*消えない里程標5
月明かりが大樹を照らす。
十分、まおりに伝わる言葉で。
「まおりだけには、生きていてほしいから、後に何も無くなっても……絶対に、死ぬな」
そう言ったお父さんの表情は、覚悟を決めたようだったが、その声は、どこか悲しげだった。
そしてケーンを樹に向けた。
「意味がわからないよ、お父さん」
体が押しつぶされそうになる。
消極的な考えばかりが浮かぶ。
お父さんは、何をしようとしているのか。
「いずれ、すべてが解るようになるはずだ」
そう言って、お父さんは魔法を発動するため、ケーンの先に魔力をためはじめた。
「お父さん……」
それが終わると、上に向けていたケーンを振り下ろし、地面に向けた。
その先がさしているのは、大樹と地面の丁度境界だ。
魔法が発動され、地面に穿孔された。
穿たれた穴は、先が見えない、深くて暗くて、じっと見ていると吸い込まれそうな感覚になる。
お父さんの魔法を見られた、そんな興奮よりも、理由のわからない恐れが勝っていた。
お父さんはまおりを抱き上げ、穴の直上まで移動させた。
「やっ、なん、おとっ」
まおりは、抵抗しようと思うが、恐怖で体がうまく動かない。
「先ずは、ハルという男の言うとおりにしろ、そして、まおり、3年前の約束を思い出して」
それが、まおりにとって、お父さんの最後の言葉になった。
お父さんは躊躇なく自分の手をまおりから離した。
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