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新メニューの条件

 某カレーチェーンのN駅公園通り前店の閉店後。

 その日は終礼が終わっても誰も帰らなかった。

 全スタッフとオーナー、そしてSVの山本が一堂に会し、難しい顔をしてカレーらしきものを食べている。


「美味いんですけどね・・・」

 あるスタッフが口を開いた。

「けど?」

 その試作品を担当した店長が聞く。

「カレーじゃないんですよね。。。」

「そう。ビーフシチューって感じ」

「だからハヤシライスだよね」

 口々に感想を漏らす。


「まじか。。。もう分からん、舌がゲシュタルト崩壊起こして来た」

 店長が頭を掻く。

「わかる!カレーばっかり試作してるとそうなるよね。『カレーってなんだろう?』って分からなくなる」

 SVの山本が同情を示す。


「しかし、改めてカレーの新作って難しいものですね。美味ければいいってワケじゃないから」

 オーナーがパンフレットを見ながら呟いた。

 チェーン全店参加の企画メニューコンペがあり、そこに参加しようと試作をくりかえしているのだ。


「はい。カレーは多くの人にとってかなりハッキリとしたマインドセットが形成されています。『カレーとはこういう食べ物である』って。だからそこを外しちゃいけない。新しくて美味くて、そして多くの人の『カレー』を外さないメニューを作るのは本当に難しいんです。だから、たいていはカレーは王道を抑えつつ、トッピングで変化を出します」

 山本がオーナーの感想を補足する。


「でも、中にはあるじゃないですか。ほとんどトマトソースなのにトマトカレーって名乗ってるヤツ」

「〇屋ね」

 スタッフ達が某牛丼チェーンの例を出す。

「あれは本業が牛丼屋だからね。カレー屋に来る人はカレーを食べに来る。そして多くのカレー好きが来る。そういう人達には『美味いけどカレーじゃない』と思われたらアウトなんだ」

 そこは譲れないとばかりに山本が口を挟む。

 SVはフランチャイズの加盟店と本部の橋渡しをする存在。こういうコンペは基本的には加盟店で自由に考えてもらいたいのでアイデアは出さないが、ブランドイメージを大きく外れない為の調整は行うのだ。


「じゃあ、やっぱりトッピングで勝負するか・・・」

 オーナーが呟く。

「でも、カレーのトッピングなんて出尽くしてません?」

「話しがループしますね・・・」

 実際、この議論は何周もしている。


「近藤さん、何かありませんか?」

 あまり発言をしないスタッフに山本が意見を振る。

「カレー好きとマインドセットの話なんですけど・・・」

 それを受けて近藤と呼ばれたスタッフが言った。


「おう!何かあるの?!」

 普段寡黙な近藤の発言にオーナーの目が輝く。

「はい。しょうもない意見なんですけど・・・」

 柔道をやっていたという大きな背中を丸めて近藤が言う。

「いや、しょうもなくていいんだよ!」

 店長が急かす。


「店のカレーと家のカレーって違いますよね。後、カレーって、カレーであればよくて、必ずしも特別美味く無くても良い。というか、さほど美味く無くても食べれてしまうのがカレーだと思うんです。カレー好きはいつも美味いカレーを食べてるワケじゃないし」

「ん?ちょっとよく分からない。どういうこと?」

 店長が首を傾げ、近藤は更に大きな体を小さくすくめる。


「近藤さんは家でどんなカレーを食べてるんですか?」

 山本がフォローを出した。

「カレー自体は安いレトルトです。トッピングは栄養考えて色々します。変なトッピングしてもそれなりに食べれてしまうのがカレーというか、そういう食べ方してる人多いんじゃないかと」

「具体的には、どんなトッピングします?」

「納豆、チーズ、卵、魚肉ソーセージなんかです」

「ああ!一人暮らしアスリート飯ね」

 山本が補足する。タンパク質を多く摂取する必要があるアスリートは、近藤が上げたような、無調理でタンパク質が摂れる食品を多用するのだ。


「なるほど。店では無いけど、家では馴染みのある雑なトッピングか・・・」

「しかし、流石にコンペに出すには地味かも」

「でも方向性はいいんじゃない?」

「それなら!」

 と一人が手を上げる。


「ゴハンが足りない時って色々増量しません?パンとか餅とか冷凍うどんとか」

「分かるな。ウチも予想外に子供が食べた時は、親は買い置きの焼きそばなんかを焼いてそれにかける」

「そうすると、逆に子供がそっちを食べたがったりね」

「あるある。でも、そういう雑な食べ物って、意外に美味いんだよね。背徳感があって」

「というか、焼きそばにカレーかけるのって新潟のソウルフードですよ。カレーイタリアンっていうんですけど」

「いや、それ、イタリア要素ないじゃん。。。」

 会話が一気に盛り上がった。


 気が付けば終電間近。

 その日は解散し、後日出た意見を元に店長、オーナー、山本でさらに練ることになった。


 そして、試作をしてはスタッフ全員で議論を何度も繰り返す。

 


 数か月後。

 開店前の店舗に宅配便が届いた。 


「来ましたね」

 とスタッフ。

「ホントにやるんだ」

「えっ何?おー!」

「あっ!見せて見せて!」

 細長い段ボールを開封しているとスタッフが一人また一人と集まって来る。


 中味を広げると、それは店頭用のポスターだった。


 +――――――――――――――――+ 

  背徳!主食のトッピング!

   焼きそば、

   ペペロンチーノ

   ガーリックトースト  各〇円

 +――――――――――――――――+ 


「材料は別便で届くとのこと。そしたら今日閉店後試作とオペレーションの確認します!」

「喜んで~!」

 にわかに店舗が活気づいた。 



―了―

お題は「ゲシュタルト崩壊」と「マインドセット」の2つ


店舗が少し起動に乗って来た頃の話にしよう、新商品コンペの話とかがいいかな?と、お題を見る前から考えてました。

そして、これもすんなり書けましたね。

個人的には2つとも会議や雑談でよく使う言葉だったので、会話を書きながら流れで入れ込めました。

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