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幻想冒険譚~神造迷宮と鬼狩り~  作者: 樹瑛斗
第2章 神造迷宮と戦争
18/42

18・醜豚鬼

 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「アル、いけそう?」


「大丈夫。解除出来そうだよ」



 アル、リズは、現在、神造迷宮(ラビリンス)の地下39階層を攻略中であり、アルはこの階層の最奥エリアに繋がる通路に仕掛けられた罠を解除している最中であった。


 アル達は、地下30階層を越えたあたりから、罠の難易度が上がってしまい、攻略が滞ってしまっていたのだ。それが、少し前に手に入れた【識別の腕輪】の効力によって、罠がどのような種類のものか識別出来るようになったことが大きく影響し、ここ最近の攻略速度は上がってきていた。勿論、アル自身の罠の解除技術の向上も大いに影響している。



「解けたよ。先、進もうか」


「さっすが、アルね!」



 約2ヶ月にも及ぶ金策が実を結び、【識別の腕輪】を購入出来たこと、それと【次元鞄】を追加で一つ購入出来たことが、アル達の攻略に追い風となっていた。


 アルは注意深く通路を進む。大人二人が目一杯両手を広げた程度の幅の通路は、大型の神造生物は入ってこれない。それだけに、罠が仕込まれている可能性が高いのだ。



「アル、そろそろ階層守護者(ガーディアン)の部屋じゃない?」



 神造迷宮(ラビリンス)には、幾つかの特徴が存在する。【試しの塔】や【挑みの塔】にも共通することであるが、各階層は、8つのエリアに分かれている。各エリアの広さは様々であり、大森林が丸々入る広さのエリアもあれば、狩人協会の修練場程度の広さのエリアもある。

 そして、各階層の最後のエリアには、必ず階層守護者(ガーディアン)が存在するのだ。


 アル達が今通っている通路は、39階層のラストエリアへと繋がる通路である。



「そうだね。でも、そんなに強敵じゃないだろうから、気負いせずに行こうか。油断は禁物だけどね」



 会話が終わり、再び集中して歩き出すアル。そのうち、通路の終わりが見えてくる。アルは、更に注意深く歩いていく。



「リズ、止まって。次のエリアの様子を見よう」



 エリアの入口付近に膝をついたアルは、手を横に広げリズの動きを制する。アルは、腰に提げた【次元鞄】から【望遠筒】を取りだし、次のエリアに【望遠筒】を向け覗き込んだ。



「草原エリアね。このパターンだと、階層守護者(ガーディアン)は強くて数が少ないのかな?」



 リズはアルの背中越しに次のエリアの様子を窺う。草原のように見通しの良いエリアは、強い敵が出てくる可能性が高い。小細工が出来ないため、純粋に戦闘力を試されることが多くなる。



「強者かは分からないけど、相手は6匹だよ。おそらく醜豚鬼(オーク)だと思う」



 リズは、アルの発言を聞き、眉を歪める。



「ここにきて、醜豚鬼(オーク)?」



 リズが疑問に思うのも当然であった。醜豚鬼(オーク)は、ここよりも浅い階層で散々戦っている。それも階層守護者(ガーディアン)ではなく、そこらに出てくる普通の敵としてである。



「そうだね。ここにきて醜豚鬼(オーク)階層守護者(ガーディアン)だ。これは、普通じゃないよ。気を引き締めていこう」


「了解!」



 アルは立ち上がると、腰の【次元鞄】に【望遠筒】をしまい、かわりに身の丈と同じくらいの長さの大鉈を取りだした。

 アルの動きにあわせ、リズも腰の【次元鞄】から、身の丈を大きく越える斧槍を取り出す。



「行こう」


「了解!」



 二人は静かに闘志を燃やし決戦へと歩きだした。



 ◆◇◆◇◆◇



 二人は遠くに見える6つの点に向かい並んで歩く。元々、この二人は小細工が苦手であり、複雑な戦略はない。複雑な連携もない。このような見通しの良いエリアでは、前衛や後衛などの隊列は組まず、各々が各々の敵を定めて倒すだけであった。


 堂々とした歩みで、敵との距離を縮めていく二人。


 対するは、6匹の醜豚鬼(オーク)


 近付くにつれ、醜豚鬼(オーク)はそれぞれに異なる武器や防具を身に付けていることが分かる。



「後衛は、杖持ちが1匹と弓士が1匹。前衛は、大きな盾を持った豚が2匹。それと、槍持ちが2匹だ」



 一見するとどこかの狩人(ハンター)の戦団と見誤るような構成であった。攻守のバランスが取れた組合せである。



「了解。で……どうする?」



 基本的には出たとこ勝負なリズであるが、念のため、アルの考えを聞いてみた。



「弓士はどうでもいいけど、あの杖持ちが気になるね。僕が囮になるから、リズは、一気に杖持ちを仕止めて」


「了解」



 至極簡単な打合せを終えると、猛然と駆け始めるアル。その背中に隠れるようにぴったりと追走するリズ。



「おおおおおおおおおお!」



 アルは雄叫びを上げ、醜豚鬼(オーク)どもの注意を集めると、先頭の盾持ちへと距離を詰めていく。


 盾持ちの醜豚鬼(オーク)は、盾を寄せるようにお互いが近付くと、大きな盾の底辺を地面に突き刺す。


 醜豚鬼(オーク)は2メトルを越える巨漢であるが、アルもそれに負けない体格をしている。そんなアルが、凄まじい勢いで迫ってくることは、醜豚鬼(オーク)でさえも脅威に感じたのだろう。


 もう少しでアルが盾持ちの醜豚鬼(オーク)と衝突するところで、盾持ち醜豚鬼(オーク)の背後から、幾つかの土塊が飛んできた。


 その土塊は、アルの勢いを殺ぐものではない。アルの進行方向を限定するかのように、アルの左右へとばら蒔かれたようであった。


 そこへ、盾と盾の隙間から一筋の鋭い何かが飛んでくる。その鋭い攻撃は矢であった。左右の土塊に注意を奪われていれば、気づけない一矢である。


 アルは、大鉈の側面で矢を受け流すと、盾に足を掛け、盾持ちの頭上を越える。


 そこに2本の槍が僅かな時間差でアルへと襲い掛かる。


 アルは下から襲い掛かってくる2本の槍を、大鉈の一振りで払いのけると、敵陣の中央へと着地する。


 アルの背後からは盾持ちの醜豚鬼(オーク)が片手剣を振りかざし、左右からは槍がアルを串座さんと狙いすます。アルの正面には、杖を構えた醜豚鬼(オーク)が複数の土の弾を宙に浮かせ、弓を構えた醜豚鬼(オーク)が引き絞った弦を離そうとする瞬間であった。



「おおおおおおおおおお!」



 雄叫びが草原にこだまする。


 この瞬間、6匹の醜豚鬼(オーク)は完全にアルへと注意を向けていた。


 アルは、大きく飛び上がり、後方へ宙返りをする。2つの片手剣がお互いにぶつかり合い、そこに槍の穂先が衝突する。矢は、するりとすり抜け、盾持ちの醜豚鬼(オーク)の肩へと突き刺さった。更に土の弾が盾持ちの2匹の醜豚鬼(オーク)を蹂躙する。


 幾つかの醜豚鬼(オーク)の野太い悲鳴が重なる。


 盾持ちの2匹は、所々から血を流し、そのうちの1匹は片膝を地面に着く。


 槍持ちの2匹は、盾持ちの醜豚鬼(オーク)の横へ出ると、アルを追い掛ける。


 弓士は次の矢をつがえ、狙いを絞る。


 杖持ちは、腹部を大きく斬り裂かれ、血を噴き出しながら、その場へと崩れ落ちる。


 アルが注意を引き付けている間に、素早く回り込んだリズが、杖持ちの醜豚鬼(オーク)を一撃で葬っていた。


 すぐに異変に気付いた弓士であったが、狙いを変え、弦を離す前に、肩口から大弓ごと斜めに斬り裂かれる。


 ほぼ同時に、槍の穂先が宙を舞い、醜豚鬼(オーク)の頭部が弾けていた。



「残りは3匹?」


「いや、2匹だ」



 アルは、盾持ちの横から回り込んできた槍持ち2匹を始末したところであった。


 残る2匹のうち、1匹は片膝をついている。残りの1匹は片手剣を構え、半身を盾に隠しているが、前後をリズとアルに挟まれた状態では、長くはもたない。


 その後、なんの障害もなく、盾持ちの2匹を倒したアルとリズは、地面に残された大きめの神石を拾い上げると階層の出口へと向かうのであった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇


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