17・地道な努力
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アルとリズは、暫く大将への返済を待ってもらい、次元鞄を買うために貯金することとした。目標額は、金貨15枚である。1ヶ月半で目標額を貯めると、すぐに次元鞄を購入し、神造迷宮探索を一時中断した。
今日からは、地上での鬼竜狩りに勤しむこととしている。
「おっアルくん、久しぶりですね!」
「どうも、おはようございます」
アルとリズが狩人協会を訪ねると、この前、雄大な新星と引き合わせてくれた時の職員がアル達のことを対応してくれた。
「今日から暫く地上で鬼竜狩りをしようと思うんですが、どの辺りが狩れそうなんですか?」
「そっか、それじゃ、お姉さんが教えてあげるね♪」
アルが職員に狩りのポイントを聞くと、職員のお姉さんはノリノリで地図を開く。
「これは、このオーガス大陸の極東と呼ばれる地域の地図なの。で、この一番南の半島っぽいのがアルフガルズね」
「へぇ~」
「私はお父様の書斎で見たことがあるわ」
リズは見たことがあったのたが、アルは初めて見たのであった。アルは初めて見るアルフガルズの小ささに驚く。思ったよりも小さかったのだ。
「アルフガルズの西にあるこの大河は、正式名称はケルムト大河って言うのね。この大河がかなり北まで伸びてるでしょ?」
「ケルムト大河の北にある森って、ユーグ大森林ですか?」
アルが見せられた地図の中央から西北に向かって広がる大森林が地図の4分の1程度を占めていた。
「正解!ケルムト大河の近くは鬼竜は少ないから、狩るなら少し離れないとだよ。それと、このユーグ大森林付近は、鬼竜が沢山出没するから注意してね。それと、ユーグ大森林の東側から北は、鬼族が支配している地域になるから、近付いちゃダメよ!」
アルは、職員のお姉さんにそう言われて地図を見ると、あることに気付く。
アルフガルズの西側はケルムト大河が北に向かって伸びている。アルフガルズの東側は海である。大河付近は鬼竜が少ないとなると、残るポイントとしては、東の海沿いを北上するしかないようであった。
「そうなると、アルフガルズの防壁から、北東方面ですか?」
「そうね。北東方面に進むと小規模な林が点在しているから、その辺りが狩りのポイントになるかな。防壁から離れれば離れるほど、鬼竜が大型になっていくから、ほどほどにね」
ギルなどのトップレベルの狩人になると、ケルムト大河を船で渡った反対側や、ユーグ大森林の南側、ユーグ大森林内でも活動するのだ。だが、駆け出しレベルの狩人は、防壁付近から北に数日内の距離で活動するのである。
「お姉さん、私からも質問!鬼族って、この辺りでは出会わないですかね?」
アルフガルズに住む者は、小さな頃から、防壁の外には、魔獣と鬼竜と鬼族が出ると聞かされている。雄大な新星との狩猟時に、鬼竜と魔獣には出会ったが、鬼族には出会わなかった。
「ここ最近は防壁付近での鬼族の目撃情報はないわね。おそらく、徒歩で1週間も北上すれば出会うと思うけど…そこまではまだ行かないでね」
職員のお姉さんは、説明していて不安になってくる。この子達は、鬼狩りなんてしないわよね?まだ早いわよ!と。
「日帰りか、野営しても1日程度だと思いますよ」
「良かったわ。それじゃあ、今日の帰還予定は夕方頃でいいかしら?」
アルはリズと顔を見合わせる。リズは、それくらいでいいんじゃない?とアルへ頷く。
「帰還予定は夕方で。海沿いを北上してみます」
「わかりました。それでは、私の方で書類は記入しときますね。あ、そうだ。そう言えば、最近、鬼竜の討伐数が増えてきてるの。もしかしたら、鬼竜の数自体が増加している可能性もあるから、気を付けてね。では、いってらっしゃい!」
「「いってきます!」」
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アルとリズは、鋭角鬼竜よりも少し小型の短角鬼竜の群れを発見していた。その数は20匹をやや下回る程度。その短角鬼竜の群れは、野生の動物か小型の魔獣を狩っているようであった。
「アル、あれ、チャンスじゃない?」
「なんだか、不意討ちみたいだけど…行っちゃう?」
「行こう!」
アルとリズは、短角鬼竜の群れの背後をつき、あっという間に殲滅する。しかし、リズには不満が残っていた。
「やっぱり、私達だけだと殲滅速度が遅くなるわね」
「こういう時はルナの風の刃で一気に行きたいよね…まぁ、ないものねだりだから仕方ないけど…」
アルも、この前の雄大な新星と組んだ狩りを思い出していた。
「私達は、多数の敵を相手にするよりも、強くて少数の敵を相手にする方が向いてるのよね…」
リズはそう言うが、この辺りに出没する鬼竜は小型が多く、小型の鬼竜は多くの場合、群れで行動するのだ。暫くは数の多い、小型の鬼竜を相手にするしかなかった。
「あっ、珍しいかも!堅頭鬼竜と短剣鬼竜の混合の群れよ!」
リズは、通常、一種で群れを作ると言われている鬼竜が二種混合の群れを作っているのを発見する。
「う~ん…ちょっと数が多いね」
アルは数の多さに不安を感じていた。雄大な新星と組んでいる時であれば心配するほどの数ではないが、アルとリズの二人では、多いように感じたのだ。
「ざっと40匹くらいよね?何とかなるんじゃない?」
リズとしては、【戦いの塔】で倒してきた相手であり、これくらいの数であれば、二人で倒したこともある。何より、その頃よりも強くなっている自信もあった。
「囲まれないようにしよう。一度突撃して、そのまま突っ切る、あの戦い方にしようか?」
「そうね、そうしましょ!」
二人は、【戦いの塔】で同じくらいの数の群れを相手にした時の戦い方を思い出していた。
二人は、群れの端を掠めるように突っ込み、バッサバッサと斬り倒しながら、群れを突き抜ける。そのまま暫く走って、相手との距離がある程度離れたところで反転し、再び群れの端を突っ走る。
一撃で確実に仕止めるやり方ではないが、腕や脚、胴体を斬られた鬼竜の動きが鈍り、同時に多数を相手にしなくて良くなる。
鬼竜の数が減ってくると、囲まれないように注意しながら、近付く鬼竜から、命を刈り取っていく。
「はぁ…終わったね」
「終わったわね」
気が付くと動ける鬼竜が居なくなっていたので、アルとリズは、まだ命のある鬼竜に止めを刺して回る。
「リズ、残念だけど、今日はここまでかも。次元鞄の容量が一杯になりそう」
「えっ!もう?」
アルとリズは一番安い次元鞄を購入したのだが、小型の鬼竜60匹程度で容量・重量制限が限界に近付いていた。
「アル、これで大体幾らくらいになるの?」
「銀貨3枚くらい…神造迷宮での1日の稼ぎが銀貨4枚から6枚くらいだったから、これじゃあ意味無いよね…」
がっくりと肩を落とす二人。
「リズ、まだ昼を少し過ぎたくらいだし、1回、協会に戻って精算してからまた来ようよ」
「はぁ…面倒だけど、仕方ないよね…はぁ」
こうして、アルとリズは1日に数度、協会と外を往復するのであった。
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