第四十三話 降臨祭始まる
拝殿の中央に進み、
目の前のハナコさんに深く一礼をする。
今日のハナコさんは、最初に会った時の神衣装だ。
豊満なバディを布一枚でー、なんて以前は思ってたけど
こういう神聖な環境にはピッタリだ。
ハナコさんと目が合う。にっこり微笑んでくれた。
俺は祝詞を手に持ち、ゆっくり読み上げる。
祝詞奏上。
——掛けまくも畏き我が氏神
華那古命の大御前に
今日の神幸を恙なく執り行わんことを
恐み恐みも白す——
祝詞をたたみ、ゆっくりと礼をする。
そして、もう一度顔を上げた。
ハナコさんがトリップ寸前だ……
そういえばこの人、信仰に弱いんだった。
今日は一日中、信仰されまくるのに
大丈夫だろうか?
二礼二拍手一礼。
俺は後ろを振り返る。
ひなた、天道、来人、因幡さん、八上さん
今日まで一緒に祭を作ってきた仲間たちだ。
みんなクスクス笑っている。
どうやら俺の衣冠単姿が、よほど似合わないらしい。
笑うなー『メイド・イン・天照』の最高級品なんだぞ……
心の中でそう毒づきながら
俺はみんなに向かって大麻で
シャッシャッとお祓いをする。
「それでは御神霊入れを始めます」
ここは普通の神事と、少し違う。
なんせ、ハナコさんは普通に実体があるから。
巫女服姿の夢野がハナコさんの手を取り
境内に出て神輿の場所まで歩く。
俺は最後尾を歩くことにした。
ひなたと来人が近寄ってくる。
「たーくん、カッコよかったじゃん」
「う、うん、ありがとう」
「派手すぎだけどな、そのカッコ」
来人が、まだからかってくる。シカトしておく。
「それじゃ、俺とひなた先輩は屋台の準備に行くからな」
「うん、よろしくな」
「たーくんも頑張ってね」
そう言ってひなたと来人は
会場になる公園に向かって行った。
道路には、この日のために用意された
ショートケーキ型の動力神輿が止まっていた。
夢野に手を引かれ、ハナコさんがその上へと鎮座する。
「では女神様、頑張ってっす!」
夢野が片手でハナコさんにハイタッチを求めると
ハナコさんも笑顔で「うん」と答えてタッチする。
ハナコさんがお神輿に乗った後で
街の子供たちが一斉に乗り込む。
お神輿の中は子供たちでいっぱいだ。
ゆっくりと出発すると、天道ガールズ達を中心に
参加者達が思い思いのキャラになりきった衣装で
パレードが始まる。
先頭には天道がいる。
なんでも喧嘩は祭りの華らしく、
何かあったら真っ先に天道が戦うらしい。
最近、真面目になってたと思ったら
相変わらずの戦闘狂だった。
俺は、お神輿の後ろを歩くのが仕事。
供奉――ハナコさんのお世話係だ。
といっても見てるくらいで、やることないけど。
ハナコさんが神輿の上で子供達と遊びながら
たまに、こちらを見て微笑んでくれる。
すごく楽しそうだ。
……お祭りやって良かった。
「太郎さん、ちゃんと見ておりましたえ」
「うお!コノハさん、突然ですね」
いつの間にかコノハさんが隣にいて驚いた。
ハナコさんも神輿の中から「コノハちゃ〜ん」と
手を振っていて、コノハさんも笑顔で手を振り答える。
「ちゃんと神主さんらしゅう振る舞えてはりましたえ。
教えた身としては、ほっといたしましたわ」
「確かに、あの通信教育では
こんな風にできなかったと思います」
コノハさんも「うんうん」と満足げに頷く。
「でも、一つ解せないんですけど……」
「滝行はともかく、火の輪くぐりって必要でした?」
俺はずっと疑問だった事を聞いてみた。
「あぁ……あれどすか」
「本物の神主さんやったら、
炎ごときでどうにかなることはあらしまへんやろ。
うち、それを確かめただけどす」
……この人は、なんの話してるんだろう。
「よく分からないけど……
いろいろ教えてくれたので助かりましたよ」
「よろしおすよ。
また、いつでも修行いたしまひょ」
「あ……はい、そうですねー」
俺が苦笑いしながら返事を返すと
コノハさんの神器しゃべれるくんがメロディを奏でる。
「はい、もしもし」
「まぁ、これはこれは……はい、今から参りますえ」
神様も「もしもし」とか言うんだ、とか考えていると
「太郎さん、ウズメさんがお呼びどすさかい
そちらへ顔出して参りますえ」
「また後ほど、お会いしまひょ」
そう言って、ふわっと浮き上がり飛んで行った。
所作が美しいと、飛んでも誰も突っ込まない……流石だ。
オレンジ色に染まる街並みと
お囃子の音、そしてハナコさんの弾けるような笑顔。
嵐のような修行の成果がこれなら
あの火の輪くぐりも……
いや、あれはやっぱり必要なかったな。
遠ざかるコノハさんの背中を見送りながら
俺は再び、華やいだ神輿の後ろを歩き出した。




