第五十四話 やっと会えるねぇ
ハナコは、公園へ向かって歩いていた。
夜の帳が下りている。
どうして公園に向かっているんだろう。
太郎くんはコンビニに行くって言っていたよねぇ?
こっちにはいないはずだよねぇ?
……なのに。
どうしてハナコ、公園に来てるんだろう。
……なんだか変だねぇ。おかしいよねぇ。
そうだぁ、ひなたちゃんが公園で待っているんだぁ。
太郎くんは来ないよぉ。
そう教えてあげなくちゃ。
ずっと待っていたら可哀想だもんねぇ。
公園に着くと人影が2つある。
「私の方がたーくんを大切にできるよ」
ひなたちゃんの声が聞こえる。
あれぇ? 太郎くんに抱きついているぅ。
どうして。どうして、
ここに太郎くんがいるんだろう……
ハナコ、嘘をつかれてた? 騙されてたのかなぁ?
ひなたちゃんが、少し離れた。
太郎くんが「離れて」って言ったのかなぁ。
それなら、いいんだけど……
……ドクン、
あ、キス、したぁ……
太郎くんが、こっちを見たみたい。
どうしよう、隠れなきゃ……!
ここにいたなんて、思われたくないよぉ。
――あれぇ?
足が地面についていない。
いつの間にか、ハナコは空の上にいた。
飛んでいるの?
神通力はなくなっているはずなのにぃ……
手に持っている太郎くんのスマホを見る。
スマホが、サラサラと黒い砂になって崩れていく。
指の間からこぼれ落ちていく。
どうして? これじゃ渡せないよぉ。
視線を落とすと、自分の服が目に映る。
ひなたちゃんに選んで貰った服だ。
――ハナコさん、綺麗だしスタイルいいから――
……うるさいなぁ
――私は、こういう女の子っぽいのは似合わないから――
……うるさいってぇ
――ハナコさんはたーくんの事どう思ってるんですか?――
うるさい。うるさい。うるさい。
「もう、これ……いらなぁい」
ハナコは服の襟元を掴んで――引き裂いた。
剥き出しの肌を、空から降りてきた
どす黒い雲が優しく包み込んでくれる。
そっかぁ……
「ツクヨミくん……やっと、会えるねぇ」
月を見上げて、ハナコはにっこりと微笑んだ。
最初から、こうしていればよかったんだぁ。
楽しいことも、嬉しいことも
全部すぐに壊れてハナコを裏切る。
もう、何もいらない。太郎くんも、世界も。
黒い雲が晴れると
その身体には漆黒の衣装が纏われていた。
「やっぱり、神様のチカラは便利だなぁ」
「……それ、神通力やおまへん。『魔力』どす」
背後から、凛とした声が響いた。
コノハちゃんだ。
「コノハちゃん、来たんだぁ。
ずっとハナコのこと、見張っていたもんねぇ。
そのくらいわかってるんだよぉ、ハナコでも」
※ ※ ※
コノハは、変わり果てたハナコの姿を凝視した。
黒いレオタードのような装束、禍々しく広がる黒い翼
……そして、妖しく光る赤い瞳。
――もう……戻れへんのか?
「ハナコさん、どうか落ち着いておくれやす
元のお姿に、戻っておくれやす……
うちかて、ほんまは、あんたと戦いとうないんや」
ハナコは、クスクスと鈴を転がすように笑った。
「戦うって、ハナコとぉ?
コノハちゃん、死んじゃうよぉ」
コノハは奥歯を噛み締める。
今のハナコには到底、太刀打ちできない。
だが、ここで黙って引くわけにはいかなかった。
「ハナコ、やることあるからぁ
コノハちゃんは今まで通り
コソコソついて回ればぁ?
コソコソ、コソコソさぁ……」
凍りつくような冷笑を浮かべ、ハナコが飛び去る。
その向かう先は――華那古神社。
――あそこに、何があるっちゅうんや……!?
コノハは全速力で、
闇に消えていく黒い影を追いかけた。




