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恋愛詩
廃墟が私たちに優しいのは、穴だらけだから。
隙間風が吹くほどに、
存在自体が仁清の透鉢みたいになった建物は、
誰も、何も、拒むだけの自由意志を持たなかった。
朽ち果てた生の残滓は、
いつでも私たちの目の前に、
剥き出しの体躯を横たえていた。
君と私も、そんな関係でいたかったんだけど、
私はやっぱり人間以外のものにはなれやしなかった。
君は夜の砂浜でずっと、
薄雲った銀色に輝くあこや貝を探している。
顔を、服を、足首を、砂と塩水に浸しながら。
夜が明けたら、貝はボロボロの炭片になって、
砕けてしまうのは私にだって分かってた。
仕方がないことも分かってた。
それでも私は朝日が昇る前に、
空の端が白む前に、
君に殺されてしまいたかった。
わざとらしく置かれた銀色の
ナイフを手に取った君に、
その切っ先を突き立ててほしかった。
私の胸から流れ出る血の色を、
月明かりの中で確かめていてほしかった。
ほんの僅かな間でも、
君の指先を、
私のためだけに使ってほしかった。
もう君は、私のことを見てはいない。