第七話 なーんか、冴えなくね?
ウズメさんが、ぐいっと遠慮なく距離を詰めてきた。
俺の顔を右から、左から
果ては下から、品定めするように覗き込んでくる。
「……ふ〜ん。なーんか、冴えなくね?」
いきなり辛辣。
しかし、こうも至近距離で動かれると、
布一枚で包まれただけの
ウズメさんの胸元が危なっかしい。
「これがハナコの新しい彼ピねぇ……
あーしの旦那より、全然弱そうだし」
「ほらぁ、『お願いの契約』だからぁ、仕方ないよぉ」
「そんなの別にさー……」
「わーっ!!」
ハナコさんが慌ててウズメさんの口を両手で塞いだ。
「ウズメちゃん、そんなことよりぃ、お茶飲まなぁ〜い?
下に降りれば、ママさんが淹れてくれるよぉ」
「え? ……まぁいいけど」
ウズメさんはチラリと俺を見て
含みのある笑みを浮かべた。
「……ふ〜ん、そゆことね」
「あーし、お茶よりポン酒がいいしー」
二人は賑やかに階段を降りていく。
今の会話、気になる事言っていた気がするが……
ウズメさんのダイナミックなボディに見惚れて
思考が追いつかなかった。
二階の自室で呆然と立ち尽くしていると
突然、階下から父さんの絶叫が響き渡った。
「天鈿女命ぉぉぉ〜〜っ!!」
嫌な予感がして、俺も一階のリビングへ駆け込む。
そこには、鼻血を噴き出して
仰向けに転がる父さんの姿があった。
母さんは相変わらず虚空を見つめたまま
湯呑みから溢れるお茶を注ぎ続けている。
ハナコさんは苦笑いし、
ウズメさんは、道端のゴミでも見るような
冷ややかな目で父さんを見下ろしていた。
「大丈夫!? 父さん、殴られたの!?」
「いや……少し、
ちょっとだけ興奮してしまってな……!」
少しどころの出血量じゃないぞ。
「気持ちはわかるけど……
父さん、この女神様を知ってるの?」
「バカ者が! 知ってるも何も……お前は知らんのか!?
それでも華那古神社の跡継ぎか!」
「その話、この前聞いたばっかりだって。
詳しくないから教えてよ」
父さんはシャキッと立ち上がり
鼻にティッシュを詰め込んで即席の解説を始めた。
「天鈿女命様はな、日本最古の踊り子にして
芸能の始祖と呼ばれている御方なんだぞ!
その舞ひとつで世界を救ったこともあるお方だ!」
「ほぇー、そうなんだ……」
俺は改めてウズメさんを見る。
彼女はムスッとした表情だが、
どこか誇らしげに頬を赤らめていた。
「だがな、その世界の救い方が、
これがまた凄まじくてな!
神々が正気を失うほどの激しい乱舞! はだける衣! 」
「まさに半ら――」ポンッ。
ウズメさんが、父さんに向けて軽く掌をかざした。
乾いた、拍子抜けするような音が響く。
「……あ。」
次の瞬間。
リビングの床に、ベチャァッ……と。
一匹の立派な「ナマコ」が転がっていた。
「と、と、父さぁーーんっ!?」




