第五十七話 いっつもそうだよねぇ
「太郎くぅん……今更さぁ、何しに来たのぉ?」
口元は笑っている。
けれど瞳は、氷みたいに冷たい。
「いや、ウズメさんが来いって言うから……」
いつものハナコさんと違う雰囲気に気圧され
状況を飲み込みきれていない俺は素直に答える。
「太郎くん、いっつもそうだよねぇ……
いっつも周りに流されるばっかりでさぁ……」
ハナコさんの周囲で、土くれと火の粉が
渦を巻いて舞い上がる。……ヤバい!怒ってる!
「今どす!」
その隙を見逃さず
コノハさんが両手をハナコさんへと突き出した。
「悪しき者……封印せん!
奥義――天岩戸っ!!」
「あ、コノハちゃん……ズルぅい……」
巻き上がる砂塵ごとハナコの周囲が止まる。
ハナコさんも動けないみたいだ。
ガガガッ……!
一瞬で、ハナコさんが岩に包まれた。
「え?! ハナコさん?!」
俺は慌ててハナコさんを包んだ岩に駆け寄る。
「大丈夫、封印しただけどすえ」
「ふぅ……小一時間ほどは、もちそうどすやろか?」
コノハさんは岩の前に立ち、更にお札を貼る。
「太郎さんが気ぃ逸らせてくれた、お陰どすえ」
いや、なんか怒られそうになっただけですけど……
「ったく、ハナコは結局なんなんだし!」
ウズメさんは頭を掻きながら文句を言う。
「え? ウズメさんも知らないの?」
大体はウズメさんも把握して動いてると思っていた。
「ウズメさんはなぁ、
本家の会議でハナコさんの話
聞きとうなかったんどす。
『ハナコさんは、お友達やさかい』言うてなぁ」
コノハさんが少し微笑みながら言うと
ウズメさんは「ふんっ」と顔を赤らめ逸らす。
「ハナコさんに、昔
お慕いしてはったお人がおるんは、ご存じどすな?」
「あっはい、元カレって言ってました」
あまり聞きたくない話ではあるけど……今は仕方ないか。
「そのお方が、月讀命……ツクヨミさんどす」
ウズメさんも、そこは知っているらしい。
相変わらず気怠そうに話を聞いている。
「まぁ、えらい真面目なお人どしてなぁ……
高天原でも、あまり上手うやれへんかったみたいどす」
「えー、なんでそんなヤツを、ハナコさんは好きに?」
やっかみ半分で嫌な顔をして突っ込む。
「たろっち!そういう好みのタイプまで
突っ込むと、話終わんないし!」
ウズメさんが俺をたしなめる……まぁそうだけどさ。
「それで海外の“楽園プロジェクト”に
ハナコはんを連れて参加しに行って
しまわはったんどす」
楽園……かぁ、さっきまで課題で
泣いてたハナコさんからは想像もつかない。
「海外でのツクヨミさんのお名前は、ルシフェル。
ハナコさんは、ガブリエル……やったかしらなぁ?」
はんなりコノハさんが言うと、ウズメさんが舌打ちする。
「ルシフェルって……ハナコ……バカッ!」
ウズメさんが納得したみたいだ。
ガブリエルも聞いたことあるぞ
ハナコさんも、外国だと有名なんだな。
「せやけどツクヨミさん、あのお人どすさかい
海外でも上手ういかんで、『傲慢』として堕ちて
世界の概念になってしもたんどす」
神様の世界は難しい……
概念になるってことは、
いるのに、いない……みたいな事だろうか?
確かにそれは、ハナコさんも
忘れられないのかもしれないな……
「今ここでハナコはんを止めへんと……
今度は『嫉妬』として、今まで以上に
世界に災厄が降り注ぐことになります」
「……なんとしてでも、ここで止めなあきまへん」
「はぁ〜」っとウズメさんがため息をつきながら聞く。
「そんで?思金は?なんて言ってんの?」
「高天原の戦神を、何人か連れて来はったら
ハナコはん、止められるかもしれまへん……」
「せやけど、それやと街の被害が大きすぎます
……瞬間火力で、一気に叩かなあきまへん」
コノハさんは顔を曇らせる。
「つまり、天照か、須佐能男って事ね」
「……はい、」
2人は何を悩んでいるんだろう。
つまり、止める方法はあるんだろ?ならいいじゃないか。
――パキッ
少しの沈黙の後、ハナコさんを取り囲む岩にヒビが入る。
「ちょっ、まだ5分も経ってなくない?!」
ウズメさんが慌てて構える。
「思ったよりもハナコさんの魔力強いようやね!」
「……コノハっち、天照、呼んで来て」
「いいんどすな?」
「今は他に選択肢ないし!」
ウズメさんの叫ぶと
コノハさんは夜空へと飛び立っていった。
「たろっち!いい?!コノハっちが戻って来るまで
たぶん10分くらいだかんね!」
「はい! それまで、なんとか守るって事ですね!」
「違うし!」
ウズメさんは顔を歪め、吐き捨てるように
けれどひどく悲しげに言った。
「コノハっちが天照
連れてきたら、ハナコは消滅するし!」
岩はメキメキと音を立て、
内側から溢れる黒い光に耐えきれず、
今にも砕け散ろうとしていた。




