を命ぜられたオルクスは、その兵器を完成させたのだ。

 その兵器は、アルフガルズ軍の温存していた5000の兵とともに前線へと送られた。


 グレゴル将軍がその兵器を起動させると、広範囲に霧が発生した。

 鬼族と鬼竜は、霧に触れた途端に動きが鈍っていく。発生した霧は、ウルズの泉水を含んだものであり、鬼族や鬼竜の力を削ぐ効力があるのだ。動きが鈍くなるだけでなく、なんらかの力で耐久力を上げていた鬼族は、その耐久力も落ちていく。聖銀銃(ミスリルガン)で貫けなかった敵が貫けるようになり、兵数にも余裕が出たアルフガルズ軍は一気に鬼族・鬼竜を倒していった。



 しかし、その有利な戦いもほんの一日半で終わってしまう。

 敵方に吸血鬼(ヴァンパイア)率いる3000の部隊が合流すると、それまでは昼間だけの戦いであったのが夜も続けられるようになったのだ。

 視界の悪い夜、闇に紛れて防壁を越える吸血鬼(ヴァンパイア)部隊を迎撃するのには困難を極めた。一時的に数の上で有利に立ったアルフガルズ軍であったが、その数を徐々に減らしていく。


 アルフガルズ軍は、劣勢を脱するために、当初、昼間だけ使用する予定であったウルズの泉水を使った霧を発生させる兵器を、夜間にも使用することとし、泉水の残量が予定よりも早く減っていく。


 戦いが始まってから十日目。ここから徐々にアルフガルズ軍が挽回していく。


 ヴァン達が届けた聖銀(ミスリル)鉱石から作られた聖銀(ミスリル)製の武器や兵器が、次々と前線へ届けられていく。

 更に、ヴァン率いる探索者(シーカー)部隊約800名が前線へと加わった。


 その中には、アル、リズ、ルナ、プルトの四人も含まれていた。



 ◆◇◆◇◆◇



 聖銀の新星(ミスリルノヴァ)の四人は闇に紛れて、防壁の元へとやって来た。

 アル達は、アルフガルズ軍にも、狩人(ハンター)部隊にも、探索者(シーカー)部隊にも属さず、単独で行動していた。


 闇に紛れて、防御沿いにケルムト大河に向かうと、ケルムト大河の岸で作業を開始する。発明家オルクスが作製した兵器を岸に設置するのだ。その兵器は、半分が大河の中に沈み、半分が岸に出ている状態となる。

 更に、その兵器を囲うように四ヶ所に結界を設置していく。設置された結界からは、上位の鬼族でも破壊が困難な防御膜が展開される。


 その兵器と結界の設置が完了したところで、アルは他の三人を見る。三人は、無言で頷き、アルは兵器を起動する。


「それじゃあ、いくよ。起動」

 

 アルは、静かに起動を宣言すると、兵器から静かに重低音が発せられ、宙に向かって勢いよく何かが噴出される。噴出された何かは、空高く舞い上がり、防壁を越え、遥か遠くまで降り注ぐ。


 それは、ウルズの泉水を霧に変える兵器と同じものであり、その兵器から噴出されるものは細かい水の粒子であった。空高く舞い上がった水の粒子は、霧状になり地に降り立つ。


 オルクスは、ウルズの泉水を分析していく中で、ケルムト大河の水にもウルズの泉水と同じ効力があることに気付いたのだ。だが、ケルムト大河の水の効力はウルズの泉水に比べると遥かに低い。

 オルクスは、ウルズの泉からケルムト大河に泉水が流れ出ており、それを本能的に感じ取っている鬼族や鬼竜は、ケルムト大河に近付かないのだろう、と推測しているのだった。


 ウルズの泉水に比べたら効力は劣るものの、ケルムト大河の水を使った霧は、水の残量を気にすることなく、使い続けられる。


 アル達に課せられた使命は、この兵器の設置と、兵器の守護であった。



「ルナは絶対に結界から出ないで。

 プルトは気配を殺して隠れてて。

 リズは僕と一緒に前で兵器を守るよ」

「分かりましたわ。援護は任せてください」

「了解。部隊で攻めてきた時は、俺が部隊長を暗殺してくるよ」

「任せなさい。何者も通さないわ」


 前もって打ち合わせていた通り、四人は配置につくと周囲に注意を向ける。


 この兵器の存在に気付いた鬼族が、兵器を破壊しにやって来ることを、オルクスは予想していた。そして、ヴァンからの指名で、アル達がこの兵器の守護を任せられたのだ。


「ルナ、一応、河から攻めてこないか警戒して。オルクスさんが言ってたけだ、攻めてくるとしたら、おそらく吸血鬼(ヴァンパイア)隊の小隊だってことだから、深い闇にも注意してね」


 そして、鬼族は、オルクスの予想通りに、その兵器の元へとやってくる。ただし、そこに現れた鬼族の強さまではオルクスも予想出来なかったのであった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇


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