目覚めた先
夢を見た。非常にわけのわからない、狂った夢を見た。
人々が虐殺され、拠点を蹂躙し、文化を破壊する。被害をこうむった側は怒りに身を任せ力を振るい、殴っては殴り返されるノーガードの応酬。いつしか彼女はそれを憂い、仲間を集めて解決に奔走するが、報われず、不条理な暴力にさらされて、何もかも奪われる、そんな不吉で、救いのない夢。
戦っているのは人間だけではなく、長い耳をした人や、下半身が魚の人もいた、まるっきり醜悪なモンスターも悪鬼羅刹に顔をゆがませて暴力を振るっていた。こんなゲームはあったら買うかもしれない。でも、店頭PVでもなく、ましてやこれほどまでに負の感情が色濃く感じられるのはどういうことだろうか。
まるで実際に起こっているみたいな…。
ああ、なんだか湿っぽいな…、今頃は朝だろうか。大学もまだ授業が今期分は残っている。始発に間に合うようにしないと…。
…カサっ。
?
何だこの感触は。動くたびに何かが揺れて俺の頬をくすぐる。そしてどこか土臭い。土砂降りでも降ったのだろうか。尋常じゃなく肌寒い。まだ夏のはずなのに…なんだっていうのか。
「ん…」
うっすらと日光が目に差し掛かり、寝ぼけ眼ながら目を開く。朝焼けに燃える朱色と藍色の織り成す様は一種の芸術と期待感をくれる…は?
いま俺は自分の体を預けているものを見て唖然とした。
「なんで…おれは木なんかに背もたれているんだ…それに」
辺りは黒く焦げたものしかなく、雨が降ったようで湿気が大変なことになっている。つまりいまいる場所と状況を合わせて考えると…少年、雨嶺 真桜は叫ぶしかなかった。
「なんだよここおおおおおおおおおお!!!」
まるで田舎の山岳部にでも移送されたようなシチュエーションに俺は驚愕を通り越して軽く錯乱しかけた。地球だよね?さすがにここが地球じゃないとかだったら怖いんだが…見たことない動植物ばかりで。だがよく見ると俺の格好は見慣れない服に身を包んでいる。
動きやすいワイシャツと黒い麻でできたズボン、ブーツ…。
自分がゲームそのものに入ってしまった違和感が俺を襲う。とりあえず、いかなきゃ…。
「誰か…話の通じる人を探して情報を得なければ…」
こんな人里離れた山の中に一人ぼっちで飢え死ぬのは勘弁したい、そう考えながらあまり傾斜の激しくない坂をゆっくりと下り始める。ギャアギャアと鳥のような鳴き声が大きく響き、それが余計にサバイバル感を刺激し、感覚過敏にさせる。でも、不安はこれだけじゃなかった。仮に人に出会えたとして言葉が通じるのか、また、俺はここの知識をまったくと言っていいほど持っていない。
なるほど、2次元の世界は甘くなんてなかった、むしろ過酷そのものだと思う…。
太陽がようやくのぼり、朝焼けから朝へと昇華する。
にしても本当に自然しかない。さっきから川の流れる音が聞こえるのはいいんだが、木々が生い茂るせいで視界が全く開けない。もう少し見晴らしが良ければ音のありかを突き止めるのも簡単だろうに…。
途中、それから数分後の出来事だった。なにやらうごく物陰が見え、近づいてみるとそれは体長3メートルもあるような熊であった。本来なら危険を冒してでも近づく必要のない動物ではあるが、どうやら幸運だったらしい。…川だ。
熊は川で魚を獲っていたのだ。この川を辿っていけばおそらく山を下ることができるはず。俺はそう確信して歩みを進めようとしたのだが…熊がいまだに場を立ち去ろうとしないのだ。冗談じゃない、こちらはまだ何も口にしていないし、口にできるか、生をつなぐことができるかどうかも怪しかった。ただでさえサバイバル知識なんてものは持ち合わせていない。内心苛立ちながら握り拳をくっと握る。
「ぴるるるるるるるるるるるる!!!!」
「!?」
その時、上空から何か大きい影がこちらめがけて突っ込んでくるではないか。普通の鳥をしのぐ猛スピードで突進を決め込むつもりなのか…?だが、予想は外れ、その飛来した者は熊めがけて突っ込んでいく。あまりのスピードに戸惑ったが、正体をみると人間の上半身に両手の翼、下半身の鉤爪…ゲームとかでよく見るハーピーなのだろうか。
「ぴるるるるるるるる!!!!」
「ガアアア!!!」
互いにけん制しあい、注意がそれたところを静かに駆ければワンチャンあるかもしれないーーー、そう思い機をうかがい、駆ける。息を殺し、音を立てないように走る。まさかこんなイレギュラーな事態にいきなり遭遇するなんて本当に運がなかった。
気づいたらハーピーがこちらを捉えて、標的をこちらに変更してきたのだから。
真桜くんいきなりピンチ
感想おまちしてますー