15・新たな挑戦
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オーガス大陸の南東端に位置するアルフガルズ。辺境にある人族の小国であり、国の周囲は、堅牢な防壁、大河、海で囲まれており、魔獣や鬼竜、鬼族等の侵入をなんとか防いでいる。
アルフガルズと隣国や他の国々との交流は水路、海路のみ。河や海には、魔獣が少なく、鬼竜は皆無なのである。ただし、船を接岸する陸地には魔獣も鬼竜も鬼族も出現するので、積極的な交流はない。
陸の孤島。他の国々からは、アルフガルズはそう呼ばれている。
そんな小国で陸の孤島と言われるほど他国との交流が少ないアルフガルズであるが、国内は豊であり、何者にも侵されることがないのは、神造迷宮の賜物である。
神造迷宮からは、様々な恩恵がある。鉱物、木材、石材等々の資源だけでなく、様々な食材、宝石類、剣や槍や鎧などの武具、神造遺物やその動力源となる神石、その他多様な便利道具が手に入るのだ。
アルフガルズで神造迷宮が見つかったのではない。神造迷宮の上に人が集まり、やがて国となったのだ。
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「…アル…いけそう?」
「ちょっと…無理そう」
「一旦、引き返そうか?」
「ごめん。地上で技術講習受けなきゃだね」
アルとリズは神造迷宮に潜っていた。浅階層は、【試しの塔】【挑みの塔】と変わらない難易度であったため、瞬く間に攻略してきた。
30階層を越える辺りから、罠の難易度が急激に上がり、アル達の技量では突破出来なくなってきていた。
リズよりは幾らかマシなアルでさえもお手上げ状態なのだ。
「リズは、罠の解除とか向いてないから、僕が技術講習を受けてくるよ」
「えっ、でも…」
リズはアルの提案が嬉しいのだが、自分ばっかり楽しては申し訳ないと思い、提案に乗れないのだった。
「その代わり、リズは講習期間中は外で稼いできてよ」
外で稼ぐ。これは、暗に狩人として、防壁の外で鬼竜を狩ってこいと言っているのだ。
「分かるけど、無茶言うわね、アルがいなくて、私一人で行かせるなんて…鬼!」
「ふふ。ギルさんがいるじゃないか。一時的に銀の鍵に入れてもらえばいいよ」
リズは、小躍りしてしまいそうなのをなんとか抑えてアルに返答する。
「そうね、一人じゃあれだし…仕方ないからギル兄のとこに入れてもらおうかしら♪」
顔がニヤケているのは自分でも気が付かないリズであった。
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「そんな~」
「仕方ないよ」
アルとリズは地上に戻り、ギルの自宅を訪ねたのだが、留守であった。狩人協会に赴き、ギルの行方を訊ねたところ、遠征中であり、暫くは戻らないとのことだった。
「リズも講習受けてみる?」
「うぅぅぅぅ~仕方ないよね、受けるわ」
一気に天国から地獄へと突き落とされた気分のリズ。それから2週間ほど、地獄(リズにとっては糞つまらないという意味で)の講習を受けることになる。
そして、2週間後。
「あ~終わった~やっと終わったわ~」
「これから、どう?」
リズは苦痛に耐え、やっと解放された気分である。
「早速罠の解除の実践って訳?もうちょっと落ち着きなよ」
「違うって。気分転換に、外で鬼竜でも討伐してみない?」
「おぉ!良いこと言うわね!乗った!」
早速、二人は狩人協会に行き、窓口へと並ぶ。
「こんにちは、鬼竜狩りに行きたいんですけど、どうですか?」
最近、リーダーが板についてきたアルが受付の職員さんに尋ねる。
「えーと、お二人は鬼竜討伐は初めてではないですか?」
「は、初めてなんですけど…」
アルもリズも、ここで嫌な予感が頭を過った。具体的には、各塔へ挑戦した時の初回の長い長~い説明を思い出したのだ。
「そんな構えなくて大丈夫ですよ。初めての方や経験の浅い方は、それなりの経験がある戦団と組まないと外に出られないだけですから」
長い説明がないとわかり、ほっとする二人であったが、今すぐに狩りに出掛けられないと分かり落胆する。
「あっ、丁度良いかも。ちょっと待ってて下さいね」
職員のお姉さんは二人を置いて、隣の隣の窓口へと行ってしまう。そこにいる若い二人組の狩人に声をかけに行ったようであった。暫くするとその若い二人組を連れて戻ってくる。
「この二人が付き添いを了解してくれました。歳も近そうだし、上手く行くわよね。二人もそれでいい?」
「あ、はい。アルです。宜しくお願いします」
「リズです。よろしく!」
「ルナよ、よろしくね」
「プルトです。よろしく」
お互いに自己紹介を終え、握手を交わす。
「それじゃあ、こちらにご記入をお願いね。今回は帰還予定を本日中にしといてくれる。初回からの遠出は許可が下りないから」
「分かりました」
アルは渡された紙に必要事項を記入していく。その隣ではルナと名乗った金髪碧眼の美少女が紙に記入していた。
「ちょ、ちょっと待って!あなたたち、一対の銀なの?」
「はい、そうですけど…」
職員のお姉さんの驚く声が大きかったため、アルとリズは周囲の視線が集まるのを感じていた。
それは、すぐ横にいるルナとプルトからの視線も同様であった。
「私は…歴史的な瞬間に立ち会った…いや、私が歴史的な瞬間を作った?えっ?えっ!」
動揺し過ぎていて、何を言っているのかアルもリズも分からない。
「お姉さん、少し落ち着いてください。僕にも分かるように説明してくださいよ」
「一対の銀と雄大な新星が組むのよ!落ち着いてなんていられないわ!」
アルとリズはその一言ではっと気付く。
「ルナさん達って、あの雄大な新星?」
「はい。そう言うアルさん達は一対の銀なんですの?」
四人はカウンターの前で暫く固まり、お互いの顔から目を離せないでいた。
それは四人だけでなく、この場に居合わせた者、全員の時が止まったかのようであった。
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「驚きましたわ。あなた達はてっきり、神造迷宮専門かと」
四人はアルフガルズの北側を横断する防壁へと向かっていく。その途中、歩きながら雑談していた。
「行き詰まってしまって…気分転換です」
どこぞのお嬢様のような話し方のルナに対して少し緊張気味に話すアル。
「えっと、僕らが言うのもなんですけど、よく二人だけで【戦いの塔】の30階層の階層守護者を突破できましたね」
「そうですね、今でもよく突破出来たと驚きますわ。それも、前衛のプルトの頑張りがあったからこそですの」
「姉さん、俺は回避に専念していただけだ。倒したのは姉さんの力があってこそだよ」
「えっ!二人って姉弟なの?」
ルナとプルトの会話に思わず突っ込んだのはリズ。そう、歳が変わらない二人なので、姉弟だとは思いもよらなかったのだ。
「異母ですけれど、血の繋がった姉弟ですわよ」
「俺は妾の子、いわゆる庶子ですけどね」
「妾…庶子って、もしかして貴族?」
「はい。ルナ=デュランダルと申します」
「同じく、プルト=デュランダルです」
それを聞いても分からないアル。隣のリズは、盛大に驚いている。
「あの、デュランダル侯爵家の?」
リズの問いに黙って頷くルナとプルト。
「史上最高の探索者であるヴァンさんをデュランダル侯爵家が雇ったって聞いたけど、もしかして…」
「ヴァンさんは私達の師匠ですわ」
衝撃的な出逢いや事実が続きすぎて、心臓が止まるのではないかという程に驚き続けるアルとリズであった。
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