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幻想冒険譚~神造迷宮と鬼狩り~  作者: 樹瑛斗
第2章 神造迷宮と戦争
23/42

23・ウルズの泉

 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 魔獣が跳梁跋扈するユーグ大森林での旅路は困難を極めていた。

 幾度も魔獣の群れを撃退し、稀に正体不明の大きな生物を息を潜めてやり過ごし、命の危険を何度も乗り越えてきた。

 その中でもルナの【新月の闇】【蒼月の光】の力が正常に発揮され、野営中に魔獣どもに襲われなかったことは幸いであったのだろう。


「【ウルズの羅針盤】は、やっぱりこの上を指しているね」


 アルは羅針盤の針が指し示す方向を確認すると、皆に告げる。

 アル達は、ここまで緩やかな坂を登って来たのだが、ここから先は更に急勾配が続いていた。


「もう坂って言うか、崖に近いんじゃない?」


 うんざりとした表情でリズが愚痴る。真っ直ぐに上を目指せなくなっており、左右に蛇行しながら登っていたのだ。腰を屈めなくても手が地面に届くことを考えると、その傾斜のきつさが窺える。


「どこまで続いているんだよ……」


 プルトがぼそっと愚痴る。数メトル先は濃い霧に阻まれて、この崖がどこまで続いているのか分からないことも、プルト達の不安を煽っている。


「今日はこの斜面で野営かしらね……」


 ルナの疑問の声を聞き、他の三人はうんざりする。

 朝から崖を登り始め、既に半日は経過しているだろう。この急斜面でも、軽い食事を取ることは出来るのだが、ここで寝ろと言われても出来ないだろうという思いが、皆の心に浮かんでいた。

 それでも、アルを先頭に黙々と登り続ける一行。

 四人は、この半日、この急斜面で魔獣の強襲を受けたり、斜面を滑降することを避けるために、いつも以上に神経を研ぎ澄ませており、いつも以上に精神的な疲労が皆を襲っていた。

 四人とも肉体的にも精神的にも疲労がピークに達していたのだが、この急斜面で野営を取ることは諦め、少し長めの休憩を挟みながら、夜通し崖を登り続けた。

 夜は霧に加えて闇が覆い、四人の視界は完全に奪われていた。それでも、先頭のアルからロープを足らし、続く三人はロープを掴み、亀のような歩みであるが、一歩一歩着実に登り続ける。


「……頂上だ……」

「着いたの?」

「長かったな」

「遂にやりましたわね」


 アルの呟きに後方の三人が安堵の声を漏らす。一昼夜かけて崖を登りきり、その頂へと、ようやく辿り着いたのだ。


「ルナ、風で霧を払って」

「分かりましたわ、風よ」


 ルナは風操術を使い、広範囲に風を巻き起こす。一瞬だけ霧が晴れるが、直ぐに濃い霧が辺りを覆う。


「今、見えたよね?」

「泉?」


 アルの疑問にリズが答える。

 背が低く疎らな木々の間から、うっすらと水面が見えたのだ。


「きっと【ウルズの泉】ではないでしょうか」


 ルナが希望を込めた意見を述べる。


「よし、確かめよう」


 アル達四人は、【ウルズの羅針盤】を見ながら、泉の周囲を歩く。

 羅針盤の針は、泉の中心を指し示すようにアル達の歩みに合わせて動く。


「間違いない」


 ようやく【ウルズの泉】に辿り着いた四人は喜びとともに崩れるように座り込む。緊張が解けた途端に疲労が一気に押し寄せたのだ。アル達は、泉の水を汲む前に野営をとることとした。



 ◆◇◆◇◆◇



 たっぷりと睡眠を取り、食事も多めに取った四人は、泉へと向かう。


「生き物の気配を全く感じない……」


 泉に近寄りながらも、周囲を警戒し続けるアルが、ぼそっと呟く。


「魔獣がいないってことでしょ?悪いことではないわね」


 リズはそう発言するが、少しも警戒を緩めない。


「さっさと泉水を汲んで、アルフガルズに帰ろうぜ」

「私も賛成ですわ、早く帰りましょう」


 プルト、ルナは一刻も早くこの場を去りたいと訴える。

 四人は油断なく周囲を警戒しながら、冷たい泉水を革の水袋へと移していく。


「きれいな水だな……ちょっと飲んでみるかな?」


 アルは、水袋へと水を移しながらも、泉の水の綺麗さに惹かれていた。


「ちょっと、止めときなよ。生水に中っても知らないよ!」


 リズは、一応止めにはいるが、アルのきらきらした目は止めても無駄だと諦める。


「少しだけだよ、ほんの少し」


 アルはそう言うと、人差し指で泉の水を掬い、指をなめる。


「うまい!」


  ほんのひと舐めであったが、アルは水の美味さに驚愕した。


「うそ?毒とか大丈夫?体調に変化ない?」


 隣で様子を窺っていたリズ。興味津々にアルに尋ねる。


「大丈夫だよ。凄く美味しいよ、この水」


 リズは、心の中でほんの少しだけ葛藤するが、直ぐ好奇心に負け、指についた水を舐めてみる。


「本当だ……美味しいかも」

「本当かよ!」

「どうなのでしょう」


 直ぐ横でアルとリズのやり取りを見ていたプルトとルナも好奇心が勝る。

 プルトは片手で掬ってゴクゴクと飲む。ルナは指先につけて、少しだけ舐めてみる。


「うまい……」

「美味しいですわ……」


 それから四人は暫く飽きるまで水を飲み続けた。


「これほど澄んだお水は飲んだことがありませんね。なんと言うか、まろやかで口当たりが良いといいますか……」

「そうか?俺はスッキリした爽快感があると思うけど……」

「僕はほんのりと甘さを感じるね……」

「私は、体に染み込む感じね。私の体が欲している味な感じ……」


 四人が四人ともに若干異なる感想を述べる。


「まぁ、普段飲んでる水よりも美味しいってことで。そろそろちゃんと水汲みしようか?」

「そうね」


 アルの纏めにリズが同意し、再び動き出す四人。

 大きな水袋四つが満杯になると、それぞれの次元鞄へと水袋をしまう。更に各々の水筒へたっぷりと泉水を詰め込む。


「よし!帰ろうか!」


 アルの号令に三人は小さいながらも気合いを込めた声で応え、一路南へと進路をとった。



 ◆◇◆◇◆◇



 気合いを入れた四人であったが、直ぐに出鼻を挫かれることになった。


「これは、流石に……」


「怖い」と続くのだが、アルは口に出さないようにする。「怖い」と口に出すことで余計に恐怖心が込み上げそうな気がしたのだ。

 崖を下ろうにも、崖がどこから始まっているのか、地面がどこにあるのか、足元すらも視認出来ないほど、霧が濃くなっていた。


「アル、この霧の中、あの急斜面を降りるのは無謀じゃないか?」


 プルトは、アルの思いを代弁するような意見を述べる。


「だよな……霧が晴れるのを待つか……別のルートから降りるか……」


 アル達は話し合うこととした。結果、もう少し傾斜の緩いルートを探し、降りられそうなルートがなければ、この頂で暫く待つこととした。

 頂をぐるりと一周したアル達。


「東側からであれば、なんとか降りられるかな……」


 相変わらず傾斜はきついのだが、なんとか足で探って降りられそうなルートが見つかった。


「帰り道の距離が少し延びる。それと、大河から離れるが大丈夫か?」


 プルトは、東側から降りることに懸念を表す。


「霧がいつ薄くなるか分からないし、降りてから南西に進めば大河に近づくわ」


 リズはこのルートからの下山に賛成する。


「食糧には余裕がありますけど、私としては早く降りたいですわ」


 ルナも下山に賛成する。

 意を決したアルは行きと別のルートでの下山を決めたのであった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇


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