第四十六話 パーフェクトボディ
「いいじゃないっすかー!盛り上がってたしー!」
電車の中で夢野が頬を膨らませる。
「でもよー、残った経費の相談くらい、いいだろー
俺だって新しいステルスグッズ欲しかったのに」
祭の残りの経費を夢野がステージで使い切り、
来人が問い詰めている。
……なんか私情も入ってるけど。
車内はそこそこ混んでいて、
女性陣が座り、俺たちは立ったまま話していた。
「どっちにしろ、あんたのお小遣いに
できるわけないでしょ。いい加減にしなさいよ」
座ったまま、ひなたが来人をたしなめる。
夢野の提案で、祭のお疲れ会と称し
海水浴に行くことになった。
ウズメさんとコノハさんは祭が終わると
すぐに高天原に帰っていった。
先に誘っていれば……残念。
俺は向かいに座っているハナコさんを見る。
ハナコさんの水着……布面積は? 色は?
……ど、どんなの着るんだろ。
「本当に美子ちゃん、かぁいかったよぉ
ハナコ、ダンスとか苦手だし憧れちゃうなぁ」
ひなたの奥に座っている夢野を見て微笑む。
「うへへ、女神様にも今度、教えるっすよ」
夢野が完全に調子に乗ってるな。
まぁ実際、凄かったけどさ。
夢野の向かいで立っている天道が
王子様座りで夢野の手を取る。
揺れる車内で王子様座り……
体幹が強いな。 さすが、天道。
「本当に素敵だったよ
惚れ直してしまった……夢野さん」
手を取り真顔で言う。いつ惚れてたんだよ。
「へへ、天道くんもありがとっす!」
相変わらず夢野はヘラヘラしている。
「そいや夢野、転校して来た時は、男ニガテとか言って
天道の事を避けてなかった?もう慣れたの?」
俺は、なんとなく聞いてみた。
「慣れたって言うより、男だ女だって言うのが
バカバカしくなったっすね!」
「ほら、美子……自分で言うのもなんすけど
背が低いじゃないっすか?」
夢野が思い出したように嫌な顔で言った。
「まぁ確かに」
「それで子どもの頃から、男子に
バカにされること多かったんすよ」
「そこからっすねー、男の人ニガテだったっす」
夢野は気まずそうに話を続けた。
「巫女ドル目指そうとしたのも、
あいつら見返したいって気持ちだったっすし」
「そっか、チンチクリンとか言ってごめんな」
来人が頬を指で掻きながら謝る。
夢野も「いいんすよー」と言って続ける。
「でも、お祭りみんなで準備してたら
天道くんに助けられるし、太郎くんも来人くんも
なかなかやるじゃないっすか!」
「しかも、ステージから観客席を見ると
男の人も女の人も、関係なく応援してくれたっす!」
楽しそうに目をキラキラさせて、美子が話している。
「……そっか。なんか、たくましくなったな、夢野」
いつも元気で商売気質な夢野しか知らないからか、
今日はその小さな体が、少しだけ大きく見えた。
「トラウマ克服、なんだね」
隣に座っている、ひなたが言う。
「でも、ひなたお姉様が
1番なのは変わらないっすよー!」
そう言ってひなたに抱きついたところで、
電車が止まり、海の最寄り駅に着いた。
「そこも克服してくれるといいんだけど
ほら、美子ちゃん、駅に着いたから歩こうよ」
駅を出て、海までの道を歩く。潮の香りが鼻につく。
「太郎くん!」
ひなたの腕を掴みながら、夢野が話しかけてくる。
「神主、続けるんすよね?」
「うん、高校生のうちは冠婚葬祭は難しいけど
休みの日だけなら、お祓いとか、お宮参りくらいなら
対応できるかなー?って考えてるよ」
「いいっすねー!美子も一緒に巫女やるっすよ!」
ニシシと夢野も笑う。
「高校生卒業したら、本格的にやるんすよね?」
「うん、そのつもり」
「え?! たーくん、大学行かないの?」
ひなたが驚いて聞いてくる。
「ハナコさんいるんだもん」
少しだけテレ笑いし、続ける。
「俺が神主しなきゃ誰がやるのさ」
「……そっか、そうだよね」
ひなたは眉を寄せたまま、何も言わなかった。
「お姉様、早いっす!」
腕に掴まっている。夢野の足がもつれる。
「あっごめん、」
ひなたは夢野に改めて歩幅を合わせる。
隣では、ハナコさんが俺の横顔を
どこか熱を帯びた瞳でぽーっと見つめている。
そんな話をしていると海に到着。
青い海、青い空、最高の海水浴日和だ!
早速、男女に別れて更衣室に行く。
更衣室が離れているため、来人は
「くそっ、ステルスグッズさえあれば……!」
と血涙を流していた。
やはり、夢野が祭の経費を使い切ったのは
正解だったのかもしれない。
着替えを終えて外に出る。
照りつける太陽、潮の香り。
野郎3人で海を向いて座っている。
「女って、なんであんなに着替えが遅いんだよ……」
待ちきれない来人が、貧乏ゆすりをしながらボヤく。
「君は……これだからモテないんだ。
乙女の身支度を待つのも嗜みだよ。
……見ろ、太郎くんの、この毅然とした態度を」
天道が俺を見て言う。
確かに俺は砂浜に
胡座をかいて腕を組んでいる。
しかし、残念ながら毅然としているわけじゃない。
ハナコさんたちの水着姿を想像しすぎて
脳内がショート寸前なだけだ。
「なぁ、日焼け止めイベント、起きるかな!?」
来人が鼻息荒く、ワクワクした顔で聞いてきた。
「日焼け止めイベント?」
「ほら、背中に塗ってぇ……ああっ、手が滑っちゃった!
みたいなラッキースケベだよ!」
俺は冷静にシミュレートを始めた。
「……いや、たぶん起きないな」
「なんでだよ!」
「まず、ひなたはソフト部で元から焼けてるから
今さら気にしないだろ?
ハナコさんは、そもそも日焼けっていう概念がない。
……あるとすれば、夢野だけど
あいつは自分で塗りたくりそうだしさ」
「ちょっと待て、ハナコさんは日焼けしないのか?」
「あれで一応、神様だからなぁ
神様って"なりたい姿"でいるらしいよ」
「つまりハナコさんは
太るとか、痩せるとか、歳を取るとか、
体が変わる概念がないんだよ」
「……マジか、日焼け止めは、さておき
これから来るハナコさんは
そんなパーフェクトボディなんだな……」
ゴクリ、と来人は息を呑む。
流石の天道も今の話で興味津々みたいだ。
黙ってればよかったか……?
「みんなお待たせっすー!」
夢野が大きな声で遠くから駆けてくる。
俺たちは一斉に振り返った。




