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女神な彼女  作者: なつみかん


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第四十四話 化粧は女の武器

「ひなた先輩、交代の時間ですよー!」

来人が元気よく戻ってきた。


だいぶ露店で遊んで来たらしい。

両手は食べ物やヨーヨーなど屋台の商品でいっぱいだ。


「はーい。……ていうか来人

 あんた。ちゃんと見回りもしてたんでしょうね?」

私は戦利品を抱えてホクホク顔の来人を

ジト目で軽く睨む。


「もちろっんすよ! アコギな商売してないか

 抜き打ちチェック……という名の買い食いっす!」

「浴衣のお姉さんもいっぱいで

 実に素晴らしいお祭りですよ」


満面の笑みの来人に、私は小さくため息をつく。

でも、その楽しそうな顔を見ていると、

こっちまで笑ってしまった。


「……まぁいいや、お疲れ様。私も少し楽しんでくるね」

来人に係員の席を譲り

私は夜風に当たりながら立ち上がった。


迷子や落とし物などの連絡も少なく

お祭りは順調に進んでいた。

このまま何事もないように気を引き締めなきゃ。


縁日通りに出ると、いつもの公園が

嘘のように人で賑わっている。

これを私たちみんなで作ったんだと思うと、

少し誇らしい気分だ。


ソースの焦げる香ばしい匂いに

鼻をくすぐられながら歩いていると、

「おいーっす、ひなっち!」

聞き馴染みのある軽い声。ウズメさんだ。


隣には、

祭に映える見事な和服を着た女性が立っていた。


「こんばんは、ウズメさん

 ……えっと、お隣の方は?」


「ズッ友のコノハっちだし」


ウズメさんは親指でクイッと隣を指して答える。


「お噂はかねがね伺うておりました

 ひなたさんどすな。はじめまして

 ほんに、可愛らしいお嬢さんどすこと」

コノハさんは、はんなりとした動作で

丁寧にお辞儀をしてくれた。


「はじめまして! あっ……もしかして

 たーくんの師匠をしてくださった神様ですか?」

私も慌てて深々とお辞儀を返した。


「その節は、本当にありがとうございました」


「まぁまぁ、丁寧なお嬢さんどすこと」

コノハさんは目を細め、穏やかに微笑む。


「ウズメさんとは

 旦那様同士が、親しゅうしてはりますさかい。

 家族ぐるみで、よう遊ばせてもろうておりますのえ」


ハナコさんとはまた違う、大人の女性の余裕。

奥ゆかしいのに凛としていて

思わず見惚れてしまいそうだ。


「ひなっちも遊んでんのー?」

 浴衣姿のウズメさんが、ひょいと顔を覗き込んできた。


「遊びっていうか、見回りついでですけど……」


「じゃあ一緒に回ろう

 あーしたちも今から攻めるとこだし!」

ウズメさんは子供みたいに目を輝かせている。

今日はなんだかマスコットみたいでかわいい。


「はい、ぜひ! ご一緒させてください」

私も笑顔で答える。賑やかな見回りになりそうだ。


三人で歩いていると

人混みの向こうに小さな子供たちの集団が見えた。

「あ、悟くんだ」


「ん? 誰、ひなっちの知り合い?」

ウズメさんが腰に手を当て

ガムを噛みながら、子供たちを眺める。


「知り合いというか、

 寄付金集めの時に一緒に遊んだんですよ。

 あの子、いつも道路脇でサッカーするから

 危なっかしくて」

私が笑顔で答えると、ウズメさんも「ふーん」と

ガムを膨らませて返事する。


露店で焼きとうもろこしを十本買うと

八俣さんとバッタリ会う。息子さんも一緒だ。


「八俣さん、来てくれたんですね」

私は笑顔で話しかける。本当に来てくれて良かった。


「ふ、ふん、坊っちゃんのお受験の息抜きに

 丁度良かっただけザマス!」

息子さんって中学受験なんだ。

同い年じゃなかったんだ。


「あら、奥様

 その息抜きのために、あれほど励んでくれはった方に

 そのようなお言葉を向けはるのは……

 いかがなものでしょうなぁ?」

コノハさんがふわりと割り込んできた。


声は穏やかなのに、

周囲の気温が、すっと下がった気がした。


……怖い。

隣にいるだけで呼吸を忘れそうだった。


八俣さんも「ごめんなさいザマス!」と言い

息子さんと逃げ出した。


「コノハさん、怖がらせちゃダメですよ!」

私はコノハさんに言うと、コノハさんは目を丸くする。


「あら、ひなたさんは怖くないんどすか?」


「こ、怖かったですけど……

 八俣さんは悪い人じゃないんですよ」


コノハさんは小さく「へぇ」と微笑み

「多少、言霊ことだまも込めさせてもろうたのに……

 それでも揺るがず、ご自分の言葉で返しはる

 ひなたさん、なかなか肝の据わったお人どすなぁ」


なぜか関心されてしまった……


「それより、ひなっち……

 そのとうもろこし、全部食うの?」

ウズメさんが引き気味に聞いてくる。


「え?食べますけど……一本食べます?」


「いや、あーしはいい……」

なんだかビックリしてるみたいだけど

どうしたんだろう?


焼きとうもろこしを食べながら

3人で縁日通りを歩く。

ウズメさんとコノハさんが会話している。


「そうそう、太郎さん、なかなか男前どしたえ」

「やっぱり大奥様がお仕立てにならはった

 衣冠単いかんひとえは、格が違いますわ」


「たろっち、そんなの着てんの?見逃してたし」


「太郎さんだけやおへんよ

 ハナコさんも、それはそれは楽しそうどしたえ」

私は少し顔を曇らせる。

ヤバい、顔に出したくないのに……


「コノハっち!」

ウズメさんはコノハさんを制する。


「あら、ごめんなさいな」

「そうどしたなぁ。嬉しさが先に立ちまして、つい……」


「あっ、いえ、全然、気にしないでください」

私は笑顔で返す。


「ひなっち、あーしはどっちも友メンだと思ってるし」

「どっちの味方もせんけど、頑張りなよ」

そう言って、お尻を叩いてくる。


「ほんまは、それでは本家も

 お困りになるのかもしれまへんけど……」

「ううん、何事も自然が一番どすな。

 どうぞ、お励みやす」

本家?何のことだろう?


奥まで歩くと、大きな華林堂の化粧ブースに来た。

綺麗な浴衣の女性のポスターが沢山ある。


「わぁ、綺麗だなぁ」

私は関心してブースの化粧品を見渡す。


「そうや、ひなっち、

 化粧してないじゃん。

 お祭りなのに、いいの?」


「わ、私?!私なんか化粧しても変わらないよ!」


「えぇ? お化粧は

 まだなさったこと、おへんのどすか?」


「ずっとソフトばっかりで……私なんか……!」

それを聞くと、ウズメさんとコノハさんが顔を見合わせ

獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべた。

私は少し後ずさる。


「化粧は女の武器だし!

 ひなっち、めっちゃ可愛くしてやるかんね!」


「ちょ、ちょっと!ウズメさん、コノハさん!

 引っ張らないでくださいーっ!」


二人は息ぴったりに「いーから、いーから」と声を揃え

抵抗する私の両脇を抱えて

ブースへと引きずり込んでいく。


ほんの少しの期待と、

それ以上のパニックを抱えたまま

私は華やかな化粧品の香りに飲み込まれていった。

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