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全てはカレーで考えていた結果たこやきに行きついた

――全てはカレーで考える――


 深々と頭を下げながら、オレは自分に言い聞かせた。

 これは先輩SVから聞いたメンタルテクニックだ。厄介なことに出くわした時、全てをカレーに置き換えて考える。すると、一旦冷静になって物事に対処できると。


 状況は最悪だ。

 我が社のフランチャイズに加盟したオーナーの店舗が本日新規開業する。

 しかし、担当SVがバックレてしまった。今更オープン日をずらすわけにはいかず、

 「なんとかしてくれ!」という業務命令をオレは賜った。


 急いで店舗に向かい、まずはオーナーに謝罪、続いてオープニングスタッフ全員の前で今頭を下げている。


「本当に申し訳ありません。後程、改めて上長もお詫びに伺いますが・・・」

 再度謝罪の意を示しつつ、オレは一旦そこで言葉を切った。

 そして一段声色を強めて続ける。


「皆さんの一番のご心配事は、今日これからをどうするかだと思います。そこはお任せください!私が終日現場に入ります。そして接客から指示出しまで、必要なことは何でもいたしますので、ご安心ください」

 しばしの沈黙。


「はい。本当に未経験者ばかりで何も分からないのでよろしくお願いします」

 口を開いたのは店長だった。憮然とした表情を作りつつも、心なしか安堵の色が見えた。一番プレシャーがかかっていたのは彼だろうから無理も無い。

 

――期待に答える――

 カレーは多くの人に共通イメージがある料理だ。だからカレーを食べに来た人には誰が食べてもカレーと思えるものを出さなければいけない。どんなに美味くても『カレーらしき何か』ではいけないのだ。 

 カレーは正攻法。期待している人に期待している通りの物を出す。

 だからまず、彼らの一番の不安に答えるのだ。


「ありがとうございます!」

 店長の言葉にまずお礼を言う。その上で続けた。神妙に、しかし力強く。


「ここに来る時までに公園を通って来たのですが、凄い人達ですね!きっと多くのお客様がご来店されると思います。自分達がやらかしておいてなんですが・・・ご来店いただいた方には、こんな内部事情は露とも感じさせずカレーを楽しんで頂きたいと思っています」

「もちろんです。みんなそのつもりなんで、お願いしますよ」

 オーナーが口を開いた。 


「はい。そこで度々、恐縮なのですが・・・」

「なんでしょう?」

「お客様を明るく迎えるスイッチを入れる為。ここから切り替えて笑顔で朝礼させていただいて、よろしいでしょうか?」

 神妙な顔つきでオーナー、店長、スタッフみんなの顔を見る。何人かが吹き出していた。


「ええ。いつまでしかめっ面していても接客になりませんからね。よろしくお願いします」

「ありがとうございます!」

 オーナーの許可を得てオレは、接客用の声のトーン、ボリューム、笑顔に切り替えた。

 そして、そのままの勢いのまま声を張って続ける。

「それでは、改めまして朝礼始めます!おはようございます!」

「おはようございます!」

 大きな声が返って来る。よし!


――スパイス――

 カレーをカレーたらしめているのは何と言ってもスパイスだ。スパイスは刺激。

 短期決戦で人間関係を作るには第一印象がスパイシーであるほどよい。ただ神妙に謝罪するだけでは印象がボヤけてしまう。

 だから、意図してキャラクターに緩急を付けてみた。反応は上々、最初の山は越えた!


 しかし、油断はできない。既に外にはちらほら開店を待つ行列ができ始めている。

 準備の過不足を確認し、不足に対して指示を出していく。

 徐々に緊張感が高まって来た。


「よし!開けましょう!店長!お願いします!」

 開店時間を見て店長を誘い、ドアを開け、思いっきりの笑顔と笑声で叫ぶ。

「お待たせいたしました!ご来店ありがとうございます!順番にご案内いたします!」

「ご来店ありがとうございます!」

 店長もつられて声を出す。

 店内からも、次々と「いらっしゃいませ!」の声がする。


――調和――

 〇〇カレーという種類はあるが、どんなカレーも基本的に肉だけが目立つとか、野菜だけが目立つというのは好ましくない。全部ひっくるめてトータルでカレーなのだ。即ち各素材やスパイスの調和が大事。

 店舗も同じ。今回は率先垂範を越えて戦力としても働くが、あくまでSVは裏方。自分が目立ち過ぎてはいけない。


 オレは見本になりつつ、目立ちすぎないように動き、かつ、委縮して動きがワンテンポ遅れがちなスタッフが埋もれないように指示出しをしていった。


 徐々にスタッフの練度が上がって来る。

 それを見てオレは徐々にメイン導線からはずれ、トラブルがあった所のフォローに回るようにしていった。

 そうして店舗の調和を取っていく。


――煮込み――

 外食産業の休憩時間は不規則だ。いわゆるランチ時や夕食時が一番忙しいので、そこで食事休憩を取ることはあまりない。昼は14:00を過ぎたあたりで順番に休憩を回していく。


「山本さんは休憩取らないんですか?」

 スタッフの一人が聞いた。

「うん。大丈夫。店長やってた時期が長いからね。体が慣れちゃってて店にいるとお腹空かないんですよ」

 ノータイムでそう答える。もちろんウソだ。

 信頼回復には時間がかかる、前時代的だがこうやって働いて見せる時間は必要なのだ。カレーで例えればこれは煮込み時間。煮込み時間はごまかせない。端折っちゃいけないのだ。


――そして――

「山本さん、少し打ち合わせ行きましょう」

 ディナータイムのピークが過ぎた頃、オーナーに声を掛けられた。

 促されるまま、店舗を出て公園に向かう。


「たいした用事は無いんですけどね。ちょっと山本さんに頼りすぎなんで、ウチのメンバーだけでも回す練習させたかったんです」

 公園を歩きながらオーナーが連れ出した意図を伝えた。

「なるほど。気づきませんでした。申し訳・・・」

「もう謝らんでください」

 オーナーが言った。

「謝られ続けるのもシンドイんですよ。仏頂面作り続けるのも疲れます。そもそも山本さんに恨みは何もないので、そういうのはもう無しにしましょう」

「ありがとございます・・・」

「軽く飲みませんか。適当に買ってくるので、場所取っててください」

 オーナーはそう言ってオレをベンチに座らせると、問答無用でキッチンカーが並ぶところに行ってしまった。


 腰を下ろした瞬間、自分の首回りが汗臭いなと感じた。接客に支障なかっただろうか?ただ、それ以上にカレーの匂いが服に付いているので紛れているかな?

 そんなことを考えていると、カレーの匂いが他からもすることに気が付いた。


 近くの花見客がウチのテイクアウトカレーを食べていた。

 もうすっかり夜桜だ。子供はいなくなったが、変わりに陽気な大人達が増えている。

 

「お待たせしました」

 オーナーが戻って来た。手には缶チューハイ2本と、たこやきを2パック持っている。

「いや、一日カレーの匂い嗅いでたのでね、無性にこれに目が行ったんです」

「わかります!」

 もう遠慮するのも違うだろうと素直に受け取った。

 そして乾杯をする。


「いや、美味いなこれ」

「ビックリですね」

 そのたこやきは本当に美味かった。冗談抜きで人生で一番旨いたこやきだ。

「タコがしっかり美味い」

「しかし、そう考えると、たこやきって不思議な料理ですね」

「何が?」

「たこやきは、たこの存在感があった方が美味い。でも、たこにソースかけても合わないじゃないですか」

「確かに。和出汁にソースも、それだけじゃ合わないよな」

「そう、でも、こう合わせると美味くなってしまう。なんか研修ネタに使えそうです。チームワークとかの」

「カレー屋なのに?」

「そうか・・・じゃあ次はたこやきチェーンでも立ち上げるよう本社に提案してみようかな」

「いいですね。そうしたら、また加盟しますよ」

「ははは!是非」


 今日一日、全てはカレーで考えていたら、たこやきの奥深さを知った。



―了―

お題は「たこやき」


ここで連作は完結させようと思って、大枠のストーリーはお題が出る前から考えていました。

で、かなり都合のいいお題でしたね。元々キッチンカーが出ている公園という設定なので、ほぼ予定通り書けました。


・・・が!

本作のコメントで「連載次も期待してます」的なコメントを頂いたので、この後も続けることにしました。

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