16・二足の草鞋
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群れをなす鋭角鬼竜を前にアルとリズが立ち塞がる。
次々と突進してくる鋭角鬼竜を引き付け、回避しながら叩き斬っていく二人。
そこへ風の刃が吹き付けると、血飛沫を舞い散らし鋭角鬼竜が次々に倒れていく。
目にも止まらぬ速さで背後に回り込んでいたプルトが己の拳に雷を纏わせ、鋭角鬼竜をぶちのめしていく。
あっという間に数十匹の鋭角鬼竜が骸へと変わり果てる。
「ルナさんの風操術は凄まじいですね」
「プルトの雷操術だって凄かったわ!」
アルとリズは、ルナとプルトの凄さを目の当たりにして驚いていた。操術というものも初めて見たのだった。
「私から見れば、お二人の方が凄いと思いますわ。操術もなし。二人とも近接格闘タイプ。どうやって牛頭大鬼二体と戦ったのでしょう?」
「お互いに一対一で戦いましたね。僕もリズも一対一なら牛頭大鬼には負けませんよ。まぁ、ボロボロの辛勝ですけど」
「俺も前衛をやるからわかるけど、牛頭大鬼を相手に一対一で戦って倒すってのが、信じられないよ。俺は相手の注意を引いて、回避に徹したから二対一でもなんとかなったけど」
それから数度、小型の鬼竜の群れを殲滅して、狩人協会に戻る四人。お互いがお互いの力を認め合い、自分達にはない力に惹かれていた。
「す、凄い量ですね…」
狩人協会に戻ると、プルトが、狩った鬼竜を次々と次元鞄(神造遺物を真似て造られた便利道具。かなり高価なもの)から取り出し、討伐報酬受け取り窓口へと並べていく。
他の狩人もこの程度の量ならば当たり前のように並べる程度なのだが、それでも職員は驚いていた。
「出掛けたのがほんの数時間前。しかも、人数は四人だけ。それなのに、この量…」
つまりは、そういうことであった。往復の時間を差し引くと、おそらく、狩りに費やした時間は1時間程度。人数は四人だけ。それなのに、小型の鬼竜の量は少なく見積もっても200匹。一人当たり50匹。まだ狩人と認めららてから半年経つか経たないか。いわば新人である。
「この先も四人で組んじゃえばいいんじゃないですかね…」
尋常ではない四人を目の当たりにして呟く職員。周囲でこの状況を見ていた者たちも同じ思いであった。
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「今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、貴重な戦いを見せていただきましたわ」
アルの謝辞に答えるルナ。四人は親交を深めるために近くの食事処に寄っていた。
「やはり、ルナさんもプルトくんも天啓才能持ちなんですよね?」
「そういうアルさんもリズさんも天啓才能をお持ちなのでしょ?」
「あー、なんか二人とも固いわね~。よし、これから、さんとか、くんとか無しで、アル、リズ、ルナ、プルトで呼ぶわよ、いい?」
固い喋り方の二人に苛々したリズが割り込む。他の三人もそれで良いようで頷いていた。
「僕もリズも持ってます」
「私もプルトも同じですわ」
普通はベラベラと他の人には話さない天啓才能についてもお互いに公開する。何故か、この相手ならば話して良いような、話さなければならないような、そんなふうにお互いに感じていたのだ。
アルの天啓才能
◆質実剛健
心身ともに強くてたくましい。
◆不撓不屈
苦労や困難があっても決して諦めることがない強い心。
◆磨斧作針
惜しまずに努力し続ければ、困難なことでも必ず成就させることが出来る。
リズの天啓才能
◆剛強無双
並ぶ者がいないほどの力強さを持つ。
ルナの天啓才能
◆光風霽月
心を澄んだ状態に保つ。光、風を操ることが出来る。月の力を使える。
プルトの天啓才能
◆疾風迅雷
疾風のように素早く動くことが出来る。風、雷を操ることが出来る。
◆赤手空拳
武器を持たずに、素手で敵に向かっていくことで、力を発揮する。
「自分で言うのもなんだけど、なんか、この四人、凄いわね」
まずはリズが呆れる。
「二つ持ちに、三つ持ちに、無双系天啓才能持ちですか…凄いですわね…」
ルナは自分以外の三人が伝説級の天啓才能持ちであることに呆れていた。
「いや、ルナやプルトの操術なんて、物凄く有用じゃないですか!光に風に雷、それに月の力とか。僕らにはない才能ですね」
アルは自分達には持ち得ない操術系の才能を羨んでいた。
「凄いな…なんだが、凄いよ」
プルトは凄いを連呼する。凄く凄い、など意味の分からない言葉を使っている。
「ねぇ、ルナ。もし良かったらこれからもちょくちょく組んでくれない?」
「嬉しいわ、此方こそお願いしたいわ」
その後もちょくちょくと一緒に組むことを約束してその場は解散となった。
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「ねぇ、アル。私、欲しいものが出来たの」
神造迷宮の地下35階層を探索中にリズがアルに話し掛ける。
「リズも?僕も欲しいものがあるんだ」
アルもたまたま欲しいもののことを考えていた。
「もしかして、一緒かな?」
「えっ?違うと思うけど?」
リズはアルの欲しいものが自分と同じものではないかと考えていた。アルは、絶対違うと思っている。
「私が欲しいのはちょっと高価な便利道具なんだよね…」
「僕が欲しいのも高価な便利道具なんだよね」
「私が欲しいのは…次元鞄!」
どう?アルも同じでしょ?と言わんばかりに自信満々に告げるリズ。
「僕が欲しいのは、罠の解除方法を自動的に判別してくれる便利道具」
「なんだ、違うのか。それで、その便利道具はいくらくらいなの?」
自分が欲しいものと違っていたことにがっかりするリズであった。
「ピンきりなんだけど、僕が欲しいのは金貨で20枚くらい」
このところのアルとリズの稼ぎは月に金貨8枚なので、頑張って貯めれば、2ヶ月もあれば何とかなる額ではある。
アルフガルズでは、費用の安い寮で、朝夕の食事付きで1週間泊まるのに銀貨1枚程度。銀貨10枚で金貨1枚なので、金貨20枚というのは、寮に200週泊まれる額に相当する。高いと言えば高い。
「金貨20枚か…今、貯金っていくらだっけ?」
「金貨1枚だよ」
「えっ!なんでそんなに少ないの?」
二人の稼ぎは飲食代以外は全てアルが管理しており、リズは幾ら貯まっているのかも把握していなかった。
「リズ。僕らの武器はどうやって買ったか覚えてる?
大将に出世払いにしてもらったよね?今、毎月少しずつ返しているんだけど…知らないはずはないよね?」
「ちょ、アル、怖すぎ。やめてよ、冗談だってば。勿論、知ってるから」
ギルにも相当、お世話になっているのだが、ギルへのお返しは後回しにさせて貰っていた。ギルへは、お金ではなく、他の何かで返したい。そのように、以前、アルとリズは話し合っていた。
「じゃあ、私が欲しがっている次元鞄は後回しね。大将への返却優先で、その後に余裕が出来たらアルの欲しいヤツを買いましょ」
「リズ、そのことなんだけど…次元鞄を先に買っちゃおうか?」
リズはアルの提案の真意が読めなかった。アルが欲しがっている便利道具は、直ぐに役立つものであって、リズの欲しがっている次元鞄は今のところ必須ではない。
「…どうして?」
「この前の小型の鬼竜240匹の討伐報酬って幾らだったか覚えてる?」
リズは考えるが思い出せない。そもそも金額を聞いたかすら怪しい。それは、アルには口が裂けても言えないのだが。
「ちょっと…忘れちゃったかも。思い出せないわ」
「240匹で金貨1枚と銀貨2枚だったよ。1匹に換算すると鉄貨5枚分だから、僕の食費1回分くらいだけどね」
「多そうだけど、意外と少ないってこと?」
「1匹で計算すると少ないかも知れないけど、1日200匹狩れば1日で金貨1枚の稼ぎになる。休みを入れても月に金貨20枚は稼げるかもしれない」
「おお~!」
このところ、神造迷宮の攻略が遅々としていたこともあり、少しばかり地上で大暴れしてすっきりしようか、というような軽いノリで地上戻る二人であった。
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