魔王
まだ異世界無双しません!
よろしくお願いします
私、ミズナミ・ユウコ19xx年生まれ、24歳。
本名■■■■
職業は女優。
フリーターだった私がひょんなことから特務機関エレメンツに加入することになりました。
所属したら昼は女優、夜は特務機関の構成員として 東奔西走、毎日が激動の日々だったわ。私が活躍するうちに最初「女は感情的すぎるから入れるな」と難色を示していた人も黙っている。当然だ。私は誰よりも冷静だから。両親が何者かに殺された、あの日からずっと。
そんな中、国際的テロ組織【焔】から暗号文が流出したの。
解読された内容は二つ。【焔】首領の名前、そして東京へ向かう新幹線に核が積まれているという情報だった。
罠ではないか、という声も上がった。
それでも、動かないわけにはいかなかった。万が一本当だったら――大惨事では済まない。しかも決行日は明日。非番でリフレッシュ休暇中の私だけが、時間的に間に合う唯一の人間だったからだ。
後に、この選択を悔いることになる。
今回の任務は2つ。
1つ目、東京へ向かう核が積まれた新幹線の停止及び核の無力化。
2つ目、【焔】の首領の無力化。
そういうわけで、駅に着いた瞬間、ちょうど新幹線が滑り込んできた。
気配を消し、全車両をざっと確認する。核らしきものは見当たらない。乗客の気配も、ない。
――いや。
一人だけいた。少年だ。
色白で顔立ちは整っている。白髪と体格のせいか、どこか病弱な印象を受ける。ブレザー姿——学生か。あるいは……。
少年はロイヤルシートに腰を落ち着け、スマートフォンのニュースを大音量で垂れ流しながら、優雅にくつろいでいた。
少年を観察するが何も得られなかったので反対側の席に座った。
とりあえず情報を引き出すか…
少年に声を掛けた。
その後、警戒でもされてるのか名前すら教えてもらえなかったが、自分の事で無視できない情報が出てきたのだ。
『ミズナミユウコの電撃結婚』
…胸騒ぎがする。
少年に盗聴器をつけてから急いでマネージャーに電話をかける。
ツーコールで応答があった。
『…もしもし』
出てきたのは知らない男の声だった。
「もしもしこちらミズナミユウコです。今回の会見のことでマネ・ジロウさんに繋げてくれませんか?」
番号は間違っていないから代わりの人かなと思い、マネージャーに代わってほしいと頼んだのだが…
『私がマネジロウです。…やはり首領の予期していた通りだった』
その一言で私の背筋が凍り、男の話は続く。
『あなたはまんまと誘い込まれたんですよ…。鉄の柩にね…』
首領、罠、柩、成り代わり、核…色々なキーワードが頭の中を飛び交い、一つの恐ろしい結論に辿り着く。
まさか…女優ミズナミユウコの正体が割れたのか…!?
そしておそらくこの新幹線ごと私を排除しようとしている。
「…【焔】…そういうことね…」
素性の割れた秘密組織の構成員なぞ犬の役にも立たない。
しかし、2年の間にこの程度の危機は何度も乗り越えてきた。
『あなたの置かれた状況をご理解いただけたようで恐悦至極です。…ウェイブさん』
電話から慇懃無礼な声が流れてくる。
「もう一つ質問、会見に出ていたあの人は一体誰?」
今、一番疑問に思っているところを口に出した。
『アレは我々が雇ったあなたの身代わりです。彼女スゴイですよ~。なんせ麻酔無しで整形しましたから。…さてそろそろいいですか?』
「そうね。聞きたいことはだいたい聞けたから良いわ。ここから出たら覚悟しなさいね」
電話を切った。少し頭を整理し、一息つく。
あの少年からは何の音声も聞こえなかった
となると…
カマをかけてみるか…
「…」
女優で培った技術で顔色を悪くし、座っていた場所に戻る。ついでに少年に聞こえるように最低限の音量で「嵌められた」と漏らす。
すると少年は勝利を確信したのか自ら名前を名乗った。
…マガネ・リョウと。
直ぐにでも無力化したいところだが利用されているだけの可能性もある為、ここで何をしていたのか質問するが、家出などというありきたりな理由でかわされる。
また少年は答えている最中、表情は普通だったが、スマホをいじる指がせわしなく動いていた。
(…黒よりのグレーといったところかしら。…ん?少しスピードが上がったかな…?)
すると少年から自分に対しての質問が来た。
(かかったわね!)
「ああ!!」と動揺したかのように声を上げる。
少年に特務機関のエージェントであること、コードネーム:ウェイブであること、暗号文の爆発のことを全て話すが少年の表情は変わらない。
(…9割)
そこで最後のひと押し
「これは私一人を始末するためだけに用意された罠」
「…そうよね。リョウ君?…それともテロ組織【焔】のリーダーとでも言おうかしら」
すると少年…いや、ヤツの変化は劇的だった。
表情は、ドロリと嘲笑喜悦傲慢の入り混じったものになった。
雰囲気も蛹から蝶になるように、いや――
脆弱な人間という殻を破り捨て、その中から粘液と共に、深淵の怪物が這い出してくるような、吐き気を催すほどの変貌だった。
凄まじい悪意を感じる。これほどの怪物怪物には今までお目にかかったことがない。
ヤツは立ち上がり、無防備にも私に背を向けて通路の真ん中にまで歩く。私も自白剤の入った注射器を袖口に用意し、後を追う。
ヤツは私を褒めた後、暗号文について答え合わせをしていたが、ここで特務機関も標的だったという、予測して然るべきだったことを告げた。
思わず動揺の声が漏れてしまい、特務機関を逆に殲滅させるなんてことできるはずがないと思い込もうとする。
(…違う…!…そんなこと…)
が、その思考を読んだかのように逆探知という方法があることを告げられる。
(逆探知…電子ウイルスだわ!)
ヤツは余裕綽々といった感じでタバコを取り出し、口に付けた。
その目が電話してみろよといった感じだったので、乗せられるのは気分が悪いと思いつつ、ヤツから目を離さずに耳に仕込んだ小型電話で連絡する。
まず最初に特務機関加入時に世話になったフォレストに連絡するが、フォレストは音信不通。嫌な汗が流れる。呼吸が浅く早くなる。
(…こんなんじゃ任務を遂行出来ない!落ち着かないと…!)
十年長く機関におり、紛争区域で死にかけたとき助けてくれて、誕生日ケーキを一緒に食べたりしたウィンドに連絡する。繋がった。安堵の息が漏れる。
…しかし、それも本部とコードネーム持ちのほとんどと連絡が取れないという情報と共に途切れてしまう。…一発の銃声によって。
(…ウィンド…)
胸にぽっかりと穴が開いたような気がする。
動揺しているのを悟られないように静かに深呼吸をする。無意識のうちに歯を食いしばっていた。
そこでヤツのフザケタ信じがたい妄言が聞こえた。
「な? お前が悪いんだよ。お前が俺らを追い詰めたからこんな自爆みたいな手段を採るしかなくなっちまったんだ。焔でもってこの世を浄化するという崇高な目的があったのになぁ」
思考が空白になる。
…安い挑発だ。そう思い込もうとする。普段の私だったらそんなことを気にせず任務を完了させていただろう。
…しかし、これまで一度も人を憎んだり殺したいと思ったことはなかったが
——今は、違った。
腹の底から、どす黒い塊がせり上がってくる。
(…コレマデイキテキタコトヲコウカイサセテヤル)
「お前は…絶対にゆるさない」
私が睨みつけてもなお、ヤツは面白い喜劇をみているかのように嘲笑している。
弔いのつもりで、ウィンドとフォレストのことを思い返す。フォレストは去年結婚したばかりで、先月「子供が生まれる」と嬉しそうに話していた。
「あーガキもいたのか~んじゃあそいつも始末するようにしとけばよかったなw」
思わず手が出る。最初の一撃で、奥歯が二本。ヤツの顎が嫌な角度に跳ねる。
止まらなかった。
脇腹に膝を入れる。三本折る——全て肺に突き刺さるようにする。
ヤツは痛みのせいか膝をつき、荒い呼吸をする。吸うたびに、ヒュー、と濡れた笛のような音が混じる。
「立ちなさいよ」
「俺に…ごほっ、命令すんじゃねぇ」
血の塊を吐き捨て、ヤツは床に手をつく。折れた肋骨が、動くたびに軋んでいるはずだった。それでも——立ち上がってしまう。
(コイツノイッキョシュイットウソクノスベテガイラツク。ナゼイキテイルノカ。ナゼヨワイノニタチアガルノカ。ナゼワラッテイル。)
肺に穴が空いてなお、不気味な音を漏らしながら嗤っている。
ヤツが拳を振りかぶった。右のストレート。
——遅い。
所詮、素人の一撃だ。首をわずかに傾けるだけで、拳は頬の横を素通りしていく。風が頬を撫でた。がら空きの顎へ、左の肘を叩き込む。
ゴッ、と鈍い音。ヤツの首が仰け反り、視線が宙を泳いだ。
これで沈む。
——その時だった。
ドン。
音より先に、衝撃が来た。
世界が、白く灼けた。
(核——)
その一語が、頭の中で爆ぜる。間に合わなかった。止められなかった。
いや…言い訳だ。私情と感情にとらわれてしまった。
(まさか…核は新幹線に搭載されていたのではなく…元から東京駅に…)
ヤツの体が、私の肘から離れていく。その軌跡が、コマ送りのように見えた。床が消える。壁が消える。重力の向きはめちゃくちゃだが何とか受け身を取る。
爆風の中、ヤツの唇が動いた。声は聞こえない。それでも、読めた。
——勝った。
(ふざ、けないで……)
天井が迫る。金属の軋む絶叫。窓の外が、太陽みたいに白…
————一瞬意識が途切れていたみたい。
全身の半分が焼けただれている。自慢の黒髪も焼けている。私はもうすぐ死ぬだろう。…でも最後にやり残したことがある。
ヤツハドコダ。
——ミツケタ。
10分ほど這いずって何の声も動きもないヤツに近づく。ヤツの顔面を殴る。殴った所が赤くなる。 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴——
殴打音から水っぽく何かが割れる音がしても殴り続けた。
気がつくと私の下で、ヤツだったものは——もう、顔の輪郭をしていなかった。
力尽きて後ろに倒れこんでしまう。
最後に浮かんだのは——ウィンドが不器用に焼いた、誕生日ケーキの、歪な形。
(あったかかったな)
ぷつん、と。
糸が切れるように、世界が消えた。
《こんにちはマガネリョウさん》
ん? あんたは? あ~俺死んだからここ天国でしょ?
《似たようなものですね》
ほーん。じゃあやっとこさ俺の働きが認められたってことか~
《正直、あなたの■■を讃えて神の位に押し上げたいところなんですけどね》
え~神なんてつまんねーよ。時代は肉だよ神サン!
《あなたならそう言うと予測していましたよ》
んで? 俺をここへ呼んだんだ。今度は何をさせるんだ?
《今世の最後で戦った相手を覚えていますか?》
あーあいつかー
うん。覚えてる。そいつがどうかしたのか?
《次世であなたに復讐したいそうです》
へぇ~逆恨みじゃん(笑)
《どうしますか?》
どうもこうもねーよ。とりあえず行けばいーんでしょ行けば。
神の約束は拘束力があるからね。しょうがないね。
《今世の■■を讃えて恩寵を10個ほど用意しようと考えてますが》
え、多くね汗
そんなに考えつかねーよ(笑)
ま、いいか
じゃあ、1つ目、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
《正気ですか?》
うん正気も正気。2つ目、丈夫な体。これ絶対。前世、病弱でさ〜マジ萎えたんだよね。すぐ息切れすんの。今度は頑丈なやつがいい。
《承知しました。頑健EXですね》
3つ目、俺が吐いた嘘がさ、相手が「本当だ」って信じた瞬間、本当になる——そういう力。
《…それは》
いいでしょ~? 俺なりに考えたんだよ。剣だの魔法だのダルいじゃん。脳ミソ使ったほうが面白い。
《…虚実転換EXですね》
よっしゃ。じゃあ4つ目、金。そこそこ多めくらいでいい。
4つ目、えーと……
…あー、もう思いつかねーわ。
そんな毎日チートのこと考えて生きてねーんだって。残り、そっちで適当に見繕っといてよ。あ、便利なやつね、便利なやつ。ハズレ寄越したら化けて出るからw
《残る恩寵は、こちらで見繕い、預け置きます》
おっけーおっけー。話の早い神サマで助かるわ。
《——では、この門を》
じゃあ、バイビー
《いってらっしゃいませ》
笑いながら、マガネリョウは光の中へ消えた。
《次世も、せいぜい——掻き乱してくださいね》
特務機関…世界の平和を守るために活動中。
現在ほぼ壊滅状態




