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14・偉業

 ◆◇◆◇◆◇◆◇



一対の銀(ペアロシルバー)、【挑みの塔】踏破おめでとう!」

「「「おめでとう!」」」


「ありがとう!」


「ありがとうございます」



 アルとリズは、同じ寮に住んでいる仲間達から祝福を受け、寮の食堂でささやかなお祝い会を催していた。



「それにしても惜しかったね!」



 寮の仲間の中でも比較的歳が近いマリーナという少女がリズに話し掛けてきた。



「え、なんのこと?」



 リズとしては、何か惜しいことをした覚えはない。



雄大な新星(グランノヴァ)にあと一歩のところで負けちゃったじゃん」


「へっ?雄大な新星(グランノヴァ)?私達は戦ったことなんてないよ?」



 リズもアルもこの時、初めて雄大な新星(グランノヴァ)という存在を知った。寮の仲間に詳しく教えて貰うと、リズ、アルと同い歳の少年と1つ歳上の少女の二人で結成している戦団であった。

【試しの塔】をアル達よりも1ヶ月早く攻略し、【戦いの塔】へと挑戦していた雄大な新星(グランノヴァ)

 二人組であること、攻略時期が近かったことで、二組の戦団は良く比較されていたらしいこと、賭けの対象になっていたことを教えて貰う。



「なんか知らないけど悔しいわね」


「僕は特に悔しくないけど」



 リズは、負けて悔しいのではなく、勝手に賭けの対象とされ、ほらやっぱり雄大な新星(グランノヴァ)の勝ちじゃないか、なんて言われているのではないかと想像し悔しく感じていた。



「次の【戦いの塔】の攻略は負けないわよ!」


「あ~リズ、それは残念だけど…」



 リズが意気込んだところで、マリーナが言いにくそうに割り込む。



雄大な新星(グランノヴァ)は、【挑みの塔】には挑戦しないんだ。もう、今頃は外に狩りに行っているはずよ」



 そもそも、一対の銀(ペアロシルバー)のように【挑みの塔】【戦いの塔】の両方を攻略するのは珍しい。殆どの戦団が片方のみの攻略に留まるからだ。雄大な新星(グランノヴァ)も例外ではなく、【戦いの塔】のみの攻略に留まっている。



「はぁ、じゃあ、負けっぱなしで、もう絡むこともないのね」


「リズ、僕らは僕らのやることをやるだけだよ。他の戦団は関係ない。さっさと【戦いの塔】を踏破して、神造迷宮(ラビリンス)に挑もうよ」


「そうね。じゃあ、半年以内に【戦いの塔】を踏破しちゃいましょ!」



 寮の仲間達からどよめきが起きる。通常、2年掛かると言われている【挑みの塔】の攻略を一対の銀(ペアロシルバー)は、1年で攻略してみせた。今度は【戦いの塔】で更にそれを半年に縮めると言うのだから驚くより他ない。



「リズ、なにを言ってるんだよ、半年だなんて」



 寮の仲間達も、いくらなんでも半年は言い過ぎでしょ、とアルの言葉に同意を示そうとしたところで…



「3ヶ月で踏破しようよ」


「それもそうね、半年は掛かりすぎだね」



 更に驚く発言をするアル。寮の仲間達は、既にこの二人は別格だと思っていた。しかし、その認識が誤りであったことを実感する。この二人は別格どころではなく、比べること自体が誤りだったのだ。英雄と呼ばれる存在はこうなのだろうと、皆の想いが一致した瞬間であった。



 ◆◇◆◇◆◇



「大将!」


「おぅ、出来てるぜぇ!これまた渾身の作だ。魂籠めてるからな!」



 アルとリズは、【戦いの塔】へと挑戦前に武器のメンテナンスを行っていた。リズの場合はほぼ完全に壊れてしまっていたので作り直している。



「まずは、リズの武器だ。黒銀、高硬度の白銀、おまけに聖銀(ミスリル)を少々混ぜた合金だ。柄の方は粘り強い黒銀の割合を高めているから、更に折れにくくなってるぜぇ!リズの命力を使えば更に硬度を増すぜぇ!最高の武器だぜぇ!」



 リズは、新しい斧槍を手に持つ。リズは身長がまた少し伸びて、体重も増えた。今は身長は1・60メトルで体重はヒミツである。対して斧槍は、長さが2・2メトル、重さが15キログランである。



「で、こっちがアルの武器だ。同じく黒銀と白銀と聖銀の合金だ。前のより厚く重くしているから、威力は向上するはずだ。アルも命力を使えば武器の硬度がますからよう!」



 アルは新しい大鉈を手にする。アルの身長は1・90メトル、体重は110キログランまで増えていた。身長の割に体重がかなり多いが、今でもシルエットは細身である。筋肉がぎゅうぎゅうに引き締まっているからだ。対して大鉈は長さが1・7メトル、重さが15キログランである。ここにきて、アルの武器の重さがリズの武器の重さと並んだのであった。



「大将、1つ質問が!」


「なんでぇ、リズ」


聖銀(ミスリル)と命力について教えて!」



 聖銀(ミスリル)は聞いたことがある。だが、命力は初めて聞いた。そして、武器が硬くなるとか…謎が多い。



「あぁ!面倒くせぇな…まぁ、仕方ねぇな。命力(めいりき)ってのはだな…」



 そして、大将の講座が始まる。


 ◆命力(めいりき)

 ・探索者や狩人の尋常ならざる力の源。その正体は未だ解き明かされていないが、探索者や狩人は、生物を倒すことで、その生物の命の力を少しずつ吸収し、己の力=命力に換えているのではないかと言われている。聖銀(ミスリル)などの特別な鉱石に命力を流すことで、硬度を上げたり、特別な効果を得たりすることができる。



「ほへぇ…」


「リ、リズ。顔がだらしないよ」



 説明を理解しきれないリズの顔が阿呆になっていた。危うくアルも阿呆になりかけたが、リズの顔を見てなんとかとどまった。



「アル、理解できた?」


「いや、無理。命力とか、使うって言われても急に使えなそうだよね」


「今度、ギル兄に会ったら詳しく教えて貰おうか」


「だね。じゃ、大将、ありがとうございました!」


「…まぁ、なんだ。色々とがんばれな…」



 ◆◇◆◇◆◇



 アルとリズは宣言通り、怒濤の勢いで【戦いの塔】を攻略していく。それもそのはず。アルとリズは、【挑みの塔】の階層守護者(ガーディアン)である牛頭大鬼(ミノタウロス)を倒すほどの戦闘能力を保持しているのだ。能力的には、牛頭大鬼(ミノタウロス)より、かなり弱い人造生物であれば、相手にならないのである。

【戦いの塔】を攻略した者が【挑みの塔】に挑戦する場合、不足する能力は罠に関する能力だと言われている。罠の発見、解除、それらの技能さえ身に付ければ、【挑みの塔】の攻略は容易にできる。

 逆に【挑みの塔】を攻略した者が【戦いの塔】に挑戦する場合、不足する能力は集団戦闘に関する能力だと言われている。圧倒的な敵の数に対して、集団で対抗する為の戦略や連携さえ磨けば、【戦いの塔】の攻略は容易にできる。


 アルとリズは、二人だけでの連携はそこそこできるが、圧倒的多数を相手に対する戦略は持ち合わせていない。そこは、圧倒的な個の力で捩じ伏せて進んでいるのであった。



「アル、もうすぐ30階層だね」


「うん。この前はボロボロで辛勝だったから、今度は完勝したいね」



 アルもリズも牛頭大鬼(ミノタウロス)との再戦を楽しみにしていた。



 そして、30階層。二人の前に現れたのは…



「二体か…リズ、いける?」


「う~ん…頑張るとしか言えないわね」


「リズ、無理そうなら1度撤退しよう。命あってこそだし」


「アルこそ無理しないでね。いつも無理するのはアルなんだし」


「ふふっ、了解。お互いに無理は禁物。

 じゃ、行こうか」



 二人は堂々と二体の階層守護者(ガーディアン)である牛頭大鬼(ミノタウロス)へと近寄っていく。


 二体の牛頭大鬼(ミノタウロス)の咆哮。それに負けずとも劣らない二人の雄叫び。


 二体と二人が正面からぶつかり合う。


 剛の者と剛の者。小細工なしの真剣勝負。


 二人の気迫に呼応するかのように二体の牛頭大鬼(ミノタウロス)も小細工なしで、正面から力で捩じ伏せに来る。


 嗤うリズ。嗤うアル。二人は、この戦いを楽しんでいた。


 命を懸けたギリギリの勝負。


 己の持ちうる限りの力と技の試し合い。


 長い戦いの末に立っていたのはアルとリズ。


 二人ともボロボロであり、とても完勝とは呼べない見た目であった。



「アル、無理しないって約束じゃなかった?」


「そっちこそ」


「ふふっ…」


「「おめでとう」」



 こうして二人は弱冠14歳と数ヶ月で、史上10人目の【挑みの塔】【戦いの塔】の両方を踏破するという偉業を打ち立てたのであった。


 二人の伝説の第一歩はこうして歴史に刻まれていく。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇


第一部完です

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