第六話 ウズメ降臨
「も〜、そんなんじゃないよぉ〜」
うららかな日曜日の午後。
俺の部屋で、ハナコさんが「電話」
……のようなものをしていた。
「ようなもの」としか形容できないのは
それが俺の見たことがない
古めかしい「板」だったからだ。
「え? これからぁ?
……うん、別にいいけどぉ。 うん、わかったぁ」
通話が終わったらしいハナコさんは
なんだかそわそわと落ち着かない様子で板を弄っている。
「ハナコさん、それ何?」
俺は、ハナコさんが手にしている謎の板を指差した。
「これぇ? ……んー、どうしようかなぁ。
これねぇ、神通力がなくても使える
『神器』なんだけどぉ」
「神器!? なんかカッコイイね」
カッコイイという言葉に、気をよくしたのか
ハナコさんは急に饒舌になった。
「もぉ〜、しょうがないなぁ。
本当は神の御業なんて、
人の科学を千年くらい押し上げちゃうんだからぁ。」
「内緒だよぉ」と言うと、
神器についてペラペラと話しだした。
「この神器は、『しゃべれるくん』って言ってねぇ。
遠くの人と、お話することができるのぉ」
「…………ふーん」
「あっ、驚いて言葉を失ってるねぇ?
それだけじゃなくてぇ
……見て、ここに数字のボタンがあるでしょぉ?」
「あ、うん。あるね……」
「ここを何度も押すとぉ、
文字が上の画面に出まーす!」
ハナコさんが「1」を連打すると、小さな液晶画面に「あ、い、う、え、お」と文字が目まぐるしく躍る。
「これを使って、文章を送ることができるんだよぉ。
すごいでしょぉ?」
「そ……そうなんだ。画期的だね」
「あっ、今、コノハちゃんからメッセージ来たぁ
返信するから、待っててねぇ」
ハナコさんは両手を使い
猛烈な勢いで神器を連打し始めた。
カチカチカチカチカチカチカチッ……
「…………大変そうだね」
「このくらい、慣れれば何でもないよぉ
はい、送信っとぉ。どぉ? 凄いでしょぉ!」
「う、うん。凄い……よね、たぶん」
「さらにぃ〜……!」
ハナコさんは、神器を真ん中で
パタンと二つに折りたたんだ。
「畳めまぁす!」
ニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべ
これでもかとドヤ顔を決めてくる。
……これ、どっかで見たな。
子供の頃、親戚のばあちゃんちで見たような……
「ちょっと、太郎くんたちにはぁ
オーバーテクノロジーだったねぇ」
「ごめんねぇ」と言い、ハナコさんは
ご満悦の表情でドヤ顔している。
「あのさ……俺も似たようなの、持ってるよ」
「え? ほんとぉ?」
「ほら、これ」
俺はポケットからスマホを取り出して見せた。
「……これぇ?
太郎くんがいつも遊んでる
おもちゃじゃないのぉ?」
「いや、これも電話。スマートフォンって言うんだよ」
「へぇ、人の子もなかなかやるねぇ。
……でも、畳めないでしょぉ?
文字も打てないみたいだし、まだまだだねぇ」
「いや、こうやって……」
画面を点灯させ、フリック入力で操作してみせる。
「えっ!? なにこれ、
画面おっきい〜! 連打いらないのぉ!?」
ハナコさんは身を乗り出し
俺の手からスマホを奪い取った。
「これは……えぇっ!
お天気もわかるし、地図まで入ってるぅ!
なにこれぇ……今日の運勢?
……神託ぅ! 神託がくるのぉ!?」
スマホを持つ手がワナワナと震えている。
「ハナコも、それ欲しいぃ……」
「畳める神器、あるじゃん」
「これ、もういらなぁい!」
「というかさ、さっきの電話、誰から?」
「あ、そぉだ。
ウズメちゃんが遊びに来るんだってぇ」
「え、誰? ここに? いつ――」
「おいーっす! うわ、なにここ! せまっ!」
話を遮るように、
壁からスルーっと一人の少女が現れた。
ウェーブのかかった黒髪に、健康的な褐色の肌。
小柄というよりも小さな体に
不釣り合いなほどの爆乳を揺らし
これまたとんでもない美人がそこにいた。
やっぱりハナコさんが来た時と同じ
布っぽい何かを着こなしている。
「よろー! あーし、天鈿女命。
ウズメでいいしー!」
……女神っていうのは、普通の人はいないんだろうか。
まあ、普通じゃないから「神」なんだろうけど。




