14・偉業
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「一対の銀、【挑みの塔】踏破おめでとう!」
「「「おめでとう!」」」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
アルとリズは、同じ寮に住んでいる仲間達から祝福を受け、寮の食堂でささやかなお祝い会を催していた。
「それにしても惜しかったね!」
寮の仲間の中でも比較的歳が近いマリーナという少女がリズに話し掛けてきた。
「え、なんのこと?」
リズとしては、何か惜しいことをした覚えはない。
「雄大な新星にあと一歩のところで負けちゃったじゃん」
「へっ?雄大な新星?私達は戦ったことなんてないよ?」
リズもアルもこの時、初めて雄大な新星という存在を知った。寮の仲間に詳しく教えて貰うと、リズ、アルと同い歳の少年と1つ歳上の少女の二人で結成している戦団であった。
【試しの塔】をアル達よりも1ヶ月早く攻略し、【戦いの塔】へと挑戦していた雄大な新星。
二人組であること、攻略時期が近かったことで、二組の戦団は良く比較されていたらしいこと、賭けの対象になっていたことを教えて貰う。
「なんか知らないけど悔しいわね」
「僕は特に悔しくないけど」
リズは、負けて悔しいのではなく、勝手に賭けの対象とされ、ほらやっぱり雄大な新星の勝ちじゃないか、なんて言われているのではないかと想像し悔しく感じていた。
「次の【戦いの塔】の攻略は負けないわよ!」
「あ~リズ、それは残念だけど…」
リズが意気込んだところで、マリーナが言いにくそうに割り込む。
「雄大な新星は、【挑みの塔】には挑戦しないんだ。もう、今頃は外に狩りに行っているはずよ」
そもそも、一対の銀のように【挑みの塔】【戦いの塔】の両方を攻略するのは珍しい。殆どの戦団が片方のみの攻略に留まるからだ。雄大な新星も例外ではなく、【戦いの塔】のみの攻略に留まっている。
「はぁ、じゃあ、負けっぱなしで、もう絡むこともないのね」
「リズ、僕らは僕らのやることをやるだけだよ。他の戦団は関係ない。さっさと【戦いの塔】を踏破して、神造迷宮に挑もうよ」
「そうね。じゃあ、半年以内に【戦いの塔】を踏破しちゃいましょ!」
寮の仲間達からどよめきが起きる。通常、2年掛かると言われている【挑みの塔】の攻略を一対の銀は、1年で攻略してみせた。今度は【戦いの塔】で更にそれを半年に縮めると言うのだから驚くより他ない。
「リズ、なにを言ってるんだよ、半年だなんて」
寮の仲間達も、いくらなんでも半年は言い過ぎでしょ、とアルの言葉に同意を示そうとしたところで…
「3ヶ月で踏破しようよ」
「それもそうね、半年は掛かりすぎだね」
更に驚く発言をするアル。寮の仲間達は、既にこの二人は別格だと思っていた。しかし、その認識が誤りであったことを実感する。この二人は別格どころではなく、比べること自体が誤りだったのだ。英雄と呼ばれる存在はこうなのだろうと、皆の想いが一致した瞬間であった。
◆◇◆◇◆◇
「大将!」
「おぅ、出来てるぜぇ!これまた渾身の作だ。魂籠めてるからな!」
アルとリズは、【戦いの塔】へと挑戦前に武器のメンテナンスを行っていた。リズの場合はほぼ完全に壊れてしまっていたので作り直している。
「まずは、リズの武器だ。黒銀、高硬度の白銀、おまけに聖銀を少々混ぜた合金だ。柄の方は粘り強い黒銀の割合を高めているから、更に折れにくくなってるぜぇ!リズの命力を使えば更に硬度を増すぜぇ!最高の武器だぜぇ!」
リズは、新しい斧槍を手に持つ。リズは身長がまた少し伸びて、体重も増えた。今は身長は1・60メトルで体重はヒミツである。対して斧槍は、長さが2・2メトル、重さが15キログランである。
「で、こっちがアルの武器だ。同じく黒銀と白銀と聖銀の合金だ。前のより厚く重くしているから、威力は向上するはずだ。アルも命力を使えば武器の硬度がますからよう!」
アルは新しい大鉈を手にする。アルの身長は1・90メトル、体重は110キログランまで増えていた。身長の割に体重がかなり多いが、今でもシルエットは細身である。筋肉がぎゅうぎゅうに引き締まっているからだ。対して大鉈は長さが1・7メトル、重さが15キログランである。ここにきて、アルの武器の重さがリズの武器の重さと並んだのであった。
「大将、1つ質問が!」
「なんでぇ、リズ」
「聖銀と命力について教えて!」
聖銀は聞いたことがある。だが、命力は初めて聞いた。そして、武器が硬くなるとか…謎が多い。
「あぁ!面倒くせぇな…まぁ、仕方ねぇな。命力ってのはだな…」
そして、大将の講座が始まる。
◆命力
・探索者や狩人の尋常ならざる力の源。その正体は未だ解き明かされていないが、探索者や狩人は、生物を倒すことで、その生物の命の力を少しずつ吸収し、己の力=命力に換えているのではないかと言われている。聖銀などの特別な鉱石に命力を流すことで、硬度を上げたり、特別な効果を得たりすることができる。
「ほへぇ…」
「リ、リズ。顔がだらしないよ」
説明を理解しきれないリズの顔が阿呆になっていた。危うくアルも阿呆になりかけたが、リズの顔を見てなんとかとどまった。
「アル、理解できた?」
「いや、無理。命力とか、使うって言われても急に使えなそうだよね」
「今度、ギル兄に会ったら詳しく教えて貰おうか」
「だね。じゃ、大将、ありがとうございました!」
「…まぁ、なんだ。色々とがんばれな…」
◆◇◆◇◆◇
アルとリズは宣言通り、怒濤の勢いで【戦いの塔】を攻略していく。それもそのはず。アルとリズは、【挑みの塔】の階層守護者である牛頭大鬼を倒すほどの戦闘能力を保持しているのだ。能力的には、牛頭大鬼より、かなり弱い人造生物であれば、相手にならないのである。
【戦いの塔】を攻略した者が【挑みの塔】に挑戦する場合、不足する能力は罠に関する能力だと言われている。罠の発見、解除、それらの技能さえ身に付ければ、【挑みの塔】の攻略は容易にできる。
逆に【挑みの塔】を攻略した者が【戦いの塔】に挑戦する場合、不足する能力は集団戦闘に関する能力だと言われている。圧倒的な敵の数に対して、集団で対抗する為の戦略や連携さえ磨けば、【戦いの塔】の攻略は容易にできる。
アルとリズは、二人だけでの連携はそこそこできるが、圧倒的多数を相手に対する戦略は持ち合わせていない。そこは、圧倒的な個の力で捩じ伏せて進んでいるのであった。
「アル、もうすぐ30階層だね」
「うん。この前はボロボロで辛勝だったから、今度は完勝したいね」
アルもリズも牛頭大鬼との再戦を楽しみにしていた。
そして、30階層。二人の前に現れたのは…
「二体か…リズ、いける?」
「う~ん…頑張るとしか言えないわね」
「リズ、無理そうなら1度撤退しよう。命あってこそだし」
「アルこそ無理しないでね。いつも無理するのはアルなんだし」
「ふふっ、了解。お互いに無理は禁物。
じゃ、行こうか」
二人は堂々と二体の階層守護者である牛頭大鬼へと近寄っていく。
二体の牛頭大鬼の咆哮。それに負けずとも劣らない二人の雄叫び。
二体と二人が正面からぶつかり合う。
剛の者と剛の者。小細工なしの真剣勝負。
二人の気迫に呼応するかのように二体の牛頭大鬼も小細工なしで、正面から力で捩じ伏せに来る。
嗤うリズ。嗤うアル。二人は、この戦いを楽しんでいた。
命を懸けたギリギリの勝負。
己の持ちうる限りの力と技の試し合い。
長い戦いの末に立っていたのはアルとリズ。
二人ともボロボロであり、とても完勝とは呼べない見た目であった。
「アル、無理しないって約束じゃなかった?」
「そっちこそ」
「ふふっ…」
「「おめでとう」」
こうして二人は弱冠14歳と数ヶ月で、史上10人目の【挑みの塔】【戦いの塔】の両方を踏破するという偉業を打ち立てたのであった。
二人の伝説の第一歩はこうして歴史に刻まれていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇
第一部完です