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2.命からがら

 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 鋭爪鬼竜(シャープクロウ)とリズ、アルとの距離は50メトルほど。駆け出したら僅か数秒で接触する距離であった。


 鋭爪鬼竜(シャープクロウ)がゆっくりとリズ達に向かって歩いてくる。



「アル、徐々に下がりながら、いつでも応戦できるようにしといて」

「うん、リズも少しずつ下がってよ」



 僅かにリズが前に出ているが、リズもアルも少しずつ後退する。二人の後退速度は、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)がゆっくりと歩む速度よりも遅く、あと数秒で追い付かれることになる。


 すると、突然、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)が猛然と駆け始める。

 直ぐにリズが追い付かれ、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)が素早く振るった鋭い爪がリズの腰の辺りに襲い掛かる。



「やぁ!」



 リズは、後ろに下がりながら、斜め上から叩き付けるように木剣を振るい、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の腕を叩く。

 直ぐ後ろで見ていたアルは肝を冷やしながらも、そこに追撃を叩き込む。



「はっ!」



 アルが力強く大上段から振り下ろした木剣は、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)が後方に飛び退き避けられ、思いっきり地面を叩いた。

 少し距離が空いた隙に、リズは後ろに下がり、アルの横に並ぶ。



「予想以上に速いわ」

「だね」



 この時点でアルは方針転換をする。強い一撃ではなく、素早い一撃を心掛ける。相手を撃退するのではなく、牽制できれば、それで良いとしたのだが、元々アルはそんなに器用ではないことを忘れていた。


 再び鋭爪鬼竜(シャープクロウ)が突っ込んでくるが、今度はアルに向かってきていた。


 そこにアルも突っ込む。木剣を突きだし、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の出足を止めるつもりであった。

 鋭爪鬼竜(シャープクロウ)は素早いステップで突き出された木剣を横にかわし、速度を落とさず前に出ると、鋭い爪がアルの足に襲い掛かる。



「やぁ!」



 リズが素早い一撃で爪を叩き落とすと、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)は前のめりに突っ込んだ。



「らぁ!」



 アルは目の前に倒れ込んできた鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の顔面に蹴りを叩き込む。

 体勢が崩れていた鋭爪鬼竜(シャープクロウ)はまともに蹴りを食らい、後方へ吹っ飛ぶ。



「ちょっと!アル!攻撃が雑よ!もっと慎重に!」

「ごめん、気を付けるよ」



 距離が空いた隙にリズはアルの迂闊さを叱るが、リズ自身も余裕はない。

 起き上がり、またしても鋭い突撃を敢行する鋭爪鬼竜(シャープクロウ)。狙いはアルであった。

 アルは、力強く一歩踏み込むと、横薙ぎに大振りな一撃を振り払う。

 ほぼ同時にリズは鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の横を取るように動き出していた。

 鋭爪鬼竜(シャープクロウ)は突っ込んできた勢いを止められず、後ろへは避けられない。横に避けてもアルの剣に当たるだろう。鋭爪鬼竜(シャープクロウ)は、地を這うように避けるとアルの足首を狙って爪を振り払う。

 そこに横からリズの鋭い振り下ろしが鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の頭部に叩き込まれる。


 リズは、ガツンと確かな手応えを感じ、思わず喜びの声を上げそうになるが、目の前の光景に肝を冷やす。

 鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の鋭い爪がアルの足へ食い込んでいたのだ。



「アル!」

「はっ!」



 リズの悲鳴じみた声とアルの気合いの声が重なる。

 アルは足首に食い込んでいる爪をものともせずに、大上段から目の前の鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の背中へと力強い一撃を振り下ろす。

 鋭爪鬼竜(シャープクロウ)は、アルの攻撃が目に入らないのか、避ける気がないのか、そのままアルの足へと鋭い爪を振りきる。

 鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の爪がアルの太股に食い込むのと、アルの力強い一撃が鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の背中へ直撃するのは同時であった。


 力なく崩れる鋭爪鬼竜(シャープクロウ)

 アルの太股からは大量の血が流れ出す。



「リズ、まだコイツ生きてる!」



 動きは鈍くなっているが、それでも一歩一歩とアルに近付いてくる鋭爪鬼竜(シャープクロウ)


 もしもアルとリズが持っている剣が木剣ではなく、鉄剣であり、刃がついていたのならば、決着がついていたかもしれなかった。

 だが、まだ10歳の子どもである二人には、そんなものは与えられない。



「くそっ!なんなのよ!」



 リズは動きの鈍った鋭爪鬼竜(シャープクロウ)に何度も何度も木剣を叩き込むが、それでも鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の命は刈り取れない。


 アルは、傷付いた足を引き摺りながら、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)との距離を取ろうと後ろに下がるが、それでも鋭爪鬼竜(シャープクロウ)はアルに近寄ってくる。


 何度目かのリズの振り下ろしが鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の頭部へと直撃すると、ついにリズの木剣が折れてしまった。



「リズ、これを使って!」



 アルは自分の持っている木剣をリズへと投げる。



「アルはどうするの!」



 リズは、アルから投げられた木剣を掴むが、アルの武器が無くなることを心配する。



「僕はこれを使うよ」



 アルは、自分の近くに飛んできた折れた木剣を拾い上げる。



「リズ、ちょっとこいつを転ばせて!」

「分かったわ!やぁ!」



 リズは、気合いとともに、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の足元を掬うように木剣を振るう。

 鋭爪鬼竜(シャープクロウ)は短い足を刈られ、前のめりに倒れ込む。


 その瞬間にアルは前に出ると、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)に覆い被さる。

 折れた木剣を鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の口の中へ突っ込み、背中からのし掛かると、鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の両腕を上から押さえ込む。



「ほら、これで大丈夫だよ」

「だ、大丈夫じゃないわよ!コイツ、まだ生きてるし、アルが邪魔で木剣を振るえないじゃない!」

「でも、木剣じゃ、コイツの堅い鱗を傷つけられないし…」

「分かってるけど…アルの出血が!」

「それも大丈夫。ほら、そろそろ止まってきたから」



 リズは、アルの足首や太股を見ると、既に足首からの出血は止まっており、太股から流れ出る血の勢いも弱まってきていることに気付く。



「呆れた…どんだけ丈夫な体なのよ」

「それより、助けを呼んで来て欲しいな」



 鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の体重を僅かに上回るアル。鋭爪鬼竜(シャープクロウ)が力ではなく、素早さが売りの鬼竜であったために押さえ込めているが、それにも限界があるだろう。



「嬢ちゃん達、何してんだよ、こんなところで」



 そこに一人の男が現れる。



「えっ?ちょっと鬼竜と格闘中なんですけど…あっ!助けてください!」



 リズは思い出したように言う。



「格闘中かよ。凄いな鬼竜を生け捕りじゃないか」

「えっと、お兄さん?僕、そろそろ限界なんで、早く助けてくれると有り難いです」

「折角だから、生け捕るか。ちょっとその木剣貸してくれるか?」

「これ?いいですけど…どうぞ」



 リズから木剣を受け取った男は鋭い一撃を振り下ろす。それは、アルの鼻先を掠めるように鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の頭部へと吸い込まれた。


 同時に、アルは、押さえ込んでいた鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の両腕の力が抜けるのを感じ取った。



「殺した?いや、気絶させた?」

「多分、殺してないだろ。それより、嬢ちゃん達、コイツを縛るの手伝ってくれるか?」



 男はそう言うと、革鞄から出したロープで鋭爪鬼竜(シャープクロウ)を拘束していく。鋭い爪でロープを切られないように、両腕をぐるぐる巻きにし、噛みつきを防ぐように口を縛る。あとは、体の自由を阻害するように、木剣と一緒に鋭爪鬼竜(シャープクロウ)の身体を固定していく。



「じゃあ、帰ろうか。そっちの嬢ちゃんは足を怪我しているようだが、歩けるか?」

「…僕、男なんですけど…」

「あ…わりぃ…」



 こうして、リズとアルの大ピンチは終わりを迎えた。一人、体と心に傷を受けたが命に別状はなかった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇


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