21・謁見
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アル、リズ、プルトは、急遽、ルナによって、謁見の作法等を叩き込まれることとなった。
今回の国王様との謁見で粗相のないように、最低限の作法を覚えるにも、アル、リズ、プルトにとっては大変なことであった。
「ちょっと、なんでプルトも一緒に教わってるのよ?」
「だから、俺は庶子なんだって。国王様と謁見することなんて無いと思ってたから……」
リズに突っ込まれたプルトは、そう答えた。要は、そんな作法とは無縁だと思っていたのだ。
「謁見の間では、基本的には私が対応しますわ。アル達は、発言を求められた時だけ発言するようにしてください。もし、発言したいことがあれば……そうですね。その場では我慢していただくのが一番なんですが……どうしても我慢出来ない場合は、発言の許可を得るようにしてください」
アルもリズもプルトも絶対に発言なんてしないと心に誓っていた。作法を覚えるだけでもこんなに面倒臭いのに、発言しようものなら、失礼のない言葉遣いや表現などにも気を付けなければならないのだ。
丸一日かけ、ようやく一通り作法を覚えることができた頃、謁見するために至急でしつらえた礼服が届く。
「あははっ、アル、体格良すぎて礼服が似合わなすぎるわ!」
「……だよね、これ、ちょっと無理があるよ……」
ルナとプルトは貴族であるので、謁見に耐えられる礼服は持っていたのだが、リズとアルは、この為に態々、礼服を作ることになった。時間がなかったため、完全なオーダーメイドとはいかずに、店売りの礼服を購入し、サイズ調整をしてもらったのだが……
「僕の服、張り裂けそうなんだけど……」
アルは17歳になり、この頃、身長の伸びがようやく止まってきたのだったが、それでも身長は2・10メトル、体重は140キログランまで増えていた。余計な脂肪はなく、引き締まっているため、体重の割りには細身であるが、それでも筋肉の鎧を纏っていおり、身体の厚み、肩幅がかなりあった。礼服がオーダーメイドで、アルの身体に合わせられれば良かったのだが、そうもいかず、調整したとしても限界があった。
「仕方ありませんわね。我々は探索者として呼ばれていますので……貴族のような服装でなくても、許されるでしょう。探索者としての正装でいきましょう……」
「なんか、ごめん。僕のために……」
このまま、アルがこのピチピチの礼服を着ていったら、謁見の間で、事故が起こりそうだと、ルナは予想した。
謁見の間で事故らせる訳にはいかない。騎士であれば、正装は鎧である。探索者や狩人であれば、正装は戦装束であろう。もっとも、うす汚れていないことは最低限、守らなければならないだろうが。
「まぁ、なんとかしましょう。みんなで、この窮地を脱しますわよ!」
今回の謁見はルナに頼ろうと、他の三人は決意を固めたのだった。
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「えっ!謁見の間ではないのですか?」
「はい。今回は公式な謁見ではなく、あくまでも国王様の私用と言うことで……」
意気込んで登城した四人は、護衛騎士に出迎えられ、謁見の間ではなく、他の部屋へと連れていかれる。
ルナは肩透かしを食らい力が抜けていたが、他の三人はそれでも緊張でガチガチであった。謁見の間であろうとなかろうと、国王様と謁見するのは変わらないのだ。
「失礼します。一対の銀と雄大な新星の四人をお連れしました!」
アル達四人は、長い廊下の先にあった、質素だが荘厳な扉の前に立たされていた。
護衛騎士が口上を述べると、その荘厳な扉が開かれる。
「では、こちらへどうぞ」
護衛騎士が手で進むように指し示す。
開かれた扉の先に円卓があり、大奥には、金髪に金色の髭をたくわえた鋭い眼光のいかにも王様然とした壮年の男が座っていた。その男の両隣には、これまた雰囲気のある壮年の男が座っている。その男達の後ろには近衛騎士が立ち、アル達へと鋭い目を向けていた。
ルナを先頭に部屋に入っていくと、大奥の壮年の男が声を掛けてくる。
「ルナ、久しいな。今日は公式な謁見ではないから、他の者も固くなるなよ。無礼講で良いからな」
「陛下、お久し振りでございます。無礼講とおっしゃられても、アル達には難しいですわ」
「おお!そこの大男がアルだな。噂に違わない立派な体つきだ。少し難しいかもしれんが、今日は普段通りに振る舞って良い。発言も許す。自由で良いぞ」
「は、はい。ありがとうございます。一対の銀のアルです。宜しくお願いします」
「ふはははっ、そう、固くならんで良い。他の者も普段通りで良いからな」
そうは言っても、普段通りになんて話せない。もう、こっちに話を振るのは止めてくれ!ルナ、なんとかしてくれ!と、アル、リズ、プルトは心の中で叫んでいた。
アル達は緊張に包まれながらも、勧められるがままに椅子へと腰を下ろす。
あれよあれよと話が進んでいくが、どうやら、アル達が見つけた神造遺物である【ウルズの羅針盤】についての話であった。
「【ウルズの羅針盤】は伝説の地、ウルズの泉を指し示すと言われている。ウルズの泉については知っているか?」
「いいえ、聞いたことはございませんわ」
ルナを除いた他の三人は、絶対に喋らないと心を決めている。対応は全てルナに任せていた。
「ウルズの泉の泉水は、強力な浄化の力を持つと言われ、我らの天敵である、鬼族の力を削ぐことが出来ると言われておる」
「初めて聞きましたわ。浄化の力ですか……」
「そこで、お主らに頼みがある。ウルズの泉を探し当て、その泉水を持ち帰って欲しいのだ」
王命ではない。あくまでも、依頼、お願いである。だが、国王からの依頼を、この四人が断れる筈もなく、急遽、伝説の地・ウルズの泉を探し、その泉水を持ち帰るという使命が課せられた四人であった。
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アル達四人は、城をあとにすると、アルとリズの寮へと帰ってきた。
「これは探索ではない」
「アル、そんなこと分かってるわよ」
アルが切り出した一言に、そんなことは当然だとリズが発言する。
「神造迷宮であれば、帰還用の転移結界で帰ってこれたけど、それが出来ないってことを言いたかったの」
「そうですわね。この旅は無事にアルフガルズに戻ってくるまで考えなくてはなりませんわね」
ルナがアルの意図を汲み、分かりやすく説明する。
「俺、防壁の外での活動はなれてるけど、今回の旅は簡単にはいかない気がする」
「伝説の地・ウルズの泉って、どれほど遠いのか予想がつかない。僕も嫌な予感がしてるよ」
プルトやアルだけでなく、全員が今回の旅に後ろ向きであった。
「取りあえずは北に行くしかなさそうね」
そんな中でもリズだけは、前を向こうとする。
「まずは、長旅に備えて、色々と買わなければならないね」
リズに引っ張られて、アルも少し前を向き始める。
「そうですわね。必要な物資を書き出して、手分けして揃えましょうか」
ルナも前を向き始める。
「なぁ、アルとリズは、武器を新しくした方がいいんじゃないか?」
「そうね、私の斧槍も酷使してるし、アルの大鉈も同じよね。長旅の間に壊れてしまっては、命に関わるものね」
プルトは無手であり、ルナは短杖を使っている。武器に不安があるのは、アルとリズだけであった。
「新しい武器は時間が掛かるから、まずは僕たちの新しい武器を買いにいかないとだね。多分、2週間以上はかかるから、その間に旅支度をしようか」
ようやく、全員が前を向き始める。
「その前に、皆、絶対に死なないで、全員が無事に戻るよ!いい?」
「「「勿論!」」」
こうして、アル達四人の過酷な旅が始まるのであった。
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