俺とお前の狭間に
道端に咲くたんぽぽは、行き交う車にも笑顔を振り撒く。
やがて、空を飛べるから。
ふわりふわりと飛べるから、夢見るたんぽぽは、いつも笑顔でいる。
昨夜初めて浮気をした。
笑顔のたんぽぽに、笑顔で返せなかった。
通勤車の渋滞する二車線の道路をまたがる歩道橋で、眩しさに目を細めながらキスしたのを最後に、その子とは別れた。
お互い恋人がいる者同士だから、二度と連絡とれないように、電話番号も名前も教えなかった。
帰り道、船が浮かぶ海を眺めながら、海岸線を歩く。
潮風が俺を取り巻いて、その子の甘い匂いの香水が再び俺を包む。
トーストの芳ばしい香りが、由紀乃(恋人)が居る事を教えてくれる。
ふと握った携帯電話…
ごまかして、時計を見るにとどまった。
部屋の中、着替える服に想いは揺らぎ、遥か遠い水平線に目を背ける。
体全体を揺らす鼓動が、一割増しのスピードで時を刻む。
そしてまた、色褪せた黄色い街並みに身を潜める。
笑顔の由紀乃に罪悪感を覚え。
俺の曇った眼に疑いを持つ。
それでも二人星空を眺める頃は、由紀乃という一人の女だけを愛す。
音立てるベッドで二人踊り出す。
この世に性の欲求などなかったら、人類は滅んでいた。
愛する事と欲求のバランスがうまくとれていないのは、神が男だったからなのかと…
野生動物に見る一夫多妻が、今も受け継がれているのだろうかと…
また二人青い街並みに消えていく。
そして通勤車の渋滞する二車線の道路をまたがる歩道橋で、悲しさに泪を浮かべながら、目を合わせたのを最後に、由紀乃とは別れた。
懐かしい潮風が、俺を激しく突つく。
緩やかに見せて激しすぎる海に、幾つもの想いを投げては、しまい込み、忘れたフリして、またいつか引き出して。
ぽっかり空いた穴は、由紀乃がいなくなった現実を教えてくれる。
ビルに沈む太陽は、ビルの裏で、また新しい朝を送っている。
人生はそんなものだと…
また次があるさ…
気が付くと由紀乃の家の前。
太陽はビルの向こうで、また″同じ朝″を送っている事もある。
その日、俺は由紀乃を抱いた。
地球に産まれた朝から一年間、母のニップルにしがみついた。
そして今は由紀乃。
道端に咲くたんぽぽは、行き交う車にも笑顔を振り撒く。
やがて、空を飛べるから。
ふわりふわりと飛べるから、夢見るたんぽぽは、いつも笑顔でいる。
幸せな未来を夢見て…