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女神な彼女  作者: なつみかん


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第四十九話 うさちゃんとテルくん

俺と天道、そして来人の3人が砂浜を歩いていると

黒ビキニに大人っぽいパレオを巻いた

スレンダーなお姉さんの後ろ姿を見つけた。


「よし! ここは僕が先陣を切ろう」

天道はノリノリだ。

こういう時イケメンがいると心強い。


たぶん、誰か友達と一緒に来てるんじゃないか?

そうすれば、おのずと来人の青春も取り戻せるはず……

3人組だったら……?

もしかして俺も……?えぇ、困るなぁ。

俺は淡い期待とやましい感情を胸に、

天道の様子を見守った。


「そこの素敵なお姉さん。少しいいですか?」

天道が極上のスマイルで声をかけると

お姉さんがゆっくりと振り返った。


おぉ……かなりの美人だ。

茶髪のセミロングに、知性を感じさせる切れ長の瞳。

しなやかな立ち振る舞いは、

明らかに俺たちより年上だが

それを感じさせない華やかさがある。


「ひっ……!」

綺麗なお姉さんは天道を見るなり

驚いた様な恐怖の顔で慌てている。


……あれ?

いくら天道が年下だからって

学園の誰もが認めるイケメンだぞ?

無条件でここまで怖がられることなんてあるのか?


……というか、どこかで会ったような?


天道も既視感を覚えたのか、

お姉さんの顔をじっと覗き込む。


「ん?……どこかでお会いしましたか?」


「ひ、人違いじゃないですか!?

 お友達は間に合ってます!どこかに行ってください!」

お姉さんは慌てて両手で顔を隠した。

しかも明らかに裏声だ。

……何かがおかしい。


流石の天道も諦めるしかないと思ったのか

「むぅ……ご迷惑でしたら、すみませんでした」

と引き下がろうとした、その時。


「うさちゃ〜ん!」

遠くから響く、聞き覚えのある呑気な声。

祭の際にお世話になった市役所の八上さんだ。

笑顔のまま全力疾走で、こちらへ駆け寄って来た。


「はぁ、はぁ、海の家、結構混んでてさ……

 はい、バニラで良かったよね?」

八上さんは息を切らしながら

アイスを差し出した。


「ちょっ……テルく……八上くん!

 今はいいから、来ないで!」


「えっ、どうして? 買ってくるの遅かったから

 僕のこと嫌いになっちゃった……?」

八上さんは悲しげな顔をして甘えだした。


「八上さ〜ん。 もしかして、彼女さんっすか?」

来人が、ニヤニヤしながら問いかける。


「おお!来人くん、それに天道くんと太郎くんも!」

「奇遇だね!」

八上さんは満面の笑みで俺たちを振り返った。

「彼女って? そうだよ……ほら、因幡さんだろ?」


「えええーーー!!!」

俺たちは3人揃って、

あの伝説のマスオさんポーズで驚愕した。


この妖艶な黒ビキニ美女が、

あの事務的でクールな因幡さん!?

メガネを外して水着になっただけで

ここまで化けるのか……


「ちょっと、八上くん!恥ずかしいから……!」

因幡さんは顔を真っ赤に染め

必死に八上さんの口を塞ごうとする。


「恥ずかしいことなんてないよ!

 俺は、うさちゃんが大好きだからね!」

八上さんは真っ直ぐな瞳で

因幡さんに向かって愛の言葉を告げた。


「う、うさちゃん……って呼んでるんですね」

俺は必死に笑いを堪えながら確認する。

そういえば名刺に『因幡うさぎ』って書いてあったっけ。


「ああ……僕とうさちゃんは、

 『テルくん』『うさちゃん』で呼び合ってるんだ。

 ……そうして欲しいって、うさちゃんが言うからさ」


「テルく……八上くん!もう喋らないでぇーーーっ!」

 顔を真っ赤にして砂浜に崩れ落ちる、因幡さん。


そこへ来人が、因幡さんに歩み寄る。


「まぁまぁ、八上さんも悪気があるわけじゃないですし

 許してあげましょうよ」

来人は因幡さんに向き直り、

悪ノリ全開で言い放った。


「ね?……うさちゃん」

うさちゃんは、真っ赤な顔でプルプルと震え出した。


何故か天道までもがプルプルと震えながら

あろうことか海パンの中に手を突っ込んだ。

「決闘だ!」

海パンから取り出されたハンカチが

ひらりとテルくんの顔面に貼り付く。


「うわっ、汚っ!?何をするんだ!

 というか何故、海パンの中にハンカチを?!」

テルくんが「おえっ」と言いながら

ハンカチを払い落とすも、天道は続けた。


「八上さん……いや、テルくん!

 うさちゃんを懸けて、僕と正々堂々決闘したまえ!」

ビシィッ!と海をバックに指を差す天道。


「天道がうさちゃんを懸けて……

 マズい!早く止めないと!」

俺も慌てて加勢しようとした、その時。


「待て太郎!俺は天道側につくぞ。

 うさちゃんをGETして、俺の青春を取り戻す!」

来人が背後から俺を羽交い締めにし

事態はさらに泥沼化していく。


「うさちゃんは渡さんっ!」

「君にうさちゃんを愛する資格があるか確かめる!」

「俺たちが、うさちゃんとデートするんだよー!」

「やめろって!うさちゃん本気で困ってるから

 ……って、え?」


それから十分後。


俺たちは、首から下を砂浜に埋められ

等間隔に並ぶ「生首」と化していた。


あの後、羞恥心が限界突破したうさちゃんが

「うおーーーっ!」と

重機のような勢いで砂を掘り返し

俺たちを次々と叩き落として埋めていったのだ。


「そこで一生、反省してなさい!!」

捨て台詞を残し

うさちゃんは猛スピードで去っていった。

自力脱出は不可能。1ミリも体が動かない。


「……トホホ、なんで僕までこんな目に……」

数メートル先で、同じく埋められているテルくんが嘆く。


「それはテルくんがうさちゃんを

 独り占めにしようとするからです」

天道が、砂に埋まったまま凛とした声で言い放った。


「当たり前だろ!付き合いたての

 ラブラブカップルなんだぞ、僕たちは!」

テルくんがムキになって言い返し

砂浜で生首同士の不毛な言い争いが始まる。


「なぁ、太郎」

ふいに、隣の来人が静かな声で話しかけてきた。


「なんだよ」


「こうやってバカやってられんのって

 今のうちだけなのかなぁ……」

不覚にも、少しだけ胸に刺さった。


「……そんなこともないんじゃないか?

 ほら、テルくんを見てみなよ」

俺たちは、天道と本気で口喧嘩をしている

二十代半ばの公務員を見た。

口を尖らせて「僕のうさちゃんだぞ!」と騒いでいる。


「そうかもな。……俺もテルくんみたいに

 いつまでも全力でバカやってたいわ」

来人がしみじみと呟く。


その気持ちには半分くらい同意するけど

俺はそれよりも早くこの砂の中から出たい。


遠くから聞こえるハナコさんたちの楽しそうな声


俺は顔だけ出したまま、

夏の青空を見上げた。

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