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14話 夢は意外と重要です


「英語に日本語、どこにでもあるファイルかぁ……」



教会に戻ってから、ジェードに事の次第を説明したら、椅子からひっくり返られた。それはそうだろう、と嵐は思う。

ちょっと出掛けて戻ってきたら、過去の遺産と今後の方針を持って帰ってきたのだから。おまえら非常識すぎる! と怒っていたが、びっくりしたのはこちらも同じなので、そんなのファインとレインに言ってよ! と言い返しておいた。

八つ当たりで怒られるのは大嫌いな嵐だった。


「おまけに、文章はパソコン打ち……これって、絶対にこの世界で作ったものじゃないよね……」


はあ、と大きく溜息を吐いたら、隣で寝ている快晴が身じろぎをした。

起こしたかもしれない、とひやりとしたが、どうやらただ寝返りを打っただけのようだ。規則正しい寝息が聞こえてきたので、ほっと肩の力を抜いた。

事の次第を説明して、ジェード達を今後のことを話し合った。と言っても、大まかな方針は遺産たるファイル――”予言の書”に記されていたから、どうやって行動を起こすか、が主な話し合いだ。その話し合いは夜遅くまで続いて、つい先ほどお開きになったばかりだった。月はもう天上をすっかり通り過ぎている。

だが、嵐はなかなか寝付けれなかった。”予言の書”が、気になって仕方がなかったからだ。

薄い水色のファイルは、嵐や快晴のよく知る安物のファイル。二つの穴を開けて金具で留めるという形式の。


(何だか、すごく変だ)


嵐はこのファイルの存在に、強い違和感を感じていた。

英語と日本語を使うということは、ファインとレインは嵐達と同じ世界から来た人間である――その理屈は分かる。だが、このファイルは。そしてパソコンで打たれたと思われるこの文字は。まるで、ファインとレインは嵐達と同じ時代に生きている人間ではないか。

確かに、この世界の300年がそのまま自分達の世界の300年とは限らないかもしれない。この世界の300年が、向こうの世界では一日だったり一時間だったりする可能性もある。だが、そうであるなら、嵐と快晴がこの世界に呼ばれる意味が、まったく分からなくなる。

何故なら、それほどの時間差があるならば、今も向こうの世界では救いの者達の役目を背負った彼らは”生きている”はずなのだから。彼らが同じ世界で生きている人間だとするならば、嵐と快晴がもしかしたら生まれ変わりなのかもしれない、という可能性は完全否定しなくてはいけない。

嵐と快晴は、一番最初に考えた通りの、まったくの無関係な人間。そうなるのだ。

そうすると、”塔”が嵐と快晴を呼んでいるという現状は矛盾する。不思議な石の力を使える理由も、分からなくなる。


(分からない、分からない、そればっかり増えていく)


嵐は、苛立たしさの中で思った。

過去の遺産は、確かにこれからの方針を示してくれた。だが同時に、謎も増やしたのだ。

この謎は、放っておいても良いものなのだろうか。それとも、きっちり解決しておくべきか。嵐の性格としては、後者を強く選択したい。だが、どうやって調べれば良いのか。謎を解くための方法すらも謎。八方塞がりである。そのくせ、これからの行動指針だけは明確。

誰かにすべてを決められていて、その通りに動くしか出来ない。ひどく嫌な状況だ。


「アラシ、眠れないのですか」


不意に聞こえたプリムローズの声に、嵐は顔だけをそちらに向けた。

並べて置かれたベッドの向こうから、プリムローズがこちらを見ていた。


「あー、うん、起こしちゃった?」

「いいえ、ずっと起きてました。私も、なかなか眠れなくて……、久し振りに、ファインやレインの言葉に触れて、すごく嬉しかったせいですね」


そう言ってから、プリムローズは照れたように、小さく笑う。

嵐もつられて小さく笑った。


「いいね、そういうの。僕は嬉しくて眠れないって、なったことないなぁ」

「私も初めてかもしれません。アラシ、ありがとう。グレイも、顔には出さないけれど、彼らの言伝はすっごく嬉しかったと思います」

「うん」

「グレイは、レインと約束しているんです。それを、300年間ずっと待っていて……でも、もう果たされないのだと諦めていて。アラシはそれを、ひっくり返してくれたんですよ。レインは、嘘は言いません。だからきっと、約束は果たされるのだと思います」

「ふぅん? どんな約束したの?」

「また会おう、って」

「また……会おう? レインが、グレイと?」

「ええ」

「……それ、どういう意味なのかな」

「? アラシ?」

「うん……、ほんと、”救いの者達”って、何者なんだろう」


嵐がぽつりと呟いた言葉に、プリムローズはやや考えてから、言った。


「あなた達に、よく似た人達でしたよ」

「僕と快晴に?」

「ええ。あの二人のほうが年はもっと上でしたけど、よく似ていました。顔もそうだけど、言葉とか、雰囲気もかしら。二人を見ていると、とても懐かしい気分になるんです。まるで、ファインとレインがここにいるような、そんな気分に。あ、もちろん嵐は嵐、快晴は快晴ですから、二人をファインとレインに重ねるようなことはしませんからね」


慌てて付け足したプリムローズの言葉に、嵐は苦笑を浮かべてから、「分かってるよ」と答えた。けれども、思考はすぐに別の場所に飛んで行く。

救いの者達。ファインとレイン。

同じ世界の人間で、おそらく、同じ時代の人間。

未来を知る不思議な力を持っていて、300年後のことも予見した。そう――自分達が去った後、別の人間がこの世界に呼ばれることも、知っていた。なのに、自分達はもう一度現われるとも予見している。

(レインは、グレイと約束しているんです。また会おう、と)

その再会の約束が、伝説上だけのものならば、それは後世の人達が作り上げた話である可能性もあっただろう。けれども、レインはグレイとも約束している。再会を。つまり、本当に二人はまたこの世界に来ると言ったことになる。にも関わらず、今この世界にいるのは嵐と快晴だ。

この矛盾は、一体何なのだろう。


「……アラシ、何か難しいことを考えていますか?」

「え、ううん。難しいことじゃないよ。ただ、いろいろ分からないことばっかりだから、それを考えてるだけ」

「そういうのを、難しいことって言うんです。何も考えないのは良くないことだけど、考えすぎるのも良くないことです。頭がどかーんって、なっちゃいますからね」

「どかーん、って」

「最後には知恵熱出しちゃうんですよ」

「はは、快晴じゃあるまいし。僕はそんなのならないよ」

「そうかもしれませんね。でも、やっぱり考えすぎるのは良くないと思います。夜はなおさら。……もう、寝ましょう。アラシ。朝になれば、考えても出なかった答えが、そこらへんに転がってる時だってあるんですから」


プリムローズの例えに、それはちょっと嫌だなぁ、と嵐は思った。思ってから、プリムローズの気遣いに素直に頷こう、とも思った。

確かに、夜の考えことは、身体に良くないだろうから。


「うん、そうだね。……おやすみ、プリムさん」

「はい、おやすみなさい。アラシ」


そう言葉を交わしてから、嵐は目を瞑った。

とりあえず、いろいろ考えるのは明日の朝からにしよう。夜は身体を休めて、ゆっくりするための時間なのだ。




―――*―――




そこは、ひどく荒れ果てた場所だった。

風が吹いても何一つ揺れるものはない。大地を潤す水が流れる事もなければ、木々が緑豊かに生い茂ることもない。ただ、赤茶けた土埃が舞い上がっているだけの場所だった。

そんな大地の上には、二つの影がある。

細長くそびえたつそれは、塔だった。煉瓦造りのその塔は、ただ煉瓦を積み立てただけのもので窓もなく人が住んでいる様子もない。あえて言えば、外壁には幾何学模様がペイントされているのが特徴か。

じっと、その塔を見上げた。


(――呼んでいる)


誰を? 快晴を、だ。

片方の塔に向かって、一歩を踏み出す。固く閉ざされていた扉は、まるであらかじめそうすることが決められていたかのように、目の前に立つだけでゆっくりと開かれていった。

不思議と警戒心は抱かなかった。

塔は快晴を呼んでいる。けれどもそれは、意図あってのことではない。目ざまし時計が設定された時間にアラームを鳴らすような感覚で、塔は快晴を呼んでいる。塔そのものに、意志はない。

だから快晴は、ためらいもなく塔の中へと足を踏み入れる。窓がないので、塔の中は暗い闇の中に沈んでいるかと思えばそうではない。壁にも足元にも一面に描かれた幾何学模様がうっすらと光を放っており、くっきりとまではいかないが中の様子は見てとれた。

けれども、塔の中はがらんどうとした空間。それだけだ。他には何もない。


「うっわー、何もないなぁ」


ぐるりと見渡しながら、快晴は呟いた。声は地面に吸い込まれるように消えた。


「そして、何も起こらない」


ほとんど確信を持って、快晴は呟いた。塔は今も呼んでいる。快晴が塔の中にいるにも関わらず、だ。

それが何故なのかを、快晴は理解していた。


「今度は、ちゃんと来るよ。嵐と一緒にさ」


次第にうっすらとぼやけていく風景の中で、快晴は呟いた。ゆっくり、ゆっくり、世界が遠ざかって行く。

夢が、終わりを告げようとしていた。




―――*―――




朝は誰の上にも等しく訪れる。

そう、幸せの絶頂期にいる人だろうと、不幸のどん底にいる人だろうと、老若男女区別なく。

ふと、快晴は視線を感じて目が覚めた。

快晴は、基本的に早寝早起き、寝付きも良ければ目覚めも良い。一度眠ってしまえばよほどのこと――例えば、妹に腹の上からダイビングされるとか――がない限り、途中で起きる事もない。……はずなのだが、今日に限って唐突に目が覚めた。

いや、少し前に山の中で一晩を過ごした時も、寝ている途中で眼が覚めた時があった。あの時は、周囲の殺気に反応したためだったが。


(ってことは、もしかしてまた殺気?)


快晴は背中にひやりとしたものを感じて、慌てて精神を集中する。

あの山の事件以来、命を狙われることはないが、また襲ってきたのだろうか。

やり方はもう覚えた。自分を基盤に、周囲に対して感覚の手を伸ばす。ゆっくり、大きく、広げるように。神経をより研ぎ澄ますために、目を閉じる。けれども、引っ掛かる不穏な感覚はない。あるのは、穏やかに発せられている嵐とプリムローズの気配、そして――


(えーと、これって何だ?)


ベッドの中で感覚を広げながら、快晴は眉根を寄せた。

部屋の入口近くに、二つの気配があった。部屋の中をうかがっている様子だった。その感覚を、快晴は良く知っていた。知りたい。見たい。近付きたい。小さな不安と大きな興味。いわゆる、好奇心。

ドキドキと心臓が高鳴っている感覚が、快晴の中に広がっていく。それは他人の感情ではあるけれど。

快晴はぱちりと目を開けた。

頭の中でいろいろ考えるのは、嵐の仕事だ。快晴は、考えるより動くほうが仕事。ならば、することは一つ。

(せーのっ)

心の中だけで掛け声をあげながら、快晴は一気に布団を蹴り上げて、起き上がった。そして、これまた一気にベッドから飛び降りる。一気に動いたせいで、背中から嵐の「うわっ!?」と驚く声が上がるのが聞こえたが、ごめん嵐、とこれまた心の中だけで謝るにとどめて、足が床についたと同時に走った。すなわち、ドアのある方向へ。


「うりゃぁっ」


快晴はドアの前に立つなり、一気に扉を押し開く。同時に、「きゃぁっ」と舌足らずな悲鳴が上がる。

続いて、どすん、と倒れる音が二つ。


「……お前らか? 覗き見してたのは」

「な、何だよっ」

「お、脅かさないでよ!」


ドアを開いた体勢のまま、快晴が呆れたように言うと、廊下に尻もちをしたままの二つ小さな影が、抗議の声を上げた。

それは、年の頃は10にも満たない子どもだった。片方は少年で、片方は少女である。どちらも身体よりも一回りは大きいだろう服を身につけており、その服も相当に古いものと一目で知れた。だが、綺麗に洗われているのか不潔感は感じさせない。

少年と少女は、廊下に尻もちをついたまま、抗議の視線を快晴に向けている。が、どこ吹く風と受け流して、快晴は廊下を見渡した。


「何だ、びっくりして損した」


廊下には少年と少女以外誰もいないことを確認すると、快晴は大きく息を吐いた。

と同時に、後頭部にゴツン、と強い衝撃が走る。ぎゃ、と快晴が悲鳴を上げてから、後頭部を抱えてうずくまった。


「びっくりしたのは僕だっての。何だよいきなり」


嵐は拳を握りながら半眼となってうずくまる快晴を見下ろしてから、廊下に座り込んだままの少年と少女に気付く。そして、きゅっと眉根を寄せた。


「何、君たち」

「なっ……何って何だよ!」

「そ、そうよ! いきなり何はないでしょ!」


ほぼ同時に上がった批難の声に、嵐の眉根はますます深く刻まれる。


「キンキン怒鳴らないでくれる? 子供の声って頭に響くんだよね。僕はまだ眠いんだよ」

「なっ――」

「自分だって子供のくせに!」

「君たちよりは大人だよ」

「だいたい、昨日いきなり現れておいて、挨拶もないってレーギに反するんじゃない!?」

「そっ、そうだよ! こういう場合、ぼく達が先に住んでたんだから、挨拶くらい当たり前だろ!」

「屋主には挨拶したけどね。だいたい君ら、誰さ」

「誰って――」

「っだー! 俺をほっぽって話を進めるなー!」

「あ、快晴の復活」


がばりと勢い良く立ちあがる快晴は、まだ半眼のままの嵐を見てから、次いで自分たちの胸辺りまでしか背丈のない少年と少女を見る。


「そういやお前ら、昨日もこの家にいたよな? ちらっとだけ見た」

「ふーん。……近所の子?」

「違う!」

「あたしたちは、ここに住んでる!」


嵐の疑問に答えたのは当の少年と少女だ。続く疑問を口にしたのは、快晴だった。


「住んでる? あ、君たち司祭さんの子?」

「……」

「……違う」

「? 違うの?」


途端に口を閉じた少年と少女に、快晴が首をかしげる。と、足音が聞こえて顔をそちらに向けると、グレイが廊下を歩いて来ていた。

そして、グレイが言う。


「――司祭は妻帯を許されてはいない。この子らはこの教会に世話になっている孤児だ」

「え……」


しまった、と顔を歪める快晴に、嵐は一つ溜め息をついてから、


「どっちにしろここに住んでるんでしょ? で、何か用なの。用もないのに君達はここに来て、僕の貴重な睡眠時間を削った、なんてことはないよね? もしそうなら、かなり相当ものすごくとっても不愉快なんだけど」


そう言いきった。腰に手を当てながら続ける言葉は、欠片も気遣いという配慮は見えない。顔も不機嫌そのままだ。

が、快晴は台詞の内容にはやや頬を引きつらせながらも、少しだけほっとしたように肩の力を抜いた。当の子供達は絶句した顔を嵐に向けていた。


「アラシ、いくら何でもそれはないだろう。もう昼が近い」


グレイが呆れた口調を滲ませながら、窓の外を顎でしゃくる。

確かに窓の外の太陽は、だいぶ高い位置にある。もっとも、太陽は二つあるのでどちらを基準にしているかは分からないが。どちらにしても、じきに中天に差し掛かる頃ではあった。


「……昨日は遅かったんだよ」


言い訳のように嵐は呟いてから、仕方がなさそうに着替えるために部屋に戻って行くのだった。




「遅いぞお前ら」


食堂に行くと、ジェードがテーブルの上に大きな地図を広げていた。


「じぇ~ど、お出掛けでもするのれすか~」


ややぼんやりとした顔で尋ねるのは、声も顔も寝起きモードのままのプリムローズだ。舌がきちんと回っていない。

そんなプリムローズにジェードは呆れた視線を寄こしてから、塔への行く道のりだがな、と切り出した。


「塔?」


快晴が不思議そうな顔で尋ねるのは、綺麗にスルー。


「まずはな、予言の書に書かれていた必要な物の手配はさっき連絡を飛ばしたから大丈夫だ。ただその受け取りをこの町にすると、半月はかかる。そうも時間を掛けていられんだろう」

「そうだな。魔物の活性化は日に日に激しくなると思う。塔の限界もそれほど遠くはない」

「え、塔に限界があるの?」


嵐が目を丸くしてグレイを見る。グレイは頷いた。


「ある。建物も300年間、ずっと雨風に吹きさらされているし、稼働し続けている状態だからな。正直、爆発せずに動き続けていることが信じられない」

「すっげー、長持ちだな」


快晴が素直にずれた感想を言って、嵐が軽く後頭部をはたいた。


「いたっ」

「長持ちとかそういうレベルじゃないでしょーが」

「そっか?」

「まぁ、基礎構造はユウリエが提案したものだから、特別なのだろうな。あいつは俺達以上に特別だ。それで、どの道筋で行くつもりなんだ?」


グレイの質問に、ジェードは地図の一点――おそらくこの町のことだろう――を指さしてから、すっと、一直線に引いた。

地図上の距離は10センチ程度、行きつくのは山しか表示されていない中に二つの小さな塔の絵が並んでいるだけの場所だった。やや目を丸くするグレイとプリムローズに、グレイはニヤリと唇を歪めて笑う。


「最短行程だ。このメンツなら、多少危険が伴っても大丈夫だろ」

「だからといって、一直線に進むのはどうかと思うが……」

「いいんだよ。まあ、休憩と荷物の受け取りがあるから、幾つかの町には寄らなきゃいけねえがな。ただ、おおまかな道筋はひたすらまっすぐ、ってことは違わない」

「それ、とっても分かりやすいルートだけどさ……またグレイさんにテレポートで塔まで送ってもらうのは駄目なの?」

「テレポートとは、転移魔法のことか?」

「うん」

「転移魔法か……それは難しいな。塔の周囲は魔物が多い上に魔力の乱れが激しい。運が悪ければ、魔物のど真ん中に出る」

「それは……」


全力で遠慮したい。グレイの返答に、すごすごと引っ込む嵐を見て、ジェードは少し笑った。


「何、ある程度の距離までは転移魔法で行かせてもらうさ。もう、”ドラゴン・ロード”には登りたくねえからな」

「同感だ。なるべく早く塔に辿り着きたい」

「それにさー、塔のアラーム、ずっと鳴りっぱなしみたいだし。あれが鳴りやんだら、多分、ヤバいと思うよ」


何気なく呟いた快晴の言葉に、三人は目を丸くした。


「え、いきなり何言ってるのさ、快晴。アラームって何の話だよ?」

「嵐には聞こえないの? 塔は俺達に早く来い、もうすぐ塔が壊れる時間がきましたよーって言ってるの。ほら、目覚ましと同じ感じでジリジリ鳴ってるんだ」

「アラーム?」

「決められた時間になったら、それを教えてくれる機能だよ」

「それは便利だな。だが……カイセー、それはいつ知った? いや、そのアラームってやつはいつまで鳴り続けていそうだ?」

「えーと、知ったのは昨日の夜かな。夢で見たんだ。ただ、嵐がいなかったからすぐに帰されちゃったけど。アラームがいつまで鳴ってるかは分からないよ。今すぐ止まる感じじゃなかったけど……え、何? 俺そんなに大変なこと言った?」

「自覚なしかよ!」

「さすが、天然記念物並みにものすごく鈍いだけあるよね」

「それ、褒めてないよな?」

「褒め言葉に聞こえるなら、耳鼻科に行くことをおススメするね」

「ムカつくー!」

「ガキ共、笑える会話はそのへんにしろ」


ジェードは言ってから、いや笑えねぇか、と言い直した。

そうですね、と頷いたのはプリムローズだ。その隣にいるグレイも、やや顔色が悪くなっている。


「塔がそこまで限界に近付いていたなんて……ジェード、出立は早めにしなくてはいけませんね」

「まったくだ。明日には出るぞ」

「分かった」

「はい」


グレイとプリムローズが力強く頷いた。

自分の言葉が何やら空気を変えてしまったことだけは分かるのだろう。快晴はやや居心地悪そうに身じろぎしてから、嵐に小さく囁いた。


「俺、そんなにヤバいこと言った?」

「そんなことはないけど、それを理解してないことはある意味ヤバいかもね」

「うーん」

「まったく。もう少し自覚を持ちなよ。次に行くのは”封印の塔”なんだよ。ゲームで言えば、ラストダンジョンってところじゃない? ラスボスがいるかは分からないけど」

「へー……ラストダンジョンかあ」


感心したように呟いてから、え、と固まった。


「もうラスダンーー!?」


その驚きっぷりに、本当に今の一連の話を理解していなかったんだな、と嵐は大きく溜め息をつくのだった。


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